私家版1998年ミステリベスト

順位書名作者出版社・形態読了月
1位『人狼城の恐怖』二階堂黎人講談社ノベルス9月
2位屍鬼小野不由美新潮社10月
3位光と影の誘惑貫井徳郎集英社8月
4位Jの神話乾くるみ講談社ノベルス2月
5位ハーメルンに哭く笛藤木稟徳間ノベルス6月
6位フォー・ディア・ライフ柴田よしき講談社6月
7位赤き死の炎馬霞流一ハルキノベルス6月
8位名探偵に薔薇を城平京創元推理文庫7月
9位十三番目の陪審員芦辺拓角川書店9月
10位クロス・ファイア宮部みゆきカッパノベルス11月
次点肉食屋敷小林泰三角川書店12月
次点水霊 ミズチ田中啓文角川ホラー文庫12月
特別枠異形コレクション井上雅彦監修廣済堂文庫 
 総評
 さて、1998年は本格ミステリの当たり年だったのではなかろうか。何故かって? そら『人狼城の恐怖』が目出度く完結したから。以下コメントを続けたいのですが、なんか須藤くんと嵐山くん(注:私のことではない)が対談書評の更新やってないから欲求不満が溜まってるようなので召還しましょう。何言い出すかわからなくて今一不安なんですが^^;;
N:須藤尚之 K:嵐山薫
N:「えっと、最後に出てきたのいつだったっけ」
K:
 
「『時鐘館の殺人』(今邑彩/中公文庫)のときだよな。『怪奇探偵小説集(全3巻)』(鮎川哲也編/ハルキ文庫)結局やんなかったしねえ(注:中絶しました)」
N:
 
「まあJUNK−LANDの対談書評や「メフィスト」の佳多山大地氏の書評とか、あるし、俺らの時代は終わったぜ。後は後進に任せよう、って気にはなるよね
K:
 
「評論家や年上の方捕まえて後進言うなアホ! ま、俺らがいなくても他の人がやってくれるからいいや、というのは確かに有るなあ」
N:「おい、メタレヴェルに立ってるぞ、お前」
K:「立ってねえよ!」
N:
 
「さて、本題にはいろか。ここの管理人が言うとおり、1998年は本格ミステリの当たり年だったよな。まずは『人狼城の恐怖』の完結編の刊行。これの第一部が出たときは俺も純真な少年だったのに、今ではすっかり邪悪な人間になってもうた」
K:
 
 
 
「元から邪悪だろ、お前。まあとりあえず、1998年の本格ミステリは『人狼城の恐怖』無くしては語れない事は確かだな。『哲学者の密室』(笠井潔/光文社文庫近刊)を抜いて最長のレコードホルダーなんだから。なん言おうと98年の本格ミステリのトップであることは間違いない。もしかしたら日本推理作家協会賞とれるかも。高村薫も宮部みゆきも既に取ってるから、『人狼城の恐怖』が本命じゃないかな」
N:
 
「長編の収穫が『人狼城の恐怖』なら、中短編の収穫は『光と影の誘惑』だな。まさに本格! としか言いようがない中編集。特に「我が母の教え給いし歌」の仕掛けは思わず悲鳴をあげてしまった」
K:「仕掛け見えたって人結構いたけれども」
N:
 


「気のせいだろうよ。そういえば新人も結構出たよな。メフィスト賞からは5人だっけ? 乾くるみ、浦賀和宏、積木鏡介、浅暮三文、新堂冬樹。この中では毎回――と言ってもまだ2冊しか出してないけれども――煙に巻いてくれる乾くるみが注目株かな。あと去年の鮎川賞候補から柄刀一と城平京。そして島田荘司系大業トリックの藤木稟。あとは鮎川賞の飛鳥部勝則とか、本格系はこれぐらいかな」
K:「メフィスト賞の新人って本格か?」
N:
 
「本格、じゃないよな。本格の定義にもよるけれども。そもそも本格の定義というのはこれだ、と言うユニバーサルなものはなくて、各々の中に宿るもの、と思ってるからなあ」
N:
 
「本格とは何か、と言うユニバーサルな定義ができたら評論家になれるってか? まあわかりやすい定義は乱歩の犯罪がうんぬんじゃないのか?」
K:
 
「その乱歩の定義だったら『空飛ぶ馬』(北村薫/創元推理文庫)が本格じゃなくなる。ところで、本格というのは何か、というのはとりあえず棚上げにしておこう」
N:
 
「逃げる気かい。まあ脱線しすぎるのもなんなんでこれで許したるわ。じゃ、本格系新人の藤木稟いこか。京極系という言葉があったけれどもこの人、明らかに京極とは別物だよな。いうならば島田荘司」
K:
 
「そう。明らかに島田荘司ばりの奇想とその解体。そう言う意味では霞流一も島田荘司系。ギャグが昇華されて幻想の域にまで達してる希有な存在」
N:
 
 
「達してるか? ギャグ、と言う意味なら『ミステリークラブ』(カドカワエンタテイメント)がベストかな。ミステリ的な意味では『赤き死の炎馬』がいいけれども。あと、『オクトパスキラー八号』(アスペクトノベルス)の解体はもろ島田荘司、って思ったねこの二人がいれば島田荘司はいらない」
K:
 
「をい、そこまで言うかよ。ファンからどつかれんか? 島田荘司と言えば久方ぶりの新刊が出たよね『御手洗潔のメロディ』(講談社)。幻の(笑)「IgE」を含む御手洗潔の事件簿最新刊」
N:
 
「結局パス。だって書き下ろしがなかったしねえ。収録の短編は全部雑誌掲載の時に読んでるし、まあノベルスか文庫落ちまで待つことにしたよ」
K:「あ、そ。そしてもう一人の新人、城平京は? 名探偵問題に新たな提起を為した『名探偵に薔薇を』はどうだった?」
N:
 
「『名探偵に薔薇を』には重大な欠点があってね、この本は二部構成なんだけれども、第一部が名探偵を名探偵であると一発で承認させるにはちょいとばかし役不足なんだよ」
K:「そうか? 第一部も第二部もそれぞれいい作品だと思うんだけれども」
N:
 
 
「そう。第一部も第二部も単体で見たらレベルは結構高いんだけれども第一部の犯人設定はもうすこし大悪人にすべきだったと思う。例えば警察も手出しできない犯人を名探偵がへこますという、そう言う構図でいけば大成功だったと思うんだけれども。でも、そう言う些細なことを気にしなければいい作品だと思う。実際ベスト10に入ってるんだし」
K:「同じ鮎川賞候補作出身の柄刀一はどう?」
N:
 
 
「デビュー作の解明のスケールも凄かったけれども「メフィスト」に発表した「言語と密室のコンポジション」は凄い。設定がね。言ったことが現実になると言う世界での密室殺人。もーこの設定だけでメロメロって感じで。去年読んだ短編の中でベスト3に入れていいぐらい」
K:
 
 
 
「ほうほう。この人『本格推理』にもいくつか短編が採用されてるけれど、この『本格推理』というアンソロジー雑誌は北森鴻とか村瀬継弥、城平京とかここに入選した人間の活躍はめざましいね。あとでホラーはホラーで別に触れるけれども、田中啓文もこの『本格推理』に短編発表してるし。あと、『時計を忘れて森へいこう』(東京創元社)の光原百合もこの『本格推理』出身だし」
N:「『本格推理』侮りが足し、っていっても10巻以降読んでないけれどね」
K:
 
 
「それは言ったらあかんやろ(笑)98年は一時期月刊ペースで出して話題を呼んだ柴田よしきは『フォー・ディア・ライフ』がベストかな。他にもRIKOシリーズ最新作の『月神(ダイアナ)の浅き夢』(角川書店)や『ラスト・レース』(実業之日本社)なんかが良かったね」
N:
 
「そういえば季刊森博嗣っつーのもあったね。その中ではシリーズ最終作『有限と微小のパン』(講談社ノベルス)が久しぶりに本格してたかな。他は道具だては本格なのにできたのが本格じゃない、というのばっかだったからなあ」
K:「なんかまたファンにどつかれそうなこといってるな」
N:「大丈夫大丈夫。森博嗣ファンのほとんどはミステリと思って読んでないしぃ、どつかれるのは制作者やしぃ」
K:「おいおい。そういえば芦辺拓3冊出たね」
N:
 
 
「ベストは『十三番目の陪審員』だけれども乱歩の明智対怪人二十面相の対決の構図をおもわせる『死体の冷めないうちに』(双葉社)もおすすめやな。『探偵宣言』(講談社ノベルス)は最後のメタ趣向がちょっと気にくわんというか趣味に合わんかったというか。各短編はそれなりにおもろかったけれども」
K:
 
「同様の意味で『人喰いの時代』(山田正紀/ハルキ文庫近刊)も好きじゃないんだよな、確か。98年は異様に山田正紀読んでたけれども一つ山田正紀講義でも」
N:
 
 
「97年に『妖鳥 ハルピュイア』(幻冬舎ノベルス)を読んだときに思ったのが最後の幕切れの失速感。途中の展開は、これでもかこれでもかというぐらい凄かったんだけれども余計などんでん返しを入れたおかげで失速してしまう、というのは恐らく彼のSF作法に基づくものじゃなかったのかな」
K:「というと?」
N:
 
 
「デビュー作の『神狩り』(ハルキ文庫)や代表作の一つ『弥勒戦争』(ハルキ文庫)を読んで思ったんだけれども、この二つ、終わり方が読者を突き放すような終わり方で、きちっと落ちてないんだよ。最も、山田正紀SFを全て読んだわけじゃないから断言はできないけれどもね」
K:
 
「ふーん、つまりその反動というか、突き放したような終わり方をしてた故に、きちっとした落とし方ができなかった、といいたいのか?」
N:「そういうこと」
K:
 
 
 
「それはどうかなあ。確かに『妖鳥 ハルピュイア』はそうだったかもしれないけれど、それ以前の広義のミステリ『不思議の国の犯罪者たち』、『贋作者ゲーム』、『火神(アグニ)を盗め』(全て文春文庫・絶版)を見る限りではそうとは思えないけれども。あと女囮捜査官シリーズ(触覚、視覚、聴覚、臭覚、味覚のタイトルで幻冬舎文庫より)も全然違うし。その仮説、穴ありすぎ。『恍惚病棟』(ノンポシェット)は本格ミステリだけれどもきちんと落ちてたぞ」
N:「……」
K:
 
「とりあえず去年の山田正紀の中では新刊では『神曲法廷』(講談社ノベルス)がベストかな。文春文庫の絶版本も以外に面白かったし。ハルキ文庫も頑張ってるし。ハルキ文庫と言えば連城三紀彦の主要ミステリ短編、全部復刊されたねえ」
N:
 
 
「この調子でハルキ文庫には頑張ってもらいたいね。鮎川哲也も復刊するみたいだし。連城三紀彦の復刊された奴の中ではやはり『戻り川心中』がベスト。私的叙情性の中にひそむ悪魔的な企み。初の花葬シリーズ完全版という事もあって従来の読者にもお勧めな一冊やしね」
K:
 
「そういえば直木賞の候補作、発表されたねえ。とりあえず『理由』(宮部みゆき/朝日新聞社)『秘密』(東野圭吾/文藝春秋社)『この光と闇』(服部まゆみ/角川書店)の中でどれが取ると思う?」
N:
 
「さあね。案外『夜光虫』(馳星周/角川書店)かもね。読んでないけれども。ところで、この『秘密』ってミステリの範疇に入れてええんかなあ」
K:「どうなんだろ。「このミス」も文春のベストの投票でも上位にはいってたけれども」
N:「「このミス」や文春のベストの上位に来たから即ミステリー、というのは結構危険な判断だと思うよ」
K:「ま、そらそーやけれども。じゃあ聞くけれどもミステリーってなーに?」
N:「それはまた別の機会に」
K:「逃げる気かい!」
N:
 
「まあ一般には、エンターテイメント小説の総称と言う風に取られてることもあるね。ただ、それだと時代小説も恋愛小説もSFもミステリーになってしまって納得いかない」
K:「別にお前が納得せんでもええけれど。話を戻して」
N:「え? 戻すの?」
K:「戻したらあかんのかい!」
N:「えーと、98年は『人狼城の恐怖』が出て良かったね、と」
K:「戻りすぎだ! 直木賞の話だよ」
N:
 
 
 
 
「うーん、過去に何回か候補になってる宮部みゆきが本命かな。その次がは『秘密』かなあ。『夜光虫』とか久瀬光彦とかもう一つなんだったけ、それらを読んでないからなんとも言えないけれども。たしか宮部みゆきって『火車』(新潮文庫)とか『人質カノン』(中央公論社)とか候補になるけれども取れない。『理由』は本格ミステリ的要素が希薄なだけに、取りやすいんじゃないかな。「このミス」や文春のベストでは上位に食い込まんかったけれども、好みから言えば『クロスファイア』の方が好きだな。やっぱこの人に超能力者描かせたら上手いわ」
N:「なるほどね。で、『秘密』だけれども、これは広義のミステリーの範疇に踏み止まってると思う?」
N:「それはもう読むもの次第だろ。ちなみに俺は(広義の)ミステリーとしてより恋愛小説として読んだ」
K:「だからベストに入れてない、と。そう言えば最近ホラーの躍進がめざましいね」
N:
 
 
 
「その牽引力となってるのが角川かな。あと井上雅彦監修の異形コレクション。角川はホラー大