失踪HOLIDAY 乙一 角川スニーカー文庫 552円+消費税

 角川スニーカー文庫初登場である。しかし、帯の文句詐欺だよなあ(笑)。「デビュー」って(爆)。まあ、角川スニーカー文庫デビューってのは嘘じゃないけどさ。本書は短編「しあわせは子猫のかたち」と長めの中編の表題作の2編収録。全く、この兄ちゃんは何を考えているんだ! と思わずにいられない。ゴーストストーリーともとれる「しあわせは子猫のかたち」ととぼけた誘拐ものの表題作の2編。どっちも捨てがたい作品だ。「どっちが気に入ってる作品か?」と問われると、「どっちも!」としか言わざるを得ない。それぐらいこの作品集は、良い。レーベルに捕らわれず読んで欲しい一冊だ。未読の『天帝妖弧』と『石ノ目』(共に集英社)もさっさと読まねば! と本書を読み終えたときに絶叫したという事実は、無い。ホントだってば(誰もそんなこと気にしないか)。

「しあわせは子猫のかたち」
 本編は正統派(?)ゴーストストーリー。叔父さんの口利きで始めた一人暮らしだが、先住人は事故で死んだという噂で、しかも、幽霊になって住み着いているのだ。大学生活も始まり、彼に近づく一人の男。
 ゴーストストーリーの定石は男女の組み合わせで恋人どおしと思う。この作品も例外ではないと思う。出会いが遅すぎたと思うが、二人のほのかな恋心替えがけれていて心地よい。さりげないイタズラは微笑を呼び、微笑ましい。一挙に謎解きが始まり(謎解きと言うよりむしろ絵解きと言うべきか。って、一緒か)、それまでに張られていた伏線が姿を現す。この辺の手さばきは上手いと思う。
「失踪HOLIDAY」
 大金持ちの家に連れ子としてきた少女。母親は死に、大きな屋敷でひとりぼっち。継母との仲も上手くいかず、面白くない。しかも長い間家を空けていると継母が家の中に入ったような、そんな感じを受けるのだ。冬休みの或る日、家出をした振りをして女中の部屋に潜り込む。そこは、自分の部屋を一望できるのだ。継母が自分の部屋に勝手に入ってきたら現場を取り押さえよう、そう言う魂胆である。家で騒ぎがやがて、誘拐騒ぎに発展し……(正確にはさせた、か)。
 前半1/4部分の継母と少女の掛け合いが笑える。どうしてこうまで軽妙な会話が書けるんかいな。コミカルな前半、誘拐騒ぎになる中盤、身代金受け渡しの終幕、そしてエピローグ。徹底してその語りは軽い。そして、終幕で明らかにされる真相の嵐はそれまでの語り口からは想像も出来ないぐらい凄い。いや、ここで凄いというのは不適切か(これは、この作品がつまらないという意味ではない。念のため)。洒落ているというべきか。否。なんと言うべきなのであろうか。とにかく、それまでの展開からは想像もつかない所に物語は雪崩れ込んでいく。その雪崩れ具合がこの作品の真髄ともいえるかもしれない。
 ふと思ったが、この作品、天藤真の代表作『大誘拐』(創元推理文庫)を意識しているのか?

 しかし、全く持って、上手い作品だ。


八月の降霊会 若竹七海 角川文庫 762円+消費税

 『遺品』(角川ホラー文庫)と言う作品がある。若竹七海が正面切ってホラーを書いた作品だ。だが、『遺品』に先駆け発表された本書こそ若竹七海ホラーの第一作と言える作品だと思う。何故かホラー文庫から文庫化されなかったんだけれども。本書は、降霊会を中心に据えた本格的なホラーとも言えよう。……嘘です。
 本書は、降霊会を中心には据えているが、降霊会がメインというわけではない。いや、メインか。どっちやねん。降霊会と言うより、格闘常人物の過去がどう関わってくるか、というのが中心か。

 山荘に集められた人々。集められた人々の大半は、顔見知り。しかも、何らかの事件の関係者ばかりである。山荘に集まり、降霊会を行うも途中で中止。翌朝、出席者の一人は失踪し、一人は何者かに殺される。犯人は被害者の配偶者だったのであるが、今度は作家の先生が錯乱し山荘の主に殺される。そして、作家が残した手記が発見される。手記によると、この山荘であるオカルティックな出来事が起こったらしい。そして、そのオカルティックな出来事を再現するために人々は集められたのだ。

 しかし、なんというか、後味悪い作品である。狂った登場人物の書きっぷりは堂に入ったもので、お家芸としか言いようがないかも。今まで読んだ作品ではここまで狂った登場人物は出てこなかったよなあと思いつつも本書に出てくる山荘の持ち主などの狂いようの描きぶりは今まで何度も狂った人間を描いてきたかのようだ。
 つまり、悪意を描くことに長けている故に上手いのであろう。別に、悪意=狂いという訳ではないと思うが、無関係ではないと思う。

 本書は降霊会というオカルティックなものを中心に据えているが、登場人物はオカルトにならないように動いている。登場人物が本書をオカルティックなものになるのを防いでいるような感じを受けるのだ。オカルティックな作品になると、自分らのみに恐ろしいことが起きるから、そう言いたげな感じすらしてしまう。そして、登場人物の予感は的中すると言える。まさしく本書では恐ろしいことが起きてしまう。この世ならざる出来事が起きるのだ。
 だからといって本書がミステリとしての結構を持たないと言うわけではない。ミステリとしての結構は非常にきっちりしていると言える。それ故に登場人物の恐怖というのが伝わってるのだ。この辺の綱渡りは作者自身が意識していたか否かわからないが(多分、無意識と思う)、上手いと思う。この辺もね。

 本書はホラーともミステリともつかない鵺的なものであるが、面白い作品であることは間違いのない事実である。


異形コレクション(16)帰還 井上雅彦監修 光文社文庫 800円+消費税

 『宇宙生物ゾーン』を最後に廣済堂文庫版<異形コレクション>は終わり、本書『帰還』より版元を光文社に移し闇のカーニバルが再開されたというのは言うまでもない、周知の事実であろう。そのタイトルが帰還≠ニいうのは出来すぎという気がするが、まあおいておこう。
 本書は帰還テーマが扱われているが、この帰還という言葉、実に色々な意味に取れる。或る所からの「帰還」、或る所への「帰還」。そして、「帰還」するのは主人公か、それとも他人か。
 序文でこの帰還と言うテーマは死の淵から甦ってくるものの物語である。つまり、『屍者の行進』も「帰還」テーマだと指摘しているが、そのテーマを扱っているのは「冥土より」以降8編。以降も様々な形の「帰還」が描かれる。
 集中のお気に入りは、冷ややかな文体が心地よい「夜明け、彼は妄想よりきたる」、切れ味鋭いショートショート「アンタレスに帰る」、奇妙な味わいが楽しい「帰去来」あたりか。不気味な読後感を与えてくれる「赤い実たどって」も捨てがたい。
 「帰還」を祝うにはうってつけの一冊であろう。しかし、タイトルも出来すぎながら、光文社文庫16周年記念のラインナップに16冊目の<異形コレクション>というのもなんか、出来すぎやなあ。

――冥土より――
「リカ」(太田忠司)★★★
「地の底からトンチンカン」(友成純一)★★★
「You'd be so nice to come home to.」(小中千昭)★★★☆
「鏡地獄」(田中文雄)★★★★
「月夜にお帰りあそばせ」(安土萌)★★★
「リターンマッチ」(山下定)★★★
復帰カムバック(石田一)★★★★
失われた環ミッシング・リンク(久美沙織)★★★
――故郷への――
「骸列車」(倉阪鬼一郎)★★★☆
「赤い実たどって」(篠田真由美)★★★★
「深い穴」(中井紀夫)★★★☆
「帰去来」(北原尚彦)★★★★
「アンタレスに帰る」(早見祐司)★★★★
「帰缶」(江坂遊)★★★★
「わたしの家」(竹河聖)★★★
「ホーム」(奥田哲也★★★☆
――異界から――
「或るロマンセ」(五代ゆう)★★★
「竜宮の匣」(石神茉莉)★★★☆
「夜明け、彼は妄想よりきたる」(牧野修)★★★★
「母の行方」(飯野文彦)★★★☆
「星に願いを」(本間祐)★★★☆
「世界玉」(藤田雅矢)★★★☆
「空の淵より」(井上雅彦)★★★
「帰還」(菊地秀行)★★★★


日曜日の沈黙 石崎幸二 講談社ノベルス 740円+消費税

 本書は、20世紀最後のメフィスト賞である。タイトルは結構好みなので割と期待してページをめくった。いい評判を聞かなかった故に、何となく心配だったのであるが……。読み終えて思ったのは、「読むの月曜で良かった(註・ホントに月曜に読了したのだ)」ということ。万一日曜に読んでいたら、タイトルを体現するところだった(笑)。

 本書は、何者かの招待状につられて集まった館で行われる推理合戦である。推理合戦のネタは、主催者側が用意した推理劇である。推理劇と言うよりむしろ、遊びと言った方が良いかも。商品は死去した作家にまつわるもの。館はその死去した作家の持ち物だったのだ。中年のおっさんと女子高生コンビの三人が主人公。そして、推理劇の裏側に潜むものを三人が見つけだしたときに、さあどうなる。――と言う所か。

 女子高生の造形自体は割とコミカルで面白いかな、と思うが会話文とかで「★」を使うのは正直勘弁して欲しかったかも。あと、ハートマークも。ここでなんかこけてしまう。また、謎の吸引力も今一つ。
 メインのネタも、なんか、短編ネタという感じでいただけない。途中のプロセスは割と面白いものを感じるが、よく考えたなあと言うレベル。なんか、ミステリを読んだという感じがしない。
 ――なんか、ボロカスに書いてるな。

 この作品は次作への伏線かも知れないのだが、それでも……。実は、この作品、前編だったりして。って、そんなわけはないか。会話がそれなりに楽しめる(つっこみ入れまくり)のが救いだったのかも知れない。

 と、上記の文章を一気呵成に書き上げて間を置いてみたが、この作品のネタ、これはこれで良いのかもしれない。ただ、ここで問題になるのは文章力などのトリックのプレゼンテーションの所であろう。このプレゼンテーションがよろしくなかった故にせっかくのネタが生きなかったのか。このネタは、この作品のようにヤングアダルトの筆致よりも適度に重厚な文章だと生きたのかも知れない。やはり、ミステリに大事なものの一つはプレゼンテーションであろう。この辺、自戒を込めて。


倒錯のロンド 折原一 講談社文庫 590円+消費税

 乱歩賞を受賞することで完成するはずだった叙述トリックを仕込んだ乱歩賞候補作である。残念ながら受賞を逃したが、発刊された年の文春のベストでは7位と健闘している。以降折原一は文春のベストの常連になるのであるが、これはまた別な話。

 追うものと追われるもの、盗作するものと盗作されるもの。本書は盗作をキーワードにした作品である。作家志望の山本康雄。彼は何度も公募に応募するがどうにもならず、最後の賭をする。その賭にふさわしい作品のタイトルは『幻の女』。アイリッシュの名作と同じタイトルである。どうにか書き上げ、清書を友人に頼む。が、友人は原稿を無くしてしまったのだ。無くした原稿を拾った人間が応募し……。そして受賞者が発表される。 白鳥翔という人間が山本康雄の作品を盗作した人間だ。山本康雄は白鳥から作品を奪い返すべく奔走する。

 確かに、オチがXXXXXXでした、というのはそこだけ見れば「……」であろう。だが、そこに至るまでの仕掛けの妙及びテクニックはさすがの物であるとしか言い様がない。実に巧妙なまでに仕掛けのための罠が張り巡らされている。以降の叙述フーダニット(註・私は折原一の叙述トリックにかける情熱のことを叙述フーダニットと呼んでいる。つまり、最初から叙述トリックであると言うことを明かしてる故にどのような叙述トリックを用いているかという興味で読めるからだ)の萌芽がここにあると言えよう。近年の作品は叙述トリックが複雑化しすぎている感じが否めないがそこはそれ。
 また、叙述トリックの他に追うものと追われるもののサスペンスがあるが本書はアイリッシュの『幻の女』に折原一が挑んだような気がする。多分、気のせいなのであろうが。それは、作中の応募作のタイトルが『幻の女』であると言うことに起因するものではない。

 ところで、本書の解説は正直感心できない。解説で内外叙述トリックベスト20という表があるが、明らかに、ここに挙げられているのは叙述トリックであると言うことを明かすと興味が半減するものが多い。それ故に、その表は見るべきではないと思うが。これは、折原一の弊害であろう(と言うと語弊があるか)。折原一作品は叙述トリックであることがわかっていることが前提であるが、他の作品はそうでないものが多数なのであるから。

 本書が乱歩賞を受賞しなかったことは、乱歩賞の数少ない汚点の一つであろう。


倒錯の死角アングル【201号室の女】 折原一 創元推理文庫 640円+消費税(講談社文庫版もあり)

 本書は折原一のデビュー長編であり、「倒錯シリーズ」の一作目でもある。『倒錯のロンド』(講談社文庫)はシリーズ2作目である。本書では『倒錯のロンド』で出て来た編集者が共通した登場人物として出てくる。

 翻訳家の大沢芳雄はのぞき見の趣味があった。向かいのアパートの201号室を覗き、殺人を目撃して以降のぞきの趣味は一旦止まったが、今度は酒浸りになり病院に入院することに。退院後今度は同居している叔母の体の具合は悪くなるし、向かいのアパートには女性が引っ越してくるし。のぞきの趣味が再開するのは時間の問題だった。何人もの手記で更生された長編サイコサスペンス。

 『倒錯のロンド』に比べサイコサスペンス度は格段にアップしていると言えよう。手記が醸し出す異様な雰囲気は同じような構成をとる『倒錯のロンド』に比べるとこっちの方が上だ。まあ、それには本書は犯罪が絡む、『倒錯のロンド』は盗作が絡むといった違いがあるからかも知れないが。好みで言えば本書の方に軍配が上がる。

 トリックに関しても、『倒錯のロンド』よりもこっちの方が良くできてるように思える。インパクトという意味ではこっちの方が優れているような。この辺は嗜好、好みの問題だろうが。

 しかし、『倒錯のロンド』と本書と立て続けに読んだのであるが折原一の文章の巧さはこの時期から光っていたと言えよう。仕掛けを成立させるには綱渡り的な所を要求されるがそれを可能にしているのが文章の巧さであろう。文章が巧いから違和感無く読み進めていくことが出来、騙されるのだ。本書と『倒錯のロンド』を読み返していて思った。

 「倒錯シリーズ」の三部作の掉尾を飾る『倒錯の帰結』(講談社)でどのような着地を見せるのか楽しみである。


的の男 多岐川恭 創元推理文庫 920円+消費税(『お茶とプール』併録)

 この作品は連作倒叙ミステリと言うべき作品かも知れない。倒叙ものというと古くは『歌う白骨』のソーンダイク博士から「刑事コロンボ」のシリーズ、日本では田村正和の「警部補古畑任三郎」のシリーズが有名、と言うのは言うまでもない。この作品は名探偵によって犯人の奸計が暴かれるという体裁ではない。単に犯人が失敗してるだけなんだけれども(笑)。

 靴屋から身を起こし一財産築いた鯉淵。彼はその性格故に数々の恨みを買っていた。そして或る日一人の男が殺意を爆発させる。その殺意は結局実を結ばずに失敗に終わるが、以降次々と命を狙われることになる。果たして誰が殺意を成就できるのか。そして、鰐淵の命の行方は? と言う話。

 一個一個の計画は他愛のないものから、もしかしたら成功するかもと言うのまで多種多様。網で溺れさせようと言うもの、トンネルを使って計画を遂行しようとするもの毒、絞殺、蛇とバラエティに富んでいる。それらの計画は一番最初のものこそ鯉淵自身の手によって潰されるが、以降は彼の娘によって阻止され続けられる。鯉淵の娘は、或る意味通常の倒叙ものに於ける名探偵という位置づけでもいいのかもしれない。しかし、一筋縄ではいかないのがこの作品。名探偵の位置にいるはずの彼女ですら鯉淵を殺したいと思う動機があるのだ。

 『変人島風物詩』『私が愛した悪党』(合本として創元推理文庫刊)を読んだ際に「『変人島風物詩』と『私が愛した悪党』の二編を読んだ限りでは多岐川恭と言う作家はユーモアあふれる筆致を得意とする作家のように思えるが」と思ったが、この作品でもその傾向は顕著だ。一個一個の犯罪計画とその失敗の顛末にはユーモアと言うよりむしろブラックユーモアと言った方が適切な感じがするがブラックユーモアも一応ユーモアだし(なんか違うかも(笑))。

 最初に連作倒叙ミステリと書いたが、終幕に至って全ての計画の裏に潜む黒幕がいることが明かされる。個々の犯罪を煽った人間が居たのだ。動機は通俗的で一歩間違えば2時間ドラマになりかねないのであるがそうならないのは多岐川恭の巧さ。更に最後にひっくり返してくれるが、最後のひっくり返し方に登場人物に対する底意地の悪いユーモアを感じる。登場人物に対する底意地の悪さと言う意味では若竹七海に一歩譲るがハッピーエンドではないのは確か。

 この作品、堅実な作品なんだが、堅実な作品に見えないのは何故だろう(笑)。この辺のずらし方の巧さがもしかしたら多岐川恭の本質なのかも知れない。ますますこの作家を気に入ってしまった。集めるの、かなり苦労しそうだなあ(苦笑)。


ぼくらは虚空に夜を視る 上遠野浩平 徳間デュアル文庫 590円+消費税

 この作品は『冥王と獣のダンス』(電撃文庫)と繋がる作品。「虚空牙」と言うタームが『冥王と獣のダンス』にも出てきたので間違いないかな(なんとええ加減な)。

 日常生活を送っていた高校生が実は戦士で、今までの日常はプログラムだったという設定。SFで頻出しそうな設定であるが滅法面白かった。田中啓文作品に一個そう言うのがあったがとりあえず秘しておこう。この作品の見所は二つあり、主人公の「日常」と虚空牙との闘い。ふっと闘いにチェンジするので読んでる途中(ぼーっと読んでる私が悪いのだが)何故か慌てる。何となくSFを読んでるなあと言う気がするんだけれども。

 世界の改変(と言うんかなあ)、アイデンティティの揺らぎといったガジェットの使い方はミステリ読みからの見地であるが巧いと思う。<ブギーポップ>シリーズでの巧さがあるから安心して読めるのであるが、<ブギーポップ>シリーズのはじめの方に存在するあの嫌さ加減(ここで言う嫌さ加減というのは、何というのであろうか。精神的にくる嫌さ加減、と言うことか)が無い。上遠野浩平の作品が好きなのはこの嫌さ加減が好きだからと言うのがあるので、もしかしたら読まなくなるかも知れない。と、この作品から離れたな。軌道修正して話しを戻す。
 狭い世界ないでの話しと言うところに還元されてしまうのであるが、読んでて思ったのは、もしかしたらこの作品内の世界こそが<ブギーポップ>シリーズの世界なのではないのか、というところ。直感的なもので確信があるわけではないんだけれども。繋がっていてもおかしくないし、<ブギーポップ>シリーズとこの作品世界を繋げるとしたらそこしかないかな、というからなんだけれども。もっとも、作者にそう言う意図があるとは思えんが。

 そこそこ楽しめた作品かな。


転・送・密・室 西澤保彦 講談社ノベルス 900円+消費税

 『念力密室!』(講談社ノベルス)に続く<チョーモンイン>シリーズの短編集。『念力密室!』が密室で統一されていたのに対し本書は超能力を中心にしたアリバイもので統一されている、と言うわけではない。集中では「幻視路」が一番印象に残るかも。
 以下各編の簡単な感想。

「現場有在証明」
 原稿脱稿の祝いにパーティをすることになったが、元妻まで呼ばれる羽目に。それでも何とかパーティは滞り無く進行していたが元妻聡子が何か面白い事件はないのかと聞いてきた。そこで出て来たのはリモートダブルの能力が使われた事件であった、と言う話。初出で呼んだ際は本編以降超能力を使ったアリバイものがしばらく続くのか? と思ったがそう言うことはなく少々がっかりした覚えがある。
「転・送・密・室」
 団地に於ける殺人事件。しかし、現場は密室だった。その事件にはタイムレイザー、すなわち、時間を飛び越える能力が使われていたと観測されたのであるが……。
 この作品はタイトルに密室こそはあるが本質はアリバイものか。どうしてタイムレイザーという役にも立たない能力で逃げ出したのかと言うのがミソ。しかし、西澤保彦の底意地に悪い人間の描き方、巧いね。
「幻視路」
 聡子が或る日見た夢。それは、時分が首を絞められる夢であった。
 時分が首を絞められる夢から派生した事件。事件と言うには少々小さいがそれでもなんとも。登場人物の性格がそのまま伏線になるというのはなかなか出きるものではないと思うが、それをさらっとやってのけてくれるのが西澤保彦という作家であろう。余談だが、この作品、なんとなく親近感が沸くのであるが気のせいであろう。
「神余響子的日常」
 協力者に死なれた神余響子は神麻嗣子の協力者に会うことになる。事件は、容疑者が既に逮捕されており後は動機だけと言う段階。被害者である協力者は鍵を飲み込んでいた。
 新キャラの登場。超能力が犯罪に絡まないのでイマイチインパクトは薄いが読み返してみると意外と(というのは失礼か)考えられた作品であるのがわかる。キャラのみに依存していないところとか。
「<擬態>密室」
 超能力を感知した神麻嗣子に連絡を受けた能解警部は現場に赴く。現場にいたのは、部下の刑事だったのだ。
 なんか、部下の刑事がカワイソウかも(笑)。この作品も新キャラ登場だし、『転・送・密・室』は新キャラ登場作品集といえるの……か?
「神麻嗣子的日常」
 うーん、シリーズ最終話への伏線?


顔のない男 北森鴻 文藝春秋 1500円+消費税

 本書は「オール讀物」(文藝春秋)に不定期に2年に渡って掲載されたものを纏めたものである。前半部分は普通の短編集中の一編と言っても通用するものもあるが、後半になると完全に通用しない。雑誌掲載時に読んでいて全ての構造を把握できた人間は作者を除いて居ないのではないのか、と思うくらい混迷を極める。かろうじて担当編集者が思い浮かぶけれども。果たしてどうなんだろ。

 一人の男の殺人事件から全ての幕が上がる。空木と言う男が何者かによって殺されたと言う事件の捜査は一見簡単な事件のように見えたが、そうはいかなかった。空木という人間は世捨て人だったのか、交友関係が浮かび上がらず、それ故に人物像が浮かばない。捜査員はいつしか空木のことを「顔のない男」と呼ぶようになる。捜査員の内原口と又吉はふとしたはずみで空木の裏の顔を知ることになる。空木の遺品を調べていたら彼の探偵調査結果表が見つかったのだ。それを元に二人は空木の人物像を浮かび上がらせようとする。

 結末は或る意味べたで、定石通りといえば定石通りかもしれない。しかし、そこに至るまでのプロセスは面白い。空木という殺された男の人物像を浮かび上がらせるのであるが、そのために選んだ事件が何とも。それぞれ他愛もないと言えば他愛もないが、演出が巧いので一編一編の読了後しばらくしないと他愛ないことに気がつかない。演出と言うよりむしろ、文章が巧いのか。しかし、この巧さがくせ者である。と言うのもこの作品、巧さに誤魔化されたんじゃないんかなあと言う気がする。個人的には北森鴻は純然たる長編よりこの作品や『花のもとにて春死なむ』(講談社)、『メイン・ディッシュ』(集英社)のような個々の短編が巧いのに加えてその上長編化する、という作品が好きなのだ。この作品も今挙げたに作品の系譜であることは間違いないが、なんというのであろう。つまり何が言いたいかと言えば、この作品において個々の作品は独立しておらず「顔のない男」と言う存在が根っこから個々の短編に浸透している、と言えばいいのか。
 一個一個独立していない故の違和感と言うべきか、独立しているのに独立してないように見えるのか。後半部分はその感じが強いように思える。結局何が言いたいのかと言えば、個々の作品がミステリとしてあっさりしすぎてる故に不満なんだ、と言う所。書きようによってはもっとミステリミステリしたものになりそうなんだが。

 余談だが、e-NOVELSの横井司による本書の書評現代版〈猟奇の徒〉をめぐって は本書に於ける乱歩性や本書が持つ探偵小説性を鋭くえぐっていて興味深い。


Mystery Library別館入り口
玄関