クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 西尾維新 講談社ノベルス 980円+消費税

『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』でデビューした、西尾維新の《戯言使い》シリーズ第2弾。今度は京都を舞台に、人類最強の請負人や新キャラ(?)と言うべき人間失格・零崎人識が登場する。

 孤島での事件の記憶も薄れ、一見平穏無事に過ぎて行くかに見えた「いーちゃん」の学園生活。その傍らでは謎の殺人鬼が無差別殺人を行っているという殺伐とした状況。ふとしたきっかけでくだんの連続殺人鬼零崎人識と知り合い、意気投合する。二人はどこか似ていた。一方、クラスメイトの葵井巫女子の誘いで飲み会に参加するが、その飲み会がお開きになった翌日に会場を提供した部屋の主が絞殺死体となって発見される。第一発見者は巫女子だった。
 なんか、ようやく本領を発揮しだした、と言う感じ。随所に森博嗣や上遠野浩平の影響が見えてきて或る意味ちょっといやかも。気にする人はとことん気にするだろうなあ。でも、薬籠中のものにしているところに嫉妬を感じたり。『クビキリサイクル』を読んで「天才が全然描けてない」と思ったが、もしかすると、そこが最大の弱点なのではないのかと思ったり。全体的には青色サヴァン(=玖渚友)の「いーちゃん」と言う言葉が少な目だったから結構さくさく読めた(笑)。えーと、個人的には今後この人極力出番減らしてくれるとうれしいかも(爆)。

 前回もミステリ的なところで瞠目したが、今回もミステリ的なところがすごい。というか、大胆すぎ。ただ、携帯電話に関する描写が違和感あったりしたので(割と重要かも)、この人携帯電話持ってないのかも。そこはさておき、その大胆さは高木彬光の名作『人形はなぜ殺される』(ハルキ文庫)に匹敵するかも。もっとも、大胆すぎて真相の一端が透けてしまうのだが(だが、ミスディレクションが巧いので見事に騙されました)。大胆きわまる伏線の張り方は、ミステリセンスの確かさを物語る。本書では『クビキリサイクル』のような大胆な構図やトリックこそはないが、伏線の大胆さに於いて突き抜けているといえるであろう。
 しかし、「傍観者」の「いーちゃん」。前作で間の抜けたワトソン役を割り振られたかと思えば今回は或る意味最強の探偵役になってるし(尤も、作中での最強度合いでは人類最強の請負人哀川潤には負けるが)。それは、「いーちゃん」が「傍観者」だから、と言う次元を越えているようなきもする。その辺作者自身自覚的なのか否か。自覚してない方に一票。

 前作の「いーちゃん」がだめだった人にもオススメ(笑)。


ふたり探偵 寝台特急「カシオペア」の二重密室 黒田研二 カッパノベルス 781円+消費税

 2002年になって堰を切ったように作品を連発する黒田研二初のトラベルミステリ。舞台は寝台特急「カシオペア」。黒田研二が書くトラベルミステリだからありきたりのものになるわけもなく、シリアルキラーものミステリとのハイブリッドである。

 寝台特急「カシオペア」に乗っての北海道取材旅行。事務所のメンバーの一名である後輩がドタキャンと言うアクシデントに見舞われたが、取材そのものはうまくいきつつあった。恋人である刑事のキョウジはシリアルキラーJの事件を追っていた。仕事をドタキャンした後輩はシリアルキラーJについてなんらかの手がかりをつかんでいたようだったが……。やがて、走る密室である「カシオペア」にシリアルキラーJが乗っているという情報が。
 タイトルの由来になったであろう探偵役の設定は、なんというか、「なめとんのか、おのれは」と言う感じだったが(笑)、解決編に至るとそれがプロットに抜き差しならぬ因果関係があったことが判明し、感服させられた。ごめんなさい(爆)。尤も、探偵役の設定と連動した或る趣向が冒頭の記述故に丸わかりになってしまったのは残念だが。

 密室トリックも探偵役の設定に関わってくるが、期待したほどではなかったなあ。尤も、本書はサブタイトルに仰々しく「二重密室」とはあるが、そこがメインではなく、誰が動く密室内にいるシリアルキラーJか(余談だが、「J」と言うのを使ったのは「メフィスト」(講談社)の巻末座談会のJを多少は意識してるんかな?(笑))と言う点、そして探偵役の設定。有栖川有栖の『幽霊刑事』(講談社)に匹敵する設定であろう。なんせ、霊魂が意識不明の刑事の体から抜け出て恋人の体の中にいるだから。先にも述べたように、これがプロットに抜き差しならぬ因果関係があるんだから侮れません。
 全体的に通俗トラベルミステリの衣をまといながら、骨格は今まで通りの黒田研二ミステリ。その辺の姿勢はカッパノベルスのシリーズで無茶をやった島田荘司の如く。もしかしてカッパノベルスはトラベルミステリ路線をまだまだ続けるのかなあ。《KAPPA-ONE》という内部叢書を立ち上げても、路線は今まで通りなのであろうか。そうだと、或る意味寂しい。

 探偵役のあまりにもの無茶すぎさを気にしなければ楽しめる一冊。でも、これを受け入れられないミステリファンはいないでしょうから、心配はしてないけれども


法月綸太郎の功績 法月綸太郎 講談社ノベルス 820円+消費税

 法月綸太郎久々の新刊。1999年の『法月綸太郎の新冒険』(講談社文庫近刊)から3年ぶりの短編集は、元ネタはカーとドイルの息子との合作『シャーロック・ホームズの功績』(ポケミス)。クイーンにちなむとばっかり思ってたので意外(というか、さんざん言われてたから路線変更したのか?)。本書には「メフィスト」(講談社)に掲載された作品と講談社文庫のアンソロジー『「Y」の悲劇』『「ABC」殺人事件』に寄稿された作品を収録。推理作家協会賞を受賞した「都市伝説パズル」も収録。というか、初出で全部読んでるよ、オレ。
 収録作の中でのお気に入りは「イコールYの悲劇」。ダイイングメッセージを巡る姿勢が何ともいえない。

「イコールYの悲劇」
『「Y」の悲劇』の感想参照。
「中国蝸牛の謎」
 対談で知遇を得た鹿沼の担当編集者南条に助けを求められ、法月綸太郎は鹿沼の家に赴く。そこで綸太郎が見たものは、内側から閉められた鍵と書斎で縊死していた鹿沼の冷たい骸であった。自殺なのか他殺なのか。綸太郎は対談内容に思いを馳せ、事件の謎を解こうとする。
『本格ミステリ01』(講談社ノベルス)にも収録されている一品。本格度と言う意味では同じ年に発表された「イコールYの悲劇」の方が濃厚なのであるが、何か事情があったのか。本編は鹿沼のモデルが連城三紀彦であることを知らなければわからないネタかもしれない。というか、悪のりし過ぎな気も。
「都市伝説パズル」
 殺人現場に残された都市伝説さながらのメッセージ。法月警視が煮詰まった事件のデータを元に綸太郎が叩き出した意外な真相とは。
 都市伝説をモチーフにした作品はありそうでない。そういう意味では着眼点の良さに注目すべきであろう。難易度は高くはないとあとがきで書いているが、低くもないと思う。こねくり回してごちゃごちゃになった、と言うことにもならず、安心して読める一品とも言えるだろう。
「ABCD包囲網」
 自首マニアの鳥飼に悩まされる久能警部。仏の顔も三度までと思っていると、鳥飼の妻が現れる。もしかして、自分を殺すために鳥飼は嘘の自首を続けているのでは無かろうか、と。丁度タイミング良く法月警視に話をする機会を得たので、自首マニアの鳥飼の事を綸太郎に伝えてもらう。
 シチュエーションの魅力と言う意味では本書収録作随一かも。最初に読んだ際は作者の独創かと思ったが、本書の後書きで元ネタをばらしてあった。国産ミステリの或る有名作に挑戦したとあったが、挑戦という意味ではやはり地に膝をつけた形になるであろうか。それは、本書のできが悪いという意味ではないのであるが。
「縊心伝心」
 法月警視が持って帰ってきた或る殺人事件。不倫、妊娠、狂言自殺、縊死、不倫相手のアリバイ。一見錯綜しているかに見えた事件であったが、或る一点に注目してみると非常に単純とも言える事件であった。
 結構シンプルな造りであるが、真相に気づく或る一点の隠し方のさりげなさは見事。アレがああいう風に真相に関わってくるなんて。《退職刑事》シリーズ風のアームチェアディテクティヴだが、作中の綸太郎の妄想が爆笑もの。《退職刑事》シリーズの最終的なオチがこれだったら面白いのに(法月綸太郎シリーズでも可)とあり得ない夢想をしてみる。、


死なない剣豪 山田風太郎 廣済堂文庫 品切れ

 廣済堂文庫《山田風太郎傑作大全》時代小説編の短編集。例によってこれというテーマは決まっていない。余談だが、某社の文庫から山風の時代小説集成が出るらしいが、どのようなテーマで各巻まとめるのか非常に興味津々。以下、収録作の簡単な感想。

「降倭変」は朝鮮出兵にまつわる話。結末は同情するかも。
「幽霊船棺桶丸」は海賊の話。「幽霊船」とつくのでゴーストストーリーを想像したんだけれども。人間って怖いと言う話になっている。
「お玄関拝借」は玄関で切腹するふりをして金をせしめようとした男がもたらした悲劇。この悲劇性はなんというか、凄まじい……と言うことばて片づけてはならない。
「国貞源氏」は春画描きである国貞へ男が依頼することから幕を開ける。今(2002年6月現在)、報道や表現の自由に関する法令制定が様々なところで侃々諤々の議論を起こしているが江戸時代のそれはもっと酷かったんだなあと思ったり。だからこそ今政府が進める無茶を通り越した規制はくい止めて欲しいと思わされた一品。
「慶長大食漢」は徳川家康を怒鳴りつけた男の話……とはチト違うが、当たらずとも遠からず。或る有名なエピソードに収斂させるところは笑ってしまった。
「死なない剣豪」では伊藤一刀斎が生きているのでは、と言うのを或る情報よりつかんだ柳生十兵衛が小野家に赴く。果たして、その予感は当たり、確かに剣聖である伊藤一刀斎は生きていた。伝説の裏側にある悲喜劇をえぐり出し、さらにひねりを加える。終幕一刀斎が剣豪の死を叫ぶ所など、『魔界転生てんしょう(講談社文庫)の作者ならではの面目躍如と言うところ。
「お江戸英雄坂」では英雄とは何か、と言うのを一人の男の視点を以て描き出す。結局の所、同時代の人間がヘタレみたいに思ってる人間でも英雄になりうる。英雄とはなったもん勝ち、と言う所か。


館という名の楽園で 歌野晶午 祥伝社文庫 381円+消費税

 祥伝社文庫400円文庫シリーズ内叢書(?)「館競作」。柄刀一が『殺意は幽霊屋敷から』を書いて参加している。っても、歌野晶午と柄刀一の二人だけのようだが。本書は館に取り憑かれた年輩のマニアの物語、と一言で切り捨てられかねない物語である。

 大学時代の旧友を集めて新築の館でイベントを開催した。如何にもミステリにありそうな館を造り、その中で犯人当てイベント開催する。招待主が書いたシナリオもあり、一応はミステリイベントも無事済んだかに見える……が?
 作中作というか作中劇というか、館に由来する(招待主が作り上げた)伝説に絡む事件それ自体は面白い。というか、割と考えてるな、と言う感じで好ましい。デビュー以降の「家」三部作のリベンジマッチか。そういう意味では長編で、ばりばりの登場人物を配し、メタメタの名探偵を設定して書いて欲しかったかもしれない。

 結局、本書に限っては、ミステリファンの見果てぬ夢を具現化した作品と言うしかなく、全体的な評価という意味では少し低くなるかも。やはり、中編という器は難しい。この叢書に於ける前作『生存者、一名』の方がよかった。
 本書は館ミステリファン、或いは本格ミステリといううさんくさい装置に興味ある人向け。


一休闇物語 朝松健 光文社文庫 552円+消費税

一休暗夜行いっきゅうあんやこう(光文社文庫)で大活躍した一休さんの大冒険7編を収録した短編集。通読して一個残念だったのは、いくつかの作品に於いてその坊さんが一休さんである、と言うのが最後の一撃≠ナあった作品が本書に収録されることで台無しに(泣)。致し方ないことであるが、どうにかならんかったのか(なるわきゃねえよな)。
 7編の中では「影わに」がベストかな。

紅紫こうしの契り」はまさに主人公の坊さんの正体がキモになる話。もったいないなあ。
『異形コレクション(11)トロピカル』初出の「泥中蓮」は初出の時は思いっきり浮いてたが(笑)、本書に収録されると違和感無いなあ。九州某所に於ける一休と怪異との戦い。むせ返るような湿気の雰囲気が出ていて二重丸。
「うたかたに還る」は幽霊譚ですかね。最後の語り手というか視点人物の問いかけに対する答えの間合いが良いなあ。
「けふ鳥」はなんつうか。タイトルセンスがいいよね。
船自帰ふねおのずからかえるは名乗らず、有名な歌を詠むラストシーンが印象的。本編もまた《異形コレクション》初出であるが、あの現代的な(そして西洋的な)作品が連なる中に室町伝奇を書く度胸がすごいと思う。
画霊がりょうは画から飛び出た怪異と一休の対決。有名な画の中の虎を縛るエピソードが出てきて楽しい。
「影わに」では一休の兄弟子や師匠さんが登場。影わにという妖怪が師匠さんを襲う。だが、一休さんとその妖怪の戦いではなく、描かれるのは寧ろ人間の心という名の妖怪。


傀儡后くぐつこう 牧野修 早川書房 1700円+消費税

「SFマガジン」(早川書房)に連載の後、一年の年月を経てこの度《ハヤカワSFシリーズJコレクション》の一冊として刊行されたのが本書。いやあ、中断中の《月世界小説》シリーズのような憂き目にあうのでは、と半分マジで心配してたり。まあ、《月世界小説》シリーズに関しては多分、作者本人の気分の問題と思うけれども。
 一個残念なことは、連載時につけられていた魅力的な章タイトルが無くなっていたこと。ヴァーチャルヘヴンへようこその著作リストによれば、各回のタイトルは「コミュ 鳥の眼を真似る子供」「D・ランド 顔のない眼」「テトラポッド 廃船の蠅たち」「ガラクタ 死体と遊ぶな子供たち」「エホバ 語られぬ神の名」「スキン さあ、みんな語り始め給え」となっている。ああ、勿体ない。この全6回の連載を序章、1章〜7章、終章に再構成加筆集成したのが本書。

 隕石の落下で大阪はキタが壊滅したパラレルワールドが舞台。その場所は「D・ランド」と呼ばれ立入禁止に。やがて「麗腐病」という奇病が流行だし、「ネイキッド・スキン」と言うドラッグなども出てきて。世界は何処へ向かうのか、登場人物はどういう理由で行動し、何処へ向かうのか。すべてがある一点に集約されるとき、世界はカタストロフへと向かっていく。
 とにかく、作品の筋を追うのは容易ではない。連載時には『MOUSE』(ハヤカワ文庫JA)のような連作短編の如き形態だったので、ふつうの長編と思って読むと面食らう。場面場面が平行に繋がってるというか何というか、各シーンの独立性が非常に高い。無論、それらは最終的にはカタストロフに向かって収斂していく。

 本書はSFの叢書から出ているが、どっちかというとホラーに近い気がする。作品中に漂う何とも言えない雰囲気はホラーのそれに近い。私のイメージではSFはどっちかというと明るい、と言う強固な固定観念があるからなのであるが(笑)。本書がSFなのか否かは読む者によって変わるのかもしれない、と思ったり。どっちにしろ、本書が面白い作品であることは間違いない。
 読んでいる最中、ずーっと『MOUSE』のことを思い出していた。もしかしたら、『MOUSE』の世界と本書の世界とどっかで繋がってるのではなかろうか、とか。尤も、どこにもそういう記述は存在しないけれども(笑)。でも、そうだったら楽しいよね?

 余談だが、本書の冒頭で結構重要な役割を果たすコミュニケーターと言う代物、本気で実用化されるかも。ものすごい世の中になったもんですな。


追いし者 追われし者 氷川透 原書房 1600円+消費税

 ミステリの叢書《ミステリー・リーグ》の一冊。いつもの名探偵氷川透シリーズではなく、ストーカーが探偵になると言う所謂(?)ストーカー探偵。とりあえず、この尋常ではない設定に度肝を抜かれる。

 ストーカーする人間の視点パート、何者かにストーカーされてるんではないか、と思いつつも日常を送る人間の視点のパート。そして、山梨県S市での殺人事件、会社での殺人事件と二つの事件を経て二つの視点は歩み寄っていく。
 途中作家志望の人間の視点パートもあったりしてメタフィクショナルに流れていくのかな、と思いつつ読んでいくと或る意味メタだったが、全うな(?)終わりを告げてくれる。すべてが明らかになり、ストーカー探偵が悪人になりきれずに後を追おうとするラストは従来の作風を大きくかけ離れ、意外だったり。

 従来の作品ではロジックを武器に犯人を追いつめるという型のスタイルだったが、本書ではストーカー型サスペンススリラーを目指し(どういう表現や>自分)、最後に一撃を加えるところは抜かりがないというか。完全に見抜くと言うところまでは行かなかったが、違和感ありまくりだったので薄々とは……と言う程度はあった。この作品のネタ自体が綱渡りのアクロバットを要求する性質のものだったので、仮に丸わかりでもよくぞここまで渡りきったと感心したかもしれない。ただ、先駆作品の(しかもここ十年のもの)あまりにもなインパクト故に衝撃と言う意味では数歩譲らざるを得ない。
 サスペンス小説としては(ネタの性質上)もの足らなくならざるを得ず、そこが残念。逆に言えばサスペンス小説としてのもの足らなさを払拭できれば文句なしの傑作と言えたであろうに。とはいえ、その綱渡りのアクロバットは評価できるのであるが。

 従来の作品とは全く違った一冊であることは間違いない。


江戸にいる私 山田風太郎 廣済堂文庫 品切れ

 結果的に《山田風太郎傑作大全》叢書の時代小説短編集の最終配本になった一冊。『神曲崩壊』(廣済堂文庫)が時代小説の区分ではなく現代小説の区分に入れると時代小説という意味でも最終配本であった。
 以下、収録作の簡単な感想。

「山田真竜軒」『魔界転生てんしょう(講談社文庫)に於ける柳生十兵衛最強の敵の一人荒木又衛門に焦点が当たる。というか、時代小説なのに作中のせりふで社会党云々が出てくるところや語り口を見ると本編は小説と言うより寧ろ講談を意識したものなのかもしれない。
「悲恋華陣」は合戦の中の男気、女性の強さを描く。タイトル通りまさに悲恋としか言いようがなく、戦国の世の諸行無常を感じさせる一編。
「黒百合抄」は秀吉死後の北政所を描く。この作品はミステリ作家としての山田風太郎の手腕が遺憾なく発揮されており(作者自身がそれを意図していたか否かはさておき)、興味深い。尤も、北政所が置かれた場所と言うか立場というか、その辺を考えれば当然の帰結かもしれないが。
「明智太閤」はもし本能寺の変の第一報が毛利方に届いていたら? と言うのから出発した所謂歴史シュミレーション。お茶々の心情は史実を考えると怖いものがあるかも。
「叛心十六歳」は由比正雪の若い頃を描く。徳川家光との絡み、怪老人の正体など『魔界転生』に繋がるところは興味深い。
「江戸にいる私」はよっぱらって田沼時代にタイムスリップしてしまった男の話。最終的なオチはアレだったから従来単行本への収録が見合わせられたんだろうな、と思う一方現代人の視点による江戸観というか、江戸の見方は面白い


摩天楼の悪夢 新宿少年探偵団 太田忠司 講談社文庫 667円+消費税

 新宿を根城に探偵団が大活躍する《新宿少年探偵団》シリーズの第三弾。前作『怪人大鴉博士 新宿少年探偵団』(講談社文庫)から少し経った冬休み前、と言うのが本書の時系列的位置づけ。

 蘇芳すおうの指示で大鴉博士が使用していたビルを調査する羽目になった少年探偵団。そのビルで異変が起きる。謎のシステムが作動し、ビル内にいる少年探偵団をはじめ、残っていた人間に襲いかかる危機の数々。「嵐の山荘」と化したハイテクビルから彼らは無事に脱出することができるのか。
 脱出不可能なビルを「嵐の山荘」に見立てると言う発想は氷川透の『密室は眠れないパズル』にもあるが、本書にインスパイアされたものなのか。上遠野浩平の《ブギーポップ》シリーズにもビルそのものが重要になる作品があったような。《新宿少年探偵団》シリーズだからか、ミステリ的な絵解きは薄い(皆無ではないが)。如何に能力を発揮して脱出するかに焦点が合わさっている。

 ビルからの脱出劇、何故ビルを「嵐の山荘」状態にしたのか(「嵐の山荘」を通り越して巨大な棺桶といってもいいであろう)と言うのが明らかになるくだりは興味深い。この辺はもう少しキチンと突き詰めれば本格としてもかなり評価されるだろうに……と思うと残念だ。脱出劇に関しては冒険小説で言うところの「アタック・アンド・カウンターアタック」で布石は打ってあり抜かりがない。
 本書がシリーズ三作目で以降三作発表されているが、本書ではシリーズを通しての謎は一向に明らかにならない。明らかにならないどころかますます深くなって行くばかりだ。以降の作品でどの程度明らかになるかわからないが、すべての謎が明らかになる時がシリーズの終わりなんだろうなと思う。

 次作以降の展開はどうなるか。本自体はすでに手元にあるので、順次紐解いていきたい。


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