忘却の船に流れは光 田中啓文 早川書房 1800円+消費税
 ダジャレと言えばこの人。ミステリで言うところの最後の一撃フィニッシング・ストローク≠フ手法をダジャレでやりのめした『銀河帝国の弘法も筆の誤り』(早川文庫JA)ではダジャレ全開だが(笑)、本書の帯には「もはや駄洒落の余地もない」とあり、作者と言うか編集者の本気度(?)が伺える。でもね、その言葉嘘やん(笑)。ダジャレはあるのでご安心を。

 大昔の悪魔の襲来によって滅びかけた人々は、主の導きにより5つの階層に分化して《壁》の内側で生活を送るようになった。《殿堂》の聖職者ブルーは、上のくらいを目指すべく日々猛勉強せねばならないのであるが雑用煩悩その他のことで身に入らない。或る日、自分を残して教会の面々が討伐に出かけたとき、別の討伐命令が。仕方なく現場に赴くと、そこには最高幹部の一人である大蟻象大司教だけが。ブルーと大蟻象大司教は悪魔崇拝者を一掃することに成功するが……。そこでブルーは一人の《修道者》にであう。その出会いがブルーを変えていく……。
 本書はまごうことなき田中啓文作品であり(グロでダジャレで、そして物語がある)、そしてSFである。SFとしてのキモと言うべき所はなかなか面白く、それを支えるための細部、物語の骨子は計算されている。更に言うならば、ミステリ的なところもあり(尤も、これをミステリというと視点の問題があるのでミステリ的としておく)ジャンルミックスと言う意味でも興味深い。

 世界を造る、と言うのは今ではSFだけの専売特許ではないがやはり先駆者というかプロパーというか、世界だけでも十二分に楽しめる。聖書を下敷きににした世界は地球の超未来という様相を示しており、逆に言えばSFとしてどのようにして世界をひっくり返してくれるのかというところが楽しみになる。結論を言えば予想を遙かに上回る形でひっくり返してくれており(これが予想つく人はざらにはいないはず)、同じ着想を得た人でもコウまでは巧くいくめぇと言うくらいだ。この世界の裏返し方は全然タイプが違うけれども山田正紀の『宝石泥棒』(ハルキ文庫)を思い出す。田中啓文は『宝石泥棒』に憑かれているとも言えるかも。
 本書はSFとしてだけではなく、ブルーの成長物語――ビルドゥングスロマン――としても楽しめる。成長と言うより寧ろ堕落かもしれないが(笑)。ビルドゥングスロマンとSFの相性の良さはミステリとSFとの相性の良さとは比較にならないほど良いのは言うまでもないけれども。ブルーが苦悩し、成長する様は巻おく能わざるものがある。

 どの様な意気込みを以てして本書を書いたかは伺いしれないが、本書は間違いなく田中啓文を代表する長編の1冊と言っても過言ではなく、更に言うならば2003年を代表するSF作品と言っても良いであろう。とにかく、面白い物語を読みたいという人にオススメです。ただし、洒落が分かる人限定(笑)。

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仮面劇場の殺人 ジョン・ディクスン・カー 創元推理文庫近刊
 カーの未訳長編が1990年代後半からぽつぽつと訳されるようになったが、本書はその先駆けになったもの。原書刊行は1966年。言うまでもなく戦後である。

 アメリカの《仮面劇場》ではシェイクスピア劇が行われる予定であった。劇の練習の最中、衆人観衆の元で事件が起こる。消えた石弓によって老女優が殺されたのだ。だが、飛んできたと思しき方向から矢を射るのは不可能に見えた。果たして誰が、如何にして犯行を成し遂げたのか。容疑者のアリバイも絡み、事態は混迷を極める。
 カーと言えばオカルティズムを基調にしたゴシックなミステリ、と言うイメージがどうしてもつきまとうのだが、本書はニューヨークの劇場を舞台にしたからりとした、現代的な作品である。英米ミステリに於いて劇場系統の作品というのは一つのジャンルとしてあるらしいが日本ではあまり人気がない(その証拠に、劇場系統の作品は訳されてても絶版が多い)。この辺、文化の違いなんだろうなあ。この辺に本書がなかなか訳されなかった理由があるんじゃないのかな。

 また、カーというと何故か1940年代が最後と言うイメージがあり(それは私がカー作品をあまり読んでないと言うことに起因するんだが)、1966年原書刊行というその事実だけで驚けたり(笑)。でも、やはり、いつ原書刊行でもカーはカーと言うべきか。カーオカルト以外の持ち味のファルスとロマンスが発揮されている(ファルスはあるかないかくらいだが)。
 トリック自体はどちらかというとシンプルな部類に入り、見るべきはトリックより寧ろそれを固める脇であろう。二重三重に張られた伏線やダブルミーニングにカーの意地を感じるのは気のせいか。

 全体としては駄作で訳されてなかったわけではない、と言うところ。『三つの棺』(ハヤカワミステリ文庫)や『夜歩く』(創元推理文庫)と言った一流どころには及ばないが、それなりには楽しめる作品です。

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新世界 柳広司 新潮社 1600円+消費税
 歴史ミステリで独自の地位を築きつつある、柳広司の書き下ろし長編。本書では日本人になじみの深いどころではない、原爆開発を巡る(と言うのは正確ではないが)ミステリである。

 マンハッタン計画は原爆の完成、広島長崎への投下によって一旦終了した。開発のために砂漠のど真ん中に集められた研究者たちは、戦勝パーティに酔いしれていた。だが、火薬のスペシャリストが余興で火薬を爆発させようとして失敗し、大怪我を負う。翌朝、運び込まれた病院で撲殺死体が発見される。被害者は人違いで殺された模様だった。それから月日が流れ、イザドアは憲兵に呼び出される。
 オッペンハイマーの遺稿を柳広司が訳して出版した、というスタイルを取っているのだが、そのスタイルを取るのならば「訳者後書き」と言う形でそれを閉じさせて欲しかったかもしれない。これが本書に対する不満点。

 マンハッタン計画の責任者オッペンハイマーが書いた小説、と言う設定を忘れて小説世界に没入できる。読み終えて「そういえば……」と思い出すくらい。基礎設定に於ける叙述的なトリックはないので拍子抜けしたのだが。
 起きる事件は間違い殺人? と言うものと真夜中の隻眼の少女の幻影という所ぐらいで全体的に言って地味と言えば地味。更に言うならば、解決そのものも地味と言えば地味だ。本書の最大の動機はその辺ではなく、とてつもない動機だ。本書の設定はこの動機に説得力を持たせるだけの為あると言っても過言ではなく、この設定でなければ成立しない。特殊な設定(=世界観)の中でしか成立しないものと言えば京極夏彦の陰摩羅鬼おんもらきの瑕』(講談社ノベルス)を思い出すが、異世界設定に至らない特殊設定と言う意味で両者は興味深いものがある。
 本書に於ける動機は間違いなく前代未聞と言うべきもので、この動機には目を剥かざるを得ない。また、先に解決そのものも地味、とは書いたもののそれは動機と比較してと言える。よくよく考えると、解決の一端は地味という言葉で片づけるのはどうかというくらい陰惨なものがあり、これもまたこの設定でなければ成立し得ないものがある。
 本書はもしかすると作者の代表作の一つに数えられるかもしれない。世界唯一の核兵器被爆国である日本。日本人だからこそ書き得た、そう言う作品かもしれない。いや、日本人が書いたからこそ説得力があるのかもしれない。

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怪奇探偵小説名作選5 橘外男集 逗子物語 日下三蔵編 ちくま文庫 1300円+消費税
《怪奇探偵小説名作選》の第1期完結編は橘外男。解説によれば作者には怪奇実話と怪談の2つの路線があるようだが、本書はそれに基づき「海外実話篇」と「日本怪談篇」の2部構成になっている。

 読んでいて驚いたのが、「海外実話篇」と「日本怪談篇」の文体が違うところ。文体を使い分けてたのだろう。
「海外実話篇」はホント、一昔前の実話読み物に載ってそうな、うさんくさい話満載(笑)。初出は「新青年」と「オール讀物」になってるけれども、小説ではなく、海外実話として掲載されたのかな。冒頭の「令嬢エミーラの日記」からしてうさんくさげだが(笑)、「海外実話篇」の作品は終始怪しげな感じだ。ただ、これらの作品、特に海外の描写そのものが作者の想像の産物であるというのは驚きである。書かれた昭和12〜14年は今のように資料も充実していなかったであろうから、それだけでも一読に値する。しかも、うさんくさくはあるけれども、何より面白い。「海外実話篇」の掉尾を飾る、昭和30年に書かれた「女豹の博士」が「海外実話篇」のベスト。タイトルに「女豹」とあるから獣人の博士かと思いきや、白痴治療の為に人を殺して良いのか、と言う話なのだが(一言で言うとね)、なかなか迫真に迫る。

「海外実話篇」もそれなりに面白いけれども、本書の白眉は「日本怪談篇」。「蒲団」がものすごい。プロットそのものは或る意味ありきたりだし、そこら辺のパチもん臭い怪談本に載ってそうな話なんだけれども、真に迫る描写語り口で極上の恐怖を与えてくれる。表題作「逗子物語」怪談なんだけれども、結局は良い話になってしまう。本書に収録されているのは「蒲団」を除き総じてこのパターン。それぞれ、やはりありきたりと言えばありきたりなのだけれども、語り口や文体のせいかなかなかのものになっている。
 本書は橘外男入門としては最適な1冊と思う。そういえば、本書が刊行される前、2ちゃんの復刊スレで本書にはいるか否か話題になってた「陰獣トリステサ」とかどうなんでしょう。これを含め(「陰獣トリステサ」は実話系っぽいが)、橘外男の怪談系には興味が出たので機会があれば《橘外男ワンダーランド》を読もうかな、と思うこのごろです。

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コッペリア 加納朋子 講談社 1600円+消費税
 『ななつのこ』(創元推理文庫)以降11作目にして初の長編。本書は「IN☆POCKET」(講談社)に連載されたもの。人形愛を描く長編……と思ってたら微妙に違っていた(笑)。いや、間違いじゃないんだけれども。

 本書は、様々な視点より物語られる。劇団の看板女優ひじり、人形に憑かれた青年、聖のパトロンなど。様々な視点が入り乱れ、そして、入り乱れるのは視点だけではなく人間関係もである。割と複雑で、一気に読み通すかきちんとメモを取りながら読まないととてもじゃないけれども人間関係を把握できないかも。
 従来の加納朋子作品と一線を画する作品で、今までのハートウォーミングなものを想定して読むと面食らうかもしれない(尤も、従来の作品にも結構きついのはあるけれども)。静謐な、そして冷ややかな雰囲気の作品だ。本書を読む前に所謂《日常派》作家の初の長編と言う意味で北村薫の『秋の花』(創元推理文庫)を思い出したが、全然違う。北村薫は(シリーズの流れという意味合いもあってか)長編になって人が死んでも北村薫だったのに対し、本書はノンシリーズだからかなのか、従来とは全然違うものになっている。

 今までの加納朋子作品にもきつい作品、底意地の悪さを感じさせる作品はあったが本書はそれらの底意地の悪さを濃縮還元したような感じだ。全編に渡って今までの作風からの脱却を測るかのような試みを感じる。この試みは単なる試みだけに終わらず、ミステリとしての驚愕に繋がっている。途中、「やりたかったのはこれかな?」とあたりをつけてほくそ笑んでいたんだけれども、その予想を二枚も三枚も上な結末を突きつけられた。正直叙述トリックという手を使うとは思わなかったので結構ビックリした。尤も、読後感は悪くはなく、どっちかというと「良い話」で終わっている。
 人形を巡る人間関係の錯綜が面白いと言うのがミステリ抜きの印象なんだけれども、登場人物全てが人形に操られている印象があり、見方を変えれば本書はホラーじゃないかと思う。明確な操る意志と言うのは無論存在しないんだけれども(あったら完全にホラーです)、人形がなければ全ては起こらなかったと言う意味で興味深い。人形をモチーフにした作品には高木彬光の『人形はなぜ殺される』(ハルキ文庫)とか綾辻行人の『人形館の殺人』(講談社文庫)なんかが思い浮かぶけれども、人形が人間を操っていると言うのは本書くらいなものかも。そう言えば、本が人を操ると言う作品もあったっけ(ネタバレになるから書名は割愛)。

 作者の裏面が圧縮された感がある裏代表作になるのか。それとも、この系統の作品が今後増えていくのか。或る意味北村薫作品群に於ける『盤上の敵』(講談社文庫)と言うのが本書の現時点での位置づけかもしれない。

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蛇行する川のほとり 全3巻 恩田陸 中央公論新社 各巻476円+消費税
『上と外』(幻冬社)に続く、《グリーン・マイル》形式の連載パターン第2弾。恐らく、大方の予想を裏切らず、いずれは本書も一冊のハードカバーになるでしょうが(笑)。『ネバーランド』(集英社文庫)は夏休みの少年たちの1週間を描く長編だったが、本書は或る意味『ネバーランド』の変奏曲と言っても良い作品になっている。

 夏休みのこと。学園祭の劇の大道具として使う大型の画を造るため、女3人合宿をすることになる。のどかに過ぎようとしていたその合宿であったが、それぞれの思惑が重なり合い、妙な雲行きになっていく……。彼女らの過去に何があったのか。夏の10日間はどの様に過ぎゆくのか。過去に起きた少女の転落事件と母親の絞殺事件の謎は解けるのであろうか。
 ほとんど一気読みで、これを出てその都度読んでた人は拷問だったんだろうなあと思う(笑)。特に各巻の引きの強烈さと言うのは筆舌に尽くせない。1巻目のラストの一言は最後の一撃と言っても良いほどで、推理のプロセスをその直前に配し、そこで終わったならばオールタイムベスト級の作品になったかもと言うくらい。2巻目の引きもショッキングで、この『蛇行する川のほとり』を読んで恩田陸が雑誌で引っ張りだこな理由に改めて思い至る。

 ミステリとしては淡々とした作品だし、過去の事件の真相そのもの事態は或る意味他愛もなく、つっこみどころがある(笑)。だが、真相を提示するその舞台設定、提示された真相をひっくり返すその構成(ひっくり返し方が見事)あたりミステリ魂を感じる。ミステリの舞台劇性を示すかの如き真相暴露シーンで『木曜組曲』(徳間文庫)や『麦の海に沈む果実』(講談社)が舞台の如き作品だったのを思い出し、恩田陸作品の舞台化を望む劇団関係者は実は少なくないのではないのかなと感じた。
 この『蛇行する川のほとり』が『ネバーランド』の変奏曲ではないのか、と言うのは既に書いたが、男女が織りなす合宿に於ける青春群像と言う感じなのだ。合宿と言うのはちょっと違うけれども、なんか一つの目的で集まり何かが暴かれていく。『ネバーランド』の後書きでこれを原型にしてもっと何かを書きたいと言うことを書いていたが、この『蛇行する川のほとり』がその一環の一つであることは間違いないと思う。たぶん、この傾向の作品は今後も書かれていくのだろうと思う。

 派手なトリック、道具立て、ロジックがあるわけはない。だが、この『蛇行する川のほとり』に流れる雰囲気の静謐さ、儚さは何とも言えないものがあり、恩田陸ミステリの中でも上位に位置するものであることは間違いない。この物語の何がミステリとして捨ててはおけない、何とも言えないものにしているのかはよくわからない。本格だ! とかサスペンスとして良い、という具体的なものが思い浮かばない。でも、ミステリとして愛していきたいと思わせるものがある。
 一冊一冊、間をあけて読むも良し、一気に読んでも良し。オススメな3冊です。

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妖人ゴング 江戸川乱歩 江戸川乱歩推理文庫(『黄金豹』併収) 絶版
《少年探偵団》シリーズ、後期の作品。ポプラ社版では『魔人ゴング』のタイトルになっている。

 東京に現れた怪人、妖人ゴング。様々な場所に現れ、姿を消す不気味さに都民はおびえる。その妖人ゴングの魔の手は、花菱検事の子供に及ぼうとする。明智小五郎は妖人ゴングの魔の手から検事の子供を守れるのか。
 本編には新たなる少年探偵団員、少女探偵マユミが登場するけれどもあまり活躍はなし。花菱検事の娘でもあるんだけれども、少年探偵団員として登場しつつも何しに出たの? と思うくらい。

「人間入れ替えトリック」によって妖人ゴングの魔の手から一旦マユミをかわすけれども、入れ替わった小林少年は悲惨の一途(笑)。箱に閉じこめられ、川に流されて。死ななかったのが不思議なくらいで。その後救出されて間もないのに妖人ゴングとの最終決戦にけろりとしてるのも引っかかる(入院していてもおかしくないのに)。
 妖人ゴングが現出するためのトリックは、その発想自体は悪くないと思うんだけれども、練り込みが足らないからかあまりよろしくない。一昔前ならともかく、今なら子供が読んでもちょっとアレと思う(今時の子供は目が肥えてるでしょう)。とは言え、馬鹿馬鹿しさがあるし、そこが逆に新鮮かも。

 色々とつっこみどころがあるけれども、そこが逆に楽しい作品かもしれません。


似非エルサレム記 浅暮三文 集英社 1500円+消費税
 推理作家協会賞受賞後第1作として刊行された本書だが、e-NOVELS同題作品が販売されている。同じものなのかな?

 本書はかなり変わった作品だ。ひとことで言えば、エルサレムの大移動の話。エルサレムそのものが意志を持ち、動き出すのだ。エルサレムというその土地の性質上、国際関係が混乱期をきたしてエルサレムの大移動を止めようとする。「政治」をちらつかせ、主導権を握ろうとするけれども……。
 この『似非エルサレム記』はほら話であり、ファンタジーであり、寓話であり、神話であり、そしてシミュレーション小説である。bk1の作者の言葉に於いて作者はファンタジーのポリティカルな面を説いているけれども、本書に於けるポリティカルな面はあまりにも露骨すぎてついつい裏に何があるのか、と考えてしまう。額面通りに受け取って笑い飛ばすのが一番良いんだろうけれども。

 読みながら作者のデビュー作『ダブ(エ)ストン街道』(講談社・絶版)を思い出した。『ダブ(エ)ストン街道』は不思議な不思議な小説だったけれども、読後感は本書とどこかに通ってるような来もする。ひとことで言うならば、「不思議な小説読んじゃったなぁ」と言うものなんだけれども。浅暮三文の本質はファンタジーにあるとずーっと言い続けてきたけれども、もしかすると、ファンタジーというのは、「不思議な小説読んじゃったなぁ」と言うものに集約される小説なのかも……と思ったり。
 本書は様々な角度から読むことが出来る作品である。尤も、小説というのは様々な角度から、好き勝手読むことが出来るものであり、ミステリのようにかっちりとした読み方があるジャンルが珍しいのかもしれない。とにかく、様々な側面から本書は楽しむことが出来、『ダブ(エ)ストン街道』みたいなほんわか不思議な作品が好きな人なら読んでおこうよと言う作品。

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心洞《Open Sesame》 五條瑛 双葉社 1700円+消費税
《R/EVOLUTION》シリーズ第3弾はシリーズの主要登場人物の1人が更に増える、いわば助走段階のお話。『断鎖《Escape》』(双葉社)で或る登場人物が言い放つ「革命を起こさないか」と言うフレーズから期待されるような展開にはまだ遠い……。

 本書は革命とはほど遠い、ヤクザと台湾マフィアそして新興勢力の三すくみの抗争に巻き込まれる若き乙女(いや、乙女とはほど遠いか)の話。その抗争の原因と言うべきものはドゥルダと言う謎の人物とファービー≠ニ言う謎の麻薬。主にファービー≠ノよって干上がったやーさんが怖い。
 少女の心象風景とか、彼女を取り巻く環境、その周りにいる男達。無論、視点は少女だけではなく少女と一緒に暮らしている男の視点もあり、その割合は同じくらい。それ故に、本書が《R/EVOLUTION》シリーズからほど遠い作品と思わされ、ホントにシリーズ作品かなと思わせる。

 五條瑛作品には意外とミステリ的作法が用いられていることがありプチ驚きを感じることがままあるが、本書ではミステリでは高等テクニックとされている操りの構図がある。と言っても、私が勝手に見出して1人で喜んでいるだけだけれども(笑)。尤も、これはやっちゃんとかが絡んで絵図を描く頭が切れる幹部とかいたら結構頻出なんだけれども。全ての事象が実はサーシャによって描かれた絵図に沿って起きていたとさりげなく知らされるくだりは「うそーん」と思った。
 果たして、本書で登場した全ての渦中にいてあらゆるものを失い、未来に希望≠見出したいと思う少女は以降どの様な役割を与えられるのか。今後2、3冊分はこんな感じで初登場キャラの登場についやされる予感がするけれども、どうなんでしょうか。

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阿弥陀ヶ滝の雪密室 黒田研二 カッパノベルス 800円+消費税
 くろけんさんの《ふたり探偵》シリーズ第2弾。前作『ふたり探偵 寝台特急「カシオペア」の二重密室』(カッパノベルス)から3週間後のお話。

 新興宗教教祖に怨みを抱き、体を真っ二つにした男。だが、その体は別々の、300キロ隔てた場所でそれぞれ発見される。一方、シリアルキラーJの事件で意識を失ったままのキョウジ。彼が入院している病院で何ものかがキョウジを殺そうとし、時を同じくして入院している子供が何ものかに誘拐されると言う事件が。その誘拐犯は、世間を騒がせている人間と同一人物に思われた。
 様々な要素がごった煮になっており、しかも、ページ数が残りわずかと言う事態になっても謎解きが始まらなかったので「まさかこのまま次巻に続くになるのか!?」と思ってしまったので怒濤の謎解きとも言える終幕の迫力はもう圧巻と言うしかない。今までの作品の中で最も怒濤の謎解きが味わえる一冊になっている。

 シリーズとして定着した感があるが、「ふたり探偵」とシリアルキラーJとの戦いは以降どうなっていくのかな? と言う興味がある。だって、本書の終わりでシリアルキラーJ組織の名前だ! と明かされるんだから。く仮面ライダー対ショッカーじゃないんだから(笑)、とも思うんだが。
 様々な要素が一挙に繋げられ、明らかになる真相は瞠目もの。特に新興宗教教祖を真っ二つにした男のアリバイは如何にして作られたのか? と言う謎は驚天動地というか。発想的に鮎川哲也賞候補作になった『死の命題』を思い出させるが、破壊力と言う意味では良い勝負してるし、リアリティという意味では軍配が上がる。その他、ことごとく張り巡らされた伏線の巧さはなかなかのもので、いろんな意味で本書は作者の現時点での最高作ではなかろうかと思ったりもする。

 とにかく、本書に張り巡らされている伏線は並々ならぬものがあり、ほとんど無駄がないシェイプアップされたものがある。体脂肪率0%と言われたのはデビュー作『ウェディングドレス』(講談社ノベルス)の推薦帯だったが、本書もまた体脂肪率0%と言っても過言ではない。まさか、あんなシーンに意味があるなんて。地名を利用したミスディレクションはご愛敬だが(京都にもあるし)、一読凄いと思う作品はざらにない。
 作者のトリックメーカーぶりを示す、そんな一冊。本書にはいくつネタが入ってるんだろ? 豪華なちらし寿司みたいな作品。とりあえず、シリーズ前作と一緒にどうぞ。

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