この本を手に取ったのはそもそも『ミステリベスト201』(池上冬樹編/新書館)で超A級とランクされていたので気になったと言う理由である。そして古本屋で廉価で入手(笑)と言うのも重要な要因。角川小説大賞受賞作。この角川小説大賞は私が思えてる限りでは『バイバイ、エンジェル』(笠井潔/現在創元推理文庫)『神々の埋葬』(山田正紀/角川文庫・絶版)なんかがある。とりあえず内容の紹介。この闇と光 服部まゆみ 角川書店 1500円暑い日の午後のこと。ハンモックで寝ていた刀研師の不可解な死、それに続く父母の死去で一気に一家離散になってしまった大迫家。その元凶の源にあったのは名刀次吉。刀研師が大迫家に逗留していたのはこの名刀を研ぐためであった。そして母親と刀研師との許されざる愛情。それらを繋ぐのは次吉であったがその刀は父親が割腹自殺に用いたために警察が没収。二度とこの世には出ないことになる。そして時が過ぎ離ればなれになった三人の兄弟がそれぞれがそれぞれの道を歩みだしたとき再び次吉が現れる。長兄の所有物として。
耽美派の鬼才と言われる赤江瀑初体験であったがこの人にはどうも熱狂的なファンがついてるらしく文章のきめ細やかさや登場人物の造形などそれだけを見ても十分頷ける。文章的観点から言えば連城三紀彦氏のそれに近いと思う。「花葬シリーズ」のそれだ。しかし近いもの連城三紀彦氏の文章とは肌触りが違う。しかしこの文章結構肌に合うのでもう少し読んでみるのも良いかも知れない。話が少々ずれてしまったが恐らく赤江瀑氏に熱狂的なファンがつくというのはその独特の世界の構築の仕方であろう。「背徳のゴシックロマン」と先述のガイドブックでは評しているがまさにそれが当てはまる。そして熱狂的なファンは女性が多い。
この作品における「匂い」へのこだわり。もしかするとこの作品『双頭の悪魔』に何らかの影響を及ぼしているのかも知れない。この作品のキーワードはまさに「匂い」である。
この作品は過去に映画になっておりそれがどう言うのか気にかかる。というわけで探してみてみようと思う今日この頃。
角川の書き下ろし。書き下ろしの新本格ミステリー叢書の一冊。前作『ハムレット狂詩曲』から一年と少ししか経ってないからこの作者にしてはハイペースの刊行、ということなのかもしれない。読むか読まないかは別として書店で見かけたららとりあえず確認して欲しいことがある。それは表紙の趣向。私は書店で見たときには全く気がつかなかったのであるが友人から借りて気がついた。表紙にいろいろと皆川博子氏の賛辞など書いてるがこれは正確には表紙ではなく帯なのだ。これに気がついたからには後でお金があるときに買わねばあと非常に――借りて読んでしまったのに――無意味なことを考えてしまう。と、前置きが長くなりすぎたがとりあえず紹介しよう。黄泉津比良坂(よもつひらさか)、血祭りの館 藤木稟 徳間ノベルス 1000円どこか、遠い国の話のようである。城に幽閉された姫さまレイア。彼女は目が見えなく、身近な人間は父親とダフネという人間だけ。母親は既に死去していていない。外部とレイアを繋ぐのは父親だけであまり外がどうなっているのか解らない。しかし断片的な知識から総合すると父親は或る国の王であったが戦争に負けてしまい王でなくなったという事と秘かに反乱を企てているらしいということ、そしてダフネは父親の国を占領した国の人間らしいということである。父親はレイアに様々なことを教える。文字、音楽、物語。レイアは目が見えないために畢竟朗読という形を取らざるを得なかったがそれでもレイアは幸せだった。或る日、レイアは城の外に連れ出された。
と、ここまで書いたらこれのどこがミステリやねんと思う方もおられるであろうがミステリの様相を帯びてくるのはこれ以降である。どう帯びてくるかはかくともうネタバレの領域に踏み込まざるを得ないので詳しくは書けないのであるがこのプロットを維持しているのは彼女のたぐいまれなる文章力によるものであろう。彼女の独特のガラス細工のような文章でなければこのプロットは凡庸を通り越して最悪なものになってしまう。服部まゆみだからこそこのプロットを精緻なものに仕上げ幻想の領域に持っていっているのである。
とりあえず書けるのはここまで。服部まゆみが作り出す幻想的な迷宮に迷い込んでみては如何であろうか?
わははは。とりあえず執筆スピードは京極系(笑)闇色(あんしょく)のソプラノ 北森鴻 立風書房 1900円
とのっけから笑ってもうたがホントに今年(1998年)中に三作目を出すとはねえ。いや、正確に言えば三作目の前編というものである。つまりこれだけでは完結しない。というわけで完結してから読みたいと言う方は2月に出る『黄泉津比良坂、暗夜行路』が出るのを待ってからでも遅くはないであろう。というわけで後編がでてからの抱き合わせと言うことにする。本書のキーワードは「館」「甦る死者」「宝探し」。この中で起きる事件は解明されないが推理するのも一興かも。
というわけで『黄泉津比良坂、暗夜行路』がでたらこれもまた再読して一緒に書きます。
なんだかんだ言って出たのは99年3月。書評はここへ
『花の下にて春死なむ』を読んでこれ誰か貸してくれないかなあと思って図書館に行ったらいきなり置いてて非常に驚いた。普段の行いが良かったのか単に運が良かっただけなのか。どちらにせよ結構な僥倖の下でこの本を手にし、読むことが出来たことには変わりがない。とりあえず内容を紹介しようと思う。ハムレット狂詩曲(ラプソディー) 服部まゆみ 光文社 1600円大学の卒業論文を書くための素材を模索していた真夜子は偶然見つけた詩集に載っていた詩に感銘を受けた。その詩を書いた人間の名前は樹来たか子。幼い息子を残し夭逝した女流詩人である。奇跡的な出会い。真夜子は樹来たか子の詩を元に卒論を書くことにする。一方、その詩人の息子である樹来静弥はガンの手術を受けその術後の経過のフォローを受けるために定期的に病院に通い主治医の美崎早音とは恋人関係にあった。そしてある日真夜子が卒論の資料を集めるために訪れた図書館で偶然出会った末期ガン患者の弓沢はたか子の故郷を訪れた後に殺害される。
一人の薄幸の詩人の軌跡を求めて旅する弓沢や卒論のためにたか子を調べる真夜子など様々なキャラクターが登場し物語を盛り上げていく。『狐罠』(講談社)では真保裕一に、『メビウス・レター』(講談社)では折原一の両氏にそれぞれ挑戦した気配が見られるが、今回は誰であろうか。今度こそは北森鴻氏独自の路線を見いだしたのであろうか? 何かを模索するような人間模様という。前に角川のPR誌で謎の拡散と収斂を生業とする本格ミステリを書く人の賞――鮎川哲也賞――の受賞作家の中で北森鴻氏自身は不真面目な作家である、とエッセイで書いていたが本書の中での謎の拡散と収斂の腕前は確かなものが見られる。樹来静弥の過去、樹来たか子の自殺の真相、そして現代の弓沢殺人事件の真相……それらが終幕で明かされる様は見てて気持ちの良いものがある。北森鴻は本質的に本格ミステリの書き手なのであろう。全ては偶然ではなく必然であったというのも「あ、この人本格ミステリ作家や」と思わせる一因である。かなりの取材、調べものをしたのであろうか。民族学的考察、彩京と言う都市の構築は『狐罠』における素材と内容との乖離と言うのを感じさせない。
ケレン味がさほど無く鬼面人を驚かすような派手派手なトリックもあるわけではないし、展開も派手ではないがひたすら読ませる力がありこの人が真面目にバリバリの本格ミステリを書いたらどのようなものを書くのであろうかと今から期待している。なんでも「小説すばる」に掲載していた短編が来年まとまるらしくそれには大仕掛けがあるそうな。そっちのほうも期待が出来る。
北森鴻――意外と目が離せない作家である。
「このミス」や文春の年間ベストでは話題になっていないがこの作品、実は一九九七年のSRの会が選ぶ年間ベスト投票でなんと五位を射止めた作品である。ミステリの「鬼」の投票で五位なのでいうなれば隠れた名作と言うべきものかもしれないのであるが。『闇色のソプラノ』と一緒に図書館で幸運にも借りることが出来た。とりあえず内容を紹介しようではないか。夜よ鼠たちのために 連城三紀彦 ハルキ文庫 857円劇団『薔薇座』の柿落としの『ハムレット』の為に高額の報酬で演出家ケン・ベニングをイギリスから連れてきた仁科京子。ケンはイギリスに帰化した日本人で、演劇の世界では列ぶもののない大家であった。その『ハムレット』の主役に抜擢されたのは京子の息子の雪雄。彼は演劇に関してはまだまだの所があった。そのほかの役の割り振りが原因で劇団員の半分が抜けてしまう。そして時折置かれる枯れた薔薇。一方、ケンが来日したのは演出の為だけではなかった。――片岡清右衛門殺すため。殺意を内に秘め、機会をうかがう。それに気が付きケンに近寄る一人がいた……
演劇とミステリは相性がいいのか歌舞伎なども含めると横溝翁の『幽霊座』(角川文庫)や近藤史恵氏の『散りしかたみに』(角川書店)などの作品や戸板康二氏の雅楽ものなどがみられる。『Yの悲劇』(エラリー・クイーン/創元推理文庫 他)のドルリー・レーンはまさに『シェイクスピア』の俳優である。しかし、劇の構成などまで踏み込んだ作品は珍しいのではないのか。
前半部の劇団内部のごたごたは後半部作者特有の独特の雰囲気に変わる。前半部を読んでるときは「なんや、普通のミステリやなあ」と、事件らしい事件が起こらなかったにも関わらず思っていたのであるが後半、ケンの心理描写に移ると作者特有の独特の美しいリズムで物語が動き出し事件が起こらないのに読ませてくれる。そしてそのまま物語は終幕を迎える。
この作品はトリックうんぬんよりもむしろその独特のリズムにはまり物語を楽しむ方がいいであろう。
やってくれるぜハルキ文庫。今回出たのは以前新潮文庫で出ていた同タイトルの短編集を中心に『変調二人羽織』で収録し損ねた『密やかな喪服』(講談社文庫・絶版)収録分を加え全九編で構成したものである。うーん、こんな面白いのを今まで絶版にしてたなんて『六番目の小夜子』(恩田陸)といい新潮社ってねえ。うーん。角川といいなあ。ま、そんなことはさておきとりあえず各編紹介しよう。違法弁護 中嶋博行 講談社文庫 667円「二つの顔」
夜中、警察から電話がかかってきた。妻の死体が新宿のホテルで発見されたと。しかし、そんなことは絶対にあり得ない。何故ならば私がさっき妻を殺し庭に埋めてきたからだ。しかし、確認すると死体は紛れもなく妻のものであった。
「過去からの声」
刑事を辞めて田舎に帰った男。彼が駅のホームで同僚の刑事に言われた言葉は「逃げるのもいいであろう――」だった。二人が一緒に当たった最後の事件――誘拐事件――は奇妙なところが多すぎた。
「化石の鍵」
藤代荘と言うアパートに父親と二人で住む半身不随の少女。少女の誕生日に部屋の鍵を取り替えたが、それにも関わらず何者かが部屋に侵入し少女の首を絞めた。運良く少女は息を吹き返した。果たして誰がどうやって部屋に侵入したのであろうか。
「奇妙な依頼」
探偵の品田は土屋と名乗る男から妻の素行調査をして欲しいと依頼される。見張るのは一日三時間。しかもそれ一本にして欲しいという。体が空いたおかげで愛人の元にも通える、と喜んだのも束の間。妻の方に尾行がばれ、今度は夫の方を尾行して欲しいと逆に依頼される。
「夜よ鼠たちのために」
幼い頃の記憶。彼は孤児で、かわいがっていた一匹の鼠を殺されて鼠を殺した通称ダホという少年にナイフ切りかかった。それから時が過ぎ、病院の院長ら三人が殺される。首には針金が巻き付けられていた。そして過去に殺されたその鼠も針金を巻き付けられてたのだ。
「二重生活」
幾重にもねじれた人間関係。夫の愛人、妻の愛人、愛人の愛人。お金で若い愛人を作り、若い愛人が女性の愛人を作り、その女性の愛人が男で……ネタバレせずに書くのは難しいなあってもうええわ!(逆切れしてどうする>自分)
「代役」
人気スター支倉俊とその妻の中は完全に冷え切っていた。妻は離婚に応じる変わりに支倉の子供が欲しいという。しかし、支倉は子供が作れない。それ故支倉そっくりの人間を捜し出した。その男は嫌なほど支倉に似ていた
「ベイ・シティに死す」
刑務所から出所してきた男。彼は自分がやった覚えもない罪で刑務所に入っていた。せいぜい過失傷害だったはずなのに何者かが心臓に弾を撃ち込み殺してしまったのだ。犯人は彼が常日頃かわいがっていた弟分と彼の妻だった。
「開かれた闇」
不良たちからマザーマザーと呼ばれている音楽教師水木麻沙。彼女の元に学校を退学になった不良たちから電話がかかってきた。仲間の一人が殺されたという。その前には学校の教師が一人殺されていた。初めの六編が新潮社文庫版に収録されてたもので残り三編が『密やかな喪服』からのものである。個人的には表題作と「二重生活」がベストかな。「二重生活」は詳しく書くと即ネタバレになるから書けないけれども度肝を抜かされること請け合い。殺人事件や謎を置かずとも本格になるという非常に希有な例である。「奇妙な依頼」、「代役」の逆説は読んでいておもわず「をを!」と声をあげるものだ。流麗な文章でトリッキーな仕掛けを炸裂させる。これは貫井徳郎氏の小説作法に通じるものがあり、特に表題作の「夜よ鼠たちのために」、「二重生活」、「過去からの声」は『光と影の誘惑』と読み比べてみて欲しい。誰も指摘してないようであるが貫井徳郎は初期の連城三紀彦のまさに嫡子である。この対比はそれを顕著に示すものであろう。
「ベイ・シティに死す」と『戻り川心中』(ハルキ文庫)収録の「桐の柩」を読んでて思ったのであるがこの連城三紀彦という作家、昔のいわゆる今のヤクザではない“極道”を描くのが非常に上手い。連城三紀彦が描く“極道”はプライドがあり、仁義があり、そしてはかなげな、そんな感じがするのだ。決して粗暴さはなく、そんな気配は微塵も感じさせない。
闊達で流麗な文章は相も変わらず健在であるがやはり『戻り川心中』には少し及ばないところもありそこは少し残念。もしかしたら私が連城三紀彦という作家に求めている文章のハードルがあまりにも高すぎるのかもしれないのであるが。
『検察捜査』(講談社文庫)で乱歩賞を受賞した人の受賞第一作目。『検察捜査』は当時図書館で借りて読んだのであるがこれは近所の図書館に入らず取り寄せるのも面倒だったので(笑)文庫落ちを待つことにした。前回が女性の「検察官」だったのに対し今回は女性の「弁護士」である。とりあえず内容の紹介。司法試験合格者定員を増員しようという法案が可決され、食いはぐれをおこすかもしれないと恐慌状態に陥る弁護士たち。そんな弁護士たちをしり目に、通称「ロー・ファーム」と呼ばれる弁護士会社の人間はそこまで恐慌状態には陥らなかった。彼らが受け持つのは日本内だけではなく、海外との交渉もあったからである。そんな中横浜の倉庫で銃撃戦が起こり警官一名と犯人グループのメンバーの一名が死亡。その捜査の現場に現れたのが倉庫の持ち主である貿易会社の顧問ロー・ファームの一人水島由里子。彼女は方を盾に取り撤去を命じる。しかし水島は貿易会社を担当する内にロー・ファームの経営弁護士が実は今回の事件のことを事前に知っていたのではないのか? と言う疑問にぶち当たる。依頼人である貿易会社はその倉庫に何を隠していたのか? 捜査陣は現場に残された木片に付着していた油から隠していたものを推定する。
前作の『検察捜査』は滅法面白かったと言う記憶があったので(それでも映像化されたのはたいがいやったけれども)今回も期待して読んだ。とりあえず途中の道行きはほぼ一気読み状態で前回の面白さもそこから来たのであろうと納得する(ってするなよ)。共通するのは解説でも触れられてるが女性(しかも美人らしい)エリート、裏に潜む陰謀、法廷場面がないいわゆるリーガルミステリーなどである。作者が弁護士という職業であるから法律の知識は正確である(はずだ)。
この主人公の女性はいわゆる「巻き込まれ型」に入るタイプのキャラクターなのであろうが正確には微妙にずれている感じがする。「巻き込まれ型」タイプのキャラクターは、事件に巻き込まれてあたふたするものの結局事件を解決するもの、と私は思ってるのであるが水島はあたふたもせず、事件自体も解決していない(これはこの作品が本格ミステリじゃない点からどうでも良いことなのであるが)。そして私がずれてるかな? と思う最大の点はやはり巻き込まれ方である。急に巻き込まれるのではなく、徐々に徐々に巻き込まれていく。その点がずれてるかなあという根拠である。
本書の内容とは関係ないけれども解説について。『誘拐』(高木彬光/光文社文庫)って法廷ミステリかなあ? 確かに冒頭に法廷場面があって、主人公が弁護士だからそれ故に法廷ミステリってしてるなら勘違いも甚だしいと言う気がする。これは法廷ミステリではなく純然たる誘拐ミステリ、本格ミステリである。また、日本にリーガルミステリーが少ないのはやはり日本の裁判事情というのもあるであろう。裁判というのは言うまでもなく普通の人間にはほとんど縁がないもの、というのが一般人の感慨であろう。もっとも離婚率の増加と言う観点から家庭裁判所を舞台にしたリーガルミステリーというのは書けそうなのであるが面白くないだろうしなあ。陪審制が復活すればもう少しリーガルミステリーが増える気もするがそれは制度の問題で作家が頑張るというものではない。近年出た作品の中でリーガルミステリーに近いかな? と思うのは『あきらめのよい相談者』(剣持鷹士/東京創元社)かな? いや、やっぱ違うや。
とりあえず『司法戦争』(講談社)を図書館で予約したので来るのを待つばかりである。