葉村晶と御子柴刑事の二人が織りなす事件。しかし、個々の短編では二人は出会わず、最後の短編で初顔合わせ、となる。奇妙な感じの連作短編。最後の事件で一本に、きれいに繋がる、と言うことではない。とりあえず各編紹介しよう。水霊 ミズチ 田中啓文 角川ホラー文庫 960円「海の底」
葉村晶は大学の先輩の編集者にホテルの壁の血の掃除を命じられる。どうやらホテルに缶詰にされていた作家がはらいせにやったものらしい。問題の作家先生はといえば、どっかにとんずらこいてそこにはいない。しかし、話を聞くうちに奇妙なことに思い当たる。作家先生がホテルを出る姿を見た人間がいないのである。
「冬物語」
幼なじみで親友。だったはずであった。彼が銀行員になり、私が家業を継ぎ彼の銀行からお金を借りて不景気で資金繰りに困るまでは。結果倒産し、私は雪山に籠もることになった。手紙で彼を呼び出す。彼が謝ってくれれば、誠意を見せてくれれば水に流しても良い。しかし、そうでないときは……。結局彼は誠意を見せてくれず、彼を殺すことにした。
「ロバの穴」
色を変えるのが趣味なような葉村晶。彼女は友人に紹介された人の愚痴を聞くだけの仕事をやっていたのであるが、その仕事、ある種の生真面目タイプの人間には非常に辛いものがあるらしく、頻繁に自殺者が出る。しかし、それは雇う前にわかっていたはず。何故そう言う人間まで雇うのであろうか。自分を紹介した友人に連絡を取っては見たが……。
「殺人工作」
私は三杉若葉。そこにあるのは塩川春美の死体。春美は生前見苦しい死に方だけはしたくない、死ぬなら風呂場で手首を切って死にたい。実際その通りの死に方。しかし、生前に比べると死者は見苦しいもの。同じ頃、亡父の教え子であり、私の恩人でもある片倉助教授も死体となりはてていた。そして警察はこの二人を殺したのが鬼頭だとみなし、彼を指名手配したが交通事故で死んでしまう。
「あんたのせいよ」
今度は探偵事務所に潜り込んだ葉村晶。そこに二度と会いたくも無い大学時代の元友人から電話があった。なんでも取引の現場に立ち会って欲しいという。話を詳しく聞くと彼女は自分の御乱行がもとで強請られてるという。そして彼女の婚約者が殺人事件に巻き込まれてしまう。殺人事件の被害者は彼女の婚約者の別の婚約者と言うことになってはいたが、彼には結婚の意思はなかった。
「プレゼント」
佐伯理梨は殺された。彼女の親しい友人らの誰かに。事件は解決せず、一年の年月が流れ、彼女が殺されたときに居合わせたメンバーが召集された。当時の状況を元にそれぞれの無実を証明するが誰も彼もが怪しく見え、誰も彼もがそうでないように見える。しかし、この中に、確実に理梨を殺した真犯人が確実にいるはずなのであるが。
「再生」
原稿の締切をとうに過ぎてしまい、編集者が目の前にいる。しかし、その日はどうしても会わねばならない人がいてどうにもならない。そこで一計を案じた。昔小説雑誌に載っていたトリックを拝借するのだ。それはビデオテープを使ったアリバイであったが。首尾良く用事も原稿も終わり、一件落着、と言う段になって大変なことが。殺人事件のその場面が映ってたのだ。それで無実の人間が救える。しかし、肝心の内容は息子が消してしまったのだ。
「トラブル・メーカー」
葉村晶と思しき人間が雪の中に埋もれていて、意識不明。そこから物語は始まる。葉村は興信所をやめた後、所長の紹介と言うことで仕事を回されるが、受ける気がしなかった。契約料に百万その男は出してきたのである。胡散臭さを感じた彼女は断る。後日、彼女の部屋には身に覚えのない八百万円の預金通帳が放り込まれていた。明らかにその男の仕業であると、以上八編であるが「トラブル・メーカー」は奇数章の葉村晶と偶数章の小林警部補と御子柴刑事が顔合わせをするだけでこれ、と言った仕掛けがあるわけではない。興味深いのは偶数章。「冬物語」「殺人工作」の二編は倒叙ものの体裁をとっているのでる。表題作の「プレゼント」は違うが、やはり刑事というのは倒叙ものに向いてる職業なのであろうか。「冬物語」の伏線の置き方などは結構面白いし、「殺人工作」のちょっとした仕掛けもなかなかなものである。
一方、葉村晶の章はといえばまさにすり寄ってくるトラブル、というのが正しい(?)表現であろうか。特に「あんたのせいよ」と「トラブルメーカー」は過去の同級生がらみ。友達は選べよ、と言う教訓であろうか(違うって)。「再生」のちょっとした仕掛けはにやりとさせられた。この手の仕掛けが好きなのかな? しかし「海の底」にせよ「ロバの穴」にせよ、この若竹七海って作家、悪意を描くのが上手い。上手すぎるぞ。とくに「海の底」なんてね。この悪意はある意味我ががまと言い変えても良いのかも。とりあえず、全体の趣向は無いので気張って読まずとも楽に肩の力を抜いて読んでみて欲しい。悪意に毒されること請け合い(笑)
異形コレクションに数々の短編を発表し、なんと、鮎川哲也編纂の『本格推理(2)』に「落下する緑」をも発表している。この『水霊 ミズチ』は方々で何かと話題を振り撒 いているが、最初に言えることはまさに一気読み必至。どこまでもぐいぐいと読ませる一編である。とりあえず内容を紹介しよう。真珠郎 横溝正史 角川文庫 絶版円中学の三年生までクラブ活動にのめり込んでいたために、日夜人以上に受験勉強に勤しむ由美。彼女は料理人になるという夢があった。その為には福岡の料理学校に入学しないと。そんな中、彼女は定期的に何かの発作に見舞われていた。由美がその発作を起こすと母親の朋美は由美を折檻する。くだんの発作に由美が見舞われたとき、丁度D大学の民俗学の助教授杜川己一郎と雑誌記者戸隠が訪れていた。己一郎は朋美の前身、新興宗教の教組の娘としての興味、戸隠は由美の家の周囲で起きているポルターガイスト現象の中心にあるのがそこだ、という理由でそれぞれ。二人は由美が起こす発作を目の当たりにする。物が浮かぶ。その現場を目撃する二人。しかし、朋美によって追い返される。翌日、由美は己一郎の元を訪ねてくる。自分の発作についての質問、ひいては否定してほしい為に。その時、戸隠は近くに遺跡が発見されたことを報せにきて一緒にきてほしいという。己一郎は遺跡には素人であるがついていくことにする。同行した由美は着くと「恐い」と言いだす。そして地震が起こり、遺跡にあった石が動き、そこから湧き水があふれだしてくる。その水こそが後に己一郎たちを襲う数々の難事の災厄であろうとはその時己一郎たちは思ってもいなかった
まさにノンストップリーディング。様々な民俗学、日本神話のペダントリックな知識が総動員されてて読んでいて全然飽きが来ない。そういった知識を総動員したノンストップホラーとしての側面もさることながら、その裏にある日本人の水に対する危機感の薄さを浮き彫りにしていることは非常に興味深い。日本人ほど水というものに信頼を置いている国民はいないのではなかろうか。
ちなみに先に述べた内容紹介はこの作品のまだ六分の一の部分。これ以上語るともうネタばれ、興味削ぎの領域に踏み込まざるを得ない。その展開の物凄さ、水に憑かれた人間が陥る末路(餓鬼の状態になる)の描写(生ゴミ、草すら食べるのだ!)の戦慄はノンストップホラーの一級品。湧き水を飲んだ人間は猛烈な腹痛に見舞われて餓鬼の状態になる合理的な説明、その正体が姿を現す様は某作品『Jの神話』(乾くるみ/講談社ノベルス)を彷彿させ、一斉にみんなが鉱脈を掘っているという二階堂氏の説の傍証にもなっていて、評論的見地からも興味深い。
それにしても己一郎の恋人の女性の造形、読んでて「何だか余計な造形だなあ」という感じが否めなかったのであるが、最後のなぞの解明の際、いかにそのキャラクターの造形がミスリーディングに貢献しているか、ひしひしと感じさせられた。各キャラクターの造形も物凄く上手い。朋美、戸隠、己一郎等それぞれのキャラクターがそれぞれ味を出し、物語を形づくる様は、エンターテイメントの見本としかいいようがない。しかし、この作品は角川ホラー文庫という叢書から出てることからもわかるとおり、一応ホラーにカテゴライズされてるようであるがこの作品の要素を分解してばらしてみると案外本格ミステリのそれと合い通じるものがありホラーと本格ミステリというのは案の定相性がいいのかもしれない。
ところで、この作品はかなりの枚数を削らされてこの形になったと小耳に挟んだのであるが、個人的な見解を言わせてもらうと、この枚数で丁度良かったのではなかろうか。無論、削られた中には面白いエピソードもあったろうし、作者自身も削りたくないところがあっても泣く泣く落とした、という場面もあったであろう。しかし、これが上下本で出た場合、一気読みというほどの緊迫感を維持できたであろうか。維持できたかもしれない。しかし、この分量で凝縮したために 「もっと読みたい」という願望を読者に(少なくとも私は)抱かせることに成功したということはこの量で正解だったのであろう。無論、いわゆる完全版『水霊 ミズチ』を読みたい、と思うのはこの本を読 ん だ読者全ての願いであ ろう。心ある版元(ね、角川さーん)は何年 か後に完全版と称して上下巻で出してほしいものである。
実家に帰った折り、何気なく手にとって見て読んでみたがこの本、実は前に読んだと思っていたが実は読んでいなかったという代物。私の場合、案外横溝正史や高木彬光の作品の中には、読んだと思ってたら実は読んでなかった、と言うのが多々ありそうである。まあ主要作品は、あらかた読み尽くしてはいるのでは問題はないのであるが(問題?)。収録されてるのは先日テレビドラマ化された『蝶々殺人事件』(春陽文庫)(結構面白いので未読の方は意外と読む価値ありまっせ)で姿を消す由利先生が活躍する表題作と、戦時中に書かれた一編。ヘッドハンター マイケル・スレイド 創元ノベルズ (上)(下)絶版「真珠郎」
X大学英文科の講師である椎名耕助は、空の雲にヨナカーンの生首の白昼夢を見る。疲れているのであろうか。そのことを友人である乙骨三四郎にいうと、疲れてるのではないのか? と言われる。そして彼は椎名に信州旅行を提案する。プランは何もかも乙骨が立てて夏休みの間行くことになった。道中出会った不気味な老婆。逗留先の主人鵜藤は元医者であった。そして夜、椎名は目の覚めるような美少年を目撃する。翌朝鵜藤にそのことを話すと浮かない顔をする。そして、鵜藤は首無し死体となって椎名らの前に現れた。犯人は美少年真珠郎。真珠郎は鵜藤によって造られた殺人マシーンだったのである。東京に戻った椎名らの前に現れる真珠郎の影。そして第二、第三の首無し死体が現れる。怪奇探偵小説の醍醐味。巨匠横溝正史の戦前の傑作
「孔雀屏風」
戦場から届いた一通の手紙。手紙の送り主は与一。慎吾の従兄弟であった。内容は戦地で見た雑誌のグラビアのモデルが夜な夜な見る夢の女性のそままだ、ということらしい。そしてその夢に出てくる女性は家にある孔雀屏風の絵の女性だとのこと。そしてその手紙を受け取ったた後、一人の男が訪ねてくる。一部の所で取りざたされてるとおり、表題作の「真珠郎」はいわゆる英米風本格ミステリたりえてない。それは犯人決定のロジックが妖美で耽美な雰囲気に飲み込まれてしまっている故である。戦前の横溝作品は戦後の作品に比べ雰囲気は勝ってるときが多々あるがトータルで見た場合、どうしても見劣りしてしまう。しかしディクスン・カーの作品との出会いが横溝正史を本格ミステリの巨匠にした最大の要因であることは有名な話。
所で、この作品で探偵役を張る由利先生は、戦後に『本陣殺人事件』(角川文庫・他)で金田一耕助が登場するまで横溝翁の手持ち探偵であったが、『蝶々殺人事件』で姿を消す。『蝶々殺人事件』は由利先生の退場のための事件であったが、この由利麟太郎と言う探偵、その出で立ちは金田一耕助よりスマートでロマンスグレーの中年男性。元捜査一課長という設定である。この探偵は横溝翁のサイコミステリ『幻の女』(角川文庫・絶版)や『双仮面』(角川文庫・絶版)でも大活躍。古本屋で見かけたら手にとって欲しい。
先に述べたとおり、戦後の金田一耕助シリーズと比べると見劣りすることは否めないが割と面白いので古本屋でみかけたら読んでみることをお薦めする。なお、これは『探偵小説論I−氾濫の形式』(笠井潔/東京創元社)で横溝正史論の項でネタバレで触れられてるのでこっちを読む人は是非とも押さえていただきたい。
このマイケル・スレイドと言う作家。これは一人の個人のペンネームではなく、どうやら三人の弁護士が合作で小説を発表するためのユニット名らしい。日本で言うならば綾辻行人、竹本健治、法月論太郎の三氏が組んだユニットが京極夏彦であったというとことか。(嘘/でもそういう噂はあったらしい)。日本で刊行されたのは『グール』(創元ノヴェルズ・絶版/近日収録)が先であるが、この『ヘッドハンター』の方が本国では先に出されたものらしいので、先にこちらを読むことにした。とりあえず内容を紹介しよう絃の聖域 栗本薫 講談社文庫 現在角川文庫で入手可 いずれも上下巻狂気の固まりの犯罪者《ヘッドハンター》は、犠牲者の首を狩り、串に突き刺してさらすという異常、そう、異常とも言える所業を行う犯罪者であった。その狂気の犯罪者と対決するは、カナダの警察であるRCMP(カナダ連邦騎馬警察)の《ヘッドハンター》特別捜査本部。その特別捜査本部長のロバート・ディラークは過去に妻子を犯罪者に殺されたという痛烈とも言えるトラウマを抱えていた。ロバートだけではなく、他の《ヘッドハンター》特別捜査本部の刑事たちはそれぞれ人には言うことの出来ないサムシングエルスを抱え、捜査に明け暮れる。麻薬の売人、娼婦、レズビアン等々様々な人間が入り乱れ、様々な過去が入り組み一つに収束するときそこには衝撃の事実が立ち現れる。被害者の首が杭に刺されてる写真を送りつけるという、《ヘッドハンター》の挑戦状。それにRCMPのメンバーはどう立ち向かうのか?
期待が大きすぎたのであろうか? それとも私の読みが浅かったからであろうか? 読み終えた時の私の感想は「ふえ?」と言うものであった。確かに《ヘッドハンター》の正体の設定はミステリを読み慣れてないものには超衝撃かもしれないが、私は一応の考慮に入れていたために、それほどの衝撃はなかった。場面転換のめまぐるしさ、人物関係の入り組みようは半端じゃない。注意深く読まないと意味が取れないかも。
異常心理犯罪に詳しい弁護士が書いてるためか、その方面の記述の微に入り細に入ってるところが非常に楽しめた。ロバートのトラウマは、結構警察小説ではベタベタネタかもしれないのであるが、こういうサイコ系の捜査官ではあまり聞かない(というか、こういうサイコ系のミステリを数読んでないから、威張れたものではないが)。サイコミステリとしての出来具合は、トータルではまあまあのものであろう。『黒い家』(貴志祐介/角川ホラー文庫)には及ばないのであるが。このマイケル・スレイドと言うユニット、サイコミステリにトドメを刺すといわれる『グール』が控えてるので(図書館で借りる(笑))楽しみである。
この作品は伝説と化した雑誌「幻影城」に乱歩賞受賞後に連載され、「幻影城」の休刊の後書き下ろしを加えて、講談社から単行本として出版されたものである。余談であるが、これは第二回吉川英治文学新人賞も受賞している。この賞の受賞者には岡嶋二人や馳星周氏、連城三紀彦氏などとそうそうたるメンバーである。なお、『本格ミステリベスト一〇〇』にも三十六位にランクインしている。とりあえず内容を紹介しよう。死国 板東眞砂子 角川文庫 560円長唄の家柄である安東流の屋敷の中で、殺人が起きる。被害者は弟子の一人喜之菊。この喜之菊は、家元で人間国宝の喜左右衛門の娘婿の愛人であった。東京の広大な屋敷の中で正妻妾同居という、ある意味魑魅魍魎的な人間関係。それは(作中の)今現在に始まったことではなく、三十年近く前にも喜左右衛門の妻が、喜左右衛門の弟子と駆け落ちして出奔していた。そこに端を発してるようにも見える。正妻と妾の同居という環境に嫌気がさした智と由紀夫は、女性不信に陥り同性愛に落ちていた。そして二人は義兄弟の契りをかわすためにナイフを手に入れ、そのナイフでお互いの手を傷つける。そのナイフが喜之菊殺害に使われるとも思わずに。そして喜之菊の幽霊が目撃され、第二の事件が起きる。今度の被害者は横田老人。使用人である。第二の殺人事件は、第一の殺人事件で駆けつけた警察の包囲の中であった。そしてそれらの錯綜した人間関係、謎の中から真実という糸を紬だすのは颯爽と登場する名探偵伊集院大介。しかし、殺人事件はこの二つで終わりではなかった。
この人間関係、どことなく『犬神家の一族』(横溝正史/角川文庫)を思わせる。その環境の複雑さのそれは、『絃の聖域』の方が若干劣るがそのシチュエーションの使い方、人物の配置、伏線との結び付け方はある意味越えている感じである。そしてこの作品の最大の見所はその人物関係が織りなす独特の妖しい、妖艶な、耽美的なその雰囲気であろう。作品に流れる空気は一級品の香りが漂う。しかし、みるべきはその雰囲気だけではない。その雰囲気から生まれる本格探偵小説(ミステリとは表記したくない)の構造はそこんじょそこらの凡百の作品なぞ霞んでしまう。そして表の一部の構造は明らかに『犬神家の一族』の換骨奪胎である。裏の構図はある意味凄まじい。
そしてこの作品は、伊集院大介初登場の作品でもある。この伊集院大介と言う探偵、この作品を読み返して改めて気が付いたわけであるが、非常にニュートラルな存在である。事件によってその存在の意義を変えてしまえるような。実際、『天狼生』(講談社文庫)のシリーズにおける伊集院大介はスーパーマンとも言うべきで、この作品の伊集院大介とは全くと言って良いほどの別人に見える。それは何故であろうか。その無個性故であろうかと考えたがそれは違う。金田一耕助タイプの名探偵。普段はどことなくぼんやりしてはいるが、いざというときに快刀乱麻を絶つ推理をするそんな名探偵。しかし、この伊集院大介にルーツを求めるのならば、金田一耕助よりもむしろ明智小五郎の方がしっくりくるであろう。明智小五郎は短編は書生風であるが通俗長編ではがらりと変わりスーパーマンの趣さえある感じだ。その存在のニュートラルな感触は、芦辺氏の探偵森江春策を思い出すのは私だけであろうか。
古式豊かな探偵小説を愛するものになら間違いなく受け入れられるであろう。
映画『リング』(鈴木光司/角川ホラー文庫)の続編『リング2』と同時上映される同タイトルの映画の原作。この板東眞砂子と言う作家、どことなく気にはなっていたので、映画化を機会に手に取ってみることにした。あとはホラー小説大賞佳作の『蟲』(角川ホラー文庫)も積読中であるがすぐに読む予定はない。いや、今年中(九十九年)には読むはずなのであるが。とりあえず内容を紹介しよう。地球儀のスライス 森博嗣 講談社ノベルス 840円四国は死国。死者の国。
幼い頃を過ごした高知の山奥の村、矢狗村を訪れた比奈子。帰郷したのは、住んでいた家をどう処分するか考える為であった。そこで比奈子は驚くべき事実を知った。幼なじみの莎代里は、十八年前に事故死したという。その家族ももう駄目になっていた。父親は事故で意識不明の植物人間に、母親は娘が死んだショックで気がおかしくなってしまっていた。しかし母親は莎代里を甦らせるために逆打ちを行っていた。逆打ちは禁断の呪法。黄泉の国から呼び戻すために、四国八十八ヶ所を死者の齢だけ回る。甦ったと信じる母親、比奈子の初恋の相手との再会、東京でのしがらみ。様々な思惑が一ヶ所に集う。伝奇小説、とでも言うべきなのかな。いや、伝奇ホラーなのか。スーパーナチュラルな存在はなく(いや、正確に言えばあると言えばあるのであるが)、存在するのは、不気味な雰囲気。この不気味な雰囲気が、スーパーナチュラルな存在が醸し出すものなのか、それとも比奈子の妄想なのか、その境界の曖昧さがこの作品の見所であろう。
そしてもう一つが土俗信仰に基づく物語の構築。それをわかりやすく読者に伝えるためのエクスキューズとして要請された人物が、郷土史研究家にして比奈子の初恋の相手である文也である。この文也という登場人物の役割はそれだけに留まらず、物語のクライマックスにまで食い込み、結構な存在感を与えてくれる。存在感と言えば、存在しないはずなのに絶大な存在感を感じさせる莎代里は希有なキャラクターであろう。この、存在しないのに存在感がある、というのは形は違うが『墓地を見おろす家』(小池真理子/角川ホラー文庫)を思い出した。あと、『火車』(宮部みゆき/新潮文庫)のヒロインの造形などもそうかな。
パッケージングはホラーではないが、内容はホラーに分類しても差し支えはないであろう。これをホラー文庫に入れてもおかしくない作品である。ホラーが好きな方ならば手に取ってみるのももしかしたらいいかもしれない。
一九九八年も四冊の長編を刊行し「季刊森博嗣」の名称を受けてたわけであるが(と言っても言うのは私だけやけれども(笑))彼のページを見る限りでは今年も四冊出るようである。ただし、季刊じゃないから今後は「季刊森博嗣」は使えない。うーん、困った(なんでやねん)。『まどろみ消去』(講談社ノベルス)に続く短編集。今回は半分以上が「メフィスト」などの雑誌に掲載されたもの。とりあえず各編紹介しようではないか。「小鳥の恩返し」
島岡清文は、不慮の事故――殺人事件であったが――で死亡した父親の跡を継ぐために戻ってきた。そして昔恋人であった看護婦と結婚。つつがない日々を送っていた。父親が死んだ日に迷い込んだ一羽の鳥。その鳥は逃げてしまったものの、その化身と言う女性が現れた
「片方のピアス」
双子の恋人。つきあってるのはその片割れであるが、カオルはもう片方の片割れに惹かれつつあった(わかりにくい表現やな)。恋人が韓国に学会で行ってる最中に片割れと密会する。そして燃えた恋人の家から発見されたのは、韓国に行ってるはずの恋人であった。
「素敵な日記」
一冊の少年の日記。少年は自殺願望、いや、性格には違うかもしれない。しかし、間違いなく少年は生きることに疲れていた。その思いを綴った日記。やがて、少年は密室の中でしたいとなって発見され、その日記は第一発見者の手に渡った。そして因果は巡り、今度は刑事の手に渡る。
「僕に似た人」
まあ君のおかあさんはとってもきれいです――といった子供の一人称。どうやらまあ君と語り手は友達のようである。そして僕は思った。どうしてみんな似てないのであろうか。そして母親が……
「石塔の屋根飾り」
「マン島の蒸気鉄道」
上記二編は犀川&萌絵シリーズの余韻的作品。前者は写真に写った石塔と屋根飾りの謎を、後者はマン島の上記機関車に関する疑問点を(そのままやんけ(笑))解き明かすもの。(思いっきり手抜きやな)
「有限要素魔術」
彼と彼女の事情。彼は古本を集め、彼女はその趣味をかび臭いものと思っていた。そして彼は不意に、そう、唐突にピストルで頭を撃ち抜き、死亡する。彼女は、始めはなんのことか見当もつかずに、途方に暮れてしまう
「河童」
婚約者を連れて池に向かう。大学生だった当時、私には其志郎という友人がいた。辺鄙なところに下宿がある私のもとを、幾度となく訪ね、時には泊まっていくこともあった。その其志郎に大家の娘が好意を持つようになる。そして……
「気さくなお人形、19歳」
不意に現れた大富豪。そのアルバイトの内容は非常に変わっていた。着替えて話をするだけ。大富豪の周囲の人の話を総合すると、どうやら航空事故で死んだ孫娘にうり二つらしいと言うこと。やがて、符合からの連絡が途絶え、自分自身の力でそこへ行くと……
「僕は秋子に借りがある」
大学で出会った奇妙な女性――秋子。彼女はとことん変わっていた。しかし、僕は彼女が憎めなかった。出会った日には、講義をさぼり、ボートに乗った。後日、早朝に電話がかかってくる。今から会えないか、と。一九九九年一冊目の新刊がこれ。『まどろみ消去』(講談社ノベルス)が合わなかったので、そもそも読むつもりはなかったのであるが、ただでもらったので読むことにした(非常に失礼な話やな)。その中では民話「鶴の恩返し」の換骨奪胎の「小鳥の恩返し」がベストかな。奇妙な味とでもいうべきかもしれない「気さくなお人形、19歳」は主人公のキャラ、富豪のキャラの掛け合いが楽しい。犀川&萌絵シリーズの番外編の「石塔の屋根飾り」と「マン島の黄金」はレギュラキャラ総出演みたいなところがなきにしもあらずなので、キャラクタのファンには贈り物かも。噂のVシリーズって「気さくなお人形、19歳」のことかな? どっかできーたよーな名前あったし。双子のファクターを使用した「片方のピアス」も双子の使い方が、いいかも。
というわけで熱烈な森博嗣ファンにならお薦め、と言っておこう「小鳥の恩返し」は掲載誌を読むか、立ち読みすることを勧めようかな