『快盗ルビイ・マーチンスン』 『蘆屋家の崩壊』
『放浪探偵と七つの殺人』 『六の宮の姫君』
『幽霊(ゴースト)は夜歩く』 『隕石誘拐』
『新世紀「謎」倶楽部』

快盗ルビイ・マーチンスン ヘンリー・スレッサー 早川ミステリ文庫 絶版

 本書に収められた十の物語は、「悪党」ルビイ・マーチンスンとその従兄弟が犯罪を計画するが、ことごとく失敗するものである。決して美術品を奇抜な方法で盗み出す「怪盗」の物語ではない。「怪盗」ではなく「快盗」である。うう、騙された(笑)なお、この『快盗ルビイ・マーチンスン』は小泉今日子主演で『怪盗ルビイ』で映画化されてるようである。近所のビデオ屋にあったので借りてこよう(笑)登場するのは犯罪に成功したことがない「希代の悪党」ルビイ・マーチンスンと十八歳のその従兄弟、ルビイの恋人ドロシイである。面白いことに、ドロシイはルビイが「悪党」であることに全然気がついていない。もっとも、ルビイは「悪党」というよりはむしろ愛すべき邪悪な人間なんだろうけれども。計画する犯罪全てことごとく失敗し、しかも失敗しただけではなく赤字まで出す。これじゃ犯罪も割に合わないぜ♪ ということなのか。損失総額八百ドル以上。まったく、これはミステリと言うよりはむしろ、いや完全に大人の童話である(裏表紙でも「大人の童話」と記してある)各編簡単な紹介とコメントをつける。

「ルビイ・マーチンスン/初めての犯罪」
 初めての犯罪は強盗。食品店の店主の売り上げを盗もうというものである。ぶつかって、その隙に。しかし、当然ながら失敗に終わる。
 キャビアが印象に残る。微笑ましいというか、何というか。
「ルビイ・マーチンスン/詐欺師」
 次は詐欺。イヤリングの片方を宝石店に持ち込み、もう片方を見つけたらお金を出すという。いかにもそのイヤリングが高価だと言うようなふりをして。宝石店に買わせるのである。
 んなもん、宝石店が引っかかるわきゃねーだろ! とつっこみつつ読んだ(笑)ねえ、どう思いますか?
「ルビイ・マーチンスン/前科者」
 ルビイが警察に捕まった。免許不携帯の上に警察の心証が悪かったからなのであるが 釈放されたルビイは泥棒に入って大金をつかむ計画を敢行するが……
 今回は成功するかな、と思ったらドアが開かずに出れなくなると言う漫画みたいな理由で(小説だけども)失敗。やっぱ犯罪は割に合いませんな。
「ルビイ・マーチンスン/恋の唄」
 ドロシイがルビイ以外の男性と親しげにしてる故に、その腹いせにくだんの男性にホールド・アップをしようと企てるルビイ。上手く財布を取り上げるが、瞬く間に奪い返されてしまうが……
 今回は「犯罪」の成功か。成功のオチには思わず笑ってしまった。
「ルビイ・マーチンスンの婚約」
 店員の不意をつき、宝石をガムでテーブルの裏に張り付けて、後で別のものが取りに来るという計画。一見成功したかに見えたが、悪戯心ではめたら指から抜けなくなってしまう。
 今回もまた失敗の原因は漫画みたいな理由である。まったくなんというか、笑える話である。
「ルビイ・マーチンスン/猫泥棒」
 取引先の老婦人がルビイに、しばらくの間留守をお願いできないかとたのんだ。さしものルビイの悪知恵もここでは発揮できないか、と思いきや老婦人が探していた猫を使って身代金誘拐を企む。
 わははは。猫ならではのオチかも。確かに紛らわしいと言えば紛らわしいが、ルビイと言う名も紛らわしさでは負けちゃいないと思うぞ。
「ルビイ・マーチンスンと野球小僧」
 ドロシイの親戚の子供がリトルリーグに出ると言うことを聞いたルビイは、悪巧み。賭で大穴を当てて、がっぽりもうけようと言うのである。八百長を仕掛けるが、相手もさるもの。応じようとはしない。業を煮やしたルビイは、従兄弟を使って監禁に成功したと思ったが……
 うーん、この作品に限らずこの作品集は落語を聞いてるような感じにさせられ無くはない。しかし、なんというか……映像化不可能な作品。
「ルビイ・マーチンスン/銀行破り」
 銀行強盗に手を染めようと言うルビイ。下調べも完了し、従兄弟が紙を受け付け嬢にわたして、紙の脅迫通りお金を渡されるのを待つばかりと思いきや……
 やっぱ落語だ、こりゃ。まがぬけてるっつーか、何というか(それしか言えんのか?)
「ルビイ・マーチンスン/歯医者を狙え!」
 歯の治療をしてもらったルビイは、歯医者から金歯の金を盗み出すことを思いつく。
 しかし、毎回毎回実行犯を任される従兄弟って、ホントお人好しだよなあ。うん。普通こんな奴見限ると思うが(笑)。この話は、集中唯一利益が出た話と言うことで、或る意味異色作(笑)
「ルビイ・マーチンスン/毒のついた手紙」
 ルビイがドロシイに出した絶縁の手紙。しかし、誤解が解け、その手紙をドロシイに読まれては困る。それ故に、配達前に盗み出す算段をつけるのであるが……
 オチにひねりがあって言い。洒脱度と言うのがあれば、この作品が集中随一であろう。お洒落で、シャレが効いてる、とびっきり素敵な話である。

蘆屋家(あしやけ)の崩壊 津原泰水 集英社 1500円

 『妖都』(講談社)と言う作品で豪華な推薦陣付きで、鮮烈な再デビューを果たした津原泰水の第一短編集。ジュニア小説では「津原やすみ」名義で書いてたようである。コレクターズアイテムかも(笑)<異形コレクション>のシリーズにも何作か寄稿してるが、ホラーウェーブの強力な立役者の一人であろう。多分。新たにAQAPOLICEという公式ページもできたようである。話はうって変わってこの短編集、ほぼ一気読みだったんだけれども、一気読みするよりは一日一編ずつなめるように読む方がふさわしかったかもしれない。各編にコメントをつける

「反曲隧道(かえりみすいどう)
 猿渡と伯爵の出会いの物語。しかし、二人の出会い方は一風変わっていた。猿渡が伯爵を来るまで轢きそうになったのである。成り行き上伯爵を車に乗せ、お互いが豆腐好きということで意気投合していたのであるが、伯爵はふと漏らす。
 非常に短い作品でいきなり幕が下ろされる。その終わり方は非常に唐突で、一回目読んだときは「はぁ?」とか思ってしまったほど。二度目で得心がいったのであるが。しかし、この話は津原泰水しか書き得ないものなのかもしれない。
「蘆屋家の崩壊」
 猿渡にはゼミ合宿が縁でつきあうようになった女性がいた。が、彼女の突然の退学、郷里への隠居が原因で自然消滅した。伯爵と豆腐の食い道楽の道中、くだんの彼女の実家の近くを通りかかったことで彼女のことを思いだし、訪れて厚かましくも泊めてもらうが……
 横溝正史翁の地方が舞台のミステリを彷彿させるような雰囲気である。挙げるとすれば『八墓村』や『夜歩く』(共に角川文庫)などが挙がるか。しかし、言うまでもなくミステリでは決してない。明かされる呪術的な要素故に呪術ホラーになっている、そんな感じがした。
「猫背の女」
 学生時代に袖にした女性。ある時ふっと彼女のことを猿渡は思い出した。彼女とは、友人のコンサート出会った。コンサートから幾ばくか経ったた或る日、デートに誘われる。映画を見て、食事をして。しかし、猿渡は彼女のことを好きにはなれなかった。
 ストーカーと言う素材を扱ったリアリスティックホラーと、「百物語」的な怪談系ホラーの融合とでも言うべきであろうか。ちなみに、私の中では人間というモンスターを描いたサイコホラーもリアリスティックホラーに入る。サイコミステリとサイコホラーの境界が、私の中で非常に曖昧なのが気になるが。それはおおいおい修行せねば。最後の一撃%Iなラストが恐怖を喚起させる。
「カルキノス」
 蟹付くしの道中。カニではなくて蟹である。紅蟹を食べに行った伯爵と猿渡は、紅蟹で商売をしていた六郷にもてなされる。紅蟹を心ゆくまで食べた二人は、相談を受ける。六郷夫人が赤い巨人を見るという。
 作者自身後書きで述べてるように、全編蟹尽くしの一編である。蟹食べたい(笑)作品の構造は有栖川氏の「開かずの間の怪」(『密室』(角川文庫)収録)という江神ものの短編の一つを思い起こさせる。料理の仕方を比べると非常に興味深い。
「ケルベロス」
 六郷の事件がきっかけで銀幕女優である落合花代に相談を受ける。伯爵の怪奇に対する造詣を見込んでのことである。花代の故郷に蒟蒻目当てで馳せ参じた猿渡と伯爵の二人。故郷の神社に赴くと、そこには狛犬のかわりになんと、魔犬ケルベロスが鎮座していた。
 以前に思いついたネタがあって、別の作品ですでに使われていたのを見て捨てざるを得ないな、なんて思っていたのであるが、この作品でも出てきて読んでて驚いた。もしかしたら、この作品のネタは案外まだまだ使えるものなのかもしれない。ラストシーンの慟哭は、ただならぬ哀しさを覚えた。
「埋葬虫」
 猿渡は大学時代の友人である伊予田と、十年ぶりに再会した。伊予田は一回り以上太くなっていた。マダガスカルの撮影に同行したカメラマンが瀕死の重傷の状態だと聞く。彼は、蟲を良く好んで食べた。
 集中もっとも生理的嫌悪感が喚起される作品であろう。それ以上のコメントは、私には不可能である。
「水牛群」
 伯爵と疎遠になって幾年。堅気の勤めをしていたが、或る日猿渡は解雇される。睡眠時間がとれずに酒浸りになる日々。蕎麦屋で倒れたとき、猿渡が譫言で呼んでのは伯爵であった。伯爵は、猿渡をある場所に連れていく。
 『異形コレクション(9)グランドホテル』初出時に読んでるのであるが、この時は収録されてることにどことなく違和感を感じたのであるが、今回再読したときには違和感はさほど感じなかった。というか無かった。アルコール中毒の果てに見えた幻想(?)。そしてその幻想が「リアル」に変貌する際の落差が眼目か。いずれにせよ、この作品は津原泰水という作家のある種の本質を示しているのかもしれない。

放浪探偵と七つの殺人 歌野晶午 講談社ノベルス 880円

 解決編が袋綴じ! 全編全てが読者への挑戦状! こういう遊びの趣向全開の本を見ると、もうそれだけで手に取ってみたくなる。そして、読む前に高い評価を与えたくなる。本格ミステリが内包する、遊びの一要素を具現化した本とでも言おうか。本書のような問題編と解答編に分ける趣向を施してるのは、私が知る限り鮎川哲也御大の本に二冊ある。『ヴィーナスの心臓』(集英社文庫)とか『貨物船殺人事件』(光文社文庫)だ。共に絶版だけれども。で、袋綴じを開けるのが勿体なくてなかなか読めなかった(笑)。だが、若干その趣向が裏目に出てる部分がないではなかったのであるが。購入して一月経ってようやく腹括って(爆)読んだ次第である。信濃穣二の探偵譚七編である。七編中四編(うち一つは問題編のみ)初出で読んでたので再読である。再読にもかかわらず、初読時の内容覚えてない自分って……(笑)各編紹介する。

「ドア・ドア」
 卒論の追い込みの為に、実家に帰省せずに下宿で原稿用紙にに向かう日々を山科は送っていた。一月三日、恩田という男が一年ぶりに山科が住む下宿に帰ってきた。山科は、彼の迷惑を省みずに酒盛りを始める恩田を衝動的に刺してしまう。恩田はあっけなく事切れた。山科は隠蔽工作を施したのであるが……
 一発目は倒叙もの。犯人暴露の証拠はどこに隠されていたかである。解答は目の前♪ なのに気がつかない。そこが本編の醍醐味か。犯人の一人称にすることで、犯罪隠蔽の際のサスペンスも味わうことが可能である。古畑任三郎学生時代の事件と言う形で、ドラマにすれば面白いかもしれない。
「幽霊病棟」
 コンパの席の上での怪談話がきっかけで、廃屋と化している病院に赴いた三人。この病院は、かつては大病院であったが、やぶで有名だったようである。くだんの怪談は(洒落ではない)、夜廃屋の三階で酒盛りをしていたら、窓の外を人が通ったというものであった。そして同じ病院に、死体を捨てた時の忘れ物を取りに来た来た犯人がやってくる
 この作品で扱われてるのは死体移動であって、怪談の解体としてのミステリではない。そこが少し残念かも。それはさておき、この作品は或る意味館ミステリ変形パターンであろうか。病院ではないものの、同じ体験を大阪某所でしたことがあるが、もしかしたら作者もその場所に行ったことがあるのであろうか?
「烏勧請」
 ゴミの家。まさにそうとしか言いようがない家に、捜査員は赴いた。臭気漂う家で発見された女性の死体。夫は出張で福岡に。最有力容疑者は、夫が勤める会社にいる女性。彼は、彼女と不倫関係にあったからである。しかも、会社を無断欠勤していた。烏がゴミの臭いにつられて飛んでくる。
 顔のない死体の変形作品、とでもいうべきかな。ゴミ、ゴミ、ゴミ。恐らくは、テレビでゴミの家と言うのを見たのが発想の着眼点だったんだろうけれども、ゴミのイメージは或る意味凄いものが感じられる。
「有罪としての不在」
 大学の学生寮で起きた殺人事件。ズバリ、犯人は誰か?
 「メフィスト」(講談社)誌上で犯人当ての公募をやっていたが、私は一読して「手に負えへんのお」と言うことで早々に戦線離脱。果たして、どのような真相かな? と思い袋綴じを開けた。一読「こんなん犯人解るかよ!」だった(笑)しかし、伏線はきちんと張ってるし、なんと、正解者もでたようである。正解した人、凄すぎ。大量に泳がされた多数の赤い鰊に惑わされず、真相にたどり着ける人って何人ぐらいるのであろうか。ご丁寧に解答編には伏線一覧もあるし。脱毛もとい、脱帽。しかし、反則かも(笑)
「水難の夜」
 悪徳商法の社長殺害事件は、はっきり言ってごくありふれた事件であった。しかし、信濃穣二と言う男が居なかったならば、ここまでの電光石火な解決には至らなかったであろう。警察を辞めた男は回想する。その日は、大雨の日であった。死体を発見したのはピザの配達員であった。
 この作品は以前に知人から良い作品だから読みなさい、と勧められた作品である。確かに勧められるだけのことがあり、短編のベストを挙げるときは考慮に入れても良いほどの作品である。久々に度肝抜かれまくり。集中一、二位を争う出来映えだ。ただ、この作品は、問題編解答編に分けることの弊害が若干有り、そこが残念。この作品の眼目は「何を指しての「水難」ですか?」ではなく、問題編終了時に明かされるものなのであるから。
「W=mgh」
 墓場で出会ったゾンビ。確かにそれはゾンビであった。手をだらりとさせる。しかし、そのゾンビの変わったところは、移動速度が速すぎることであった。そして、そのゾンビは殺人事件の被害者であることが判明する。
 初出時、タイトルが物理の公式だった故にそれだけで敬遠(笑)本書で初読である。私のように、タイトルだけで初出時読まなかった人間が全国にどれだけ居るか(笑)ていうか、いねえか。真相看破のためにヒントが、惜しげもなく、大胆に提出されている。確かにタイトル通りW=mghである。
「阿闍梨天空死譚」
 新興宗教の教団の塔で男が餓死体で発見される。しかも、吊された形で。しかし、塔はあまりにも高く、どのようにして塔の上まで男を運んだか解らずに事件は迷宮入りした。
 『奇想の復活』(鮎川哲也、島田荘司編/立風書房)初出。このアンソロジーが出てかなりの年月が経ってることに改めて驚かされる。しかし、この作品は集中一番出来が良くない気がする。だが、冒頭の風景は島田荘司の後継者の一人としての面目躍如と言う気がするのは私だけであろうか。冒頭の風景だけでも、この作品は結構好きである(若干意味不明)。

六の宮の姫君 北村薫 創元推理文庫 480円

 円紫師匠と「私」のシリーズの四作目、北村薫二つ目の長編にあたる作品である。この作品でもやはり血なまぐさい殺人事件や、難攻不落のアリバイ、堅牢な密室は出てこない。そして、あくまで日常に根ざした謎――と言いたかったが、今回は日常に根ざした謎とは言い難い。お題は芥川龍之介が残した言葉である。「私」が作家の先生に対面したときに聞いた《あれは玉突きだね。……いや、というよりはキャッチボールだ》と言う言葉。その言葉の謎を解き明かすべく、「私」は探求を始める。

 全編全て推論、というのは言い過ぎにしても、芥川龍之介が残した言葉を巡る謎の考察は、読んでてわくわくさせられる。読んでて口惜しいのはやはり、自分自身にこの作品に出てくる作品をほとんど読んでなっからであろう。この時ばかりはミステリ一辺倒の自分を少しだけ(笑)悔いた。

 しかし、私が言いたいことはもうほとんど残ってない。何故なら、本書の扉に書かれている北上次郎氏のコメントが全て言い表しているからである。これ以上コメントを続けると、北上次郎氏のコメントの屋上に屋根を作るようなものであるからやめておこう。だだ一つだけ許されるならば、円紫師匠の影が薄くなりつつあることだけ述べたい。本書の次の作品である『朝霧』の時も思ったが、もしかしたら、円紫師匠の影が薄くなることイコール「私」が成長すること、なのではなかろうか。ふと、そんな気がしてならなかった。

 『朝霧』で社会人になった「私」が、どう成長していくのか、一読者としてまた見守りたいと思う。

亡霊(ゴースト)は夜歩く はやみねかおる 講談社青い鳥文庫 580円

 今ではジュブナイルミステリの大御所(?)となったはやみねかおるの夢水清志郎シリーズの二作目である。相も変わらず夢水は怪しいし(笑)三つ子はいるし(いちゃもん)。今回は、学園祭を舞台にして起きた事件である。とりあえず内容に移る。

 亜衣、真衣、美衣の三つ子三姉妹が通う中学校で、毎年恒例の学園祭が行われることになった。亜衣は文芸部の機関誌の原稿書きでてんてこ舞い、真衣は陸上の練習に余念がないし、美衣も占いの練習に忙しい。亜衣はレーチの陰謀により(笑)実行委員のアシスタントに。アシスタントは名目だけで実状は雑用。てんてこ舞いの亜衣であったが、そんな忙しさも吹き呼ばす怪事件が起こる。怪事件と言うには怪事件未満の出来事であるのだが。文芸部のワープロに亡霊(ゴースト)と名乗る怪人物からのメッセージが。学校に伝わる四つの伝説の一つが記されていた。そして、そのメッセージに呼応するかのごとく、鳴らずの鐘が鳴り響き、魔法陣の円が校庭に現れる。そして、実現する紫水晶の予言。立て続けに現れる様々な謎。そして、四つの伝説は創作であることが判明する。創作した人物は十五年前に自殺していた。

 結構ありそうで、実はあまりない学園及び学園祭ミステリである。もっとも、赤川次郎氏の作品に沢山ありそうやけれども(『死者の学園祭』(多分角川文庫)なんてのもあったし)。それはさておき、この作品は小学校の教員であるはやみねかおる自身の経験に裏打ちされてるような気がする。作中投げかけられる校則に対する批判。私自身は校則がそんなに窮屈ではない学校に居たためか、校則に関する思いというのはさほど無いのであるが、ふと考えさせられてしまった。経験に裏打ちされてる気がすると記述したが、卒業生に相談されたのかなあと思ったからである。他意はない。真犯人である亡霊(ゴースト)の哀しみ、過去の事件。しかしまあ、ジュブナイルで社会派(この区分が良いかどうかはさておき)やってしまうなんて、はやみねかおるってお茶目(違うやろ)。じゃなくて凄いかも。

 夢水も相変わらずぼけてていい。しかし、ぼけの影に慧眼有り(なんやそら)。名探偵らしく行動してるが、今一名探偵ではなく、近所の変な兄ちゃんにしか見えないときがあるのは気のせいであろう。あっと言う間に絵解きをしたり、事件は起きないと言ってさっさと温泉旅行にしけ込むところは名探偵の面目躍如。夢水探偵の魅力は、名探偵らしからぬ言動なのかもしれない。

 派手なトリックや謎など子供だけに読ませるのは非常に勿体なく、友人などははやみねかおるの最高傑作というぐらいであるが(私は『消える総生島』が好きだけれども)、ひっじょうに気になってしょうがないというかなんというか。亜衣のクラスの出し物が喫茶店なのであるが、名前が「純喫茶『VACATION』」なのである。だが、「純喫茶」って……この呼び方自体いまではかなり珍しく、中学生が出す名前の案としてはおやじくさいっつーかなんつーか。かなり重箱の隅的なつっこみなんだろうけれども、読んでる最中気になってしょうがなかった。だって、小説や一昔前のテレビドラマならともかく、現実で「純喫茶××」という名称見たことないんだもん(開き直り)

 まあ、先述のどうでもいい事を除けば(普通考えねえか)、本書も他の作品同様結構楽しめる作品である。子供だけに読ませるのはホント、勿体ないから。

隕石誘拐 鯨統一郎 カッパノベルス 838円

 『邪馬台国はどこですか?』(創元推理文庫)が高い評価を受け、天狗になってる(笑)鯨統一郎の長編第一作目。推薦文はあの東野圭吾氏である。今回は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に秘められた暗号にまつわる話だ。それに誘拐が加わるようであり、非常に面白そうな気がしてきたので(笑)読んでみた。内容に行く。

 会社を辞め、童話作家を目指して日々精進するがなかなか努力が実を結ばない。中瀬研二が朝起きると妻の稔美が息子の虹野に算数を教えている。まだ、幼稚園に行くぐらいの年頃なのに。虹野の教育方針で稔美と大喧嘩してアルバイトに赴く。生活はかなり逼迫していたのが、三人は幸福だった。だが、その幸福は突然の闖入者によって壊された。宅配業者を装いやってきた数人の男らに稔美と虹野は拉致される。家に戻った研二は、二人が喧嘩の果てに家を出たと思い、八方手を尽くして行方を追うが見つからない。誘拐の言葉が彼の頭をよぎる。その想像は正しかった。稔美の父親が発見した七色のダイヤモンドの鉱山のありかを探すために、稔美は虹野と共に拉致されたのであるから。稔美を拉致した人間たちの目的は、宮沢賢治が発見した七色のダイヤモンドの鉱山を軍資金に日本を征服すること。一方、或る人物からの手紙で稔美が七色のダイヤモンド鉱山のありかを記憶の底に埋め込まれてることを知った研二は、『銀河鉄道の夜』を元に鉱山のありかを探そうと試みる。

 前作に比べ、今回はサスペンス寄りである。もっとも、前回と同じようなことを長編でやられたらめっちゃしんどいんやけれども。しかし、前作で培われた手法は健在である。今回は『銀河鉄道の夜』に秘められた暗号を解読する。前作と今回の相違点は前作は「もしかしたら……」なんて所があるのに対し、今回は作中でしか絶対にありえない、つまり現実にもしかしたらあり得るかもという感じがしないと言うことであろうか。無論、非現実だからと言ってこの作品があかんというわけではないのであるが。逆にそう言う理由でこの作品があかんと言う人は、読み方を間違えてるであろう。本書での『銀河鉄道の夜』は上手く作品世界にとけ込んでるように見える。が、一方で浮いてる気もするが、この判別は結構難しい。

 誘拐はサスペンスパートであるが、誘拐犯グループと稔美とのやりとりの中で、性愛描写がるが、この描写がこの作品の完成度を落としてるように思えない。有り体に言えば、この部分が非常に無駄だと思うのであるのだが。そう言う描写があるからダメ、と言うことではないのであるが(必要ならばとことんどーぞと言う意見だ)、この作品における性愛描写は品位を落とすだけにしか見えない。読んでる最中、「火曜サスペンス劇場」の文字が点滅した。救いは稔美に記憶に埋め込まれた《風の又三郎》のホログラフか。彼の存在で少しはましになった気もする。

 ところで、実際問題、この作品はドラマ化しても良いものになりうる可能性を帯びている。それは、誘拐の方のトリックに仕掛けられたグローバルさにある。一見サスペンス一辺倒の誘拐プラス暗号のような構造なのであるが、誘拐犯グループの首領の正体が明らかになった時点で本格推理の要素を帯びてくる。誘拐ミステリとしてみた場合、トリックはベストテンに入れても良いかもしれない。

 暗号パートで若干気になったのが、あまりにも都合良く謎が解けていってるなあと言うことであった。謎を解く中瀬研二が天才肌の超人探偵型なら違和感は全くないのであるが、二人が誘拐される以前の彼は、どことなくぼーっとしたおっさんという感じしかしないのでそう感じた。

 前作とは違った趣を見せる作者の第一長編。誘拐ミステリ好き向けか。

新世紀「謎」倶楽部 二階堂黎人監修 角川書店 2200円

 二階堂黎人と芦辺拓両氏の対談による作品紹介を各作品の冒頭に置き、その作品が扱ってるテーマを解説してる。この対談形式は案外ありそうでなかったから、結構興味深かったものの、たまに饒舌になりすぎて作品のネタのヒントをぼろっと出してるところは少々減点ものか。なんでも、このアンソロジーに寄稿した作家たちによるリレー小説が近い内に出るらしい。滅茶苦茶楽しみなんだけれども、早くから企画がある創元のリレー小説どーなってんだろう。アンカーまで行った、と言うところまでは聞いてるのだが(笑)。あと、この本は四六版ハードではなく、カドカワエンタテイメントの版で出した方が売れたと思うが如何なものであろうか。ちなみに私は古本屋で購入(笑)各編の紹介に移ろう。

「十人目の切り裂きジャック」(篠田真由美)
 大学時代の友人からの突然の電話。彼は、切り裂きジャックを研究していた。私は推理小説が好きだった故によく話し相手になっていたのである。彼は十年前の日本の切り裂きジャック事件の真相を話すと言ってきた。十年前、彼の恋人は切り裂きジャックによって殺されたとされていたのである。
 切り裂きジャックミステリはミステリのテーマとして、日本では書かれてそうで書かれてない気がする。容易に思い浮かぶのは、対談で触れられていた、島田荘司氏の『切り裂きジャック・百年の孤独』(集英社文庫)ぐらいなものであろうか。この作品では、様々な説が要領よく説明されている。元々ホラー系の作品として書かれたのであろうか? 結末は薄ら寒さを感じる。
「インド・ボンベイ殺人ツアー」(小森健太朗)
 探偵業を依頼された星野君江は、飛行機でインドまで飛んだ。インドについたのは良いが、パスポートを無くした為に大使館に駆け込まざるを得なくなる。パスポートは事なきを得たが、再発行に二週間かかると言われくってかかってると、星野君江が探偵であることを聞きつけた邦人がアリバイを証明して欲しいとやってくる。
 一言で言うならば、アンチ・アリバイミステリと言うべきものかもしれない。犯人が意図したアリバイトリックが、カラカラと崩れ去る。ガラガラとではなくカラカラと。この短編はギャグと見るべきか、大真面目な作品と見るかで評価も変わってくるであろう。私はギャグと見たが、如何なものか。
「《ホテル・ミカド》の殺人」(芦辺拓)
 ホテルの一室で、帝国軍人が切腹自殺死体で発見される。サンフランシスコに偶然滞在していたチャーリー・チャン警部も捜査に立ち会ったが、この不可解な事件を解決したのはチャン警部でも、私立探偵でも、サンフランシスコの警察でもなく、このホテルで働いていた東洋の人間であった。
 切腹事件の真相は結構唸らされるものがあり、満足。しかし、この作品の最大の眼目は帝国軍人の切腹事件ではないのであろう。この作品は《名探偵》として分類されてるように、名探偵の共演、意外な登場人物なのであるから。短編でこれだけ豪華な顔ぶれなものを思い出せない。が、少し見え見えで残念だったけれども
「藤田先生、指一本で巨石を動かす」(村瀬継弥)
 小学校の同窓会。藤田先生が受け持ったクラスの同窓会では、先生の魔法の謎解きを行うのである。この謎解きを毎回楽しみにしている人間も沢山いた。或る年の謎解きは、一見クラスで一番力のなさそうな生徒が、大人数人がかりでやっと動かせるという巨石を動かした魔法についてである。
 うーん、タイトルに偽りあり(笑)確かに「指一本」だけれども……。脱力ものの真相、とでも言うべきかな。私は、この手のトリックは決して嫌いではないので、不可ではないが。ほのぼのとした空気が良い。
「鬼子母神の選択」(北森鴻)
 京都の山中で死体が発見される。死体発見は、新聞への投書がきっかけであったが、そのきっかけとなった投書をした人間は身元が解らなかった。いつもは閑静すぎるほどなのに、突然人が多くなる大悲閣千光寺。有馬次郎は、不穏なものをかぎつける。そして、過去に封印した己の能力を再び使うことにする。盗賊としての能力を。
 何となく悪を叩っ斬る仕事人のような感じがした。一応この作品は《怪盗》ものらしいが、現代社会に怪盗が生息するにはもう仕事人みたいなものにしないと生息し得ないのであろうか。或る意味名探偵以上に生息が不可能に近い珍獣なのか。そんなことを思った。
「観覧車」(柴田よしき)
 私立探偵の唯は、毎日観覧車にのる女性を尾行していた。彼女は毎日着飾り、二週間同じ行動を続けている。唯が尾行している女性の白井和美は、依頼人の夫と愛人関係にあり、彼は失踪していた。尾行を続ける唯に、知り合いの刑事が声をかけてきた。失踪事件に京都府警が乗り出したのである。
 柴田よしきの独特の文章は短編でも健在。死体発見場所が見つかる過程は、ミステリ的には少々辛いがこの作品は眼目は死体の場所よりも女性の哀しい情念にあるのでは無かろうかと考える。ところで、この作品はシリーズ作品の第一作目と言う感じがしないでもないのであるが、実際の所どうであろうか。原ォ氏の沢崎ものを彷彿させる設定である。シリーズがまとまったものを読んでみたい
「縞模様の宅配便」(二階堂黎人)
 私立探偵を気取る幼稚園児、渋柿。彼は今日も孤高を行く。渋柿の周りで不穏な空気が漂う。或る日友達を遊びに誘うと、宅配便の従業員との応対をしていた母親が、ぎこちない対応をした。刑事である父親のケン一もなにか不穏な空気を身にまとっている。渋柿が母親に連れられて銀行に行って或る人物の通帳を調べたら、預金が妙な具合であった。
 いいねえ、こういうの。さりげなく作中に仕掛けられた叙述トリックが爆笑を誘う。しかも、それは本編に関係ないし(笑)作者自身は、叙述トリックと思ってないかもしれないけれども。確かに○○ものだと最初に言われると困るかもしれないなあ。或る意味。しかしまあ、痛快ユーモア作品というかなあ。
「だって、冷え性なんだモン!」(愛川晶)
 大晦日におきた殺人事件。その事件はごく普通の事件のようであった。死体の状況を除けば。死体は、全てあべこべに着飾っていたのである。靴下、イヤリング、スリッパ、手袋。死因は絞殺とありふれた手口であったが、死体のちぐはぐさが目を引く。捜査の結果、容疑者が三人浮上した。
 うーん、冒頭は「創元推理14」に掲載されたものとそっくり差し替えられてるなあ。初出版が好きだったのに。ちなみに初出では、安楽椅子探偵を勤める愛ちゃんが「カレー殺人事件」を勝手に犯人当て小説に仕立て上げた作家(愛川氏である(笑))に文句を付けに行き、作家が震え上がり、読者に騙された話を桐野にする、と言う感じである。本書では署での取り調べ風景から始まるが、愛川氏自身の単行本に収録する際は是非とも「創元推理14」版を採用することを希望する(笑)で、肝心の内容であるが、端正な犯人当て小説である。私も初出当時挑戦したが、撃沈。
「蓮華の花」(西澤保彦)
 高校の同窓会。作家としてデビューした私は久しぶりに出席することにした。向こうでは、三文作家の私でも超有名人のようである。しかし、同級生と話すうちに、自分の記憶が他の者と違ってることに気がつく。死んだと思ってた女性が生きてたのである。どうして自分の記憶が取り違えられたのであろうか。
 西澤保彦らしからぬ作品である。この作品の雰囲気をどう例えればいいか表現に困るが(大した表現ではないのかもしれんが)、敢えて例えるならば連城三紀彦と恩田陸を足して二で割ったような感じか。何とも言えぬ雰囲気なのであるが、絵解きは少々機械的な気がしないでもない。一応心理トリックなのであろうが、機械トリックくさい心理トリックというか。
「新・煙突綺譚」(谺建二)
 幼い日の風景。街に住む奇妙な大人シュミネさん。彼は不思議な人であったが、大人たちはシュミネさんを忌み嫌っていた。彼のその得体の知れなさに。私は、密かにシュミネさんと仲良くなっていたが、或る日中学生が死体となって発見されると言うショッキングな事件が起きる。シュミネさんは、犯人と疑われていた。警察の任意出頭から逃げ出したシュミネさんは、爆破された煙突と運命をともにする。爆破された煙突が倒れてくる方向に立っていたのであるが、煙突が倒れると共にシュミネさんは消えた。永遠に。
 衆人観衆の人間消失。作品に漂うノスタルジーは、消失の瞬間のショッキングさを和らげる。実際は「やったぜ、人間が消えたゾ!」なんてマニア的な咆吼をあげるところなんだろうけれども(苦笑)、シュミネさんが消えるまでにノスタルジックな雰囲気をたたき込まれてたせいか、「あ、きえた」ぐらいにしか思わなかった。謎の解体の手際は島田荘司的でかなり好みである。
「ドア・ドア」(歌野晶午)
 『放浪探偵と七つの殺人』参照


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