『六番目の小夜子』 『ダブ(エ)ストン街道』
『ラヴ・フリーク』 『光と影の誘惑』
『分身』 『十三番目の陪審員』
『天井のとらんぷ』

六番目の小夜子 恩田陸 新潮社 1400円

H11/11/8改稿。改稿版は→ここに
ダブ(エ)ストン街道 浅暮三文 講談社 1700円

 第八回メフィスト賞受賞作の本書は第八回日本ファンタジーノベル大賞の候補作でもある。メフィスト賞は『血塗られた神話』からもわかるようにどうやら従来のメフィスト賞受賞作群とは傾向を変えたいらしい(ホンマか?)。まあ、募集の要項が「広義のエンターテイメント作品」となっているためにこの様なファンタジー的な作品がいつかは出ることは誰にでも予想は出来たであろう。簡単に設定を紹介しよう。

 ケンは人を捜していた。ダブリンからいなくなった恋人を探し”ダブ(エ)ストン”を探していた。人によってはダブストン、ダベットン、ダブェットンと様々な呼び方をされるこの土地に関して一つだけわかっていることはここは迷いの土地。ケンの恋人は夢遊癖があり夢遊の果てに”ダブ(エ)ストン”にたどり着いたのだ。ケンは恋人を捜し今日も彷徨う

 ストーリーの縦軸は恋人の行方とどうやって迷い込んだ世界から抜け出すかということである。果たして恋人と再会できるのか? 恋人と一緒にダブリンに帰れるのか? ここはどこ? 主人公も彷徨うが読者も彷徨う。

 先にファンタジー的と表現したがどこか枠に収めてしまうとファンタジーかな? という感慨をいだいたからでファンタジーをろくすっぽ読んでいないので分類は間違っているのかもしれない。しかし、どう考えてもミステリーの枠に入れるのは無茶な話だよということは間違っていないであろう。

 ケンと一緒に旅する”郵便屋”のアップル、サイドストーリー的に語られる王様(これがまた偉そうな奴(笑))半魚人、等々奇妙な登場人物たちがそれぞれ迷い、彷徨い、すれ違い、ケンと出会い、様々な物語を紡ぎだしていく。その文章と共に読者は霧のような世界に彷徨い込む。このもの語りの一つのキータームは”迷い”。

 どこかに忘れてきた懐かしい感じが蘇ってくる物語である。

異形コレクション(1)ラヴ・フリーク 井上雅彦監修 廣済堂文庫 762円

 異形とは異なる形のこと。本書『ラヴ・フリーク』は異なる恋愛の形をホラーという手法で(例外はあるけれど)描いたものを集めたアンソロジー。以下気に入ったものを紹介する

「テレパス」(中井紀夫)デパートのエレベーターガールの意外な秘密と男との恋愛
「ニューヨークの休日」(森真沙子)ニューヨークで男が陥った意外な罠
「猫女」(竹川聖)雑踏でぶつかった少女との生活。その少女の正体は……
「アドレス不明」(友成純一)行方不明になったメールの行方は……異界の扉を開く
「加害妄想」(高井信)何故被害妄想ならぬ加害妄想に陥ったのであろう。謝る相手には危害を加えた記憶すらないのに
「太陽に恋する布団たち」(岡崎弘明)布団が吹っ飛んだ(笑)
「東京悲恋奇譚」(飯野文彦)会社に入ってきた女性の意外な正体とは?

 以上の七編だが、ある意味甲乙つけがたい。本書の中には背筋が凍る思いがするような恐怖譚はなかったもののやっぱ恋情というのは怖いものであるのだなというのはひしひしと感じられる。上記七作品に挙げなかったものの中で「REMISS(リミス)」(久美沙織)なんか結構気迫の恐ろしさというのを感じさせてもらった。ホラーアンソロジーであるが、「太陽に恋する布団たち」(岡崎弘明)のように明らかにホラーじゃないよなぁというのもある。ファンタジックなどこかにあるユートピアのような(ちょっとちがうか)。「地下のマドンナ」(朝松建)は視点を変えればミステリだし、このアンソロジーはとびっきりの玉手箱であるといっても良いであろう。。

 異形コレクションの名にふさわしい文字通りの異形のものが出てくるのは 「怪魚が行く」(田中文雄)「老年」(倉阪鬼一郎)「赤とグリーンの夜」(井上雅彦)「スマイリング・ワイン」(奥田哲也)のの四編。異形のものの定義を広げればもっとあるのであるが。

 恋愛を様々な鏡で捉え、その鏡に映ったそれぞれの異形の恋愛を筆で描いた、そんな感じがするとびっきりのアンソロジーである。

光と影の誘惑 貫井徳郎 集英社 1900円

 H12/4/5改稿。改稿板はここ
分身 東野圭吾 集英社文庫 720円

 東野圭吾はものすごい作家である。いや、今更私が言うことでもないことなんだけれども。しかし、この『分身』を読み終えたときの感慨はこれである。真保裕一のように独自の取材力を駆使し、そこで得たものを元に物語を組み上げていく作家(素材が先か、物語のために素材を求めるかは別として)のタイプがあるが、ある意味真保裕一よりすごい。とりあえず内容を紹介してみる。

 北海道と東京でそれぞれ自分の出生に疑問を持つ二人。二人がその出生に疑問を持ち始めた理由は各々違っていた。氏家鞠子は母親の時折見せる自分への態度で、決定的だったのは鞠子が中学校一年生の時に起きた火事の前の出来事であった。その五年後、鞠子は自分の出生の秘密を探りに上京する。一方、双葉は父親はいなかったがそれでも娘と母親と二人、それなりに幸せに暮らしていたが、双葉のバンドがテレビ出演をしたのを機にその幸せはもろく崩れ去る。バンドはやっても良いがプロにはなるな、テレビには出るなと言った母親、それを守らずにテレビに出た双葉。そのテレビ出演の後母親は事故で帰らぬ人となる。葬儀の後事故の前に母親が会っていた人物から北海道に来ないかという誘いを受ける。そして双葉も自分の出生の秘密に近づくことに……。果たしてその出生の秘密とは?

 自分の出生の秘密を明らかにするために動き回る二人。二人はどうやら外見が似ているらしい。その二人が東京と北海道ですれ違いを繰り返すために読んでいるこっちは「ああ、いつになったら二人は巡り会うんじゃい」とやきもきしてしまう。ま、それがこの作品のひとつの眼目ではあるんだけれども。

 さて、この作品が何故すごいのか? それはこの作品が書かれたのが一九九二年に書かれたことである。この『分身』の解説によると『ドッペルゲンガー症候群』のタイトルで一九九二年九月から一九九三年二月まで雑誌に連載され、一九九三年の九月にこのタイトルで単行本になっている。この作品が新刊で出ていたなら私はここまで評価しない。私がすごいと評価する理由はこの作品の素材によるものである。何を扱っているかそれを書くとネタバレになるのでこれ以上は書けない。だが、これを読んだことがある方なら私がここまで興奮している理由はわかるであろう。時代をここまで先取りしてなおかつ上質の物語に仕上げるその力量。

 この作品を映像化すると非常に面白いものが出来ると思うのであるが、如何なものであろう。今ではCGがだいぶ発達しているので二人が出会うシーンなどは結構感動もののシーンが出来ると思うのであるが。

 なんだか「すごい」と言う言葉を連発しているだけのような気がするが気のせいであろう。未読の人は目を剥くこと請け合いなので読むべし

十三番目の陪審員 芦辺拓 角川書店 1900円

 欧米先進国では「陪審制度」という裁判の制度がある。日本では裁判官が被告有罪無罪を判断し量刑を課すわけであるが、この陪審制度というのは簡単に言えば陪審員というランダムに選ばれた十二人の人が有罪か無罪かを判断する制度なのだ。欧米でのミステリーの発展はこの陪審制度の存在によるものが多いと言う説があるが(法廷ミステリとかね)陪審制度がない日本で何故これほどまでにミステリーが隆盛なのかはその説によれば謎である。作者は日本に存在しない陪審制度を近い将来に時間軸を進めることで存在することにし、その上架空の犯罪の裁判という通常の法廷ミステリであっても異例な設定を持ち込んだ。とりあえず内容を紹介しよう。

 己の父親を冤罪事件で殺された苦い経験をもつ鷹見に船井から冤罪事件を捏造し無罪を証明する《冤罪計画》という奇妙な企画が持ち込まれた。その計画が成功した暁には鷹見のその経験を文字に起こし、出版するというのに作家志望であった彼は飛びついた。架空の事件を起こしてその容疑者として逮捕されるという普通では考えられないような計画を遂行させるべく鷹見の体は変えられていった。《冤罪計画》のひとつの眼目にはDNA鑑定を逆手に取ることであった。鷹見の体の改造も済み、あとは事件をでっち上げるだけ。かくして計画の歯車は本格的に回りだし、いかにしてマスコミと警察が冤罪を作り出すかを暴くだけ。奇しくも架空の事件の目撃者の一人として選ばれた<ラガードー>の面々の中に森江春策もいた。だが、架空の事件だったはずなのに存在しない架空の被害者が存在し、しかも身に覚えがないがない事件の犯人にされてしまう。その鷹見の弁護人になった森江春策は関西初の重要事件で陪審員制度が適用される公判に望む。果たして森江春策に勝機はあるのか? そして《冤罪計画》に隠されたどす黒い陰謀とは?

 インターネット実験農場のアンケートでこの作品の設定を見かけたときは「なんじゃこりゃ?」と思ったがいざ蓋を開けてみるとかなり面白く読めた。日本のミステリで裁判のシーンがあるいわゆる法廷ミステリと言えば高木彬光の『破戒裁判』や小杉健二氏の諸作(伝聞のみで未読)、和久俊三氏の作品(赤かぶ検事ものとか)しかなく、しかもパズラー的興味があるものはほとんどない。私は『破戒裁判』は日本法廷ミステリの古典と思っているが、私がそこまでこの作品を評価するのは犯人の告発シーンの鮮烈さに付け加え、全シーン法廷一本ということによる。この『十三番目の陪審員』もどちらかと言えばパズラーよりも若干ずれている。DNA鑑定を欺くための仕掛けや血液に関するもの、事件をどのようにひっくり返すかといったことなどは本格ミステリのそれに近いがこの作品の眼目は公判の陪審法廷にある。近未来を舞台に(二、三年後か十何年後かはわからないが)そしてもう一つの眼目は社会派的構図にもある。

 陪審制復活を快く思わないものたちの陰謀。『十角館の殺人』で語られるものとは一線を画すその社会派的構造は『時の誘拐』同様作者の独断場と言っていいであろう。探偵役の森江春策のそのキャラクターも『探偵宣言』のと気と比べ生きている。名探偵はエキセントリックな方が読者としては面白いがこういう重厚系の話なら生真面目型の探偵の方が望ましい。ただ気になったのはインターミッションの社説。なんかどっかの思想系団体のの機関誌みたいだったんだけれども。あそこまで過激すぎる文章を新聞が載せるんかいな。

 芦辺氏が後書きで《逆本格推理小説》この作品を命名しているが、そう言う観点で見ると前半部分の架空の犯罪を立証させようと躍起になっている鷹見や船井の姿が書き込まれているのがわかる。先にパズラーから若干ずれていると書いたが、本格の骨子はきちんとしていて丹念に張られた伏線なんかを愉しむのも一興であろう。そこはやはり《逆》ではなくても《本格推理小説》である。

 本格ミステリ、社会派、法廷ミステリとして面白いだけではなく、陪審制度に興味がある人にも面白い一冊だ。

天井のとらんぷ 泡坂妻夫 講談社文庫 絶版

 マジシャンの顔も持つ泡坂妻夫が描く女流奇術師曾我佳城を主人公に配した奇術を題材にしたミステリ八編。以下その紹介

「天井のとらんぷ」
 大学教授の法界はテストの監督の最中に天井に張りつけてあったトランプを見つける。興味を持って調べると警視庁の刑事に行き当たった。殺害現場に残された天井のトランプの意味は?
「シンブルの味」
 アメリカに渡った曾我佳城はマジックの祭典に参加していた。そんな最中、参加者の一人が死体となって発見される。被害者は前日にシンブルマジックを披露した男。果たして事件の真相や如何に。
「空中朝顔」
 超絶技巧を極めた朝顔に隠された恋愛物語
「白いハンカチーフ」
 女子校の寄宿舎で起きた集団食中毒事件に関するテレビ番組のコメンテーターの中に曾我もいた。その食中毒事件に隠された意外な真相とは? 「藤形少女歌劇団付属音楽学校寮集団食中毒事件の真相!?」(な、長い(笑))改題
「バースデイロープ」
 結び目を主題にした民話を発掘した節子。論文執筆の参考にと奇術のロープマジックを調べるために参加した奇術講演会が行われたホテルで殺人が。果たしてその事件の真相は?
「ビルチューブ」
 昼はスキーを教えてもらう代わりに夜はマジックを教える、と言う約束でスキー場に来た曾我。夜にマジックを披露する。夜が明けて大変なことに。紙という紙が盗まれていたのだ。盗まれていないのはマジックに使用した紙幣だけ。誰が何故そんなことを?
「消える銃弾」
 サーカスのマジックの最中悲劇は起きる。当たるはずのない銃弾が当たってしまい一人の犠牲者が出てしまったのだ。マジックの解析の過程で事故によるものだと思われたが急転直下殺人だという事が判明する。その真相は?
「カップと玉」
 奇術ショップに訪れた曾我たちは社家の元に送られてきた原稿が暗号だという事が判明し、しかも暗号を送ってきた人間が誘拐監禁されていることに思い当たる。暗号の意味は? 安否は?「曾我佳城の大暗号」改題

 以上であるが個人的な好みで言えば「空中朝顔」はミステリとは言い難い部分もあるが朝顔が真実を証明するところは一番のお気に入り。というかミステリじゃなくある種の恋愛小説かも。もとのタイトルが長すぎる(笑)「白いハンカチーフ」も犯人が出てくるタイミングが帽子から鳩を取り出すマジックのようで結構良いかも。これは全編地の文が無いというある意味『しゃべくり探偵』(黒崎緑/創元推理文庫)の先駆け的作品。

 暗号解読の「カップと玉」は「掘り出された童話」(『亜愛一郎の狼狽』/創元推理文庫収録)ほどのシンプル的破壊力はないものの良く考え抜かれた暗号ミステリである。「シンブルの味」ではミステリでよく扱われるあるテーマに挑戦し、それなりに成功している。ダイイングメッセージ短編の表題作は好みではないものの良くできた一品。

 それぞれ奇術という題材を上手く消化しているので絶版にはなっているものの泡坂妻夫ファンならずとも探して読んでも良い一冊である。


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