(Vestimentifera sp.)
チューブワームには口も肛門もありません(持っている種もありますが概ね退化が著しいです).ところが彼らは非常に密集し種類によっては巨大でとても何も食わずに生きてるようには見えません.しかし,彼らは食べることを放棄しています.その秘密は体の中に飼っているバクテリアです.彼らは体内にバクテリアを共生させ,バクテリアの作った養分を利用し生きているのです.
温泉地帯に行くと皆さん「卵の腐った臭い」,よくいう硫黄臭を鼻にしたことがあると思います.正確には硫黄は無臭です.しかし,硫化水素という水素原子2個と硫黄原子1個でできた化合物がその嫌な臭いを発します.硫化水素は通常ガスとして存在しますが,ナチスが一時期毒ガス兵器として使ったほどの呼吸阻害系の毒性があります.しかし,世の中変わったものでこの熱水とともに地下から出てくる毒ガスを食べて有機物を生産する変わったバクテリアが存在します(用語解説参照).これらは一般に硫黄酸化細菌と呼ばれますが,結構どこにでも棲んでいます.世の中の生物の大部分は,植物や植物プランクトンが太陽個を利用して光合成により作られた有機物を直接・間接的に利用して生きていますが,このバクテリアの一部は光合成なしに有機物を作ることが出来ます.深海底の温泉にはこの硫化水素が多く放出されていますので,これを硫黄酸化細菌が使って有機物を生産し,それを糧に多くの生物が生活しています.すなわち,深海底熱水系は光合成にほとんど依存せずに,すなわち太陽に依存しない「地球を食べて生きている」非常に特殊な生物群なのです.
チューブワームやシロウリガイは体内やエラにこの硫黄酸化細菌を飼うことにより,口を使って摂食せずに栄養を得ています.それで,チューブワームは口と肛門を退化させ,ついにはなくすことが出来たのです.

写真は昨年末パプアニューギニア,マヌス海盆の深海底約2000mから「しんかい2000」によって大量に採取された比較的小型のチューブワームです.ちょっと太めの焼きソバみたいでしょ.ちょっと赤く見える部分は肉ですが,ほぼ殻の全部に肉が詰まってます.海底では先端の花びらみたいに赤いのを殻外に出してますが,いじめると引っ込みます.殻は貝みたいな硬いものではなく昆虫の殻に近いもので,少々曲げてもおれません.ちょうどストローみたいな感じ.