2001年10月号
書評2


若手の解く現代のマルクス理論=疎外論

中嶋 陽子
大阪経済法科大学非常勤講師


『近代の復権―マルクスの近代観から見た現代資本主義とアソシエーションー』

松尾匡著 2001年
晃洋書房 3500円


久しぶりにマルクス理論系の文献を読んだ。 著者松尾氏は、 30代後半の若さでもあり、 この本は、 いわば21世紀の研究者が読み解くマルクスと、 それをベースとした現代社会の変革論といえよう。 第1編 「マルクスの近代観」 は2章からなる。 それぞれ、 マルクス体系を貫く疎外概念の解明と、 分配―消費過程の現代的特徴を念頭におきつつ共産社会2段階論の検討をおこなっている。 第2編 「マルクス近代観再成の時代」 は、 内容豊富である。 まず、 今日の社会がかかえる諸問題については、 そこに疎外の現代的展開を見るものや、 いわゆる近代経済学の概念を援用した社会論評風のものもあり、 経済学の素養のある者には楽しめる。 次に、 民族自決権に関しては、 マルクス系諸派の見解の整理を経て、 現在の民族問題を意識した自論が導き出される。 第三は、 当研究所総会での分科会報告に相当する部分で、 アソシエーション論、 最後は、 進化論的唯物史観で締めくくられている。

全般的な印象は、 なかなか個性的だということである。 個人的には好みのタイプの本であるが、 安直に著者の見解を紹介すると誤解を招きかねないので、 短文で書評するのは難しい。 そこで、 評者の問題関心からみた限りで、 2点、 感想を述べるに留める。 まず 「喪失による普遍化」 の作用、 つまり政党による上部構造先行型の変革に対して、 「獲得による普遍化」 の作用、 つまり草の根事業などによる土台主導型の変革が対照的に把握されている点は、 いろんな実践家や 「相対論者」 の間では早くから人口に膾炙されており、 無理の無い自然な理解であろう。 欲を言えば、 それを第5章アソシエーション論とどう有機的に関連づけるか、 一歩踏み込んだ所を見せてほしかった。 第2章と第5章の論理的連携をより意識的に提示してもらえれば、 と思う。 次に、 新自由主義への評価なども、 本書は、 通常の批判とは視点が異なり、 逆にアグレッシブな捉え方で異彩を放っている。 読者によっては、 最も興味をひく論点かも知れない。

最後に一つ。 章によっては、 ざっくばらんな筆致と難解な文章とが混在しているため、 読み手が、 論理の深耕次元をあちこちワープしなくてはならない。 論理の積み上げが、 いま少し親切に書かれていれば、 読者にとって、 よりフレンドリーな仕上がりになったと思われる。 内容は大変現代的だし、 大きな学的枠組みから解こうという姿勢にはおおいに共感できるだけに、 惜しい点だと思う。 お手軽な底の浅い 「学術」 書が氾濫している昨今、 こういう心意気の書き手が一人でも多く現われることを祈りたい。 本書は、 理論志向の強い実践家や、 研究者、 大学院生むきといえる。 賛否いろいろあるだろうが、 旺盛な問題意識にとんだ好著なので、 上記の方々には、 一読をお勧めしたい。 鬼塚ちひろを連想させる本である。 この最後のコメントがわかる人は、 ぜひ書店へ…。


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