『協う』2004年8月号 人モノ地域

かんかん森に見る都市コミュニティの再構築

 2003年6月、 東京都荒川区日暮里に、 都市における居住者間の新しい関係づくりを試みる、 日本で初めての本格的な賃貸型コレクティブハウスが誕生した。 その名は 「コレクティブハウスかんかん森」 (以下、 「かんかん森」 と略す)。 建設構想から約4年、 居住から1年が経過し、 「かんかん森」 が何を生み出したのかをレポートする。


住まい方の新しい選択肢
 わが国においては、 高度経済成長期以降急速に都市化が進展し、 量的不足に陥った住宅の開発が急ピッチで行われてきた。 これが、 旧来の伝統的な血縁や自然発生的な地縁に基づくコミュニティの解体を促したことはよく知られている。 その後の安定成長期、 あるいは1990年代の不況期に至っても、 この傾向は続いていると言えよう。 結果として、 核家族化の進展と同時に単身者あるいは夫婦だけの世帯が大幅に増加した。
 ところで近年、 従来の住まいに対する反省がなされ、 新たな住宅のあり方が提案されている。 例えば、 居住者が自分達の手で分譲マンションを建設する 「コーポラティブハウス」 もその1つだが、 それは、 あくまでも住居の建て方、 つくり方をそれまでにないかたちで提案したものである。
 ここで紹介する 「コレクティブハウス」 は、 それとは次元を異にする新しい 「住まい方」 を提案したものであり、 「コミュニティの喪失」 に直面する都市生活者の潜在的ニーズに応え、 居住者間の新しい関係のあり方を構築しつつコミュニティを再生しようとするものだ。 実際、 「コレクティブハウス」 は、 入居者個々人のプライベートな暮らしを互いに尊重しつつ、 「参加と共生」 をキーワードとしたコミュニティの構築を実現していく仕組みを取り入れている。 それは日常生活の一部を無理なく共同できるような空間や設備の設置、 居住者の自主的で主体的な参加を可能にするような運営と共同のスタイルの導入といった、 ハードとソフトの両面にわたっている。
 これまでにも、 阪神大震災の高齢者向け復興住宅にコレクティブハウスの考え方が取り入れられたことはあったが、 ここで取り上げる 「かんかん森」 は、 居住者が自主運営する多世代型の本格的コレクティブハウスとして実現したものだ。 さらに、 「かんかん森」 は、 入居予定者などが設計・建設段階から参加し、 数多くのワークショップを繰り返して意見を交換し、 3年近くをかけて構想を具体化させたものだ。 このような手続きを踏んだのは、 居住者自身が主体的に運営を担うためには、 構想当初からかかわって住コミュニティを作り上げる必要があったからだ。 共用空間を持った場合の暮らしのイメージ作りとその利用方法の検討、 これらの検討成果としての空間設計の決定、 食事の共同化や掃除の分担などで必要なルールづくり、 インテリア計画や家具・備品の選定などには、 ワークショップにおける意見交換が不可欠だ。 こうして、 エコロジカルで経済的な管理運営方法を着実に具体化できたのである。

 


「コレクティブハウスかんかん森」 の住まい方とは?
  「かんかん森」 は、 28戸が入る賃貸住宅である。 また、 各住戸の面積は24〜62■とバリエーション豊かに設計されている。 そのため、 シングル、 ルームシェア、 家族やカップルといった様々な居住形態の人たちが住まいあう。 2004年5月現在、 3歳から80歳までの25世帯36人が入居している。 ところで、 「かんかん森」 があまたの集合住宅と異なるのはここから先である。 共有スペースとして大きなダイニングルーム、 リビングルーム、 キッチンのほか、 洗濯室、 家事コーナー、 菜園テラス、 工作テラスなどを備えているのだ。 このような多様なスペースを確保しつつ、 個々の住戸にトイレやお風呂、 キッチンを完備する設計となっている。 住戸はあくまで住戸であって部屋ではない。
  「かんかん森」 の運営は自主管理、 自主運営を基本としており、 全員が管理人として自分達の家を管理し、 くらしの質を自主的に考え決めるシステムとなっている。 このような自主的な運営の核となるのがコモンミールである。 これは、 週3回 (月12回) の夕食を共同化し3人の当番制として通例20食くらいを準備するものであるが、 居住者同士の基本的な関係作りの重要なきっかけを提供していると言える。 入居者は月12回のうち1回の調理を担当することで、 残りの11回はテーブルにつくだけで食事ができるという仕組みだ。 当番としての役目を果たす必要があるが、 食べるかどうかは自由である。 また、 食事の仕方も自由で、 食堂でだれかと一緒に食事しても良いし、 各人の住戸に持ち帰って食べても良い。 また、 作った料理を出しておき、 セルフで取っていくスタイルとしている。 加えて、 当番の負担を少しでも軽くし、 コモンミールの運営を効率化するため、 共用キッチンには業務用の設備が入れられている。 例えば、 60個のハンバーグを12分で一度に焼くことができるオーブンや、 90秒で大量の食器が洗える食器洗い機などが活躍している。 これで、 大人数の食事を準備する時にも短時間で対処できる。
 コモンミールは日本社会でごく普通に生活している者にとっては、 信じがたい食事のスタイルであろう。 事実、 コレクティブハウスの先進国スウェーデンなどと違って労働環境面での制約の強い日本において、 仕事を持つ人たちが月12回のコモンミールを実現できるかどうかは、 当初は入居予定者でさえ懐疑的であったという。 入居予定者の意見は 「味噌汁の味は各家庭で違う」 「和洋中と日本の食事はさまざまで、 今日食べたいものもさまざまだ」 などと否定的なものが大半であった。 ただ、 コモンミールに対する否定的な意見は、 30人分という大人数の食事をつくった経験がほとんどの人にないために生じている可能性もあった。 そこで、 「それでは試しにやってみませんか?」 ということになり、 「かんかん森」 入居の1年ほど前から、 月に一度のペースで入居予定者が集まって、 お試しコモンミールを公民館の調理室で始めた。 結果は大成功であった。 実際にやってみると 「みんなで食べるのはなんて楽しいのか」 「30人もの人においしいと言われるのはとてもうれしい」 といった感想が相次ぎ、 週3日のローテーションができたことで、 当初の不安は一掃されてしまった。 かくして、 入居者自身が、 コモンミールは 「かんかん森」 のコミュニティに不可欠のものと考えるようになり、 現在に至っている。
 また、 共用スペースの掃除も当番制である。 一ヶ月10人ほどでコモンルームやパブリックスペースの掃除当番をすると、 あと二ヶ月は休みである。 一ヶ月の間、 担当部分を自分のやれる時間に一週間最低一度は掃除することになっている。 当初は、 このような掃除当番にあたって義務感ばかりが先行してしまう居住者が実際にいたようだ。 「共用スペース、 共用部屋は自分のものではないが、 当番の義務がある」 という考え方をしていたからであった。 ところが、 同じ掃除当番を 「かんかん森に住んで自分の家が広くなった!」 と考えて発想を転換したら掃除が楽しくなり、 自分の割当以外のところもやってしまうようになれたという人もいる。 このように、 取り組みへの積極性が生まれる可能性は多い。
 そのほか、 「かんかん森」 の自主運営のなかで興味深いのは、 居住者が活動グループを結成して共用スペースを上手に活かしていることだ。 ガーデニング、 木工、 お掃除、 ランドリー、 などのグループがある。 このなかでも活発な活動グループが、 ガーデニンググループである。 コモンテラスの植栽・緑化、 菜園テラスの管理運営、 コンポストの管理、 緑化備品の管理、 年間作業計画の作成、 緑化・環境勉強会の開催を行っている。 菜園テラスでは木工グループ手作りのプランターが大活躍するといった具合である。 そこでは多種多様のハーブ、 夏野菜、 青じそ、 青ねぎ、 茄子などを栽培していて、 多くの居住者をひきつける趣味と実益を兼ねた活動となっている。


新たなコミュニケーションの芽ばえ
 それでは、 「かんかん森」 において居住者は何を得たのだろうか。
 既存の住まい方では得られない、 全く新しい関係性を自然な形で獲得したことではないだろうか。 「かんかん森」 には男性も女性も、 若い人も年を取った人も住んでいて、 そのコミュニティは様々な人たちから成り立っている。 だから、 居住者は自分自身の世界を広げる可能性を得たともいえる。 一生出会うことがなかったような人と出会えたことに、 大きな満足感を得た人もいたそうだ。
 たとえば、 企業戦士と専業主婦というご夫妻が定年退職を機会に入居されてきた時の事例を取り上げよう。 当初は、 ダンナが 「ビール! コップ!」 と奥さんに命令しているような調子だった。 ところが 「かんかん森」 では、 食堂でつい 「おかわり!」 と奥さんにお茶碗を差し出そうものなら、 すかさず20歳代の若いカップルに 「自分で行けば?」 と言われてしまう。 また、 ここではダンナも料理を作らねばならない。 「嫌だ、 嫌だ」 と言いながらエプロンを掛けて料理しはじめる。 しかし、 よその30歳代の女性に 「上手になったね」 などといわれて、 徐々に面白くなり自然にできるようになっていく。 専業主婦であった奥さんの言葉によれば 「夫婦だけでやっていたらきっとケンカになっていたと思う」 とのことで、 ご当人達もおどろく変化だ。
 ほかにも、 おばあちゃんが30代の未婚の女性に 「ワカメの筋はこうとるのよ」 と料理のコツを伝えている。 お姑さんに言われるとムッとしてしまうようなことでも、 「かんかん森」 のおばあちゃんに教えられることで、 若い女性は素直に聞ける。 さらに、 それぞれの居住者自身がこうした生活文化といえるものを出し合うことによって、 多くの生活文化が融合されて、 「かんかん森」 独自の生活文化を創造していく可能性すら秘めている。
 こういった多様性は、 もめごとがおこったときにも話し合って解決する土壌となっている。 例えば、 50歳代の方々同士でヒートアップするのを20歳代の人が 「あのねえ」 とクールダウンさせるといった調子だ。 同じような役割を息子や娘がしようとした場合、 火に油を注ぎこむ結果にもなりかねないが、 「かんかん森」 では、 家族以外の人に言ってもらえるため、 一定の距離感があってうまくいく。
 これだけではない。 「かんかん森」 の住人は道路際の花壇を管理しているが、 これを通して地域住民との交流も進んでいる。 花壇の世話をしていると地域の人たちに声をかけてもらえるのである。
 以上のように、 コレクティブハウスに住まうことで、 居住者はいろいろな関係性を自然につくりあげることができる。 「今日はずっとだれかとしゃべりたい」 と思うなら、 コモンルームに出てくれば良い。 ならば、 いろいろな人が入れ替わり立ち替わりやってくるはずだ。 誰とも会いたくない日は、 部屋から出ないでおくという選択肢だってあるのだ。 そのような適度な関係性を的確に表現したコメントが 「かんかん森」 居住者組合発行の 『森の風たより一周年記念号』 にあった。 すなわち 「入居当初、 多少のぎこちなさはあったものの思った以上の心地よさを体感している。 友人というほど密接でもない、 知人というほど遠い関係でもない、 人と人との程よい距離感と、 信頼関係に裏打ちされた連帯感、 そしてしっかり守られている個人の自由な生活」 と。


新たな住まい方の模索を続けて
 試行錯誤のなかで始まった 「かんかん森」 も入居開始から一年を迎え、 多くの壁を乗り越えてきたことは間違いなかろう。 しかしそれでもなお、 コレクティブハウスに住まうこと、 すなわちコレクティブハウジングという新たな住まい方には、 乗り越えるべき課題は多いと思われる。 7月4日に開催された 「かんかん森」 一周年記念パーティで催された、 居住者が演ずる寸劇のなかにもそれは見つけることができた。 たとえば、 割り当てられた調理や掃除の当番に居住者がどのように取り組むか、 という問題はとりわけ典型的なものであろう。 このような当番をより楽しいものにしていく工夫はずいぶんなされているが、 義務感にせかされて担当することも、 やはりないとは言えない。 もしもこの事態が現実のものとなると、 積極的に当番をする人とそうでない人に別かれてしまう。 しかもこの寸劇の中ではこのような問題点を解決する方策は明確に示されなかった。
 しかしそれでもなお、 「かんかん森」 の居住者自身が寸劇のなかで敢えて問題点を提示したことは無駄ではない。 すなわち、 居住者自身が自らの問題を出し合うことによりコミュニケーションを図っていること、 これ自体がとても重要なことだからだ。 しかも、 「かんかん森」 の居住者は、 ほかの多くの問題についても解決への努力を決して放棄していない。 居住者間においては今後もありとあらゆる問題が浮上しよう。 しかし、 居住者間で意見を活発に交換し問題の解決を図っていく、 というコレクティブハウス運営の基本が堅持されるなら、 これらの問題を少しずつ乗り越えることができるだろう。 逆に、 問題点が明らかになるほど、 ますます楽しみであるとも言える。 なぜなら、 これを通して更なる発展・展開の礎ができるからだ。
 現代においては、 一旦個別化され互いに隔離された関係におちいった都市の家族と世帯が、 再度それぞれの間のかかわり合い方を模索している。 この事実は疑いようもない。 だからこそ、 コレクティブハウジングという新しい住まい方は、 これからも注目を集めつづけるに違いない。

参考資料)
小谷部育子編著 『コレクティブハウジングで暮らそう:成熟社会のライフスタイルと住まいの選択』 丸善株式会社、 2004年。
小谷部育子 『コレクティブハウジングの勧め』 丸善株式会社、 1997年。
特定非営利活動法人コレクティブハウジング社 『コレクティブハウジングの勧め: 「コレクティブハウスかんかん森」 から学ぶ』 2003年。
コレクティブハウスかんかん森居住者組合森の風 『森の風たより』 第2号、 2004年。


文責:名和洋人 (京都大学大学院
経済学研究科 博士後期課程)

〈コレクティブハウスかんかん森平面図〉
〈共有スペース・工作テラス〉
〈共有スペース・菜園テラス〉
〈15のグループ活動〉