災転 霞流一 角川ホラー文庫 705円+消費税
 霞流一初のホラー長編。

 墓が曲がるという怪事件が起きる。この怪事件の調査を依頼された(正確には責任を問われた)墓石作りを生業とする男が怪事件の調査をする過程で様々な異様な死体が出てくる事件が。果たして事件は誰が起こしているのか。そして、何故そこまでむごたらしい殺し方をするのか。
 スプラッタな死体がごろりと転がるが、途中の展開はホラーっぽくない。寧ろミステリと言うか新堂冬樹の黒い方と言うか。所々黒いジョークが挟まれたりする。この辺はホラーと言えども変わらないと言うか、ホラーだからこそ黒いジョークに拍車がかかると言うか。

 ホラーとしてキチンとなってくるのはホント終盤で、それまではいつも通りの霞流一作品と言っても良い。読んでいてこれって角川ホラー文庫から出たものだよね、と思ってしまったのはここだけの話。まぁ、ブレがないと言うだけの話だけれども。尤も、石で出来た墓が曲がると言う発端故に或る意味ホラーでなければ何なんだ、となるのだが。
 作者が元々ミステリの人故に怪現象を追う手腕はミステリのそれだ。登場人物は色々と壊れた人ばっかだが、壊れ方に芸があると言うか。サドの金融会社社長に博打狂いの落語家やゴムフェチとか。読んでいてVシネマを連想したり。「ミナ○の帝王」とかその辺とB級ホラーのミックスのような感じが。色々とえげつないところが。

 それまでに起きた怪現象には一応は「筋道だった」「解決」がつけられる。それはホラーのロジックに沿ったものであり、本書はホラーミステリ(或いはSFミステリの範疇内)と言うべきものになっている。やはり、霞流一はホラーではなくミステリの人だったと言うことであろう。本書は一応はホラーになるが(レーベルもホラー文庫だし)、広い意味でのミステリになるのか。或いは謎解き要素もあるホラーというべきか。
 蓋を開けてみればいつも通り(?)。動物のモチーフはないけど霞流一印いっぱいの作品と言える。

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すきま 倉阪鬼一郎 角川ホラー文庫 590円+消費税
 角川ホラー文庫の三文字シリーズの第2弾。

 家の中に何かいる……。隙間から何かがのぞいているのではないのか、と言う恐怖。その家には過去に凄惨な事件が起きたという事実があった。住む人間に襲い来る何か。果たして生き残ることができるのか。
 引っ越してきた家で何かが起きる、と言うのはホラーの常道と言えよう。何もなかったらそれこそびっくりな話で。個人的に本書から同じ角川ホラー文庫から出ている小池真理子の『墓地を見下ろす家』を連想したが全くと言っていいほど関係がない。

 作中俳句が割と重要な小道具として使われたり、また、漢字が恐怖の演出に一役買っているのは倉阪ホラーの定石みたいなものだが本書ではレイアウトと言うか文字組も一役買っている。この辺は泡坂妻夫の仕掛け本顔負けの作品を幾つかものにしている作者ならではのものがあると思う。

 聖域修復士が出ているのも要注目と言うところか。怪異を祓うゴーストハンターっぽい役割を担うはずだがそうではないような。いや、それなりにお役目は果たしているのだがいまいち目立たない。意図してそうしているように思えてならないがどうなんだろ。

 それにしても隙間を巡る嫌さ感は何とも言えないものがあると思う。日常で必ず生じるものを恐怖の対象としてじわりじわりと怖さを出していく。チョットどころではなく切れておかしくなった人間の呪詛とも怨念とも言える何かとあいまって独特の怖ろしさを出している。この恐怖は作者にしか出し得ないものであるのは確かだ。
 シリーズとしてどうしていくか気になるところ。作者らしいシリーズになるのかな、と思ったり。

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スナッチ 西澤保彦 光文社 1700円+消費税
 ノンシリーズ長編書き下ろし。

 22歳のぼくは気がついたら53歳になっていた……。その原因は22歳のある日降ってきた未確認生命体が寄生したため。30年の空白を埋めるべく、ぼくは色々と動く。そんな中で様々なショックなことが判明したりするのであるのだが……。
 本書は一連の初期SFミステリ群に比べるとミステリ成分よりSF成分の方が多い気がする。まぁ、本書がSFミステリかどうかは別として。どっちかというとSFの中にミステリがチョットあると言う方が正確かも。それはSFミステリではないのか、と言うツッコミはさておいて。

 突然の天災めいた事象が原因で特異な状況になるのは『複製症候群』(講談社文庫 ・品切れ)と共通するものが。が、こっちは時間の幅が広い。なんせ30年である。30年前と今ではホント隔世の感があり、混乱するのも無理ない話で。その混乱を収める一貫としての行動が思いもよらぬ方向に転がっていく。
 本書は或る意味憑き物テーマだよなぁ。憑き物テーマはホラーのジャンルのようだし、本書はホラーではなくSFでなおかつ怖さは皆無だし。一風変わった憑き物テーマ作品と言えなくもないかも。元ネタとなったジャック・フィニィの『盗まれた街』(ハヤカワ文庫SF)はその辺どうなんだろ。

 一連の事件の犯人の行動の理由はこの設定ならではのもので、なおかつ作者らしい歪んだ、そしていびつなものになっている。西澤保彦作品には一種異様な動機が提示されることがままあるが、SF設定とここまで密接に関わってくるものってあったっけ。いや、異様な動機はSF設定のないミステリでの印象が強いので。
 余談だが、本書は初の作者の地元の高知が舞台の作品らしい。こういう作品の舞台に選ぶとは。舞台が高知になったのは結構偶然の要素が強いようだが高知が舞台にならなかったらどんな作品になったか気になるところである。

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光媒の花 道尾秀介 集英社 1400円+消費税
 山本周五郎賞受賞作。「小説すばる」(集英社)掲載作品をまとめたもの。
 本書は緩やかな連作で、或る作品に登場する人物が別の作品でひょっこり出てきたりすると言うものになっている。
 以下は各編の感想。

「隠れ鬼」
 過去の記憶。少年が夏の日に出会った女性との事を何故呆けた母は絵に描く事が出来たのか。淡々と語られ、淡々と終わっていく。迫る老いと少年だった日とのコントラストが印象に残る作品と言えよう。
「虫送り」
 少年はひとりの男を殺してしまう。殺してしまった時間が夜だった故に向こうにいたはずの人間が何か見ていたのではないか、と思ってそこに赴いたが……。何か切なさを感じる一編。少年の犯行であると登場人物の1人が気づくあたり倒叙っぽいがそんなことはない。
「冬の蝶」
 少年に声をかけた男は、過去に思いを馳せていた。己の行動に後悔をしているのか。どこか甘くない思い出はセピア色と言うよりモノクロで一昔前のドラマを見ているような感じがある。
「春の蝶」
 近所で起きた盗難事件と耳の聞こえない少女との関係は。さりげない所に伏線というか布石を置いているのはさすが、と言うところ。語り手の正体′フの切なさは本編最大のポイントであろう。
「風媒花」
 姉が病気で入院する、と聞かされた弟は……。母親と弟との仲が悪いのを気に病む姉、と言う図式が思いもよらないところに転がっていくのは面白い。
「遠い光」
 新米の担任がと或る生徒の家庭の事情に振り回される話……と言うのは間違いではないが合ってもいない。本編で印象に残るのは印鑑屋さんで語り手が来いた子供の声。素直に解釈してもよし、ひねって解釈して切なくなるもよしなものになっている。

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粘膜蜥蜴 飴村行 角川ホラー文庫 667円+消費税
 各種ランキングで話題になり、日本推理作家協会賞を受賞した飴村行の第2作目。

〈ヘルビノ〉と言う蜥蜴の顔をした獣人は主人である少年に従っていた。少年の暴君ぶりは留まることを知らず、様々な無茶な要求を突きつける。そんな中、少年は人を一人殺してしまって……。一方、軍の命令で麻薬王の警護を請け負わざるを得なかった軍人はと言うと……。
 デビュー作には己の読みたいものをただ欲求に任せて書いたもの、と言う側面があるようだ。本書は、己の欲求を満足させた後のものだからか或る意味憑き物が落ちた賢者状態で書かれたような、スマートな感触もある。鮮やかな背負い投げが決まっているのだ。ここでこうくるのか! と言う驚きがあったりする。

 所謂探偵小説、しかも変格探偵小説テイスト溢れるのは前作同様。完全に小栗虫太郎や香山滋の秘境小説ラインであり、その後継者であろう。小栗虫太郎の秘境小説である『人外魔境』が本書と同じ角川ホラー文庫から出ていたことを考えると興味深いものが。
 前作『粘膜人間』もそうだったが、短編連作めいた所があるのは踏襲している。共通するのは蜥蜴人間である。〈ヘルビノ〉なのだが、これの扱いが巧い。マッドサイエンティストめいた発想の研究をする人間や東南アジアの奥地で〈ヘルビノ〉を捕獲する麻薬王と〈ヘルビノ〉を中心にしてカタストロフへ続く道のりをひた走る。

 正直ここまでのものとは思わなかった、と言うところ。ホラーとしての正道と変格探偵小説の味わい。これらが一体となって本書の何物にも代え難いものになっているのだ。本書のラストのカタストロフはなかなか他では見られない。グランギニョルでありながらも悲しさとショッキングさを備えたものであり、色んな意味で一読忘れがたいインパクトを与える。
 飴村行と言う作家を一挙に知らしめた作品。ホラー好きのみならず変格探偵小説好きなら読み落としてはならない作品でしょう。

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明日の空 貫井徳郎 集英社 円+消費税
 貫井徳郎の10年ぶりとなる書き下ろし長編。

 帰国子女の栄美は新たな生活を日本で送ることになる。転入した高校では友達に恵まれ、又、思いを寄せる男の子もできたりと順風満帆な高校生活を送れるかに思えたのであるのだが……。気になる男の子デートしようとすると奇妙な横やりが何度となく入ってきて……。
 帯やプロモーションのツイッターなんかで本書がミステリに分類されることは明らかになっているが、実はジャンルを含めて何の先入観なしに読んだ方がいいかもしれない。まぁ、作者が貫井徳郎と言うミステリ作家であると言う「情報」がある故に先入観も糞もない気がしないではないのだけれどもw

 一見何の変哲もないふたつのパートが如何にしてミステリになるのか、と言うのはなかなか見抜くことは難しい。作者の仕掛けた罠は至る所に張り巡らされ、明かされたときは間違いなくあっと言わされるであろう。或る意味『慟哭』(創元推理文庫)の作者らしいと思わせられなくもない所がある。
 本書の素晴らしい所はミスリードの巧さに尽きる。全て明らかになった後に読み返すと、そこらかしらに思考を操る、先入観を利用したミスリードが至る所にあるのがわかるだろう。加えてアンフェアにならない伏線の敷き方も徹底されておりその辺の巧みさも素晴らしいものになっている。

 更に面白いのは、物語の裏に隠されたものが明らかになることで爽やかな読後感になる事であろう。ミステリの驚きは、ほとんどが爽やかさに繋がらない。寧ろショッキングさや嫌な気分を喚起させかねないものがあるのではなかろうか。本書の構図やミステリの要素がもたらす効果は、或る意味作者らしいし或る意味作者らしくないように思えたりする。
 山田風太郎の『太陽黒点』みたいに何の予備知識なしに読んで欲しい作品。何も考えずに最後のページまで行って欲しいと思う。

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熱い視線 北川歩実 徳間文庫 629円+消費税
「問題小説」(徳間書店)などに発表されたものをまとめた文庫オリジナル。初出の年代が前なのはご愛敬(?)。いずれにせよ、うれしい贈り物である。
 以下、各編の感想。

「恋人気取り」
 二転三転する関係。ツイストの効いた作品でラストまで目が離せない。
「瞳の輝きを求めて」
 ダッチワイフ開発の際の最難関を突破するために旧知の人間にアクセスしたことから物語が動き出す。ラストで手に持っているものが何なのか想像するとぞっとするものが。
「赤い服の女」
 赤い服を着た幽霊の正体は何なのか。事実が明らかになるプロセスは徐々なのだが、一個一個が怖い。一転真相は現実的だ。
「ポケットの中の遺書」
 イジメを苦にして自殺を図った少年。一命を取り留めはしたものの……。視点が変われば見えるものも違ってくる。ガラッと構図が入れ替わる所が見事。
「長い冬」
 受験、引きこもり、替え玉。社会派と言いたくなる要素でこうもツイストを効かせられるとは。最後の反転は作者ならでは、と言うか、えげつないものがあると思う。
「心の眼鏡」
 自分が過去に売りつけた商品が行く手を阻んでいく。色んな意味で自業自得と言うか、怪しげな訪問販売グッズでこうもひねることができるとは。
「見知らぬ女」
 アリバイの目撃者を探していたら酷い目に。これまた二転三転。要素そのものはありふれてるものだが素材の扱いが巧すぎる。
「熱い視線」
 邪魔者を消そうと企んだ男がとった行動とは。まさかという要素が入ることで意外な所が見えてくる。これまた巧いと思わせるものが。

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伽羅の橋 叶紙器 光文社 1800円+消費税
 第2回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。

 空襲時に起きた凄惨な事件は事件関係者の心に深い傷を残した。その事件から半世紀が経ち、犯人と目された人物は老齢になって老人福祉施設にお世話になることに。が、この事件が遠因で進退が窮まる。老人の無実を信じる職員がこの事件の犯人は別にいると断じ、調べを進めるのであるが……。
 大阪の空襲の時に起きた事件を調べるのは介護老人保健施設の職員。一人の老婆の進退を賭けて謎解きをしなければならないのであるが、謎解きをする人が所謂名探偵でなく刑事でもないのは興味深い。何より不可解な事件の謎解きをしないといけない必然性があるのが面白いところである。

 本書で使われているトリックはかなり大掛かりかつあの時代、あの時でしか成立しえないものだ。選評で島田荘司は自作の『ひらけ!勝鬨橋』(角川文庫)や『都市のトパーズ』(集英社文庫)に言及しているが(残念ながら私は未読だ)、個人的には同じ島田荘司の『奇想、天を動かす』(光文社文庫)を連想した。トリックの傾向ではなく、現在の人間が過去の事件を今の人のために調べる所や戦争が生みだした悲劇と言うところからなのだが。
 また、阪神淡路大震災と大阪の空襲の対比が非常に面白いものになっている。クライマックスシーンはミステリ史上屈指の名場面ではなかろうかという勢いだ。何故物語の舞台が1994年から1995年にかけてなのか、と言うのは寿命だけではなく阪神淡路大震災の存在もあると思う。

 それにしても、かなり大きなトリックだと思う。これを「発見」し、物語に落とし込む舞台にまさか介護の現場が選ばれるとは。無論、作者の職場環境も関係しているのかもしれないが今までにない発想の落とし込みであり、もしかするとミステリ史上初の試みではなかろうかと思ったりする。本書はミステリに必要なものは結局の所「奇想」なのだと言うのを示した作品だと思う。そう考えると島田荘司の賞賛も納得行くと言うもの。
 ミステリ界に新たな書き手が生まれたことを素直に喜びたい。次がどのようなものになるか今から楽しみである。

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貴族探偵 麻耶雄嵩 集英社 1400円+消費税
「小説すばる」(集英社)に不定期掲載されたものの単行本化。初出一覧を見ると掲載の間がだいぶ空いているのになんか悲しいものを感じたり。
 以下は各編の感想。

「ウィーンの森の物語」
 貴族探偵登場編。ベタなシチュエーションであるが、だからこそ貴族探偵と言う珍妙なものの存在が際だつ。謎解きはストレートなものである。
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」
 恐喝者に強請られていた人間が疑われるも強固なアリバイが。警察と名乗る2人組の正体は。アリバイトリックはなにげにトリッキーと言うかショッキングと言うか。インパクトある一編である。
「こうもり」
 女子大生2人組の旅行先で起きた殺人事件。貴族探偵の登場タイミングや最後の一言なんか結構笑えるものが。何よりシチュエーションだけとりだしたら2時間サスペンスにありそうなのは或る意味驚き。単純なトリックながらも仕込みや演出は充分である。
「加速度円舞曲ワルツ
 転がってきた石が事件へのいざないだった。かなり大掛かりなネタがさらりと。と言うか、ドミノ倒しのように事態が転がっていくのが笑えて仕方がない。
「春の声」
 婿選びの為に集められた男が次々と殺されて……。貴族探偵の使用人大集合。一人一人が推理していく所は圧巻。真相の地味に大掛かりな所はインパクトがある。

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白蛇の洗礼 毒草師U 高田崇史 朝日新聞出版 1600円+消費税
《QED》シリーズ外伝第2弾。

 お茶会の席で起きた不可解な毒殺事件。またもや妙な事件に巻き込まれた出版社勤務の若者は、毒草師である御名方史紋に助力を仰ぐことに。この事件の裏には千利休の自刃の謎も絡んでいるとかいないとか。果たして事件の行方や如何に。
 毒草師が活躍するからと言うわけでもないだろうが、本書は毒殺事件がメインとなってくる。誰が如何にして毒を仕込んだのか。加えて千利休と言う茶人の謎も加わって面白くなっていく。この辺の捌き方やプロットを転がしていく手腕は結構堂に入ったもの(歴史+殺人は《QED》シリーズで使いまくっているパターン≠ネので当たり前と言えば当たり前か)。

 トリッキーと言えばトリッキーだが反則と言えば反則と言うか。思わず山風忍法帖か! と突っ込んでしまいたくなるような所も。明かされたときはアニメ化もされた山田風太郎の『甲賀忍法帖』(講談社文庫)を原作とする『バジリスク』の絵が浮かんだのだが、それは私だけか。
 更に、千利休に関する謎解きは色んな意味で興味深いものが。かなり強引にまとめてしまった感が無きにしもあらずであるのだが。と言うより、歴史の謎解きって強引さも必要だよね。学術論文じゃないんだから厳密さはいらないよね、と言う話だけれども。

 また、登場人物の一人の秘密が明らかに。尤も、或る意味隠されてないので秘密ではないのだろうけれども。加えてレギュラーキャラ登場、と言うのもあってシリーズ継続なんだろうけれども本書刊行以降続刊はない。シリーズがこのままV、Wと続くか《QED》シリーズと合流するのか。いずれにしても《カンナ》のシリーズの完結次第か。
 取り敢えず、続刊希望と言うところで。出るかどうか版元次第?

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