運命のボタン リチャード・マシスン 早川文庫NV 840円+消費税
 表題作の映画版公開に会わせて編まれた日本オリジナル短編集。映画化の是非や映画の内容はさておき、こういう機会があるとひょっこりと未紹介のものが紹介されたりすることもあるから映像化というのは大歓迎と言うべきであろう。
 以下、各編の感想。

「運命のボタン」
 記憶が確かなら似たような趣向と言うか設定のものを「世にも奇妙な物語」で見た覚えが。解説で『激突!』(ハヤカワ文庫NV・絶版)の解説に本編が紹介されているとあるのでその解説に影響を受けたのか。オチはまさに世にも奇妙な物語≠ニ言う感じなんだけれども。
「針」
 チトおかしくなった人が呪い殺そうとした人の正体は笑えるものがあり印象深いものが。
「魔女戦線」
 どこかラノベっぽさを感じるのは気のせいか。超能力を持つ少女の兵士、と言うところで感じたのか。
「わらが匂う」
 マシスンが《異色作家短編》の人だと改めて思わされる一編。シュールと言うかなんというか。
「チャンネル・ゼロ」
 何となく原文でどう叙述されているか気になったり。テレビと言うものが娯楽の王であったころの作品と言えるかも。
「戸口に立つ少女」
 或る意味甦る死者と言うべきか。『アイ・アム・レジェンド』(ハヤカワ文庫NV)の作者だからこその恐怖、と言うわけではないが関連づけたくなる誘惑には駆られる。
「ショック・ウェーヴ」
 日本にはつくも神というものがあるが、似たような発想と言えるかも。いや、違うか。
「帰還」
 時間旅行が出きるようになって500年後に実験で行くようになったときに起きた悲劇。まさに悲劇的としかいいようのない展開であり、ドラマ向きというか映像的というか。
「死の部屋のなかで」
 砂漠の中のお店の中で夫が消えた、と言うのはタイトルは失念したが行機の中で子供が消えたと言う設定の映画に通じるものがあると思う。
「小犬」
 犬というと猫ほどはSF或いはホラーにはさほど出てこない印象がある。本編はその犬が重要な役割を果たす一編で、幕切れの或る種の不気味さが残る作品である。
「四角い墓場」
 タイトルが指す場所はリングのこと。作中の年代が90年代なので最近の作かとおもえば1950年代のもの。つまりは本編は未来を舞台にしたSFなのだ。ボクシングがネタになっており、どう処理しているががポイントになっている。
「声なき叫び」
 両親が死んでひとりぼっちになった少年。少年は一言も喋ることができなかった。それは何故に。少年が何故喋ることができなかったか、と言うのが最大のポイント。理由が明らかになって後の展開はチョット心温まるものがあると思う。
「二万フィートの悪夢」
 グレムリンが見えた男の苦悩や如何に。この辺の処理のしかたは或る意味真っ当というか。是非映像でみたいと思わされる。

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蝦蟇倉市事件 全2巻 伊坂幸太郎他 東京創元社 共に1700円+消費税
《ミステリ・フロンティア》参加作家や新鋭(《ミステリ・フロンティア》参加予定か?)が参加しているアンソロジー。蝦蟇倉市と言う、何故か不可能犯罪が頻繁に起きる都市が舞台の競作で登場人物がクロスオーバーする楽しみもあったりする。一応2冊が刊行されているがまだまだ続けられそうな企画なので是非ともパート3、パート4と出して欲しいと思う。
 以下、各編の感想。

「弓投げの崖を見てはいけない」(道尾秀介)★★★☆
 作者の持ち味が出ている一編。読者の予想を真相からかけ離れた所に持って行くミスリードの手腕はさすが。
「浜田青年ホントスカ」(伊坂幸太郎)★★★☆
 雰囲気どころか真相もひょうひょうとしていて、なおかつすっとぼけている。作者らしい一編でこの辺の作風に又戻ってきて欲しいと思わされる。
「不可能犯罪係自身の事件」(大山誠一郎)★★★★
 ワインを勧める冒頭にアメリカの不可能犯罪のメッカであるノースモントへの言及と明らかにホックのサム・ホーソーンシリーズを意識している。不可能犯罪と或る意味笑える物理トリック、二段三段で構えられている真相などインパクトは十分なものが。何より犯行動機がふるっているから忘れられない一編になっている。
「大黒天」(福田栄一)★★★☆
 何の変哲のない、素人が作った木彫りの大黒天が何故騙し取られなければならなかったのか。あれよあれよというまに進んで終わった、と言う感じだ。
「Gカップ・フェイント」(伯方雪日)★★★☆
 作者得意の格闘ミステリ。蝦蟇倉を格闘のメッカにしようと企む市長の思惑で開催された大会で不可能犯罪が起きるのはこの競作のテンプレみたいなもんか。事件解決の手掛かりが試合にある、と言うのは作者らしいところ。
 
「さくら炎上」(北山猛邦)★★★☆
 何故友人は学校の生徒を次々と殺していったのか。色々と切ない感じがする一編。ミッシングリンクの真相は突拍子のないものだが、どこかありそうと思うのは蝦蟇倉市が舞台故なのか。
「毒入りローストビーフ事件」(桜坂洋)★★★☆
 バークリーの『毒入りチョコレート事件』(創元推理文庫)に挑んだ多重解決もの。推理の行方もさることながらラストに待ち受けるシーンはどこか人を喰った感じがするのは気のせいか。
「密室の本――真知博士 五十番目の事件」(村崎友)★★★☆
 大量の古書に密室、不可能犯罪とマニア垂涎のシチュエーション。と言うか『横溝正史読本』の古書価に言及のあるものってなかなかない。作者のマニアな一面が伺えそうな一編で、動機もマニアなものになっている。
「観客席からの眺め」(越谷オサム)★★★
 どこか淡々とした雰囲気ある作品。サイコっぽい所があったりするが或る意味真っ当(?)というか切ないと言うか。とにかく不思議な作品と言える。
「消えた左腕事件」(秋月涼介)★★★☆
 不可能犯罪捜査のエキスパートである真知博士またもや登場。この感じでは真知博士登場の書き下ろしアンソロジーでも出るんではないか、と思ってしまったり。真相のずらしかたはチョット笑ってしまったり。
「ナイフを失われた思い出の中に」(米澤穂信)★★★
 奇妙な状況とそれを観察するもの。本編は作者の連作の一編を蝦蟇倉市を舞台にやる、と言う実験的とも言えなくもない作品になっている

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綺想宮殺人事件 芦辺拓 東京創元社 2400円+消費税
「ミステリーズ!」(東京創元社)連載作品。

 琵琶湖の湖畔にある《綺想宮》を訪れた森江春策はそこを舞台にした奇っ怪な殺人事件に巻き込まれることになる。この場所で起きた連続見立て殺人が意味するものは何なのか。そして、次々と屠られる害者に共通するものは何なのか。この蠱惑的な衒学に彩られた殺人事件に対して森江春策に打つ手は残されているのであろうか。
「最後の探偵小説、あるいは探偵小説の最期」と謳っている以上、アンチミステリじゃないよね? と後書きで確認するのはどうかと思うw とは言え、私見では、本書がアンチミステリかと聞かれれば違うと思う。言うなればアンチ・アンチミステリと言うべきであろう。アンチミステリをどう捉えるかにもよるのだが。本書にあるのは奇書と言われる一連の作品への憧憬より寧ろ反発だと思う。無論、本書をアンチ・アンチミステリと感じるのはそれだけが理由ではないのだけれども。

 芦辺拓の代表作に『紅楼夢の殺人』(文春文庫)や『グラン・ギニョール城』(創元推理文庫)が挙がることが少なくないと思うが、本書はこれらの作品の――さりげなく、そして大胆にミステリの中核に突っ込んでいく――系譜であろう。加えて『十三番目の陪審員』(同)や『時の誘拐』(講談社文庫)と言った反権力志向の系譜とも重なるものが。とにかく本書が新たなる代表作として位置づけられるのは間違いないところ。
 本書が小栗虫太郎が描いた大伽藍、『黒死館殺人事件』を意識しまくっているのは言うまでもない。氾濫する衒学、ミステリ専門誌への連載(『黒死館殺人事件』は「新青年」連載)と言ったところだけでなく本家で法水の相棒の検事に対応させるべくツンデレ検事の菊園検事が出てきたのは笑ってしまった。小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』と言えば衒学、というくらい切っても切り離せない関係にあるが、この衒学趣味を踏襲しつつもその裏ではぢつは小馬鹿にしていると言うのは笑える。まぁ、作者の意図として小馬鹿にする意図があったかは定かではないが。解決編に於いてこの衒学趣味に関して実に現代的と言うか今風に解決させたのは興味深いところ。色々と思うところがあったんだろうなぁ。

 そしてラスト。ミステリに於ける視点(或いは記述者)の問題にずいっと切り込んでいく。この辺を以てして本書をアンチミステリと呼ぶ人もいるかも。まさかここにきてまで、と言う感じだ。色んな意味で「最後の探偵小説、あるいは探偵小説の最期」と言う惹句にふさわしいものになっている。
 間違いなく2010年を代表する1冊。ミステリ読者必読必携であろう。

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虚擬街頭漂流記 寵物先生ミスター・ペッツ 文藝春秋 1800円+消費税
 第1回島田荘司推理小説賞受賞作。

 仮想空間の中に移された街並み。そこで起きた恐るべき殺人事件は現実世界に影響を及ぼし、その街の存続が危ぶまれるほどの事件になった。果たして犯人は誰なのか。そして、仮想空間の中の街の運命はどうなるのか。様々な思いが交差し、事態は混迷を極めていく。
 ヴァーチャル・リアリティの中で殺人が起きてなおかつ現実世界でも人が死んでいる。結構今風と言うか21世紀的である。近年のヴァーチャル・リアリティとミステリと言えば、黒田研二の『幻影のペルセポネ 』(文藝春秋)が既に日本ではある。本書と黒田研二作品の両作品が同じ文藝春秋から出た奇縁は興味深いものが。

 選評で島田荘司はこのような作品がSFではなくミステリから出たのは云々と書いているが、結局の所ヴァーチャル・リアリティ自体がもはやSFのネタとしてあまりにもロマンを掻き立てるものではなくなったと言うのが実際の所かも。岡嶋二人の『クラインの壺』(講談社文庫)から20年以上が経っているのだ。
 とは言うものの、本書を敢えて言うならば、SFミステリに少し踏み込んでいる作品である。ただ、SF云々で言うとSFとしてのロマンはほとんどない。西澤保彦の初期SFミステリ作品群の方がまだSFとしてのロマンがあった気がする。もはやSFにロマン云々言うのは時代遅れかもしれないけれどもそこはそれとして。

 本書で試みられたものは仮想空間でしか成立しえないものであるが、叙述トリックが仕掛けられているのが新鮮と言うか。パソコンのネットワークやこういった仮想空間が関わると叙述トリックはあるものとおもうが、SFミステリにチョット踏み込んでいると言う観点が目くらましになっている。なんとなくSFミステリと叙述トリックがつながらないからなのだが。まぁ、これは私だけと思う。
 ミステリはどこまで広がっていくのか。色々と楽しみではあると思う。本書を機に台湾のミステリがもっと多く紹介されることを願う。

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本格ミステリ’10 本格ミステリ作家クラブ編 講談社ノベルス 1280円+消費税
 本格ミステリ作家クラブが編むアンソロジーも今回で10冊目。思えば遠くに来たものであり、更に遠くまで行ってほしいものである。
 以下、各編の感想。

「サソリの紅い心臓」(法月綸太郎)★★★☆
 相変わらず手堅い。と言うか、作者は結構アイドル好きなんだな、と思ったり。
「札幌ジンギスカンの謎」(山田正紀)★★★☆
 短編の中に盛りだくさんの趣向が凝らされている。サービス精神溢れる一編で早く単行本にならないのかしらん、と思ったり。
「佳也子の屋根に雪ふりつむ」(大山誠一郎)★★★☆
 雪密室を解くのに為されたアプローチが面白い。ただひたすら、色んな意味で切ない一編だと思う。
「我が家の序列」(黒田研二)★★★☆
 良い話だなぁ。と言うか、家族にまつわる連作もそろそろまとまる頃合いか。
「《せうえうか》の秘密」(乾くるみ)★★★☆
 隠れた(?)暗号ものの第一人者の手による一編。非常にややこしく、また、暗号ものとして面白いのはさすが。
「凍れるルーシー」(梓崎優)★★★★
 最後の1行のショッキングさは忘れがたいものが。
「星風よ、淀みに吹け」(小川一水)★★★☆
 シチュエーションはSFっぽいが内容は紛う事なきド本格。こういうのはなかなか今はないので嬉しいものが。
「イタリア国旗の食卓」(谷原秋桜子)★★★☆
 シリーズ番外編より。細々としたポイントが一気に繋がるのはさすがと言うところ。

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マドンナ・ヴェルデ 海堂尊 新潮社 1500円+消費税
「小説新潮」(新潮社)連載作品。今回のテーマは代理出産である。

『ジーン・ワルツ』(新潮文庫)の裏側で何が起きていたのか。産婦人科医の理恵は代理出産を行おうとするが、その代理出産を行う代理母に自分の母親を選んだのだ。  代理出産の母体を自分の母親にする、と言うのは結構ショッキングなシチュエーションかも。代理出産そのものの法整備が無されてない故の盲点を突いた感もあるこのシチュエーションは流石は冷徹な魔女≠フ異名をもつキャラだけあるわ、と思わせるものが。

 本書は海堂尊が描く桜宮市サーガの一部であるが、まさかここで『医者のたまご』(理論社)に繋がる誕生秘話がここまで詳細に描かれるとは、と驚いたり。この辺は海堂尊作品を読み続けている人向けのくすぐりだったりするのであるのだが。そもそもが『ジーン・ワルツ』の裏側なので驚くことでもないかもしれないのだが。
 更に驚くべき事に(?)本書にはミステリとしてのものが皆無だ。遺伝的には孫にあたる子供を代理出産する女性の視点で物語は進んでいくのだけれども淡々と日常が流れていくにすぎない。所々「意外な」事がわかったり起こったりするんだけれども、それだけというか。もしかすると今後起こる大きな事件の序章として本書は位置付けられる故のこの展開なのか。いずれにしてもお産、或いは産婦人科と言う題材はまだまだ何かありそうな気もするので期待。

 それにしてもこの桜宮市サーガって医療を考える上で面白い題材を巧く処理しているよなぁ。本書では終幕の代理出産をする女性の疑問、問いかけ、行動、そして結果が代理出産にたいする一つの提言になっている気がする。気のせいかもしれないけれども。
 作者の作品世界が今後どう展開していくか色々と思いを馳せさせてくれる1冊と思う。取り合えず、新潮社での作品では舞台となる産科医院の閉院までは描かれるとは思うのでその辺に期待したいけれどもどうなんでしょうか。

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