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フランス・ファシズムと第三共和制

野崎次郎(思想史・フランス文学)

 フランスは第二次世界大戦中ファシズムと戦った「対独レジスタンスの国」として戦後長い間信じられてきた。確かに「ヴィシー政権」が存在したが、それはドイツの傀儡政権で、例外的な「間違い」であった。ファシズムはフランスにとって「外来思想」にすぎず、フランス本来の文明(フランス革命や啓蒙思想)とは無縁なものである。そのように信じられてきた。
 しかし一九七〇年代から八〇年代にかけて「ヴィシー政権」に関する研究が進み、「レジスタンスの国」とは違う「もう一つのフランス」ということが言い出された。そしてそれに連動する形で「フランス・ファシズム論」の研究も進んだ。ファシズムはフランス文化と無縁ではないどころか、フランス・ヨーロッパ文化の必然的産物であるというのである。
 第三共和制の初期を揺るがしたブーランジスムにはすでに「ファシズムの萌芽」があり、その後のモーリス・バレスその他の系譜をたどればフランスはまさにファシズムの宝庫である。「ヴィシー政権」は第三共和制末期の議会のもとで「正統性」を付与され、「国民革命」の旗印の下に「大衆」とともに「知識人」の積極的な関わりのなかで誕生した。
 これらの二つの時期の研究をまとめてとらえるならば、その初期から末期にいたるまでフランスの第三共和制はファシズムに彩られていたことになる。しかもそれは「共和国の精神」(一七八九年のイデオロギー)との関連で誕生、発展してきたのである。ゼーフ・ステルネルの「フランス・ファシズム論」の要諦はその「自生論」にあるが、それにもまして重要な側面は、「左翼/右翼」という図式を疑問視しながら、ファシズムを左翼的伝統との関連において論じたことにあった。
 これは恐ろしい仮説だ。そして十分に検討に値する仮説である。それは「正義による断罪」が幅を利かせている日本の思想界においてはなおさらアクチュアルな問題である。

(『出版ニュース』2月上旬号、出版ニュース社、2003年2月1日発行)