第二回総会 第一号議案

1993年度の活動のまとめ

−1993年6月〜1994年3月−

 

 協同組合運動はいま「組織改革」という言葉をキーワードとして模索と実験の時代に入っている。こうした事情を背景として、昨年6月の創立総会以来、当研究所には各方面から予想を越える大きな期待が寄せられてきた。協同組合の役職員や組合員の学習意欲はきわめて高く、この一年間、われわれは、研究所に寄せられた期待の大きさと、それらに応えるためにはあまりにも不十分な研究所体制とのギャップの大きさをともに痛感させられてきた。また、研究所がまだ新体制への過度期にあることから、設立当初に描いていた展望と現実のギャップも依然として大きい。会員団体の組合員や役職員に開かれた研究所としても、高い研究水準をめざすシンクタンクとしても、研究所の事業はようやく緒についたばかりである。以下、1993年度研究所活動の軌跡を振り返りながら、次年度以降の課題について見てみたい。

1.常設研究会・常設講座

−「田中恒子ゼミナール」「土佐くらし研究会」の発足−

 中核である常設研究会・常設講座のうち「生活様式研究会」「福祉研究会」「職員論研究会」「組合員活動研究会」などが、これまでの研究成果をまとめるために1994年度ないしそれ以降の出版を目的として活動を行っている。そのためもあって研究会の情報発信力が弱まり、「他の研究会が何をしているのか分かりにくくなった」「研究所が全体として何を目指しているのか分からない」という厳しい評価もある。また、組合員参加による常設講座の誕生などを契機として、研究テーマや方法論について突っ込んだ議論を期待する声も多く聞かれる

 「生活様式研究会」(代表、浜岡政好佛教大学教授)は1993年11月には『家族生活時間調査』(代表、中川順子立命館大学教授)と『生協組合員のライフヒストリ−調査』(代表、高橋伸一佛教大学講師)を実施した。『家族生活時間調査』は20代から60代の有職及び無職の主婦50人を対象に、本人と夫の平日、土曜日、日曜日の生活時間を15分間隔で調査したもので、生活時間から見た現代家族の最新の特徴を明らかにすることを企図している。『生協組合員のライフヒストリ−調査』は、京都生協の理事経験者を対象に、活動的組合員像の変化とその生協評価の変遷を明らかにすることを目的としたものである。

 「福祉研究会」(代表、川口清史立命館大学教授)は、『参加型地域福祉と生協運動』の出版に向けて、12月、共同作業所と事業提携関係にある京都生協南部物流センタ−とワーカーズコープに業務が委託されている京都生協栗東物流センターへの現地調査を行い、さらに日本生協連組織企画室の益田美知子氏より全国的な生協の福祉活動の実態について説明を受け、意見交換を行うなど補足調査を実施した。

 「職員論研究会」(代表、戸木田嘉久立命館大学名誉教授)は、1994年度内の出版を目標に、山田康晴京都生協専務理事、鈴木彰生協労連書記長等からのヒアリングを行い状況把握に努めながら『生協職員の労働諸条件に関する調査』を準備してきた。一般企業との労働条件の比較などを目的として1993年6月〜7月にかけて実施された『地域生協全国賃金構造調査』(代表、大西広京都大学助教授)は、現在中間集計・報告がほぼまとめの段階に入っている。

 「組合員活動研究会」(代表、井上英之大阪音楽大学教授)は、生協における組合員活動の理論、歴史、実態の把握に努めてきた。この1993年度には、1995年度の出版に向けて、資料収集や現地調査を行ってきた。組合員活動の全国的集約の場である「日本生協連全国組合員組織セミナ−」「フォ−ラムくらし(2月集会)」等に参加して実態把握や資料収集に努め、12月と3月には生活クラブ生協神奈川、福祉クラブ生協、ワ−カ−ズコ−プにんじん、神奈川ネットワ−ク運動等へのヒアリング調査を行った。また7月には、千野陽一東京農工大学教授をゲストに招いて農村地域における戦後婦人活動史に関する研究会を開催した。

 「農村地域研究会」(代表、馬場富太郎京都府立大学助手)は、農業とくらしを総合する視点から農村地域における協同組合の役割を明らかにすることを目的として、本年度中に『地域づくりにおける協同組合の役割に関する調査』を実施することにしている。3月には京都府美山町において予備調査を行った。

 研究所が設立され新旧体制の交代期にある中で、新しい常設研究会・常設講座の動きが始まっている。「健康・医療・協同組合研究会」(代表、松野喜六京都府立大学教授)は、国際的にも医療の分野において協同組合の役割が見直されている中にあって、大きな期待が寄せられている。

 生協の組合員や職員による参加型研究会として「田中恒子ゼミナ−ル」(代表、田中恒子奈良教育大学教授)が2月に発足した。研究所報『協う』及び京都生協組合員機関誌『コ−ポロ』1月号に募集広告を掲載したところ応募が相次いだために途中で受付を制限せざるをえなかったが結局定員を上回る23人が登録を行い、こうした参加型研究会への期待が強いことが明らかになった。

 各地の研究会を結ぶ研究ネットワ−クづくりの最初の試みとして「土佐くらし研究会」(代表、玉置雄次郎高知短期大学教授)が3月に発足した。この研究会は「協同の地域社会づくり」をテ−マに生協の役職員と研究者が共同で運営し、当面は高知県で活動する各種の協同組合の歴史を報告集にまとめることを目標としている。

2.調査研究プロジェクト

−「協同組合間協同調査研究プロジェクト」の発足−

 1993年度は、京都府農業協同組合中央会、京都府生活協同組合連合会、京都府漁業協同組合連合会、京都府森林組合連合会の委託により、京都府における協同組合間協同の現状と可能性を探ることを目的として「協同組合間協同調査研究プロジェクト」(代表、藤谷築次京都大学教授)が8月に発足した。今回のケースは、テーマの重要性に鑑み、単なる受託研究とはしないで、調査研究プロジェクトとしての発足となった。プロジェクトチームは、10月には日本生協連、全国農協中央会へのヒアリング調査、1月には京都府農協中央会、伊根町森林組合、久美浜町農協、京都府魚連、2月には宮崎県五ヶ瀬町役場、五ヶ瀬町農協、JA宮崎経済連、宮崎県民生協へのヒアリング調査を実施した。調査結果については、7月2日の京都における“協同組合デー”での報告が予定されている。

3.シンポジウム

−「協同の地域社会づくりと生協」をテーマにシンポジウム−

 1993年6月26日のくらしと協同の研究所創立総会を記念して、翌27日にシンポジウム「日本型生協運動は21世紀に生き残れるか?」が開催された。シンポジウムでは国際協同組合同盟基本的価値プロジェクト座長スベン・オ−ケ・ベ−ク氏が「ヨ−ロッパの経験にもとづく反省と教訓」と題して基調講演を行った。基調講演を受けたパネルディスカッションでは、川口清史立命館大学教授をコ−ディネイタ−に、品川尚志日本生協連組織企画室長、野原敏男中京大学教授、野村秀和京都大学教授が参加して活発な議論が交わされた。このシンポジウムの後も、スウェーデンをモデルとした生協の《発展段階論》の日本での妥当性、日本型生協運動という場合の「日本型」の意味、をめぐって議論が続けられている。

 「地方都市・農村地域生協シンポジウム」は研究所が長期的に追求する課題であるとの確認が行われているが、その第1弾として、1994年1月9日、福井商工会議所ビルにおいてシンポジウム「協同の地域社会づくりと生協」が開催された。参加者は115人だった。シンポジウムでは、最近生協運動において静かな注目を集めている平田稔道央市民生協副理事長の基調講演の後、村田武金沢大学教授の司会のもとに藤川武夫福井県民生協常務理事、勝崎喜代志石川生協常務理事、安井光夫生協しまね専務理事、大川耕三コープえひめ専務理事、高野誠一コープこうべ但馬事務所所長が各地の取り組みについて報告を行い、フロアからの発言も含めて活発な質疑が交わされた。

 シンポジウム委員会(代表、川口清史立命館大学教授)では、第2回総会記念シンポジウム「地方からつくる21世紀の生協運動」の準備のために、各単協との意見交換を重ねている。交流の中では、「各単協の役職員は日頃から情報交換の機会を行っているので、かなりの程度まで実態は知っている。研究者にはぜひ実態を研究的に深めて欲しい」という注文も寄せられている。

4.講座−「愛媛県生活協同組合連合会常設講座」の成功−

 『生協 21世紀への挑戦』(1992年)の内容をもとに連続講座「愛媛県生活協同組合連合会常設講座」が1993年12月から4回にわたって行われた。連続講座には毎回50人を超える参加者があり、好評のうちに幕を閉じることができた。参加者からは「テキストの解説の範囲でなく、講師の研究内容をベースに展開されたことで、参加者の受け止めがより自分の現場に引き寄せたものとなった」「生協以外の研究者(農協関係)の参加もあり、広い視野で、生協の位置、愛媛で生協がはたす役割の大きさがイメージできた」などの意見が寄せられた。

 京都生協の若手職員による連続講座「生協 21世紀への挑戦」が始まった。これは、参加登録者54人、世話人15人に上る職員の自主運営によるもので、第1回目は「これからの生協が見えますか?」というタイトルのもと、「生協が総合事業体になる必要があるのか?」について講師の的場信樹くらしと協同の研究所研究員の講演を聞いた後、参加者は3つの分散会に分かれて論議を深めた。第2回は、4月16日「働いていて、楽しいですか?」と題して協同組合での働きがいについて議論する。

5.自主研究・自主講座/委託研究

 研究所では、個人会員及び団体会員の構成員による参加型研究活動を奨励する目的で「自主研究・自主講座」を対象とした研究費の助成を行っている。1993年度は、年度途中での募集となったために決定が遅れたが、次の3件についてそれぞれ10万円の助成を行うことになった。

 「京都生協職員による英書購読研究会」(代表、李秀基)は、協同組合に関する著作の翻訳を行うことを通して、協同組合にたいする理論的理解を深めることを目的としている。次の3つのチ−ム−「英語による日本の協同組合紹介」「市場と政治の間で−スウェ−デンの協同組合−」(V.A.Pestoff)「協同の進化」(R.Axelrod)−によって活動を行う。

 「消費者対象の「生活」学講座」(江上統一郎)は、これまで学校教育において主流であった“家事技能中心主義”ではない「生活」学講座を一般消費者を対象として実験的に行い、豊かな生活を創造しうる視点をもった消費者の育成に寄与することを目的としている。

 「民主(的)経営研究」(代表、有田光雄)は、経済民主主義を推進する立場から、民主的企業における経営のあり方、民主的な経営者像、協同組合運動としての民主的企業のあり方について研究することによって、民主的企業=協同組合の発展的展望を探求することを目的としている。

 研究所は、研究活動の幅を広げ、新しい研究課題にも機敏に対応するために、特定のテ−マについて研究を委託することにしている。1993年度は、上野勝代京都府立大学教授に在外研究として「北欧の女性・住宅・まちづくりに関する調査研究」を委託した。

6.受託調査、その他の事業

 研究所は、京都市中京区壬生地域において計画されている大型店の出店問題に関連して、京都生協及び西新道錦会商店街振興組合から協同組合間協同事業として要請のあった、出店の影響度、商店街への消費者の評価、商店街振興策に関する調査を受託した。1994年1月には、『「仮称・ライフ壬生店」出店による商店街への影響についての検討資料−ハフモデル・シュミレーションによる検討−』を発行し、2月には京都生協組合員の協力をえて「壬生地域におけるまちづくりと消費者ニ−ズに関する調査」(アンケ−ト調査)を実施した。

 会員の中からは、「協同組合の動きが分かる最新の情報を紹介して欲しい」「研究者の専門分野など知りたいデータの一覧表が欲しい」といった情報に関する要望が多く出されている。情報提供を事業として確立することが必要になっている。その際、生の情報ではなく加工された情報が必要とされることから、研究所全体として情報システムづくりに取り組むことが焦眉の課題となってきている。

 また生協組合員の会員からは、「研究とまでは行かなくても、調査の方法、データの読み方を勉強できる機会をつくって欲しい」という要望が出されている。研究所が会員の多様なニーズに応えて行くためにも、会員と研究所との日常的な結びつきが重要になってきている。

7.出版−『協う』創刊、

 『日本型生協運動は21世紀に生き残れるか?』の刊行−

 1993年9月、研究所報『協う』が創刊された。『協う』は、「会員サービスのために情報交換と交流に的を絞った、魅力的で読みやすい情報誌」として毎月定期発行されている。『協う』は、取材にもとづいて編集される「特集」と問題提起的な個人論文を掲載する「コロキウム」を中心に、毎号新しい話題を提供している。

 『協う』については、「研究会の内容を紹介して欲しい」「協同組合運動の動きが分かる最新の情報を提供して欲しい」等の要望が寄せられている。また個人会員からは、『協う』が送られてくるだけでは、会員としての特典を感じられない、という意見も出ている。こうした会員の声に応えるために、たとえば「研究会案内」といったコーナーを設けるなど『協う』の誌面改善に努めると同時に、常設研究会や常設講座等で生まれた研究成果については、逐次『ワーキングペーパー』を発行することによって会員がいつでも当研究所の最新の研究成果を入手できるようにすることが求められている。

 創立総会記念シンポジウムの記録を収録した『日本型生協運動は21世紀に生き残れるか?』は、10月16〜17日京都大学農学部で開催された第13回日本協同組合学会に向けて刊行された。

8.交流・協力・提携

 「社会経済システム研究会」(代表、川口清史立命館教授)は、生協総合研究所との共同企画事業として、毎月東京と京都で交互に開催されている。研究会メンバーも全国各地から参加してきている。

 研究所は、京都ではじめて開催された第13回日本協同組合学会の成功のために後援団体として参加して、分科会の運営等に協力した。また研究所は、協同組合学会のために来日した、ICA協同組合原則改定プロジェクト座長I.マクファーソン氏を迎えて、協同組合運動の国際的動向等について意見交換を行った。

 1993年度から1994年度にかけて、「コープこうべ・生協研究機構」、東海コープの「地域と協同に関する研究センター」など新しいシンクタンクが整備ないし新設され、各地における研究活動の発展のためには相互の交流と協力がますます重要になってきている。