『協う』2007年4月号 探訪くらしとコミュニティ1



探訪くらしとコミュニティ1
コレクティブハウスかんかん森
都市コミュニティの再生-共生をめざす住まい方-


上野勝代
京都府立大学人間環境学部教授
当研究所研究委員

 

 リニューアル前の『協う』にあった「人・モノ・地域・くらし」 は、生協の周辺にある、さまざまな形での「くらしと協同」への取り組みを取材したコーナーでした。今号では『協う』100号を記念して、かつてこのコーナーで取り上げ、注目された取材先をあらためて訪ね、その後の歩みと現在の状況をレポートしてみました。
   第1は、『協う』 2004年8月号に掲載した 「コレクティブハウスかんかん森」 のその後です。 都市における 「コミュニティの再生」をもとめ、居住者間の新しい関係を構築しようと誕生した、 この賃貸型コレクティブハウスの現状について、誕生をコーディネートしたNPO法人コレクティブハウジング社理事、 宮前真理子氏に3月17日に現地で行ったインタビューから報告します。
  第2は、1999年6月の本研究所総会記念シンポジウム等で取り上げられ、同年10月号の本誌でレポートされた「有限会社・常吉村営百貨店」 の再訪記です。過疎・高齢の地で、元気づくりの拠点として1997年12月にオープンし、今年12月には創立10周年を迎える同店を3月に再び訪れ、お話を伺いました。

 

コレクティブハウス「かんかん森」とは
  2003年6月に東京都荒川区日暮里に誕生した「かんかん森」 は、日本で初めての本格的な多世代型賃貸コレクティブハウスである。コレクティブハウスとは、入居者のプライバシーを互いに尊重しつつ、 「参加と共生」 をキーワードとしてコミュニティの構築を実現する仕組みをハードとソフトの両面に取り入れている集合住宅のことをいう。それは、独立した住戸とは別に共同の空間や設備を併設し、 生活面では居住者の自主的で主体的な参加を可能にする運営と共同のスタイルを追求したものである。生活の中では、 特に" 食 "の共同化にこだわり、食事作りと会食を共にするところに特徴がある。 「かんかん森」 の延べ床面積1944平方メートルにはワンルーム (18戸) から1DK (4戸) 2DK(6戸)の合計28戸の賃貸住戸と同時に共同の広いリビングダイニングキッチン、洗濯室、ゲストルーム、菜園テラス、 工作テラスが備えられている。入居予定者は計画段階から主体的に参加し、 数多くのワークショップを繰り返して意見を交換し、共有空間の設計や使い方、家具の選定から食事の共同化や掃除など全般的な住み方ルールを作りあげてきた。入居後には、居住者組合の下にある活動グループに加わって、管理・運営に参加している。
  入居者は現在、ゼロ歳から80代までの40人で、大人35人と子ども5人である。シングルが半数を占め、他は夫婦、シングルペアレント、 友人同士であり、 夫婦と子どもという家族は少ない。 当初は20代と50代が多かったが、このところ熟年層が増えてきた。 宮前氏によると、入居者の入れ替わりが思ったより激しく、3年半前の入居当初からいる人は3分の1程度であるという。退去の理由としては、転勤、親の介護といった個人的理由が大半で、引越し先が近所の場合、夕食を食べにやってくる人もいる。現在、空き家募集は2LDKの1戸(月額16万9千円)である。

くらしの共同スタイルづくりへの工夫 (知恵)
  「かんかん森」は北欧で発祥したコレクティブハウスの日本型として成功した初めての事例である。それだけに、試行錯誤の中から暮らしの共同スタイルを作りあげ、実に多くの教訓を導き、工夫(知恵)に満ちたものとなっていた。
以下に、 筆者が気づいた主な点を報告することにする。

◆ その1―事前のオリエンテーションと豊富な情報提供
コレクティブハウスには、入居に対して向き、不向きがある。自立できている人、自分も何かしたいという人、外に開いた心を持つ人、人間関係で適度な距離感を保てる人には向いているが、 そうでない人の場合には本人にもコミュニティにとっても大変である。ここでは、NPOが入居前にオリエンテーションを行い、豊富で適切な情報を与えてきたので、これまでに入居希望者に対してNPOが入居を断ることがなかったという。わが国初めての公的コレクティブである阪神大震災後の復興コレクティブ住宅では、この点が不十分であったため、その後のコミュニティー活動がうまくいかないケースがかなりあった。

◆ その2−食事づくりにおける工夫
筆者にとって今回の訪問で驚いた最大の内容は、コモンミール(共同の食事作り)がずっと続いていたことである。味にうるさく、好みも異なり、特別な時以外は自宅で他人と食事をしない日本人にとって、日常的に食事を共にするなど、受け入れ難いスタイルである。 実際、 復興コレクティブでの筆者らの調査では、 下町長屋では
おすそ分けの習慣があるそうだからと企画者側から共同の食事作りが提案され、 初めは実践されたが、居住者からの要求で特別な時のみの会食へと変更された。
ところが、「かんかん森」では、事前に 「お試しコモンミール」 を10回ほど実施した。 (この実践の様子は 『協う』 2004年8月号の名和洋人報告参照) その結果、入居者の理解が得られ、 現在でも土・日を含む週3日実施されている。ただし、ウィークデーには熟年層が中心となり、 前入居者やサポート会員の支えも得ながら継続されている。
一緒に食事をつくり、食事を共にすることの居住者間に与える良い影響は予想以上に大きい。「かんかん森」 は開始以来実に多くのマスコミの取材をうけているが、共通に注目されるのは、 この点である。

◆ その3−居住者全員の管理・運営への参加
入居後、居住者はおよそ15ある活動グループの1つか2つに属して、管理運営に参加しなければならない。実はその内容がおもしろい。 管理・運営というとしり込みしたくなると思いきや、 義務ではなく、楽しみながら "これなら、私もできる!"と思わせる初級編から熟練度を必要とするものまで内容が細分化されている。熟年も、男性も誰もが参加できそうなのがミソである。

◆ その4−各住戸の独立性確保と共用空間の居心地の良さ
ハードな空間設計においても、各戸のプライバシーと共用空間の居心地の良さを確保するために実にさまざまな工夫が凝らされている。娘を抱えた入居者は、荒川区の取材に対して、その居心地の良さを次のように答えている。「一人で本を読みたいときなど、この広い共有のリビングにいれば、 世代の近い子と一緒に遊んでくれますし、 何よりも安全、安心できます。また、各住戸にトイレ、浴室、キッチンが完備されているので、プライベートが確保されているのも良い所で、いくら親切な隣人がいても、昔の長屋のように話し声も筒抜けだったら、 私には無理だったと思います」 と。

共生の課題―NPOと居住者の関係
  コーディネートを勤めたNPO法人コレクティブハウジング社は「かんかん森」 からいったん手を引き、必要なときに支援しようということになった。しかし、食事作りや管理運営によく携わる人とそうでない人、もっと活発な活動をしたい人とそうでない人との間に温度差があるという。この問題を宮前氏たちは、居住者組合とNPOとの関係を当初から明確にしていなかったシステム上での課題だと考えた。この点を反省して、次のプロジェクトのでは、当初よりNPOと居住者組合との関係を正式に契約上明記した。

多様な形のコレクティブハウジングへの模索
  NPO法人コレクティブハウジング社はその後、本年2月に入居が開始された賃貸型 「コレクティブハウス スガモフラット」 をコーディネートした。 ここは、 もと児童館をコンバージョンしたもので、 延床面積は約500平方メートルで、11戸の住戸とコモンスペースにシングル7人を含む大人15人と子ども4人が入居した。 この他に同社は、 古民家を利用して風呂やキッチンも共用するという生活の共同性の濃い 「松蔭コモンズ」 の賃貸管理も行い、 現在は東京都多摩市での多世代型や練馬区での障害を抱えた人々とのコレクティブの企画を始めている。 「かんかん森」 の経験を生かし、 さらに多様で居住性の高いものを展開したいと宮前氏は語る。
  それにしても、東京の家賃は高い。これでは、より助け合いが求められているシングルやシングルペアレント、高齢者には、 入居できにくい。北欧の住宅協同組合のような制度・しくみがほしいものだ。 このような共生を目指した住宅づくりにこそ、ぜひ生協のような協同組合からの支援を期待したい。