『協う』2007年12月号 生協の人・生協のモノ

LCA (ライフサイクル・アセスメント) の活用による新しい環境貢献の模索
〜 「生協らしい」 車検への取り組み〜
加賀美 太記 (京都大学大学院 経済学研究科 博士後期課程・『協う』 編集委員)
 
  2007年9月から、 京都生協は従来までの 「コープ車検」 に代わって、 新しく 「地球健康車検」 をスタートさせた。 現在、 2002年に制定された自動車リサイクル法の下で、 自動車部品のリサイクルが進んでいる。 しかし、 リサイクル部品の普及は、 まだまだ途上にある。 「地球健康車検」 は、 リサイクル部品の普及を通して環境貢献に一役買うだけでなく、 その一歩先の可能性をも示している。 今回は、 この車検の誕生に関わった有賀博之氏(当時共栄火災海上保険、 現在は株式会社地球健康クラブ代表取締役)と、 小野田弘士氏(早稲田大学環境総合研究センター講師・株式会社早稲田環境研究所代表取締役)のお二人への取材をもとに、 その特徴、 誕生のプロセス、 そして社会にもたらすインパクトについて紹介する。 地球健康車検とは
  「地球健康車検」 は、 環境をキーワードにした生協ならではの車検である。 その環境への配慮は、 大きく分けて三点ある。
  一点目は、 環境への貢献度を含む生協独自の審査項目に合格した整備工場との提携である。 自動車整備で出る廃油や廃液などもキチンと処理をしないと環境を汚染する原因となってしまう。 それゆえ、 これら整備・修理過程で出る産業廃棄物の適正処理に取り組む環境配慮意識の高い整備工場と提携している。
  二点目は、 整備・修理の際にリサイクル部品の使用を薦める点である。 現在、 わが国では年間約300万台〜500万台が廃車になっている。 2002年の自動車リサイクル法制定後、 自動車リサイクルは一段と進み、 廃車から数多くのリサイクル部品が取り出されている。 これらのリサイクル部品を使用することで、 新品の部品生産時に排出されるCO2を削減することができ、 地球環境の保全に貢献することができる。
  三点目が、 リサイクル部品の使用による環境負荷の削減量をデータベースと連動させ評価するシステムを持つ点である。 具体的には、 約20万点にのぼる自動車部品のデータが収められているデータベースへアクセスし、 新品ではなくリサイクル部品を使うことで、 CO2排出量がどの程度減ったかを検索することができる。
  またこのとりくみでは、 CO2排出削減量に応じて計られる環境貢献度がポイント化され、 このポイントに応じて生協と工場とが国内外の植林活動に寄付をすることも大きな特徴である。

環境がキーワード      
― 「生協らしい」 車検への取り組み―
  「地球健康車検」 誕生のきっかけは、 地域生協の抱える悩みにあった。 地域生協は、 コープ車検制度を取り扱ってきたがその伸びがはかばかしくなかった。 そのため、 制度の見直しが地域生協の担当者と共栄火災のメンバーによる研究会で議論されることになり、 その場で、 改めて生協が提供するべき価値とは何かが真剣に議論され、 導き出されたキーワードが 「環境」 であったという。
  アンケート (2006年実施) でも、 80%近い組合員が 「環境に配慮した整備工場が必要だと思う」 「環境に配慮した工場があるなら、 そこを利用したい」 と回答していた。 生協が提供すべきは環境への配慮であると研究会は結論し、 環境貢献を打ち出した車検制度の構築を目指すことになったのである。
  次に議論されたのが、 環境貢献という方針の具体化である。 研究会では、 リサイクル部品の活用による環境貢献というアイディアが出ていたが、 その評価方法が問題になった。 当時共栄火災の担当者で研究会の責任者でもあった有賀氏が各方面に相談したところ、 環境省と経済産業省からリサイクル部品に関する研究に取り組む早稲田大学理工学部の永田研究室を紹介され、 今回の企画への協力・支援を依頼することになったのである。
  一方、 永田教授ならびに小野田講師は、 以前からリサイクル部品の研究に取り組み、 しかも早稲田大学の研究拠点がある埼玉県本庄地域には自動車整備工場や解体工場が多いことから、 地域と共に成長していくという問題意識の下で研究をすすめていたのである。 小野田講師は、 今回の取り組みを学術研究の成果を社会へと還元していく一歩だと語る。 「これまでずっと、 永田教授や私は、 自動車リサイクルや家電リサイクルに携わり研究を続けてきました。 そういう中で、 いよいよ3R(リサイクル・リデュース・リユース)に関心を持ってもらえる時代になってきました。 現在は、 今までの研究成果をどういう形で使ってもらえるのかを模索する段階になっており、 その一環として今回の企画に協力させていただきました。 特に、 環境研究は、 学会で報告して″ハイ終わり″ではダメだと思います。 それが狙いじゃありません。 環境問題の研究は現場とか社会とかとの接点を持っていなければならないと思います。 早稲田環境研究所もそのために作った会社なのです」。
ちなみに、 小野田講師は、 地球環境への貢献を目的として環境問題の情報提供などを行う株式会社早稲田環境研究所の代表取締役を務めている。

ライフサイクル・アセスメントの活用
「地球健康車検」 は、 データベースとの連携によってリサイクル部品使用からくる環境負荷の削減量を数値化する点に特徴があると先に述べた。 小野田講師は、 これをライフサイクル・アセスメント(以下LCA)実用化のケースとして見ている。
  LCAとは、 製品の一生における環境負荷を評価する手法のことである。 LCAは、 製品の製造、 輸送、 販売、 使用、 廃棄、 再利用まですべての段階での環境負荷を総合して評価する。 環境問題の難しさの一つは、 環境への影響の評価基準がハッキリしないことであった。 生協でも発泡トレイの回収を行っているが、 「どのように再利用されているのか」 「実際のところ、 再利用する方が環境に悪いのではないか」 との疑問が出されることがある。 しかし、 LCAは 「どれだけ環境に優しいのか」 を数値化して示すことができる。 LCAを用いて数値化することで 「このリサイクルは、 これだけ環境に優しいですよ」 と消費者にハッキリと示すことが可能になるのである。
  だがLCAにもいくつか問題はある。 例えば、 LCAは製品の環境負荷を数値化することができるが、 この環境負荷を示すたった一つの指標が絶対視されることに繋がる場合がある。 「新品を作るよりも、 リサイクル品を作る方がCO2排出量は多い。 だから、 リサイクルなどしないほうがいい」 といった一部にいわれる主張がこの例である。 しかし、 この主張はリサイクルをCO2排出量という一つの指標でのみ評価しており、 有限である地球資源をどのように有効活用していくかといった問題や、 河川や海の水質汚染、 また大気汚染などの側面を一切考慮していない、 と。 こうして小野田講師は、 「環境負荷を示す指標としてCO2が注目されてきたのはよいことだが、 だからといって全てをCO2で計るのは大いに問題だ」 と警鐘を鳴らしており、 複数の基準を示すことのできるトータルなLCAを普及させる必要を感じている。

環境を真面目に考える人を評価する社会を     
  一方、 有賀氏は、 「地球健康車検」 を、 環境に真面目に取り組む人たちが評価される社会への第一歩にしたいと語る。 現在もISO14000など様々な環境対策評価の基準が存在し、 メーカーや整備・修理工場だけでなく、 小売業も取得している。 しかし、 環境対策が業績に直接に反映されていないのが現状でもある。 これは、 環境問題への取り組みをしている真面目な工場の存在と評価軸であるISOが消費者に十分認知されていないからだと思われる。 有賀氏は、 「ISO14000を取得した工場が、 なかなかお客さんが来ないし更新にもお金が掛かると言っている。 環境がお金になる、 ならないの問題ではなく、 そういう問題に真面目に取り組んでいる工場にお客さんがいくような風潮が必要だと思う」 と語り、 環境対策に真剣に取り組む事業者や消費者が評価されるようなシステムづくりが重要だと強調する。
  また、 有賀氏は、 生協だからこそ 「地球健康車検」 に取り組むことができたと言う。 なぜなら、 生協は、 組合員が自主的に勉強会という形で商品について学ぶ組織だからである。 例えば、 コープおおいたでは、 地区のブロック班長を150名集めて、 この車検に関する学習会を行っており、 組合員からも大きな反響があった。 このような取り組みは、 一般流通業では考えにくい。 このように学習に組織的に取り組める消費者団体である生協こそが、 新しい社会のさきがけになって欲しいと有賀氏は語っている。

 現在は、 コープおおいたと京都生協の2生協が取り組んでいる 「地球健康車検」 だが、 順次拡大していく模様である。 「子どもたちのために、 これからのために、 誰かがやらなければならないなら、 まずは生協がやろう」、 この思いに応えるためにも 「地球健康車検」 がいっそう普及し、 さらにそれを超える取り組みが生まれていくことを期待したい。