『協う』2007年12月号 視角
特集:循環型社会と生活協同組合

エコロジカルフット・プリント指標が示す経済の生態学的債務問題
地球一個分の経済をめざして 
   
和田 喜彦
同志社大学経済学部/グローバル・フットプリント・ネットワーク/エコロジカル・フットプリント・ジャパン

資源・環境問題には幾つかの類型がある。 代表的類型は、 人体や生態系にとって有害な物質が環境中に放出される公害問題である。 水俣病がその典型例であるが、 被害者救済はいまだ中途半端のまま放置されている。 その他、 アスベスト被害、 頻発する原発事故と隠蔽事件に象徴されるように公害問題は依然として人々に苦痛と不安を与え続けている。 経済成長が急速なアジア各地でも公害の深刻化は著しい。

近年の世界的な経済規模の拡大とともに顕著化している新しい類型として2つの 「生態学的債務」 問題がある。 1つ目は、 人類による再生資源の消費速度が地球生態系による再生産速度を超過する結果、 資源が劣化するケースである。 典型例は乱獲による漁業資源の枯渇である。 2つ目は、 経済活動によって排出される廃棄物のうち、 生態系が吸収できる物質であっても、 その排出速度が生態系の処理能力を超える類型である。 大気中の二酸化炭素の濃度上昇はその典型であろう。

生態系の再生・処理能力を超える速度で資源が利用(需要)される状態を 「オーバーシュート」 (過剰利用) と呼ぶ。 また、 生態系の再生処理能力を 「環境収容力」、 または 「バイオキャパシティ」 と呼称する。 エコロジカル・フットプリントは、 このようなオーバーシュート/生態学的な債務超過の発生の有無を数量的に明示し、 経済活動の持続可能性を検証することを目的に、 カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のリース教授とワケナゲル氏らによって1990年に開発された指標である。

エコロジカル・フットプリントは、 経済活動による生態系の再生処理能力に対する需要に着目し、 生態系がその需要を持続的に満たすと仮定した場合に必要とされる生態系面積 (陸地+水域) の合計と定義される。 具体的には、 耕作地、 牧草地、 森林地、 二酸化炭素吸収地、 生産能力阻害地 (道路・建物が占める土地)、 漁場の各面積を合計する。 単位は、 グローバル・ヘクタール(gha)を使う。1ghaは、 世界の平均的な生産能力/廃棄物吸収能力を有する土地1 ヘクタールに相当する。

国際環境NGOのWWFが2年毎に発行する 『生きている地球報告書』 には、 世界150カ国のエコロジカル・フットプリントの計算値が掲載される。 2006年版によれば、 2003年の人類全体のエコロジカル・フットプリントは、 141億ghaであった (1人あたり2.2 gha)。 一方で、 地球生態系のバイオキャパシティは、 112億ghaであった (1人あたり1.8 gha)。 つまり人類のエコロジカル・フットプリントは地球のバイオキャパシティを25%オーバーシュートしているというのだ。
日本人1人あたりのエコロジカル・フットプリントは4.4ghaであった。 仮に世界中の人々が日本人と同じ消費生活を送れば、 1人あたりバイオキャパシティ (1.8gha) との比較で、 2.4個の地球が必要という計算になる。

この報告書のエコロジカル・フットプリントの計算は、 筆者の出向先であるグローバル・フットプリント・ネットワーク (GFN) という民間非営利の研究所 (米国) が担当している。 GFNは、 計算手法の改善と世界標準化作業を通してこの指標の国際的な普及をめざしている。 GFNの活動は成果を上げつつある。 たとえば、 EU各国のエコロジカル・フットプリント報告書に欧州委員会のバロッソ委員長が冒頭言を寄稿しているように、 政治家の認知度も上がりつつある。 中国政府もこの指標を使った報告書をGFNと共同で発行準備中である。 エクアドルの大統領もGFNとの共同研究を進める意向を10月に表明している。

日本でもWWFジャパン、 エコロジカル・フットプリント・ジャパン (EFJ) などのNGOが中心となりこの指標の普及活動が進められている。 実は、 日本は政府レベルで積極的にこの指標を採用している国の代表格である。 政府は2006年4月の閣議決定で、 第三次環境基本計画の進捗状況をエコロジカル・フットプリントなどの主要指標によって評価する旨を明記した。 現在、 検討会が組織され、 計算手法の検討が進んでいる。 また、 個人のエコロジカル・フットプリントを計算する診断クイズがEFJによって開発され、 ウェブ上で公開されている (http://www.ecofoot.jp/quiz/index.html)。 18の質問に答えることで、 地球何個分の生活であるかが自動計算される仕組みとなっている。

この指標は、 開発から17年を経て、 自治体など公的な機関でも政策立案に利用されつつあるが、 計算手法やデータ面での改善の余地が残されている。 GFNのような民間機関や研究者らがその任を担っているが、 財政面での限界がある。 国連統計局、 国連環境計画などを中心とする公的機関による計算手法の世界標準化と普及活動が今後必要となると思われる。

わだ よしひこ 
同志社大学経済学部/グローバル・フットプリント・ネットワーク/エコロジカル・フットプリント・ジャパン