『協う』2009年4月号 書評1


杉田聡 著
『買物難民−もうひとつの高齢者問題−』


加賀美太記  京都大学大学院 経済学研究科博士後期課程

 本書は、これまで注目される事の少なかった高齢者の「買物」の問題を取り上げ、その問題の所在と解決策について論じたものである。確かに「買物」という日々の営みよりも、後期高齢者医療制度や年金など、注目すべき問題は他にもあるではないかとの指摘もあろう。しかし、「買物」という身近だが欠かすことのできない日々の営みが今深刻な危機にあることを、著者は丹念な現地調査にもとづく高齢者の声を背景にリアリティを持って指摘している。
  そもそも「買物難民」はいつ頃生まれたのだろうか。著者によれば、契機となったのは80年代末から90年代にかけてである。70年代までは地方の中小都市にあっても商店街が健在であり、各店舗による配達も行われていた。近距離にある商店街と配達サービスによって、この時期に買物が困難であるとする層は少なかった。しかし、80年代末にバブルによる地価高騰と大店法による商業調整を嫌った大型量販店が都市郊外に出店を始めると状況は一変する。過剰なまでに進んだ自家用車の普及が郊外という距離の問題を解決し、アメリカとの貿易摩擦に端を発する「外交」交渉の結果として大店法が緩和・撤廃され、90年代末には大規模店舗(SC)の郊外出店が相次いだ。このようにして進んだ郊外への大型店舗出店は、地域の商店街に壊滅的な打撃を与えることになった。1990年代から2000年代にかけて、個人商店は減少し、地方都市の商店街はシャッター街へと変貌してしまったのである。
  商店街の衰退にともない高齢者が抱えることになった問題は多様であると著者は指摘する。
  まず、問題になるのが距離である。現在では、一部の中核都市を除けば最寄りの店舗が数キロ先という状態も珍しくなくなった。足腰に不安を抱える高齢者にとって、この距離を徒歩で買物に行くことは肉体的・安全的にも非常に困難になっている。だからといって、バスやタクシーなどを利用すれば買物の金額よりも高い運賃がかかるなど、理不尽ともいえる状況にある。
  店舗にも問題がある。現在の店舗は高齢者にとっては広すぎる上に、休息所も不足している。品揃えも複雑すぎ、商品の分量パックの単位も大きすぎるなどの声が上がる。健康な青年・壮年層には便利で魅力的な側面が、高齢者にとっては買物の障壁となっているのである。
  その他にも、買物に出られない人は誰かにお願いするしかないのだが、買物のように頻度の高い用事をたびたび頼むのは心理的に難しいことや、現在は健康で自家用車を持つなど買物難民化していない高齢者も、今後に大きな不安を抱えている現実が指摘されている。
  この問題の解決策として著者はいくつかの事例として、商店街による宅配の復活や商店再生、移動販売、行政との連携したスーパーの誘致など様々な取り組みを紹介している。また、著者は生協の個配や共同購入を高く評価し期待を寄せている。しかし、残念なことに事業として成功している事例は少なく、生協も組織的にあらゆる地域で個配などに取り組むことが出来るわけではない。あくまで、担い手自身の強い問題意識が「福祉事業」的なこれらの取り組みを支えており、継続的な取り組みの必要性を著者は訴えている。
  そのために著者は、高齢者の立場に立って、政府・地方自治体や事業体、そして私たち市民がなすべきことを提示して本書を結んでいる。
  「買物難民」のような問題は、都市部に住んでいるとなかなか実感しにくいが、確かに存在する格差問題である。時に「そんな所に住んでいるのが悪い。もっといい所に移り住めばいい」といった自己責任論のような主張もあるが、現実を見ない机上の空論でしかない。
  著者の紹介する事例は、真摯に現実と向き合いながら解決策を模索している具体的な実践である。本当に意味のある地域貢献を考える人にとって、本書は様々な示唆を与えるものであろう。