『協う』2009年4月号 探訪くらしとコミュニティ


「もったいない」の心が廃棄物を食材に変える―フードバンク関西の取り組み―

望月康平(京都大学大学院 法学研究科 法曹養成専攻・「協う」編集委員)



  現在日本が直面している格差や貧困に関する問題は深刻であるが、今食べるものにも事欠く多数の人々がいる一方で年間約2千万tもの食品が廃棄されている。このような「格差社会」と「大量廃棄社会」の矛盾を直視し、行動を起こしている人たちがいる。本稿では、フードバンク―余剰食品を預かり、必要な所に届けるシステム―の活動を続けている認定NPO法人「フードバンク関西」を紹介したい。

活気に満ちた事務所と良質な食材
  兵庫県芦屋市に所在するフードバンク関西の事務所を訪ねると、事務局スタッフやボランティアの皆さんが活気に満ちた会議をしておられた。代表の藤田治さん、事務局の浅葉めぐみさんに事務所内を案内していただくと、缶詰や乾燥麺類、菓子類、コーヒー等、たくさんの保存食品が所狭しと保管されており、まるで緊急避難所の食品貯蔵庫のようだ。
  しばらくすると、スーパーから安心・安全な「食品廃棄物」を引き取ってこられた配送車が到着。トランクが一杯になるほどの量のパン、野菜、果物類が事務所の玄関先に届く。どれも数時間前まで店頭に並んでいたものばかりで、品質には全く問題が無い。これらの食材は福祉施設や生活弱者支援団体にそれぞれのニーズにあわせて届けられるという。

フードバンク関西の取り組み
  現在の日本の食品関連業界において、品質に何の問題も無い食品が、商品管理上の都合で大量に廃棄されている。例えば、各種検査のために一度破袋された商品、包装に少し傷がついた商品、賞味期限が近づいた商品等である。フードバンク関西のスタッフは、活動趣意書の配布やホームページの開設等、地道な広報活動を通して、このような「品質に全く問題が無いにもかかわらず廃棄される食品」の提供を呼びかけている。そしてこれらの食品を無償で回収し、経済的に厳しい状況に置かれている福祉施設や生活弱者支援団体に無償で届けている。
  フードバンク関西の活動によって、提供企業側は良質な食品の廃棄を回避できる一方で、受取施設側は貴重な食材を無償で手に入れることができるのである。さらにこの活動に参加することで、福祉施設にとっては人的ネットワークを形成するきっかけにつながるし、企業にとっては社会貢献としてイメージ向上にもつながる。

設立の経緯と実績
  ここで「フードバンク関西」の設立の経緯と現在の実績を簡単に紹介しよう。
  活動が始まったのは平成15年4月。米国人ブライアン・ローレンス氏が、当時すでにアメリカで定着していた「フードバンク」の活動を兵庫県芦屋市で開始し、その活動に数名の日本人ボランティアが参加したことがきっかけだった。同年8月にローレンス氏は離日したが、その後も福祉団体の感謝の声に後押しされて活動を進展させ、翌年に「フードバンク関西」はNPO法人の認証を得るに到った。今回取材に協力してくださった藤田さんと浅葉さんは活動初期からのメンバーだ。活動は毎年着実に大きくなり、平成19年には厳しい審査を通過して認定NPO法人の認定を受けている。
  昨年1年間の実績では、食品関連企業16社が約98.8tの食品を提供しており、その種類は前述のもの以外にも、米、鶏肉加工品、スパゲッティ、春雨、チーズ、スープ類、ソース類等、極めて多岐にわたっている。これらの食品が、阪神地域の児童養護施設、母子緊急生活支援施設、身障者共同生活ホームや作業所、ホームレス就労支援や炊き出しの団体等39団体に届けられる。活動には約30名のボランティアが参加し、日曜日を除く毎日、交代で回収、配送を行っている。
「信頼」と「責任」がつなぐ食の支援のネットワーク
  このように着実に進展しているフードバンク関西のシステムはどのようにして実現できたのであろうか。
  フードバンク関西は、新たに企業からの食品の無償提供や福祉団体への無償分配を開始する場合には、事前に活動の主旨と内容を丁寧に説明し、活動の理念―金銭の介在しない新たな食の流通の創造―を共有し協同関係を築ける企業、福祉団体だけと活動を共にしている。
  また、安全面や品質面に関するトラブルを起こさないために、食品提供企業と受取施設の双方と、食品を取り扱う際の責任の範囲や安全管理等に関して定めた確認書を交わしている。具体的には、提供企業側は賞味期限内の安全な食品を提供すること、受取施設側は、自己責任で食品を利用すること、食品を第三者に有償提供しないこと等を約束している。
  このように企業や団体と事前に時間をかけて信頼関係を築き、確認書によって責任関係を明確にすることで、提供側と受取側の双方が安心して事業に参加することができ、その結果として活動が継続的に進展しているのである。

「お届け先」の感謝の声
  フードバンク関西を通して提供された食品は、受取施設にどのように利用されているのだろうか。
  受取施設の一つ、児童養護施設「神愛子供ホーム」には、フードバンクからお米、パン、ジャム、野菜、お菓子などが隔週で届けられている。今年の2月14日には子どもたちへのプレゼントとして高級チョコレートが届いた(これはデパート等で販売されるバレンタインチョコレートの開発用試作品である)。食品が届く際にはいつも「今日はどんな食べ物が届いてる?」といった声とともに配送車の周りに子どもたちの輪ができる。子ども達は商品の提供企業に「お礼のお手紙」を送っているという。フードバンク関西が提供企業や受入施設と信頼関係を築き、それぞれが何を求めているかを理解しているからこそ、このような心のこもった配送や手紙のやり取りが実現されている。
  精神障害者の自立支援のための地域活動支援センター「タオ工房」にも、隔週で様々な食材が届く。取材日の作業所の昼食は、米、味噌汁、焼き魚、かぼちゃの煮付け、サラダだったが、食後のコーヒーまで含めて魚以外の食材はすべてフードバンク関西から届いたものだ。障害者の方々にとって、作業所の昼食はバランスの良い栄養を摂取する貴重な機会であると同時に憩いの時間であり、フードバンクから届く食材がその大切な食事に大きく貢献している。さらに食材の提供によって食費が抑えられたことにより、月に1度、利用者間でリクリエーションも行えるようになった。フードバンク関西から食品が届くようになって、利用者が活き活きとし、施設全体の活気にも繋がっているという。

フードバンク関西の課題
  以上のように、フードバンク関西は、良質な食品の廃棄の回避と福祉施設の支援及び活性化に大きな貢献を果たしているが、現在の課題は運営資金の問題であるという。フードバンク関西は食品の引き取り、提供、配送を全て無償で行っているため、会費や寄付、各種助成金への申請によって最低限の必要経費を確保している。事務所及び倉庫の管理費や交通費等は何とか捻出できているものの、事務局スタッフ、配送スタッフの活動はすべて無報酬である。
  現在フードバンク関西と同様の活動は全国各地で見られるようになっている。今後これらの活動は、社会的観点だけでなく、経済的観点からも大きな役割を果たし得ると思われる(フードバンク関西の場合、昨年1年間の活動によって回避された食品の廃棄コストと食品購入費を合計すれば、裕に1千万円を超えるだろう)。今後社会全体がこのような活動をどのように支えていくのか、その方策を模索する必要があるのではないだろうか。