『協う』2009年4月号 特集2

特集 協同組合は格差社会にどう向き合うのか

  「規制緩和」「小泉構造改革」の名の下にこのまま進んでいったら、とんでもないことになるのでないか。協同組合の関係者であれば、数年前から多くの人がそういう思いを抱いていただろう。そして昨年、その思いは現実となってしまった。格差社会の弊害を憂う声は、いつのまにか世の本流となったようにも感じられる。しかしそれでは、協同組合には何ができるのだろうか?
  協同組合は、組合員の自助組織であり、慈善の運動ではないといわれる。「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」「派遣切り」などと称されて人々を組合員として迎え入れている生協はほとんどないだろう。若くて、収入が少なく、雇用が不安定な人々にとって、現状の生協は遠い存在かもしれない。
  本特集では、「非営利・協同」の運動が、これまでどのような道を歩み、それぞれの領域でいま何を期待されているのか、協同組合研究の専門家に論じていただいた。

 

農協は格差社会にどう向き合うべきか

白石 正彦(東京農業大学名誉教授、総合研究所農協研究部会会長)

格差社会の概念とグローバル資本主義
  デイリー・ヨミウリの塚原真美記者は、"いわゆる「格差社会」が到来した、というわけですが、これは単に所得格差のみならず、教育の機会や雇用形態の格差なども含まれ、それがさらに「勝ち組(winners)」と「負け組(losers)」の色分けを助長する"と述べ、「格差社会」の英語表現としては"class-structuredsociety(階層社会)"、さらに"階層のみならず、人種間や都市・農村間などに深刻な格差がある社会ならdividedsociety(分断された社会)"であると英語表現との関連で格差社会の概念を整理されている1)。
  中谷巌氏は、グローバル資本主義というモンスターが人類に与えた傷の第1は「世界経済の不安定化」(サブプライム問題に端を発した今回の金融危機等)、第2に「所得格差の拡大」という傷、第3に「地球環境破壊」という傷であると指摘し、さらにモンスターは規制の弱いところをめがけて殺到する。資本主義というケダモノは利潤という美味しいエサを嗅ぎつける能力には長たけていても、地球環境に配慮するDNAを持ち合わせていないのであり、モンスターも自らの行き過ぎた行動によって傷を受けたが、また猛威を振るいはじめるので、この怪物が傷を治療している今こそ、その行動を制御するための檻おり(制度)を作り上げるための好機かもしれない、と指摘されている2)。
  また、浜矩子氏は、規制緩和という自由な環境の中で、サブプライム融資に内在するリスクが証券化という手法によって世界中にばら撒かれた金融暴走時代と特徴付けておられる3)。
 
格差社会における農協の現状と展開方向
  格差社会といわれる時代、グローバル資本主義というモンスターによる脅威の時代、あるいは金融暴走時代における農協の現状と展開方向(あるべき姿)はどのように理解すべきであろうか。
  農業開発研修センタ−会長の藤谷築次氏は小池恒男編著『農協の存在意義と新しい展開方向―他律的改革への決別と新提言―』(2008年・昭和堂)の中で、@農協運動の基本的あり方について(ICAが明示した協同組合の定義・価値・原則をふまえた本物の協同組合づくりを。農協運動の使命の明確な認識を。)A農協組織と組織運営のあり方(農協の組織基盤のいっそうの拡充・強化を。組合員の総意を結集できる組織運営の工夫を。)、B農協事業のあり方(総合事業兼営の意義とメリットの徹底追求を。農協事業の機能革新と一般企業に対する競争力、取引力の強化を。連合会は、現場農協の期待に応えられる絶対的補完機能の開発・発揮を。)、C農協経営のあり方(広域合併農協らしい有効な経営管理機構の整備・確立を。新しい農協運動を担いうる有効な経営者と専門家職員の確保・育成を。)、D農協運動のセンター体制のあり方(新しい農協運動のナショナル・センターの整備を。)を提言し、注目される。
  筆者は以上の提言に加えて、@組合員・役職員の教育・学習活動と広報活動―とくに([協同組合の第5原則]教育、研修および広報)をふまえた活動強化を。A多様化した農業者組合員を主軸に准組合員を含む生活者とのコミュニケーションの強化の中から、地域農業の新たなビジョンの策定を。B男女共同参画を重視した組合員参画型の営農面、生活面の事業活動の支援体制の革新を。C農協の企画室機能の強化と基幹支所の生活指導員配置を含む生活文化活動の活性化を。D職員の協同組合らしさ、元気さを高める分権型運営システムの拡充を。Eトップ役員は、協同組合らしい我がJAづくりのため、他の先進的と思われるJAから学ぶ努力を。F連合組織の役職員は、組合員が頂点にありその下に単協があり、最下階に相対的、絶対的補完機能を発揮するために連合組織が存在しているという組織風土づくり、組合員のニーズと願いに応えるアイデアを論議する組織風土づくりを。を提言したい。

格差社会という逆流を正す上で注目される農協運動の事例
  第1に、広島県JA三次では、過疎化や高齢化で正組合員が合併後13年間で14%減少(合併前の1JA相当分が消滅)への危機感から、平成17年度と18年度の2年間における男性加入者971人の年代別内訳をみると、29歳以下が29.4%、30歳代が20.2%、40歳代が21.1%と50歳未満層の新規加入割合が70.7%を占めている。同年間の女性の新規加入者2,122人のうち、50歳未満は37.9%である。 この結果、世代の若返り傾向と女性組合員の割合が3割を超え、女性理事も3名選出されている。このような男女共同参画型組合員の組織基盤の拡充が注目される。
  第2に、長野県JAあづみは、介護を必要としない元気な高齢者による寄合所『あんしん広場』を@集落単位に皆が集まりやすい場所につくり、A会費は自主的に決め、B内容も気楽に集まりお茶を飲みながら話し合うという仕組みを作り、すでに8年目を迎え現在24会場、年間延べ300回、6,000人が参加して地域に根付いている。しかも、元気な高齢者が魅力を感じ集まれるように、保健師や看護師の資格を持つ人や音楽や体育の元教師、行事食や伝統的な技術を持った人など多彩な110名の「お世話係」が核となり、さらに当JA事務局(福祉課)では年数回の「お世話係」研修会を開催している点も注目される。
  さらに、年齢や性別に関係なく参加できる1期2年で20回以上の講義がある「生き活き塾」で学んだ塾生が中心に「ふれあい市安曇野五づくり畑」(毎週土曜日朝8時から10時の直売事業活動)が生まれ、さらに塾生等の修学旅行が契機になり「JAあづみ生き活塾 菜の花プロジェクト安曇野」がスタートするなど、ネットワーク型の新しい組織・事業活動が交じり合い、新たなグループ活動が生まれ注目される。
  第3に、熊本県JA菊池は農薬・肥料代、飼料代、素牛の値上がりと枝肉価格等の低下で、組合員農業者の対前年比でみた2007年9月末の未払金(農協の未収金)と営農口座(当座貸越)からの借入額の合計額が、酪農経営平均で132.1%、肉牛肥育・繁殖経営で140.9%、肉牛育成経営で210.5%、養豚経営で97.2%、耕種経営で151.2%、全体で140.4%に増大しており、当農協独自に2007年7月〜2008年3月までに畜産経営維持緊急対策として飼料代と素畜代の価格補填に約1億円を充当し、県連・全農でも同様の価格補填に取り組んでいる。以上のような農業生産資材の高騰等による農業者組合員の経営困難な実態分析を踏まえた総合農協のタイムリーな支援策が注目される。
  第4に、山形県JA庄内みどりの遊佐地区中心とした組合員農家による共同開発米部会や飼料米プロジェクトチームが、(株)平田牧場や生活クラブ事業連合と提携して食料自給率向上を重視し、具体的にはエサ米を飼料として活用した豚肉の産消提携による事業活動を展開しており、注目される。

生協は国産の米粉やエサ米を活用した農畜産品の多様な料理開発を
  生協は国産の米粉やエサ米を活用した農畜産品の多様な料理開発にとりくむ組合員グループ活動を活発化させ、さらに農協の女性部等の組合員グループとの協同プロジェクトを立ち上げるべきである。これらの組合員活動を効果的に発展させるためには、「地域社会への関与―地域社会の持続可能な発展のために活動する」という協同組合の第7原則や「協同組合間の協同」の第6原則、さらに第5原則の「教育、研修および広報―一般の人びと、特に若い人びとやオピニオンリーダーに、協同することの本質と利点を知らせる4)」などの協同組合とは何かという学習活動も組み合わせて取り組み、次のステップでは、生協と農協、漁協等が連携した日本型あるいは地域密着型の食文化活動あるいは食農教育活動を活発化することにより、組合員とその世帯員が学び合い教え合いながら協同組合らしい風格を築きつつ、格差社会を正す協同活動のみなぎる地域社会づくりに貢献すべきではなかろうか。


注:
1)読売新聞ホームページによる。
2)中谷巌著『資本主義はなぜ自壊したか』
   集英社インターナショナル、2009年。
   2009年3月26日付け日本経済新聞の社説は、現在、アメリカを中心に世界の金融機関の不良資産は20兆ドル、すなわち約1,967兆円と報道している。
3)浜矩子著『グローバル恐慌−金融暴走時代の果てに−』岩波新書、2009年。
4)日本協同組合学会訳編『21世紀の協同組合原則−ICAアイデンティティ声明と宣言―』日本経済評論社、2003年。