2000年2月号
特集

福祉シンポジウム
「介護保険を超えて生協に何ができるか」

99年11月23日、くらしと協同の研究所福祉プロジェクト(代表、上掛利博さん)主催による、福祉シンポジウムが「介護保険を超えて生協に何ができるか」をテーマにして京都のせいきょう会館で開催された。コーディネーターの上掛利博さんが問題提起をし、北昌司さんが特別報告、浜岡政好さんの基調報告が行われ、最後に川口清史さんからのコメントがあった。このシンポジウムから、福祉の活動や事業を通じて生協に今何が問われているのか、あらためて考えてみたい。


<コーディネーターによる問題提起>
上掛利博 京都府立大学助教授・当研究所研究委員会幹

安心できる地域社会のために
先日、一番ヶ瀬康子先生が京都にお見えになり、「予防介護を大事にしよう」と講演の中でおっしゃった(『協う』99年12月号、No55、10P参照)。今は寝たきりになったり痴呆になった人をどうするか、という点で考えられているが、要介護状態にいたる前の予防介護が重要ではないかという指摘だと思う。つまり、寝たきりにならないためにも早い段階でのちょっとした家事援助があると良いし、また、人と人との関係が築かれていると、コミュニケーションが豊かで、笑いがあり、安心して暮らしていける地域社会をつくることができるだろう。
そのために生活協同組合が地域の中で、どのような役割を果たすことができるのか。生協が福祉の事業や活動をどのように位置づけて関わるのか。さらには、21世紀にむけて生協の価値やあり方そのものが問われている大変重要な時期にあると思う。

発想を自由にひろげて
福祉の問題について、生協陣営では、主にコープこうべや生協ひろしまの事例が紹介され、それを全国の人たちがまねるという姿勢が強くみうけられる。それぞれの地域に合った新しい事例の紹介が次々なされ、多様な取り組みが行われているとはいえない状況がある。これは、介護保険があまりに大きく私たちの眼前に存在して、さあ大変だと関心が介護保険に集中しているために、それ以外のことについて忘れてしまっているからではないだろうか。
私は、介護保険以外にも発想をひろげて福祉を考える必要がありはしないか、問題提起をしたい。

生活者の視点からの福祉
介護保険の範囲からは外れるけれども、私たちが安心して楽しく地域社会で暮らしていくためには是非こうあってほしいという取り組みやサービス、施設の有り様を考える必要がある。生協には、「くらしの助け合いの会」の活動などを通じて、組合員が気づいたこと、自分たちならこうしたい、こういうサービスがあったらいいなという願いがあるはずで、そういうサービスを自分たちで創り出していくために、生活者としての視点や発想を大事にしながら活動や事業に育てていく仕組みを考えることが大切である。
これは、地域でネットワークを創ったり、活動のなかで人と人とが出会い、意識を変えていったり、新しい人間関係を創ったりするきっかけにもなりうる。そのためには優れたマンパワーを持つ「くらしの助け合いの会」やホームヘルパー養成講座、ヘルパー派遣事業などに関わっている人たちの質、人的資源が重要になってくるので、それをどう高めていくのかが課題になっている。
公的介護保険という枠を超えて、生協は福祉分野で何ができるのか、今改めて考えてみたい。


<特別報告>
厚生省、通産省などの動きと日本生協連の福祉政策についての特別報告
北 昌司 日本生協連組織推進本部福祉事務局長

福祉用具を産業として
日本生協連は、94年に福祉用具のカタログ「ふれあい専科」の供給事業を実験的に開始し、その成果の上に立って96年より全国展開を進めてきた。これは、先行する「助け合いの会」などの組合員活動と「くらしと生協」(日本生協連が年6回発行する総合カタログ)の事業の成果を土台にして共同購入のインフラを利用した事業展開をしてきたことが背景にある。それ以降、厚生省や通産省などの様々な会議にも出席しているので、最新の情報をお伝えしたい。
狭い意味での福祉用具の市場規模は97年度で約1兆円であったが、通産省は、共用品などもふくめた広い意味での福祉用具の振興を産業として考えている。「福祉用具産業懇談会」という、福祉用具産業政策の基本方向を検討するための会議がある。そこでは福祉用具の問題点として、消費者ニーズをつかみきれていない、ニーズを把握して開発コンセプトに結びつけられていない、利用者から市場評価をもらって再度開発につなげることが弱い、などが議論されている。また、措置行政に依存するのではなく、市場原理、業界の主体的対応、顧客ニーズ志向などが求められているのではないか、とも言われている。その他には、主に民間参入促進を意図した「民間介護・生活支援サービスに関する研究会」が、通産省の生活産業局長の私的研究会として設けられているが、そこでは介護保険の市場規模が4.2兆円、介護保険以外の市場規模が45兆円と試算されている。

ケアマネージャーの位置づけ
また、在宅の要介護高齢者約200万人に対応するために厚生省はケアマネージャーを大量に養成し、その数は全国で16万人にものぼる。介護保険の理念上はこのケアマネージャーが中核的な位置となっているが、通産省の研究会の中で、ある自治体の委員から、ケアマネージャーが旅行代理業のようなエージェント機能ができないとなると、月35万円くらいの収入しかなく、これでは生計が立てられないと言っている。ケアマネージャーは、理念上は公正中立だが、現実問題として介護報酬が低単価で、食っていけないという現状がある。通産省としては、日本経済がここまで落ち込んでいるので、なんとか福祉の分野で50兆円市場を作っていきたい、そこにケアマネージャーの役割をどう位置づけるかという検討をしている。

公的コントロールの下に
社会福祉行政と生協の関係では、介護報酬上、あるいは運用基準上、生協が公的コントロールの下に入ったと考えている。
歴史的にみると、86年の「生協のあり方に関する懇談会」では、「急速に高齢化する日本社会にあって、自発的相互扶助組織である生協の役割は大きい」、と「相互扶助組織」に重点がおかれた。もう一つ、98年の「生協のあり方検討会答申」では、社会的要請に応えて生協の員外利用許可の方向性が打ち出された。また、介護保険三法が国会で可決された際、付帯決議の中に生協が制度上位置づけられた。
日本生協連はこれまで2つの福祉政策を作ってきた。一つは92年の「福祉活動政策」で、当時4つの視点で生協の福祉活動を進めようと、「豊かな福祉のあるまちづくり」「生活福祉の視点」「自立と協同」「事業運営上に福祉の視点を欠かさない」と提起した。そして98年に「福祉政策検討委員会答申」を出した。これは、組合員活動でずいぶん土づくりはされたので、そこに種をまいて花を咲かせ、実をならす時期だという、相当事業化にシフトしたものになっている。
この2つの「あり方検討」と福祉政策の流れを見ると、生協が介護保険に制度上位置づけられ、行政の影響を非常に大きく受けるようになったことが理解できる。例えば、厚生省と民間団体との懇談の場である「ホームヘルプサービス事業に関する意見交換会」で、今年度の身体介護の介護報酬単価を決める際、現場の実体にあわせて厚生省へデータを提出することになっていて、そこにコープこうべと生協ひろしまにお願いして、発言をしていただいた。このように行政に影響を与えるというケースも現れている。

生協の政策が問われてくる
ただ、介護報酬上の意見は出していくが、意見を出せば出すほど、税法式か社会保険方式か、税と負担の関係をどう考えるかなどについての政策を日本生協連としても持っていかなくてはいけない時期がきている。介護保険が、介護医療保険といわれるように、医療改革とあわせて提案されているので、今後どういう視点で発言していくのかという考え方を持つべきである。

シルバービジネスの戦略
次に、シルバービジネスを見てみる。
例えばニチイ学館(68年創業、総合的な在宅介護事業を全国展開している企業で、ヘルパーステーションは400を超える)では、利用者の信頼を獲得するために、全国1万2千に及ぶ病院・診療所と提携を始めている。グッドウィル(総合人材サービス企業で、24時間365日ヘルパー派遣をするコムスンはそのグループ会社。巡回拠点は全国で800以上になる)も、ニチイ学館も200万人の在宅要介護高齢者のそれぞれ1割を獲得しようとしている。
この全国展開する財源は、ヘルパー養成講座を事業として展開しており、それが原資になっている。受講料は9万円程度で、98年度は5万人が受講、約45億円が事業所展開の原資になる。また、ニチイ学館は日本生命と提携したが、セールスレディーだけで7万人いる。また、タクシー業界が規制緩和の中で競争が激しくなり、福祉タクシーが戦略の一つとして考えられているので、こうした状況を背景に、2000年度は10万人を養成する予定である。それで90億円の原資が生まれ、しかも、教育訓練給付制度(労働省の社会教育訓練給付制度。労働大臣が指定した教育訓練を受けて修了した場合、その受講のために本人が教育訓練施設に支払った経費の80%相当額をハローワークより支給される雇用保険の給付制度。詳しくは、ハローワークか労働省へ)があるので、利用者にも8割ほどお金が戻り、安く受講ができる。

危機の中で第三の事業は確立できるか
福祉事業を開始している、ある生協の理事会で、本体事業が危ないのに福祉に手を出していいのかと議論されたそうである。本体事業は店舗や共同購入だけなのか、福祉は枝葉の事業なのか、時代の変遷とともに、相互扶助組織である生協が、福祉を本体事業にしていくべきだ。そういう議論である。
私は「ふれあい専科」の取り組みを全国の生協にお願いしているが、福祉事業については政策的な位置づけを持つこと、つまり購買、共済に次ぐ第三の事業として確立されることができるぐらいの位置づけがいるのではないかと思っている。日本生協連も微力ではあるが、各生協が政策を確立できるよう、積極的に支援していきたい。


<基調報告>
生活協同組合と福祉事業の可能性
浜岡政好 佛教大学教授・当研究所副所

政策の転換と生協の位置
現在、国レベルでの福祉政策は大きな転換期にある。国は福祉分野で巨大な市場を作り、次の時代の新たな産業分野を創出しようとしている。これまで行政が主に担ってきた福祉サービスの供給主体は多様化し、今後は民間企業の大規模な参入が起きてくるものと思われる。医療機関も福祉事業への取り組みを強化しており、サービス提供機関としての生協の位置は現実にはまだ低い。民間としての生協がどういう特徴を持った提供主体として独自の位置を確保するのか、ここが問われている。
また、これまで独占的に福祉サービスを提供してきた社会福祉法人の位置付けも変わり、これまで担ってきた公共性を誰が担うことになるか。生協が社会福祉領域へ進出することは、単に新しい事業分野へ進出するだけでなく、公共性の担い手として期待される面もあるので、その自覚が強く求められる。

くらしの変化、生活実態から
組合員や地域の人たちの生活は、この間の失業率の高さに示されているように非常に厳しくなってきている。導入される介護保険は自己決定による選択を可能にするとしているが、自己決定の前提としての経済力、情報力、判断力などに欠ける高齢者が少なくない。新しい社会保障、社会福祉の仕組みを作るときには、勤労者の生活実態との関係を見る必要がある。
家族状況をみると、高齢化が一段と進み、同時に女性の就業率が上がっているので、女性に家族介護の担い手としての役割を期待するのは事実上困難になっている。介護は社会化することでしか対応できない状況にある。

地域住民組織の変化
高齢化が進んでいる地域での互助関係は、必死の取り組みにもかかわらず衰退している。これは中山間の過疎地だけでなく、大都市の中心部も同じで、地域の基本的機能を維持すること自体が困難になっている。こうなると、大震災後の仮設住宅において見られたように、外からの援助と地域内の自治活動との連携を創りださないと、地域が維持できなくなる。
このことは、住民組織についても同じである。担い手が高齢化し、減少してきているので、最近では地域活動の新しい担い手をどうつくりだすかが重要な課題となっている。その意味で、3級ヘルパー講座などは、単に社会福祉の担い手としてだけでなく、地域活動の担い手をつくりだしているのだと思う。過疎地域では、消防や郵便局、プロパンガスの販売所や小売店など、高齢者と何らかの形で行き来しているさまざまな既存の社会資源を、もう一度高齢者の介護という福祉的な切り口で新しい機能を付加して、生かそうとしている。

福祉事業へのスタンス
以上のように、福祉事業をめぐる状況は、高齢者や住民からその必要が切実に求められているし、政策的にも事業者として活動しやすいような環境が整えられてきている。
事業への進出にあたって押さえておくべきことは、現に組合員や地域の人々のくらしが高齢者介護を含めて非常に厳しい状況にあり、これを少しでも改善する活動の一環として位置づけることである。福祉政策の転換により、これまで福祉を担ってきた社会福祉法人などの状況も変わりつつある。そういう社会福祉プロパーの目から見ると、生協などは福祉ビジネスの先導役になるのではないかと微妙に映る。そうした状況にも配慮しつつ事業をしていかないと、地域の中で協同のネットワークを作っていく際に、無用な軋轢が生じる可能性もある。
全体的な政策動向は規制緩和で、民間活力を生かす方向が強められてきており、民間の介護ビジネスとの競争が激化すれば、社会福祉法人だけでなく、生協など非営利の事業も駆逐されるおそれもある。冷静に政策の流れを見抜き、組合員や地域の人々のくらしの改善に生かせるか否かを基準にして、福祉活動や事業のスタンスをとる必要がある。介護保険の最近の混迷を見てもわかるように、必ずしも国民的合意が成立していないので、制度が動く可能性もある。制度に寄りかかるのではなく、組合員のくらしに依拠した冷静な対応が必要である。

生協への期待
生協などの民間非営利組織には具体的にどのような期待がもたれているのか。
一つは、高齢者保健福祉計画における在宅介護サービス量が不足しており、生協などがサービス提供主体として少しでもサービス量の増大に寄与することに対してである。
例えば京都市では、数字の上では必要サービス量の目標値を一応達成しているが、地域的なアンバランスもありニーズに応えられないことも生じる。デイサービス等は目標さえ達成できていない。「上乗せ」や「横だし」サービスは介護保険としては行われない場合が多く、一般施策として実施される場合には委託事業になる。また、自己負担でもいいから使いたいというニーズに対しては、今のサービス供給量は十分ではない。
特に問題になるのは、介護認定で「自立」とされた人への対応である。家事援助など、現在ホームヘルプサービスを利用している人が自立判定となった場合、サービスを使わないで在宅生活を続けることはかなり難しい。こういう人たちが在宅生活を続けるにも何らかの社会的援助が必要になってくる。ホームヘルプサービスやミニデイサービス、グループホームなど地域で暮らし続けられる期間をなるべく長くするための、さまざまな社会的なサポートが必要になる。これらは事業としてはあまりお金にならないが、だからこそNPOや生協などが期待されるのではないか。
二つめは、人材養成や拠点の確保に関するものである。多くの生協ではヘルパー養成講座を開設しているが、それだけではなく、ボランティアも含めた人材養成と、それらの組織化が必要となっている。そして、きめ細かい活動を展開するには、お店や支部などの活用も視野に入れて、地域ごとにホームヘルプやデイサービスの活動拠点を確保することが大切である。
三つめは、地域の保健福祉情報の調査と改善への提言である。生協のエリアは広域で、しかも活動の担い手をたくさん抱えている。そのような力を生かして自分たちの住んでいる地域の保健福祉サービスの量と質をチェックし、その情報を組合員や地域の人に返していくことができれば大きな役割を果たすことになる。そして、地域の社会福祉協議会やJAなどのさまざまな非営利の団体と連携しながら制度改善活動を進めることである。

21世紀にふさわしい生協へ
おわりに、福祉を担うことにより生協は何をめざすのか、ということだが、一つは組合員の生活を支える仕組みを福祉活動や事業を通じて発展させていくということである。二つ目はやはりコミュニティづくりである。生協は子育て期の家族生活を支えることで地域住民の支持を増やしてきたが、生涯を通じて暮らし続けられるコミュニティづくりを福祉の課題と関わらせて行っていくことが求められる。三つ目は、今まではマンパワーの提供者として期待されてきた経緯があるが、単なる利用者や労力を提供するだけの福祉への参加だけではなく、意志決定を含めた実質的な参加を福祉への活動を通じて強めていく必要がある。
福祉活動は生協の一事業をどうするのかにとどまらず、生協の活動や事業のあり方を21世紀の高齢社会、男女共同参画社会にふさわしい組織に作り変えていく課題になるであろう。


<コメント>
川口清史 立命館大学教授・当研究所副所長

事業と参加の結合
生協の行う事業は、事業と参加の2つを結合できる条件を持っている。今まで購買事業が組合員の事業参加を追求してきたが、それ以上に組合員の事業参加、あるいは事業そのものが組合員の参加によって成り立つ条件をもっているが福祉の分野である。その場合の組合員は、単なる介護サービスの受け手ではなく、いろいろな関わりを持った組合員が事業に参加することになる。

利用者の事業
生協はやはり利用者の組織であるという原点に立った事業でなければいけない。これまでの福祉事業は、どんな供給主体であれ供給者の論理で組み立てられてきた。それに対して生協は、利用者の側からの論理で事業が組み立てられるし、そのことが、福祉のあり方や福祉の供給システムに対して、利用者側からの問題提起ができる根拠にもなる。現在の利用者の側からも、単なるサービス提供者だけに終わるのではなく、様々な発信をする役割も期待されている。

生協論の再構築
組合員活動や事業における組合員参加、組合員活動と事業の結合などを生協はいままで追求してきたが、福祉の事業は新しい分野であり、また質的に新しい生協を作り出す可能性を持っている。生協の民主的な発展や組合員参加が生協の中で広がっていく、これが生協にとっての新しい発展の場になりうることを生協が位置づける必要がある。

総合生協のメリット
事業化をしていく場合に、現実問題としての採算はどうなるのか。事業として成り立つようにすることは、生協の経営や事業の継続性からも重要である。
最近の様々な民間企業の動きをみていると、例えば「ニチイ学館」は医療機関や生命保険会社と結びつこうとしているように、ホームヘルプサービス単体で採算をとると言うより、それらとの関連で本体事業や関連した様々なサービス分野の発展を考えている。これは経済学の分野で「範囲の経済」という。関連した分野を取り込むことによって全体として採算を上げていく。これが民間企業のねらいである。ヘルパーを派遣してそこで得られた個人情報を他の事業につないでいくことなので、非常に微妙な面を持っている。
多くの生協は、総合生協であることを生かして、福祉事業で出てくる様々な情報やノウハウを、生活を守る取り組みとして他の事業にどう生かしていくか、という発想が求められている。それを考えることによって、総体としての生協の事業が成り立ち発展する、とつながっていかなければならないと思う。
生協の共済は非常に伸びているので、店舗の赤字につぎ込まず、もっと福祉に使うべき、というのが私の持論である。生協らしい共済を作る時に、ホームヘルプサービスなどの福祉事業の中から共済に対する新しい提案、商品開発が出てくるのではないか。

生協の社会性
生協はこれまで行政とは距離を持って、独自に発展してきたが、福祉活動や事業に関わることで、社会的なポジションが根本的に変わることを認識しなくてはいけない。今後公的システムの中に入っていくと、生協の小さな動きが非常に大きな影響を及ぼすようになる。そのことを意識しながら、思いきった発信をすることで新しいステイタスを得ることができる。
公的なシステムに関わるということは、これまで以上に発言力は大きくなり、社会的位置は高まってくるが、同時にそれにふさわしい見識と政策を持つ必要があることを意味する。生協らしくどれだけ利用者の立場を貫いた政策提言ができるかによって、日本の社会での生協の社会的、政治的ポジションが決まってくる。
行政との関係だけでなく、地域のNPOや社会福祉協議会、社会福祉法人、あるいは町内会、自治会など様々な住民組織と関係も同時に生まれる。これらの組織とどううまく結合し、ネットワークをもつのかを考えていかなくてはいけない。それには新しい組織能力、コーディネート能力が要求される。組合員の中で議論して、組合員の中でまとめて、組合員の中でできることからやっていくという力と、生協の外にある力とを結合することで、より大きな仕事にする、それによってより一段と生協が社会的に拡がるという関係になっていくのではないか。これが生協の社会性であり、おそらく協同組合の新しい原則で第7番目の「コミュニティの持続的発展に関心を持っていく」ということの実践になると思う。


報告の後に行われた討論の一部をここで紹介する。

家族を地域で支える
発言A:ヘルパーと高齢者との関係だけに止まってしまうのは、介護をうける高齢者の立場に立ったら、それがたとえ生協やNPOであっても、それだけでいいのかという疑問を持つ。生活者として地域の中で暮らしていくには様々なつながりがあり、犬の散歩からホームヘルプサービスまで生活全体に応えていく必要があると思う。その時に一つ重要なポイントは家族のケアではないだろうか。
それは首都圏のNPOの調査をしているとき、ホームヘルプサービスをすることを除いたら何が重要な要素なのかと考えた。そのNPOは、ホームヘルプサービスはまちづくりの事業であると位置づけて、家族ごと地域の中に巻き込む取り組みを意識的に追求していた。例えば人生相談のような形で、夜遅くまで電話でのやりとりがあるとかが、本当に地域の高齢者が住み続けていくためのケアなのではないのかと思った。介護保険の議論の中では本人を支えるところだけに目がいって、家族を地域でささえる視点がほとんど抜け落ちている。

地域と生協
発言B:地域から見ると、生協の姿がなかなか見えてこない。生協の活動は生協の中だけにしかなく、地域の他の組織とリンクするのがまだ十分ではないのかもしれない。地域には協同組合以外にもたくさんの社会的資源、活動している人たちがいるので、その人たちと高齢者の生活をうまく支えられる仕組みをどう創りあげていくのかを探求していく必要がある。例えば地域の自営業者などを含めた新しいネットワークを創っていけば、もっと住み続けることができる。

発言C:介護保険は市町村が責任主体なので、そこと生協が連携をとらなくてはいけないが、生協は本部まで通らないと対応ができない。店舗や組合員組織はあるのに生協は地域を代表する組織がないので、行政との対応にならない。事業体や組合員活動が市町村単位で行政と関係が持てるよう分権化し、そこでのネットワークに参加する、そういう自主的な活動を展開することが求められてくる。直接各市町村とその地域の生協が対応できるような仕組みをどう作るかが課題になる。

発言D:生協の言う地域は、本来のコミュニティや地域ではない。本来のコミュニティから福祉や介護の問題を考える必要がある。生活全体、地域丸ごとが福祉なので、そこから介護だけ切り出してきて、これが福祉です、と生協が事業だけに専念するような福祉を考えているのであれば、どうも心もとない。NPOや、ボランティア団体の人たちが、やがて福祉の生協を作っていくことになるだろうと思う。そういう人たちとコミュニティの中でどういう母体を作って、ネットワークや福祉の支えあいを作るのか、そこと生協がどんな関わりを持つのかを考える必要がある。地域から見て生協の福祉の姿がもっと見えるように、地道なことをもう少し考えていかないといけない。

以上紹介した以外にも、介護保険後の措置制度の状況や、「ふれあい専科」や全国的な生協陣営の取り組み、介護の効率と公共性、総合生協とNPOの関係などが討論された。
最後にコーディネーターの上掛さんは、寝たきりやボケになった時の介護の事業をどうするのかという議論だけでなく、寝たきりにならないための予防や生き生きと暮らせる「地域丸ごとの福祉」が大事であり、公的介護保険の枠を超えて、豊かな発想で考えていこうとまとめの発言を行った。

生協組織の体質の見直しを
多くの生協は、厚生省の期待を福祉に取り組む意義にすえて介護保険法の指定事業者への道を進んでいる。この方向で「購買、共済につぐ第三の事業」に福祉がなったとしても、組合員の実質的参加による自発的運営という生協の組織原則への徹底、強化にはならない。
経営が厳しい今だからこそ必要なのは、地域からの生協の再生、福祉事業を通じての生協の再生が可能な組織への体質づくりではないだろうか。組合員が自分たちの暮らしや地域の要望にあわせて実質的な参加をすすめていくことができるのが福祉の活動や事業である。短期的な経営対策に留まらず、根本的にそのような生協への発展が求められている。
今回のシンポジウムではあまり触れられていないが、福祉事業が生協再生論であるとすれば、トップメッセージが重要であり、それをどのように具体的な形にしていくかという組織運営の問題が課題として残されている。




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