2000年2月号
コロキウム(論文)

新しい千年紀のなかで変化する非営利組織の役割 オーストラリアの見通し

ピーター・ドー



この千年紀は、個人やビジネス、特に非営利組織(NPO)にとって、変化の時期が近いことを示している。

1 NPOの変化の要因
過去10年間のNPOの成長には、多くの要因がある。
それは、第一に、社会の特別な領域について、経験や知識を持っている個人個人が、精力的なエネルギーを示したことである。その領域とは、国や州政府によっては満たされないが、非常に多くのサービスに応じることが求められている領域のことである。たとえば、フレッド・ホローズ財団は、眼の診断や治療に必要な多額の費用を支払えない人々に、眼科診療所を第三諸国にも開いている。この財団は、強い志を持った一人ひとりの努力によって、規模的にも成長を遂げてきた。彼らは、人々を支援することで人間的に成熟してきた。創設者のすぐれた意欲は、他の専門家や組織から多くの注意を引きつけ、支援を引き出した。人々は、この財団の主張にたいし、時間や機器、金銭を提供したのである。
第二に、チャリティー団体の様相が変化していることである。(ここでのチャリティー団体とは、不利な条件に置かれた人々に支援やサービスを提供する団体のことである)この変化は、人的資源や他の生産要素について大規模に行われた事業の再構築と規模縮小によるものである。連邦政府や州政府は、かつては金銭上も課税免除の点でもチャリティー団体を支持してきた。しかし今は、政府は経費を切り詰め、活用可能な財団資金源の総額を減らしている。これは、政治目標が、政府勘定の収支を均衡させることに力を傾けるようになったからである。そのために、チャリティー団体は、非常に脆弱な地位に置かれることになった。たとえば、ヴィクトリア州の視覚障碍者の人々にサービスを供給してきた組織は、(1980年には、ある種のサービスを供給するエージェンシーが5団体あったのだが)、資金の総量そのものが減少したために、孤軍奮闘せねばならなかった。このことは、結局サービスの合理化となり、その結果、クライアント(サービス受給者)と接触する度合いが減少した。この援助を必要とした人々は、おそらく、よいケアを受けにくくなったものと思われる。
第三に、コミュニティに根付いたサービスへのニーズが増大していることである。これは、人々がコミュニティに何が必要かをよく知るようになり、いっそう意識するようになったからである。サービス供給を政府に頼ると、長期間に渡る緩慢な時間浪費になる。利害が共通し、志が似た意欲に満ちた個人が、コミュニティのことを考えてNPOをつくりだしてきた。たとえば、ヴィクトリア州のフィツロイでは、運営が上手で低料金の保育や、健康や栄養に関する情報への簡単なアクセスや、自然食品の購入など、地域住民が多くのサービスを必要としている。住民自らが、小売りの形でフード・コープをつくった。ここでは、ランニングコストを低くするためにメンバー制をとっている。また、同じ志を持った他の企業から支持され寄付も得ている。
この千年紀にNPOが挑戦する課題はたくさんある。不安定な経済や企業の規模縮小、減少する政府支出など、社会構造が変化し、また、関連する分野では競争が増大する。

2 NPOが留意すべきこと

私は、NPOが留意すべき事柄を、以下のように考えいる。

(1)顧客や政府の政策、資金調達に必要な事柄、情報源、そしてコミュニケーションスキルなどの市場性を知る能力をみがくべきである。NPOは、食料生産であろうが、保育サービスであろうが、障碍者ケアであろうが、その分野に精通した熟練者でなくてはならない。彼らは、活動する領域の環境に十分注意すべきで、そのための情熱(passion-原文)を持たねばならない。

(2)NPOは、よいマーケティングスキルを開発すべきである。新しい組織は日々社会のなかで増え続けている。市場のなかで、NPOが眼をむけられ、耳を傾けてもらい、理解されるための能力は、決定的に重要である。その声が届かなければ未来はみえてこない。

(3)説明責任(accountability-原文)が重要である。NPOは、うまく運営され、財政的にも管理されねばならない。その活動は、本質的に、すべての衆目にさらされている。もし読者の皆さんが人々の寄付に依存しているなら、顧客やクライアントにそれを上手に使っていることを示すべきである。そうすれば、腐敗も、浪費も、醜聞もおこらない。一般の人々は、過去の過ちから、「世間にうとい慈善家」組織には懐疑的である。

(4)関係性が大切である。どんな分野においても、NPOの成功は、会員や顧客、サービス提供者などと良好な関係をつくり、それをモニターし発展させる組織のスキルが決定的である。この良好な関係は、一般的な目標としてもたてられるし、相互理解としても考えられる。組織を強める上で、この相互理解は決定的に重要である。

(5)資金調達が十分でなければいけない。そのためには、NPOの活動方向を理解し、援助したいと思っている企業や政府、諸々の個人と、アクセスを持つことである。現実には競合する組織がたくさんあるので、資金調達は著しく困難になっている。しかし、明確な目標と市場に関する現実的な理解、良いサービスなどがあれば、相当の資金調達を常にひきつけることができるだろう。企業から快く資金調達できるなら、NPOはより適切な目標設定ができるようになったということだろう。
NPOは、明快な報告と正しい資金使途をとおして、スポンサーの貢献にたいし真剣に価値を付け加えなくてはならない。これは尊敬と信頼を築き、その結果、長期にわたるよりよい関係へとつながるだろう。

3 RVIBでの経験
私はおもに二つのNPOで仕事をしてきた
一つは「視力障碍者のためのロイヤル・ビクトリアン・インスティテュート」である(RVIB。The Royal Victorian Institute for the Blind、オーストラリア、ビクトリア州メルボルン)。もう一つは、CCETSWといい、「ソーシャルワークの教育とトレーニングのための中央協議会」である(The Central Council for Education and Training in Social Work)。
RVIBは視力障碍者のためのチャリティーで、寄付と政府基金で、19世紀後半から運営されてきた。RVIBは、1980年代の後半、基金を得るために商業主義的な手段を採用せねばならなくなった。州政府は基金をカットし、以前より少ない資金でサービスを供給せねばならなくなった。しかし、資金調達部門を発展させ、自分たちの組織に人々が注目するように、新しい方法を考えた。
私は、マネージャーとしてマーケティングに責任を負うことになった。他の会社や一般の人々に RVIBを知ってもらうことも私の責任である。魅力的なロゴやレターヘッドを通信用に使ったり、組織名が、宣伝に効果的な使われ方をしているか監督したりする。RVIBでは、紺青色を使い、特別な形のかざり文字を採用した。(レターヘッドとは、オリジナル便箋の頭部につける、名前・住所などの部分。中には凝った美しいものがある−訳者)
また、私は「ろうそくのともしびでクリスマス賛歌を」として知られる催しを推進した。これは、過去35年間行われてきた催しで、クリスマスイブ(12月24日)に全国ネットのテレビ番組にもなっている。ミューア音楽野外劇場(Myer Music Bowl)というメルボルンの屋外会場で3時間ほど行われる。チケットを買って、見に行くこともできるし、家でTV放映されるのを無料で見ることもできる。このクリスマスイブの夜は、著名人のホストが番組をしきり、クリスマス賛歌を歌うミュージシャンや合唱団、聖歌隊が紹介される。催し会場に参加する人々は、ピクニック用のバスケットや毛布を持ち込み、日が沈むと、ろうそくに火をつける。ろうそくはクリスマスを象徴していて、夜のピークにむけてクリスマス賛歌や聖歌を歌う。この催しは、RVIBにとって、大きな資金調達の場であるし、他の活動への注目を集める機会にもなった。
この催しでの私の責任は、次のようなものであった。会場を決め、自治体関係の協議会に予約をとりつけ、必要な設備機器を特定し、催しを中継するテレビ局と連携し、スポンサーになるよう交渉する。また、ろうそくを調達し、広告会社を記入したプログラムをつくり、クリスマス賛歌に贈る言葉を考える。
そのほか、マーケティングマネージャーとしての仕事は、RVIB自体の催しや場を広めることだった。たとえば、RVIBのホールは一般の人々の公的な社交や会合に使われた。宿泊つきの研修では、仕事についている視力障碍者の人々が光をあつかう作業を集団で行ったりした。また、土地には、みごとな庭や歴史的な青玄武岩の建物をもっていたので、映画スタジオに活用するよう推めた。これは、テレビ番組「スパイ大作戦」(Mission Impossible-原題)の気をひき、番組のシリーズのなかで病院として使われた。
さて、クリスマスイブの催しは、次のような問題点をもっていた。催しの目的は、番組で全国のテレビネットワークをカバーすることによって、オーストラリア中の人々の注目を促すことだ。テレビ局は設備と人員を提供するが、RVIBのほうは、場所や他の関係費用を借りなければならない。クリスマスなので、番組では、友情、平和、善意が強調され、出席した人々に寄付の訴えがあった。しかし、このショーの視聴者からは、寄付の確約をとることにはならなかったのである。
唯一利益を得たのは、テレビ局と広告主であった。RVIBのほうは、催しの費用をカバーすることもできなかったのである。人々は素晴らしい催しを行った。しかし、マネージメントが貧弱であったために、善意を寄付に変えるための手段やメカニズムを持つことなく、催しは成長を遂げていった。RVIBがコントロールするために必要になる団体との関係やスキルの問題は、置き去りにされたままだった。これはNPOに共通する問題である。彼らは善良な意図を持っているが、どうやら、NPOのメッセージや存在理由は方向を見失っているようだ。
RVIBの将来は、この催しをコントロールするRVIB自身の能力にかかっている。また、喜んで寄付する人たちをきちんと意識することによってうまれる利益を、しっかり受けとめられるどうか、という能力にもかかっている。

4 CCETSWでの経験
CCETSWでは、イギリス(the U. K.)中のソーシャルワーカーの能力を向上させることに重点が置かれていた。彼らは教育水準のガイドラインを設定し、それを本にし、各分野で訓練を受けているソーシャルワーカーを支援した。政府と密接に関係する多くのNPOのように、CCETSWは、自分たちの活動で収入を生み出さねばならないと気づいていた。このことは悪いことではない。しかし、彼らは事業収入を得るために結成されたのではないので、不自然であり、それゆえ、組織の中では多くの抵抗があった。組織全体の基礎になっている高潔な部分が挑戦を受けていた。チャリティーは利益を目的に運営されるのではなく、コミュニティーでより必要とされているサービスを提供すべきもの、と期待されているのだ。
私は、CCETSWでも、マーケティングマネージャーとして働いた。職務はCCETSWの出版物を、ヨーロッパ中の福祉事業の関連団体に販売促進することだった。CCETSWには200点以上の出版物があり、福祉事業やソーシャルワークの多様な話題を網羅していた。名簿売買業者から買った名簿一覧を使って、ソーシャルワーカー個人にチラシや宣伝物を送った。団体の送付先は、ソーシャルワーカーを雇い入れる地方議会がほとんどであるが、なかには図書館もあり、メディアや同業者団体もあった。
私の仕事は、先に送った見本について、相手に電話をかけて追跡調査することだった。送付先に着いたかどうかを確認し、われわれが影響力を与えようとしている、意志決定の立場にある人に、送った情報が有効かどうかを確かめるのだ。このようにしてから、本の売れ行きを表データでチェックし、月ごとに出版部のマネジャーに報告書を出す。
商品見本市でも、CCETSWの組織や出版を前面に押しだした。たとえば、ロンドンのウェンブリーで開かれたケアレックス(Carex)展示会にも参加して、われわれのサービス内容や出版物を積極的に知らせる活動を行った。薬物、アルコールに関する総覧の新規出版も手がけたが、その際には、メディアにも届けて、好意的な書評を得て本の売り上げに結びつくようにマーケッティングの手法を使った。私は、このように、マーケティングマネージャーとして出版部門の人々とチームを組んで一緒に働いたのである。
チャリティーへの考えは、ここ数年変わってきた。政府の説明責任と、どのように政府がその資金を使うかということとは、NPOの存在に強い影響を与えている。NPOは一般の人々との間に間隙を生むようになった。NPOは、政府基金を通して納税者の大量の資金を費すが、見返りにどんな収入をも生み出していないではないかと、活動が攻撃されるようになったのである。
これは根本的な変化である。かつての社会サービスや現代社会の一般的な責任として生み出されたサービス(例:視覚障碍者、貧困層、高齢者などへのサービス)は、いまやビジネスなっており、事業体自身の資金調達や、生き残りについて責任を問われるようになった。このような機能は、NPOには備わっておらず、そして多分、NPOには不可能な機能であろう。
CCETSWの資金の圧倒的多くは政府基金で調達されたものであったし、当時、政府の政策によってコントロールされ方向付けられていた。しかしそれは、真に必要に迫られた人々に、コミュニティーを基礎にしたサービスを提供する時には、難しい立場のものだといえる。

5 私の観察
NPOでの経験から、私はいくつかの観察をしている。
政府の資金を調達する組織を持つことは、きわめて難しい。それは、その組織が政府の変化に従って、活動の焦点を変えねばならないからである。また、供給するサービスが無料であるときは、商業的に存続するようにすること(すなわち自己資金調達)は難しい。その発端が、介護提供者(a caregiver-原文)だからである。
政府が基金を出し組織の動きが非常に緩慢なNPOは、たとえば上述の出版プロジェクトでは、別々の部門が5つもかかわっていたし、何かが成し遂げられる前にはそれぞれの部門の意見と同意が必要だった。NPOでは、実際、仕事は日々成長しているので、日ごとに自分の責任が何かをみつけださねばならない。それに比べて民間企業では、人々の役割はくっきりと明確である。そこでは、コミュニケーションは、直接的で明快で日常的なことだが、NPOでは、部門の職員を通しており、間接的であった。NPOの部門内の人なら誰でも、何をどのように成すべきかを語れるが、部門外の人は、決して、責任者がどんな人で誰の指示に従うべきか、知ることはないだろう。そのために、部門間にまたがるNPOの仕事はしばしば混乱し、プロジェクトではよく暗礁に乗り上げた。というのも、それぞれ多くの人々が、他者の視点や意見に反対するからである。
NPOが生き残るためには、一般の人々全てに焦点を早急に当てなおし、市場に価値をもたらし、NPOの目標を伝達しあい、善意を促進せねばならない。NPOは、多くの活動にではなく、一つの活動に焦点を当てるべきである。そして、市場におけるすべての関係者と強力な関係を作り上げねばならない。

新しい千年紀は、われわれにかかっている。そして、NPOの成功は、市場を理解し、市場でのNPOの役割を理解する能力によって、決定づけられるだろう。明確な目標とそれに適合する資源を持つべきである。NPOは、その昔、人々を動機づけ人々の能力を磨くことによって、不確かな未来を切り開いてきた。競争主義の世界の中で、その役割を改善し、怠むことなく正当なものにするように、いつも試みなければならない。
NPOの挑戦は、このような新しい環境のもとでサービスを供給することである。

(翻訳と小見出し 中嶋陽子)

ピーター・ドー
30代半ばの豪州人。経営学を専攻後、コンサルタント業務を基本に、NPOで専任スタッフとして働く。合衆国でビジネスの世界にも入る。その後、母国の大学で教鞭をとり、出版執筆活動を行う。



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