2000年2月号
書評2

グローバリゼーションにストップはかかるか?

京都生協職員 金山 修


アジア通貨危機などを契機に、新自由主義にたいする警戒の声が強くなっている。同書もまた、いき過ぎた「市場原理主義」に批判の目を向けている。
著者によれば、近代以降、すべての人間が「自立性への要求」と「共同性への要求」という分裂した要求をもつようになった。それが市場に関する問題把握の出発点である、という。
例として、手形から銀行券への歴史的展開が挙げられている。手形の段階では、特定の個人間の信用が手形流通の基礎となる。つぎに銀行券の段階に達すると、特定の個人間の信用関係は後景にさがり、自立性が強まる。しかし銀行券が流通するためには、信認を得るための「共同性の担保」が必要である。これが、発券機能が地方の銀行から中央銀行に集中していく理由である。
市場経済のこのような共同性は、ローカルから国民国家を経てグローバルへという多層性をなしている。歴史的にみれば、市場の拡大は、下位のコミュニティを解体し、セーフティネット機能をより上位のコミュニティに移行させてゆく。ところが市場拡大がグローバルレベルに達すると、セーフティネット機能は限界に当たる、とされる。世界レベルでのコミュニティはいまだ存在せず、覇権国システムなどで不十分に代替せざるをえないためである。
さらに、本源的生産要素としての労働・土地・貨幣の所有(すなわち市場化)の限界性が指摘されている。いずれも、財としての固有の性質上、自立性と共同性の矛盾が特徴的にあらわれるため、市場機構だけにまかせられない、という。
読後の感想としては、昨今の市場の暴走を理解するうえで、重要な論点のいくつかがうまく整理されている、ということだった。鍵概念として提起されている「共同性と自立性」「顔の見える市場と見えない市場」「本源的生産要素の所有の限界性」などについては、旺盛な議論を期待したいものである。
しかし、私自身の考えとしては、著者とは異なり、市場化の徹底やグローバリゼーションは不可逆の動きであるとみている。さらには、この市場化の徹底のなかに「市民社会」構築の萌芽を見てとる議論もあることに注目している。
このような視点からすると、著者のいう「グローバリズム対抗戦略」にどの程度の実現可能性があるのか、疑問である。また著者が提起している「政府と市場の双方に公共空間を埋めこんでゆく戦略」についても、アメリカの非営利セクター興隆の動きは、市場化が一方で徹底することを通じて生まれた社会問題を解決するために出てきた動きであって、市場化そのものに対抗する戦略であると理解すべきではないと思われる。今後、いっそう市場化の意味について考えていきたい。


「市場」
金子 勝

岩波書店 1999年10月22日 1200円



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