2001年6月号
特集


多様性のある、 創造的な「福祉」をつくる
〜研究所・「生協と福祉」 研究会の活動から見えてきたもの〜


くらしと協同の研究所の 「生協と福祉」 研究会は、 1999年度に開設されていた 「福祉プロジェクト」 を常設研究会に発展させ、 昨年の7月にスタートした。 この研究会のメンバーは、 上掛利博さん (研究所研究委員会幹事・京都府立大学福祉社会学部助教授) を代表として、 岡本やすよさん (「協う」 編集委員)、 近藤祥功さん (研究所元事務局)、 西村智子さん (研究所事務局・立命館大学大学院政策科学研究科博士前期課程)、 松本崇 (研究所事務局・京都大学大学院経済学研究科修士課程) である。 研究会では、 介護保険制度下における生協の福祉政策についての調査・研究に軸足をおいて、 活動を進めてきた。 今回の 「協う」 の特集では、 公的介護保険という枠にとらわれない視点から、 多様な取り組みを紹介し、 生協と福祉を考える視点を紹介したい。



自分のできること、 やりたいことから始める

第1の視点は、 「自分のできること、 やりたいことから始める」 ということである。 今まで生協が福祉に関わる場合には、 地域のニーズをキャッチし、 そのニーズを満たすために活動を始めるというスタイルが多かった。 だが、 ある程度ニーズも意識するけれども、 基本的には活動する側のできることややりたいと思うことから活動を始めて、 それらを地域のニーズとマッチングさせ、 活動する側もサービスを受ける側もともに生き生きと元気に暮らしていける地域を創ろうとしている事例もある。 ちばコープの 「おたがいさま事業」 は、 おおまかな仕組みとしては、 地域の人々が自分が持つ様々な技術、 言うなれば 「技」 を登録して 「応援者」 となる。 そして地域の 「おたがいさま」 のコーディネーターを通じて、 応援を必要とする地域に住む人々のニーズと応援者の持つ技をマッチングさせ、 応援者が利用者に応援活動を行う。 この登録される技は、 家事援助や身体介助の技術から、 電機製品の修理やキャッチボールの相手、 そして犬の散歩や家庭教師といったものまで幅広いものとなっている。 「おたがいさま」 の事業内容は 「くらし」 に関係する助け合いの活動なら何でもやるというスタンスで、 内容を限定していない。 つまりは、 応援者として登録する人々のもつ技が事業の具体的な内容を創っていくのである。

一人でできることは一人で、 一人でできないことはみんなで

次に、 生協ではないが、 生協の福祉を考えていく上で参考になる事例として、 島根県石見町の 「いきいきいわみ」 の活動を紹介する。 「いきいきいわみ」 は、 石見町内のいわゆる 「農家の嫁」 たちがつくったホームヘルパー養成講座から始まった、 273人が登録する町内の高齢者介護支援組織である。 「いきいきいわみ」 は高齢者介護支援など、 様々な取り組みを行っている。 例えば、 45人規模のデイサービスをやっているグループ、 お茶飲み会をやっているグループ、 配食サービスをやっているグループ、 そして小さなミニデイサービスをやっているグループもいくつかある。 この組織の事業方針を挙げるとすれば、 それは273人が自分で感じたことに対して自分で動き出せばいいということで、 一人でできることは一人ですればいいし、 一人でできないことは二人ですればいいという、 柔軟な形態をとっていることである。 つまりは自分の感性で、 自分のできること・やりたいことを地域でやっていけばいいということである。 「いきいきいわみ」 も、 「おたがいさま」 と同様に、 事業内容を最初から限定することなく、 組織に参加する人々が自分のできること・やりたいことをやっていくことで、 事業の具体的内容が創られていっているという特徴を持っているのである。

以上の2つの事例が示すのは、 サービスを提供する側が 「できること」・「やりたいこと」 をすることで利用者のニーズを満たし、 彼らの満足を実現するとともに、 提供者自身も満足を得て、 利用者と提供者の双方がともに満足しあい、 喜び合える仕組みを作りだし、 それも新たな広い意味での 「福祉」 ということである。

ゼロから創り上げていく

第2の視点は、 「ゼロから創り上げていく」 ということである。 生協においてもそうであるが、 福祉においては地域での信頼や実績といった活動のための基盤が大事だと言われる。 生協の中で早くから福祉に取り組んできたコープこうべも、 組合員による 「くらしの助け合い活動」 などの、 早くからの地域での取り組みが功を奏したのか、 福祉事業での事業実績は好調である。 では、 福祉を始めるにはこうした確固とした基盤が必ず必要であるかと言えば、 それはそうとも言えない。 近年、 新たに福祉に乗り出した生協などの組織でもその創造的な取り組みにより、 地域からの信頼を獲得し、 実績も積みつつある。

ちばコープにおいておたがいさまがスタートしたのは1999年4月であり、 それまで生協内で 「くらしの助け合い活動」 などの福祉活動を推進してきたわけではなく、 基盤と言えるものはほぼ皆無であった。 だが、 2000年9月の段階で応援者としてその活動に参加する人は1985人にまで上っており、 1983年に始まったコープこうべの 「コープくらしの助け合いの会」 の奉仕会員 (援助活動をする人) の人数を早くも上回っている。 また、 利用時間も2000年9月までの約1年半の累計で11988時間となっている。 これだけ爆発的に活動に参加する人が増えた理由としては、 組織の活動内容を限定せずに、 人々が自分のできること・やりたいことができ、 入ってくる人たちに対しての敷居が低かったことが一つである。 また、 いろんな人が持つ様々な技を利用者のニーズと結びつけ、 時には応援者を励ましながら各活動のコーディネートに努力してきた、 地域コーディネーターの力量も挙げることができる。

枠にとらわれない多様な取り組み

次に、 コープこうべの姫路地域の事例である。 コープこうべが姫路地域に進出したのは1980年代の後半である。 神戸市内や阪神地域とは異なり、 ここではコープこうべの今までの福祉活動の実績がなく、 全くのゼロからのスタートであった。 進出当初は地域の商店街などを中心に、 生協反対運動が起こり、 くらしの助け合いの会を中心とした組合員活動もうまくは進まなかったが、 姫路市内で開かれた、 姫路市制100周年を記念する大型イベント 「姫路シロトピア博」 での組合員によるボランティア活動や阪神・淡路大震災での生協を挙げた活躍などにより、 徐々に地域の中に入っていくことができた。 そして現在では、 活動実績としてもくらしの助け合いの会の中では、 姫路地域が抜きんでている。 1999年度の会全体 (地区は全部で8つ) の活動時間が約81000時間であるが、 そのうち姫路地域が約12000時間であり、 奉仕会員の数も会全体で約1250人であるのに対し、 そのうち姫路地域は約300人を占めている。 ゼロからのスタートから、 このような実績を積み上げることができた背景には、 枠にとらわれない多様な取り組みの実践がある。 姫路地域のくらしの助け合いの会では、 他の地域のくらしの助け合いの会では取り組んでいないような取り組みを行っている。 例えば、 一つは 「なかよし倶楽部」 というミニデイサービスである。 これはコープこうべの店舗内の会議室などを利用して、 地域の高齢者を集めて一緒に食事をしたり、 みんなでレクレーション活動に取り組むといったことを行っている。 サービスの開始直後は1カ所だけでの開催であったが、 現在は7カ所での開催にまで広がっている。 またこの他にも、 地域の空き家を利用してのグループホームづくりのために、 組合員が行政に積極的に働きかけるという、 提言活動も行っている。 このような、 今までのくらしの助け合いの会の活動の枠を広げ、 さらに発展させた、 創造的で多様性のある活動が姫路地域では行われており、 そうした活動を生み出すパワーがこの地域での活動実績の伸長のベースにある。 また、 地域からの認知がない頃から積極的に地域での活動を展開してきた組合員たちが、 現在は地域の事務局やコーディネーターとして、 地域のくらしの助け合いの会を運営している。 地域での地道な努力が彼らの現在のリーダーシップ能力やコーディネート能力につながっており、 彼らのそういった能力が現在の姫路地域における創造的な取り組みを推進していく上で大きな役割を果たしてきた。

この2つの事例から言えることは、 地域にあった創造的な取り組みを行うことが必要だということである。 そしてそれに取り組んでいくためには、 地域コーディネーターのコーディネート力やリーダーシップが不可欠になってくるのである。

「くらし」 から考える

第3の視点は、 「くらしから考える」 ということである。 現在の介護保険制度下においては、 福祉というものは、 福祉=高齢者福祉=介護保険という文脈で把握され、 それを前提に福祉が組み立てられがちである。 その場面における福祉とは、 ホームヘルプサービス、 配食サービス、 デイサービス、 そして施設サービスなどの専門性を必要とするサービス形態にして利用者に提供され、 それで福祉というものは実現できるのだというふうに考えられてきた。 だが、 福祉の本質というのはそのような具体的なサービスを提供することだけではなく、 人々が幸せに暮らすこと、 豊かに暮らすことである。 そう考えれば、 もっと広い視点に立ち、 高齢者を含めた地域の人々の 「くらし」 を見つめ、 それをみんなで支え合うということから出発する福祉もあってもいいのではないか。

様々な内容の助け合い、 老若男女を問わず

ちばコープの 「おたがいさま」 は、 その事業内容を大きく 「くらしを支える」 と定め、 具体的には人々が持つ技で構成されている。 例えば、 家事援助や身体介助から、 キャッチボールの相手や留守中の子供の見守り、 そして犬の散歩に到るまで実に様々な内容となっている。 サービスの利用も高齢者だけではなく、 老若男女問わず、 地域に住む様々な人々が利用している。 逆に高齢者の中にも、 自分のできる技を登録して応援活動に参加している人もいる。 例えば、 電機メーカーを定年退職した人が、 会社員時代に培った電機に関する技術を 「おたがいさま」 に登録し、 電機製品の修理を行うなどの形で、 地域の中で生かしていっている。 こういった様々な活動が行われているのは、 地域の人々の 「くらし」 を見つめ、 それを支え合うという視点に立っているからである。 また、 「くらし」 を支え合うことで、 高齢者も参加しての地域福祉を実現しているのである。

入居者一人ひとりの 「くらし」

生活クラブ生協・千葉が設立主体となった社会福祉法人 「たすけあい倶楽部」 が運営する特別養護老人ホーム 「風の村」 は、 入居者の 「くらし」 を見つめ、 それに寄り添った施設づくりを行ってきた。 「風の村」 では、 施設内で専門的なケアサービスを提供するだけではなく、 入居者に入居前と同じように生活してもらうための試みを行っている。 例えば、 入居者の部屋は全室個室であるが、 入居者を孤独にさせるのではなく、 個室をいくつかのユニットにまとめ、 その中で一つのコミュニティをつくり、 入居者がプライバシーを尊重しながらもまわりの人々や職員とコミュニケーションを取り合いながら生活できるようになっている。 また、 入居者を施設内に閉じこめることはせずに、 彼らが外に出ていくことを自由にしている。 例えば、 入居者がパチンコや居酒屋に行きたいと言えば、 それを認めて、 職員もそれに付き合うということを行っている。 つまりは 「風の村」 では専門的なケアを行いながらも、 それと同じように入居者の 「くらし」 を見つめ、 それを支えていくことを重要なこととして位置づけているのである。 その結果として、 痴呆症の入居者の行動が落ち着いてきたという事例もあるように、 入居しているお年寄りたちが生き生きと生活するようになってきた。 「風の村」 については、 『協う』 第62号 (2000年12月) でも取り上げたので、 詳しくはそこを参照していただきたい。 また、 本号の 「本の紹介」 の欄においても 「風の村」 が紹介されているので、 そちらも参照していただきたい。

以上の事例から言えることは、 「福祉」 というものを身体介護や家事援助といった部分的なものだけで考えていくのではなく、 対象者の 「くらし」 から全体的に捉え、 「福祉=くらし」 という新たな視点から組み立てていくことの重要性を示唆しているということである。

おわりに

以上のように、 新たな 「福祉」 を創りだしているいくつかの事例を紹介してきたが、 これらの取り組みに共通して言えることは、 「福祉」 というものを広く、 大きく捉えていることである。 そこから多様性のある、 いわば 「おもしろい福祉」 を創りだしたわけであるが、 残念ながらこのような 「福祉」 は他の地域には広がりを見せていない。 なぜなら、 当然ながら 「福祉」 は地域の実情により異なるので、 以上のような事例をいろんな地域が真似てしまったら、 逆に 「おもしろい福祉」 ではなくなってしまうからであろう。 各地域がそれぞれ地域にあった、 工夫を凝らした 「おもしろい福祉」 を創造していくことが求められている。 全国各地でいろんな 「おもしろい福祉」 が実践された結果、 「福祉」 の内容が豊かになり、 誰もが安心して人間らしく暮らすことのできる地域へ変わっていくために、 生協の福祉活動や事業が果たす役割はますます大きくなっている。

(まとめ・文責 松本崇)


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