2001年6月号
コロキウム


新しい組合員組織のあり方について
〜ライトコミット・メンバーのコーディネーション〜

東北大学大学院経済学研究科
川島 美奈子

1. はじめに

近年、 大規模生協における組合員のうち、 生協運動・組合員活動に深く関わる層は相対的に少なくなっている。 これは大規模化によるミッションの曖昧化と多様化、 組合員自体のライフスタイルや階層の多様化によるものと考えられている。 しかし、 大規模化と組合員の多様化をもって、 組合員活動の停滞やロイヤリティの低下を説明するのは早急である。 むしろ、 生協が食料品など生活必需品を供給するために発達してきたこと、 それらの安定した供給を社会から期待されていることを考えると、 大規模化、 ミッションの曖昧化と多様化、 組合員層の多様化は、 避けられない事態である。

この事態のうち、 組合員の多様化とミッションの曖昧化は、 ときとして、 特定の目的をもって結成された非営利組織にはない活動を生み出す。 たとえば、 組合員層が多様化することによって、 従来通り活動に積極的に参加する組合員以外に、 ある事柄だけにコミットする組合員も生まれる。 他方で、 非組合員と連携して活動する生協も現れている。 このことは、 生協におけるステークホルダーの問題について、 さらに検討する必要性を示唆している。 本稿では、 この点にかかわるみやぎ生協の事例を取り上げ、 新しい組合員活動のあり方について多少の考察を試みる。

2. ステークホルダーモデル

2. 1 先行研究

ステークホルダーの問題を考える際に、 まず協同組合論研究の中で示唆的なものとして、 山本編著 『協同組合のコーポレート・ガバナンス』 がある。 同書は、 とくに大阪いずみ市民生協と大学生協京都事業連合の問題を執筆の背景として、 民間企業の株主・企業関係モデルに準拠しつつ生協のコーポレート・ガバナンスモデルを提示しようとしている。 チェック機能としてのガバナンスについては、 同書は、 非組合員理事や学識理事の参加という、 法律的アプローチからの改革案を提示している。 また、 ステークホルダーモデルとして、 「プリンシパルエージェンシー・モデル」 と 「マルチステークホルダー・モデル」 を検討および評価している。 ここではまず2つのモデルを紹介しておこう。

第一に、 プリンシパル・エージェンシー・モデル。(注1)これは利害関係者が職員と組合員だけのモデルである。 このモデルは、 職員が専門性を発揮し、 組合員が主権を持つという点を明らかにした点では、 積極的に評価できる。 ただし、 このモデルにはいくつかの問題がある。 たとえば、 ガバナンス・チェックをおこなう監事や監査役をステークホルダーとして分類していない。 行政や地域の利害と、 組合員や専従職員のそれと違うことが、 念頭に置かれていない。 このモデルが採用される根拠も曖昧である。(注2)また、 具体的な店舗の次元で見ると、 正規職員とパートタイム職員の間や、 組合員の内部にも、 利害の対立がありうるからには、 組合や組合員の内部にも、 より細分化されたステークホルダーが存在するはずである。 また、 今回は詳しく分析できないが、 みやぎ生協西多賀店と西多賀ショッピングプラザの関係にみられるような、 地域や商店街といったステークホルダーとの調整が必要な事例を扱う際に、 このモデルは利用しづらい(注3)。

また、 プリンシパルエージェンシー・モデルの主要な対象は、 あくまでも農協である。 そのため、 生協特有の 「ライトさ」、 つまり (農協組合員にとって農協の代わりはないが) 生協の代わりになる流通業は多数存在する、 という事実を考慮できない。 また、 地域という別ステークホルダーが考慮できない。 さらに、 非営利組織などのオルタナティヴ団体との関係について言及できない。 事業のチェックという論点からすれば、 これに対する言及がないのは無理もない。 しかし、 生協についてのモデルを考慮する際には、 非営利組織をステークホルダーとして考えることは不可欠である(注4)。

第二に、 マルチステークホルダー・モデル。 これは、 企業と消費者、 あるいは組合と組合員以外の、 様々な利害対立者を念頭に置いたモデルである。 そこでは、 ガバナンスは単に組合と組合員の間でおこなわれるものではなく、 また生協は社会的存在だから、 地域その他のステークホルダーの利害を考慮すべきであることが主張される。(注5)実際、 生協の周りには、 地域住民や行政など、 組合や組合員以外の利害関係者が存在する。 組合や組合員のみの利害ではなく、 地域や行政といった利害を考慮して政策をたてる必要性が生じる。

目をひろく転じると、 ステークホルダーを取り扱う学問領域としては、 経営学、 社会学、 倫理学がある。 そこでは、 各ステークホルダーは 「道徳的な観点から」 調整されなければならず、 企業というステークホルダーはそれを念頭に行動しなくてはならない、 という諸説が一般的である。 プリンシパルエージェンシー・モデルについても、 単なる企業と消費者というモデルは修正されつつあり、 地域、 コミュニティ、 あるいは行政もステークホルダーとみなされつつある。 それによると、 利害調整の根本にある基準は道徳であり、 その道徳に準拠するようにステークホルダーの各々を調整するのが、 その中心にある企業である。(注6)生協に即していえば、 道徳を中心に組合の監査がなされ、 運営方針が決定される。 ただし、 そこでいう道徳とは、 あくまでもその地域 (コミュニティ) の道徳である。 現在では、 企業ですら、 株主のみならず、 地域、 行政、 場合によっては国家をステークホルダーとして考慮しつつ政策を立てねばならないのである。

2. 2 みやぎ生協におけるステークホルダーの分類

みやぎ生協における主なステークホルダーを考えるに際しては、 組合と組合員の関係の他に、 2種類の組合員がいることを考慮する必要がある。 まず、 自ら主体的に組合員活動を行い、 他の組合員を活動に巻き込んでいく層。 次に、 生協は他の競合店と同じく買物をする際の選択肢に過ぎないが、 何となく体に良さそうだという理由で選択し、 ついでに情報を得る層。 同じ組合員であっても、 両者は別々の利害を持つと考えてよいだろう。 なお、 他の市民団体や地域もステークホルダーとして想定できるが、 本稿では (「愛する会」 活動を中心に分析するので) 論じない。

2. 3 ライトコミット・メンバー

本稿は 「ライトコミット・メンバー」 という概念を導入するべきことを主張する。 ライトコミット・メンバーとは 「店舗利用を主におこない、 共同購入は全く使わないか、 共同購入より店舗利用のウエイトが高い。 生協店舗には 『安全・安心』 を求めるが、 必ずしも生協店舗だけで買物をしているわけではない。 あるいは、 近くにあるという理由で店舗を利用しつつ、 生協活動にも若干の関心を持つ層」 である。 これに対置される概念は、 とりあえず 「コア・メンバー」 と呼んでおく。 後者は、 前者と比較して、 組合員活動やイベントに企画・参加するなど、 様々に活発な活動をおこなう。

ただし、 コア・メンバーのロイヤリティは高いが、 それは必ずしも利用高には反映されない。 ライトコミット・メンバーは、 いわゆる 「ライトユーザー」 ではない。 生活必需品の大半を生協で購入していても、 生協を他の流通業と区別せずに使っていれば、 それは 「ヘビーユーザー」 であっても 「ライトコミット・メンバー」 である。 逆に、 コープ委員や理事を歴任していても、 月々の購買高が少額であれば、 それは 「ライトユーザー」 であっても 「コア・メンバー」 である。

2. 4 課題と方法

本稿では、 みやぎ生協におけるコア・メンバーとライトコミット・メンバーの関係を見るために、 みやぎ生協台原店 「愛する会」 の聞き取り調査を分析する。 同時に、 内部資料などを利用し、 「愛する会」 が成立した状況と、 組合員活動の経過をみておきたい。

3. みやぎ生協台原店の事例

台原店の事例については、 みやぎ生協台原店第24回 「台原店を愛する会」 と、 その後地域担当理事と店長に対しておこなった、 二つの聞き取り調査を利用する。

みやぎ生協は、 1997年に初めて店舗で赤字決算を出し、 共同購入でも前年割れを起こすという苦境に立たされた。 そこで、 1998年2月、 直接剰余がマイナス2%を下回り、 それが連続して3ヶ月連続した店舗を 「特別対策必要店舗」 に指定することにした。 この店舗を対象に、 組合員の立場から助言をおこない、 あるいは自ら活動を起こすために、 店舗が存在する地区の地域担当理事やコープ委員を中心に結成されたのが、 「店舗をもり立てる会」、 「愛する会」、 あるいは 「サポーターズ」 と呼ばれる組合員組織である。 その主な活動は、 月1回店舗の集会室に集まり、 店舗の経営に関する情報を共有し、 現在の店舗の改善点を話し合うことである。

みやぎ生協台原店は、 1999年4月21日に 「特別対策必要店舗」 に指定された。 しかし、 周辺に競合店 (長崎屋、 ヨークベニマル、 イトーヨーカドー、 エンドー) を抱え、 またみやぎ生協の店舗 (黒松店、 幸町店、 桜ヶ丘店) 同士が重なり合うため、 すでにそれ以前から、 委員と店舗は危機感を共有していた。 そのため 「愛する会」 は、 1997年11月、 つまり 「特別対策必要店舗」 に指定される前に結成されていた。 会の構成は、 地域担当理事、 コープ委員 (4つの委員会)、 部門パート職員代表、 店長とグループ・サークルの代表、 2名のネットワークリーダー、 生活文化部担当部長、 生活文化部事務局である。 主な活動は、 『愛する会ニュース』 の発行と配布、 店頭活動 (フリーマーケット、 グループ・サークル活動体験)、 店内装飾 (季節にあった雰囲気作り)、 試食や推奨活動の提案、 競合店と台原店を比較して改善に活かすこと、 などである。 とくに台原店独自の活動としては、 来店動機を増やすため、 「父の日の絵コンテスト」 をおこない、 その受賞者に手作りフォトフレームを渡すというものがある。

このうち、 「台原店にその日来店した利用者」 を対象とする聞き取りアンケート (1997年3月7日10時から17時、 535枚集約、 コープ委員が交代で店頭に立ってヒアリング) や、 1999年8月15日からおこわなれたアンケート、 また担当者による客層年代調査などの結果、 台原店の客層が 「食べ盛りの子供を抱える主婦層よりも、 一人暮らしらしき若年層や、 高齢者層が目立つ客層である」 ことから、 惣菜や弁当の品揃えに不満が多いこと、 また夜の来店が予想以上に多く、 品切れに不満を持たれていたことなどが判明した。 その客層にあわせて、 弁当の取り扱いの強化、 ナイトサービスの充実など、 サービスや品揃えを改善したところ、 供給も改善し、 99年10月から12月まで、 連続してマイナス2%という基準をクリアした。 その結果、 2000年1月16日、 特別対策必要店舗の指定が解除されることになった。

台原店 「愛する会」 は、 まず店長による経営数値の説明から始まり、 職員が取り組んできたことを発表する。 この、 情報を 「愛する会」 メンバーと共有し、 「お店の状況を把握すること」 が、 現在のところ、 主要な活動になっている。 次に、 部長から全体についての報告があり、 メンバーズスタンプカード (買物をした組合員に、 1回に1つのスタンプを押し、 20個ためるとそれが抽選券になる) の抽選がおこなわれる。 場合によっては競合店の調査が報告され、 感想を出し合う。 この 「愛する会」 の実施によって、 パートタイム労働者が 「愛する会」 を 「作戦会議」 として、 自主的に売場づくりに取り組むなど、 労働者側にも変化がみられたという。

台原店 「愛する会」 の特徴は、 事務的な連絡事項ではなく、 店舗に対する意見を率直に言う場として設定されている点にある。 構成メンバーは 「いちばんお店に来てくれる人」 から募るが、 原則としてコープ委員とグループやサークルのメンバーである。 「関心のある人」 が 「愛する会メンバー」 になる資格であるというのは、 組合員活動に対するヘビーなコミットメントが参加の条件とされていることを意味する。 また、 正規職員が参加する場としてよりも、 最前線で働いているパートタイム労働者に直接意見を伝える場として、 重視されている。 また、 店長はこの 「愛する会」 の意見を持ち寄り、 オペレーションに支障を与えない範囲で、 ナショナル・ブランドの品揃えを改善する裁量を持っている。 その実現率は7割から8割程度である。 基本的には、 もっとも店舗を使う人の需要をコア・メンバーである 「愛する会」 が共有し、 代弁するというスタイルを取っている。

もう一つ重要な特徴は、 地域担当理事とコープ委員がむしろ経営側に立ち、 ライトコミット・メンバーの動向や店舗を考えるという姿勢を取っていることにある。 聞き取り調査を行った第24回台原店 「愛する会」 では、 競合店を見学した感想が話し合われていた。 そこでは 「長崎屋が潰れてくれればいいのに」 という発言がみられたが、 これは単なる利用者ではなくコア・メンバーの発言である。 ここでは、 働きかける主体という立場がはっきりと認識されている。 これに対して、 店舗を利用する中心である独身・若年層は、 地域担当理事や店長から働きかけられる層、 つまり本稿でいうライトコミット・メンバーとして捉えられている。 「愛する会」 にライトコミット・メンバーが参加することは想定されておらず、 コア・メンバーがライトコミット・メンバーの声を吸い上げることに重点が置かれている。

4. 小括

みやぎ生協台原店 「愛する会」 に出席している組合員は、 経営側との共通項をみいだしている。 みやぎ生協台原店の主要利用者層であり、 かつ 「愛する会」 が働きかける対象である単身者や高齢者層は、 「愛する会」 に出席して活動するわけではなく、 「愛する会」 にはライトコミットメントしかしない姿勢にある。

コア・メンバーとしての委員は、 店舗に良く来店し、 活動にも積極的に携わっている。 彼 (女) たちは基本的に主婦であり、 生協にも店舗にも関心がある。 他方で、 ライトコミット・メンバーは、 台原店では単身者が多く、 コア・メンバーの中心をなす主婦とは異なるニーズを持っている。 しかし、 同じメンバーであることに共感するコア・メンバーは、 ライトコミット・メンバーのニーズを 「愛する会」 で汲み上げることによって、 店舗を良くすることを目指している。 ただし現時点では、 ライトコミット・メンバーを積極的にコア・メンバー化するというより、 むしろ彼らのニーズをつかみ、 店舗業績の向上に活かしている、 ととらえるべきだろう。

みやぎ生協のコア・メンバーは、 ライトコミットを許容し、 彼我の立場が違うことを理解している。 この点は注目に値する。 従来のように同質の組合員を想定するのではなく、 立場の違いによってコミットメントの深さや活動が違うということを新しい組合員活動の核にしていることが、 活動の幅や可能性を広げている。 従来の生協運動では、 ライトコミット・メンバーはただ買うだけの、 あるいは無視された存在にすぎなかった。 コア・メンバーが 「働きかける対象」 と認識することによって、 ライトコミット・メンバーのニーズが充足される可能性や、 情報を得る機会が生まれる。 コア・メンバーしか認めない組織から、 ライトコミット・メンバーを認める組織に変質することは、 組合員の多様化に対応した、 「働きかける」 あるいは 「情報を得る」 という、 新しい活動を生み出したのである。

現在のところ、 「愛する会」 に参加しているコア・メンバーの目的は、 自分たちの店舗の利用高が一位になることにある。 その背後には、 組合員活動を日常的なニーズに近づけ、 店舗側に直接要求する場を獲得し、 さらには自己を実現していくことに対する、 彼らのニーズがある。 ライトコミット・メンバーとコア・メンバーは、 異なるニーズや利害を持つ、 異なる層とみなすことができる。 当初の関心に立ち返り、 みやぎ生協のステークホルダー・モデルを考えると、 店舗の次元では次のような概念図が成り立つだろう。




1.山本修他編著 『協同組合のコーポレートガバナンス』 、 家の光協会、 2000年。 77頁に概念図がある。

2.同上、 70頁。

3.みやぎ生協の中では、 大店立地法にもとづいて認可された第一号店が、 新西多賀店である。 大店立地法は、 旧大店法と比較すると、 周辺の環境や商店街との関係を重視している。

4.同書には、 このモデルは大学生協にもっとも適合するという記述があるが、 大学生協組合員が単一の利害を持つという仮定は事実と異なっている。 たとえば、 教職員と学生では、 書籍部についても食堂についても、 購買政策に関する利害が相対立する場合がある。 その調停には技術を要する。 その際には、 各購買階層や、 各階層を対象とするサービスについて、 その割合を考慮する必要がある。

5.中川雄一郎編著 『生協は21世紀に生き残れるのか』 大月書店、 2000年、 154−7頁。

6.宮坂純一著 『ステークホルダー・マネジメント』 晃洋書房、 2000年。



川島美奈子 (かわしま・みなこ)

略歴:




前のページへ戻る