2001年6月号
書評1


生協がつくった高齢者福祉施設

森 智子
『協う』 編集委員




『風かおる 終の棲家』

風の村記録編集委員会著
ミネルヴァ書房 1800円



本書は、 全室個室のユニットケア介護、 特別養護老人ホーム 「風の村」の設立準備から開設、 その後の一年の記録である。 「風の村」 は、 生活クラブ生協が主体となって建設された。 なぜ、 同生協は高齢者福祉施設の建設に取り組んだのか?

周知のように、生活クラブ生協は、 食品の安全性や環境保全を追求し、 共同購入事業を行っている団体である。 仕事を持つ女性が増えていく中で、 新しい共同購入の形態を生んできた。 一方、 「生活クラブ生協が追求する新たなテーマを見いださなくてはならない」 という池田理事長の思いがあった。

折りしも超高齢化社会の到来が叫ばれていた。 そうなれば、 介護サービスが産業化される時代が来るはずで、 劣悪な事業者が登場しないとも限らない。 「ならば、 生活クラブ生協が食の分野でオピニオンリーダーとして果たしてきた役割を、 介護の分野でも担えるのではないか」 と考えたのである。 そして、 風の村高齢者福祉施設準備会がスタートした。

当初、 福祉や介護について素人だったメンバー等は、市民が出資して、 特別養護老人ホームの建設や運営に携わる 「エコトピア」 建設準備会に参加することで、 自分達で納得のいく高齢者福祉施設の建設を、 という思いを強くしていく。 そんなある日、 施設建設のための用地を寄附したいという申し出があった。 そして、 八街市の老人福祉計画とタイミング良く合致した事もあり、 計画は具体化していった。

また、 様々な施設を見学していくうちに、 「全室個室にしたい」 という思いもはっきりと浮び上ってきた。 個室化を検討する中で、 従来言われてきた、 「孤立化」 「高齢者が寂しがる」 「介護する職員が大変」 という事が必ずしもそうではないということが検証される。 むしろ、 ひとりだけの時間や空間のきちんと持てる個室の方が本人にとっても家族にとっても良い影響を与える事がわかってくるのである。 その結果、 全室個室の 「風の村」 が誕生した。

「自分が入るならこんなところがいい」 というメンバー等の思いは、 「至れり尽くせり型から、 くらし育み型へ」 を合い言葉にします、 という風の村憲章として残されることになった。 施設の運営方針 「風の村ケア大綱」 もこれに基づいて作成された。 風の村の理念を職員同士で共有できるよう、 開所前の研修も行われた。 ある職員は、 「ここでは入居者が人間らしさを取り戻していくのを、 肌で感じることができる」 という。 入居者の表情の輝きをとらえた豊富な写真が、 その言葉を裏付けている。 さらにもう一つ、 紙の色がセピア色がかっていて、 目に優しく読みやすい。

私事だが、 4月から91才の姑と同居している。 自分に近付いてくる老いの足音が急に聞こえるようになった今、 この本は身にも心にも沁み入った。


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