『協う』2002年8月号 書評1

関係しあい、 協同することで、 『人間性』 の再生を
松本 崇
京都大学大学院
経済学研究科修士課程

『新 人間性の危機と再生』
飯田哲也・中川順子・浜岡政好編著
法律文化社
2001年4月 2,600円+税

 本書のタイトルにもある 「人間性の危機」 という言葉は、 新聞やテレビニュースで報道されるような現在の日本社会の現状からだけではなく、 私たち自身の日々の生活の中でも実感として感じとることができる。 人間性の危機が相互の不信を生み、 それがまた新たな人間性の危機へとつながっていると感じる。
  「人間性の危機」 という問題意識から、 貧困の問題、 子供の問題、 愛と性、 日常世界における病理、 夫−妻の関係、 まちづくり、 地域社会、 熟年世代の職場問題、 「老い」 の変貌という現代社会が抱える個別の問題を取り上げ、 それらの問題解決の方向性を示し、 「人間性の再生」 をめざしたのが本書である。
 本書で扱われているそれぞれの社会問題の原点や性質は異なり、 従ってその解決の方向性もまったく異なるように思われるが、 それぞれの問題とその解決には実は共通した何かがあるということを本書から読み取れる。 それは家族、 地域社会、 あるいは日本型企業といった旧来型の共同体の急速な変化の中で個人が孤立し、 自分だけで問題のすべてを引き受けなければならないという状況の中から出てきたものである。 従ってその解決のためには孤立してしまった個人が旧来型の共同体に代わる新たな相互の関係性を築き、 協同して問題に取り組むことが必要になるということであり、 それぞれの論者もそうした立場から問題にアプローチしている。
 貧困の問題 (第1章 「 『豊かな社会』 の揺らぎと貧困の新しいかたち」) では、 貧困の新しいかたちの一つとして、 孤独死の問題を取り上げている。 たとえば、 東京都豊島区で1996年に実際に起こった孤独死 (母子餓死事件) は、 孤立した個人が社会との関係を築くことができなかったために、 助けすら求められない中で起こった不幸な事件である。 このような事件を防ぐためにはやはり、 人々が関係しあい、 協同して問題に取り組むことで、 その地域内の新たな生活防衛機能をつくり、 そしてそれを高めていくことが一つの解決策であるとここでは論じられている。
 最近のいわゆる 「構造改革」 に関する議論の中でもよく出てくる言葉が 「自助努力」 である。 たしかに自分の力を信じて、 自分だけで努力するということは大切であるが、 それは非常に孤独な作業であり、 リスクも大きすぎる。 やはり自立した個人が相互に助け合い、 協同して問題解決にあたる中から新たな関係性を築いていくことは、 個人を孤立させないばかりか、 リスク回避にも役立つのではないか。