『協う』2003年6月号 特集

地域の暮らしと安心のために
姫路医療生協に関する調査 PJ 活動より


 当研究所では、 2001年8月から姫路医療生協の依頼で、 1年半をかけ 「保健・医療・福祉の複合体」 「組合員と職員のコミュニケーション」 「あぼし地域から見る地域活動」 の3テーマで同生協との共同の調査プロジェクトを組んで調査活動を進めてきました。 そして、 02年12月に報告書 (『健康・医療・福祉複合化における医療生協の課題』) の完成をみたことを記念し、 03年3月29日に 『地域のセーフティネットと医療生協の役割』 をテーマとしたシンポジウムを開催しました。
 今回の特集では、 <1>姫路医療生協での調査活動がどんな成果を生み出したのか、 研究所と姫路医療生協の調査チームの中心メンバーの方にお聞きした内容を 「鼎談」 の形で紹介するとともに、 <2>3月に開催したシンポジウムの概要紹介と、 分科会コメンテータの感想を紹介します。
※なお、 「報告書」 をご希望の方は当研究所までお問い合わせください。



<1> 鼎談 −姫路医療生協調査で共有できたこと−
河本利文 姫路医療生協常務理事 (調査事務局)
浜岡政好 佛教大学教授 (アンケート調査主査)
井上英之 大阪音楽大学教授 (調査プロジェクト代表)

◆今回、 どのようなことがきっかけで、 生協内の調査を実施されたのでしょうか。
河本:私たちにとって今回の調査は本当にいい機会でした。 というのは、 今まで日生協の医療生協部会の中や兵庫県内のコープこうべや大学生協などというふうに、 交流の範囲が狭く、 姫路医療生協を他の消費生協や研究者の方たちに見てもらったらどうだろうかという思いがありました。 また、 生協の中長期的課題を明らかにし、 確信を持って健康保険制度改悪や医療と福祉の複合化に向けて対応したいと考えていました。
 研究所の方とのやりとりの中で、 これからの姫路の方針を作っていくうえでも大いに参考にできるということで調査を依頼しました。

◆今回の調査では、 調査する方も、 いろいろな成果があったとお聞きしていますが、 具体的にはどのようなことでしょうか。
井上:今回は調査メンバ−が病気になったり入院したり介護に忙しかったりということでたいへんでしたが、 かえって自分たちが病気や健康ということを日常の中で考え調査の中でしっかり受け止めて生かすことができました。
 また、 今回の調査では、 組合員も含めて現地のさまざまな人々に会いながら研究所が常時関わるという新しいスタイルを追求してみましたが、 それが多少なりとも実現できたのではないかと思います。
浜岡:調査票を作る過程では、 入院していて関われなかったのですが、 やはり職員集団の中で調査チームが作られ、 彼らがディスカッションに参加してくれた意味は大きかったと思います。 姫路の場合は調査に取り組み、 なおかつすぐに調査結果を返していく、 実践にとりかかるという仕掛けを作れました。 また、 調査のプロセスをひとつの教育・学習過程としてお互いに交流しあったことは、 2年近くかかった分だけお互いによかったと思います。 もちろん掘り下げなければならない課題はまだまだあるし、 抽象的な形で返した調査結果をさらに仕事の中で具体化していけるかどうかということも重要です。
河本:調査の中では、 職員もアンケートを集めるのに発破をかけられました。 最初は200や300に留まっていましたが、 最終的に回収数は2000を超えました。 去年の秋から、 福祉センター建設運動のための全戸訪問活動を、 地域活動としてやってきていますが、 この調査のときの経験がひとつのエネルギーになったのではないかと思います。 「地域に出るのが苦痛にならない職員」 が育ってきました。

◆調査を通じて、 改めて姫路医療生協の現状について見えてきたこともあるようですね。
井上:調査対象地域を、 「共立病院の地元」、 「それを囲むド−ナツ型の周辺部」、 「あぼし診療所周辺」 の3つに区分し分析してきました。 その結果、 今後進むべき方向性が的確に打ち出せてきたのですよね。
河本:調査結果の中でショックだったのは、 共立病院 (※姫路医療生協の病院) の地元で 「姫路医療生協が健康診断をしているのを知らない」 という答えが多かったことです。 しかし、 逆に周辺部では認知度が高く健康診断もよく受けています。 周辺部の支部では、 班会を開いて健康チェックをすることが生協の証になっているのですが、 共立病院の地元は班が少なく、 診察してもらうことが生協の証になっています。 活発な支部活動が事業と組合員の活動を結びつけるひとつの例だと思いました。
 また、 2002年度の方針では 「1万人の健康チェック、 5千人の健康診断」 を謳っています。 35歳以上の組合員にはすべて 「誕生月の (健康診断) お誘いはがき」 を出した後電話をかけています。 それもみんな組合員のボランティアで 「お誘い電話のおばさん」 が電話をかけるのですが、 その場で予約もできるし、 看護師が横にいて必要があれば交代して話もできる。 「即、 対応」 ということがうけています。 報告書にも書かれていますが、 「問題を相談する相手」 は 「配偶者」 「兄弟姉妹」 の次が 「生協の組合員」 でした。 新採職員はここを読んで生協の取り組みに確信を持ったわけです。 姫路市全体の統計では 「健康診断受けず」 が78%なのにたいし、 今回の組合員調査では46%と、 パーセントにすればそれほどダントツではないですが、 うちの健康診断受診率の高さが職員の確信になっています。 こうした取り組みについても、 今回の調査結果を通して確認することができました。
浜岡:組合員にとってもやはり健康のことを相談できる身近な窓口がある、 身近な人がいるというのはいいですね。 診療所が近くにないところはそのような相談窓口を作る。 診療圏でないところの支部活動で何か典型的なものが作れれば面白いかもしれません。
井上:姫路は数年前、 西日本最大の 「スーパー戦争」 が行われて地域の空洞化がすすみ、 それがダイエー撤退、 この間の地価下落率ナンバーワン、 現職市長の落選の話になるわけです。 そういう新しい動きのなかで、 姫路医療生協が地域に根ざすとはどういうことか、 医療と福祉と結合していくことによって、 しかも看護師さんや介護の人が地域を 「訪問」 して面的に広げてきたという特長がどう活かせるか、 そこで地域のニーズにどうかむことができるかということが大事な課題であると考えます。
河本:たとえば、 共立歯科では方針で 「在宅医療、 お口のリハビリに取り組む」 を挙げていますし、 作業療法士、 理学療法士で力を入れて訪問リハビリをやっているのは姫路ではうちくらいです。 大きい病院では作業療法士、 理学療法士が病院から地域に出ようとしないのが現状です。 うちのようなところでは、 地域にでないと作業療法士、 理学療法士は仕事がないという状況があるのですが、 それが結果的にプラスとなったといえますね。 患者さんを診るといっても、 「生活医療」 としてくらしの場で見るのと、 病院の中で見るのとでは違います。 病院の平らで起伏のない廊下は歩けても、 地域の生活道路では歩けない人がいるのです。 こんなことも、 地域を 「訪問」 する中で初めて実感できたことのひとつですね。

◆医療生協では地域との関わりを大切にされていますが、 どのような課題があるのでしょうか?
河本:調査によって、 地域から組織の中を見るという視点の重要性を再認識しました。 4月の姫路市長選挙の時にわかったのは、 駅前の商店や中小零細企業の社長さん方のまちづくりへの思い入れのすごさです。 彼らはダイエー撤退を象徴とする駅前問題で、 「現職は駅前開発を約束したのに何もしない、 ドームと飛行場しか頭にない」 と怒りました。 だからまちづくりには熱心で、 発想が豊かです。 僕らもそこへ自然と入っていくべきだと思いました。 姫路に 「コムサロン 21」 という NPO があり (商工会議所に事務局)、 イベントでテントの一角をもらって 「街角健康チェック」 などをやりましたが、 今までとは違った幅広い観点で市民の健康づくりに取り組む必要性を実感しました。 今回のアンケートから学ぶところです。
井上:生協陣営全体がそうなのですが、 経営が不振になると 「閉じていく」 傾向が強まっていく。 それに対して 「開く」 というか地域に根ざすというか、 私などはこれこそが協同組合のやり方だと思うのです。 そのやり方が今日地域のくらしのなかでどのような意味をもち、 どこまでできるのかということが求められている。 それは協同組合単独でできる場合もあるし、 いろいろな人たちと結びつくことによって多面的に一層広がったものになっていく場合もあるでしょう。 そう考えたとき、 医療生協としてもどこに 「開く」 契機があるのかということを考えなければいけないし、 いろいろなところと結びつくことによって、 意味を共有することがすごく大事だと思っています。
浜岡: 「閉じこもる」 というのは購買生協においても共通で、 組織率はかなり高いけれどもやはり地域から見ると生協の中が見えない。 地域から絶えず自分たちを見るということがすごく重要になっているし、 そこをやれば事業も活動もさらに広がりを持てる。 しかも医療と福祉の両方に関わるというのは、 地域の人にとってはすごく頼もしく、 両方ある地域で暮らせることの安心さが作れるということです。
 それと生協にかかわってもう一つ言いたいことは、 地域における人々のつながりの問題です。 地域の人のつながりを応援していくときに、 医療生協ならではの役割、 そのなかでも生協職員の役割にいろいろな可能性があるのではないか。 ドクターや看護婦などの医療職員、 事務、 検査などいろいろな職員が、 単にその分野の専門性というのでなく、 生協の専門性を持ったスタッフとして地域とどう向き合うか。 そうした課題は今後発展させようがあるのではないかと思います。
 医療とか福祉のサービスという意味では、 ほかの医療法人や福祉法人と同じ専門性・仕事があるんでしょうが、 同時にそれが協同組合であるということはどのような広がりなり違いを付加しているのかということを改めて考えておく必要がある。 やはり協同組合の基本は 「物と人」 でなく、 「人と人」 をつないでいくプロジェクトであるということを自覚した方がいいのではないでしょうか。
井上:姫路医療生協調査はひとまず終了しました。 そしてこの成果を他の生協にもお返しし、 さらに他の専門家や医療生協から学ぶために、 シンポジウムを開催しましたが、 これも成功したと考えています。 私共の研究所は 「くらし」 と 「協同」 を研究するところですので、 今日の話も含めた一連の取り組みでつかみとった課題を更に追求したい、 と考えています。 (了)


報告書の内容

◆地域のセーフティネットと姫路医療生協の役割
姫路医療生協との委託調査・研究の意義 井上英之
■ 複合化の基本的視点 井上英之
■ 姫路医療生協への提言:医療活動の在
  り方と患者学の確立へ 山本 繁
■ 給食サービスから姫路医療生協の可能
  性を考える 松井順子
■ 経営概況からみた姫路医療生協の現状
  と課題 野村秀和
■ 地域セーフティネットの形成と医療・
  福祉複合体経営への展望 浜岡政好
【寄稿】組合員活動の新たな発展について
  −姫路医療生協を訪問して 長谷川治友
◆地域住民の健康・医療・福祉ニーズと
     ヘルスコープあぼし診療所の役割
姫路医療生協あぼし診療所調査 三好正巳
■ ヘルスコープあぼし診療所利用圏の
  「地域特性」 久保建夫
■ なぜ生活医療なのか 横山寿一
■ 生活医療ニーズとコミュニケーション 上掛利博
■ 医療生協における組合員によるボラン
  ティア活動の実態と今後の課題 森脇丈子
■ ヘルスコープあぼしは地域にどのよう
  に貢献できるか 井上吉郎
結び−あぼし診療所調査から導かれるいく
  つかの結論 三好正巳
◆組織と人の活性化のために
−参加とコミュニケーションからみた姫路医療生協の現状と在り方−
医療生協における組合員活動の課題と可能性
若林靖永 松田亮三 高山一夫
多様な組合員ニーズの調節課題と若年層へ
の対応 高山一夫
◆姫路医療生協組合員の暮らしと
    保健・医療・福祉に関するアンケート調査結果
組合員ニーズと医療生協の課題 浜岡政好
姫路医療生協組合員の暮らしと保健・医療
・福祉に関するアンケート調査結果
<2> 3. 29 シンポジウム 「地域セーフティネットと医療生協の役割」
■対談 「地域のセーフティネットと医療生協の役割・課題」
 荻野俊夫氏 (姫路医療生協理事長)/川口清史氏 (当研究所理事長)
■問題別シンポジウム (分科会)
 ■地域コミュニティへの参加・貢献 問題提起:浜岡政好 (佛教大)/井上吉郎 (『福祉広場』 編集長)
コメンテーター:リム・ボン氏 (立命館大)/星 光興氏 (生活協同組合共立社)
 ■組織と人の活性化のために−コミュニケーションの意味にもふれて−
問題提起:上掛利博 (京都府立大)/森脇丈子 (鹿児島県立短大)/若林靖永 (京都大)
コメンテーター:後藤種子 (ヘルスコープおおさか)
 ■くらしと医療 (生活医療) 問題提起:三好正巳 (立命大名誉教授)/山本 繁 (尼崎市医務監)
コメンテーター:粕川実則氏 (尼崎医療生協)
 ■医療・福祉複合化 問題提起:横山寿一 (金沢大)/野村秀和 (京都大名誉教授)/井上英之 (大阪音楽大)
コメンテーター:青木郁夫氏 (阪南大)/氏平三穂子氏 (岡山医療生協)/
        松本弘道氏 (庄内医療生協)


大きな可能性をはらんだ医療生協
第4分科会 岡山医療生協 氏平三穂子
 くらしと協同の研究所の存在については、 なんとなく知っていましたが、 今回、 興味深いシンポジウムに初めて参加させていただいて、 生協のあり方、 生協の未来について研究が行われていることに、 心強さを感じました。 現場の中で日々実践している者にとって、 理論的な裏付けの一こまに触れて、 とても新鮮な感動を覚えました。
 さて、 わたしが 「医療から介護へシフトしつつある現場」 から言いたかったことは、 医療生協が医療中心の活動から、 まだまだ脱却できていない、 患者、 利用者を生活者の視点で捉えられていないということです。 そして、 福祉分野へのシフトも経営的視点が先行しているように感じています。
 今回のシンポジウムに参加する中で多くの気づきがありました。 医療生協は今後発展していけるのか、 医療の差別化をどうすすめるのか、 福祉分野へどのようにチャレンジしていくのか、 そしてなによりも地域のセーフティネットになり得るのか、 囲い込みの閉鎖的複合化になっていないかなど、 多くの課題を突きつけられたように思います。 実践、 実践に追いまくられ、 目前の課題しか見えていなかった自分に気づかされました。
 また、 医療生協はやり方によっては地域における協同的な関係作りの中心になっていける大きな可能性をはらんだ組織になれるという希望がもてました。
 そして、 姫路医療生協のように、 実践現場をオープンに提供することで、 これらの課題への確実な接近ができるのだと荻野理事長の度量の大きさにも感銘しました。



非営利セクターの協同で 「くらし続けられる街づくり」 を
第4分科会 庄内医療生協 松本弘道
 非営利セクターによる地域住民の立場に立った介護保険事業の確立をめざし、 庄内医療生協、 購買生協共立社、 社会福祉法人山形虹の会、 高齢者福祉生活協同組合で構成する四者協を組織し具体化に着手しました。 その結果、 ゴールドプランとの関係で手掛けられる全ての介護保険適応事業を非営利・協同セクターの事業として立ち上げることができました。 その後、 四者協のトップ会議を毎月継続し、 地域に役立つような保健・医療・介護・福祉の複合化はできないかと検討しています。 2001年は総合介護センターの設立、 2002年度はグループホームの増設、 プールやジム等の健康増進施設を併設した診療所のリニューアル等を実現しました。
 また、 地域づくりの前提となる地域のくらしの実態 (経済、 生活、 医療・福祉、 教育) を徹底に調査・把握し、 新しい協同のあり方を研究することが必要であると考えて、 四者協を中心とする地域づくり研究会を設立し調査活動に入りました。 その中で、 鶴岡市と周辺町村では、 10年間で8600人もの人口が減少し、 その数は当法人のリハビリ病院が所在する櫛引町ひとつが消失した規模となっている等の事実が明らかとなってきました。
 くらし続けられる街にするためには、 医療・介護の複合化にとどまらず、 非営利セクターの協同で、 地域経済や雇用等についても政策的に対応する事が求められています。 施設給食や配食へのスローフードの導入、 施設待機者に対応するケア付住宅の開設等の中で、 地産地消や雇用確保等を今後も推進していきます。
自発的参加で組合員はいきいきと



第3分科会 ヘルスコープおおさか 後藤種子
 組合員の要求と合致しうる活動がつくり出せた時、 組合員はいきいきと活動できます。 ヘルスコープおおさかは 「地域まるごと健康づくり」 や 「明るいまちづくり」 をダイナミックにすすめてきました。 そこにはいつも組合員と職員の協同の取り組みがありました。
 いざというときに安心の 「緊急通報システム」 普及運動は組合員自身の運動になり、 班という小さなコミュニティがたくさんつくられました。 5階の市営住宅にエレベーターをつけさせた運動は、 高齢になっても住み慣れた家に最後まで住み続けたいという切実な要求が班や支部を動かし、 町会をも動かし署名運動に発展、 何度も大阪市と話し合い2年がかりで実現させました。
 大腸がん健診1万人受診運動は01年02年連続で1万人を超えました。 「組合員の中から手遅れの大腸がんを出さない」 を合言葉に、 支部活動として50支部が目標をたて、 大腸がん学習会、 学習会班会、 地域住民を対象にした健康教室など医療従事者は講師で参加。 5年間で49名発見しましたがいずれも早期発見で大変よろこばれています。
 支部主催の安心のネットワークは 「託老所」 5施設。 21支部がふれあい昼食会や配食サービスなどを行い、 1ヶ月で1,330食を実施しています。 病院ボランティアのサークルや診療所のデイケア、 デイサービスのボランティアを含めると455人が参加しています。
 ボランティア活動に参加している組合員はボランティアスクールで学習をし、 また医療部会の通信教育でボランティアコースを受講して学習と実践を重ねています。 ボランティア活動は生きがいづくりとなり、 職員との関係も 「当てにし、 当てにされる」 という関係になっています。 医療生協のボランティア活動は無償が原則です。 活動に報酬が支払われるものは 「報酬のともなうたすけあい活動」 と称して、 ボランティア活動と分けて考えられています。
 支部の助け合い活動や 「たまり場」 づくり、 子育て支援に組合員の自発的な参加が得られる活動をどれだけ作り出せるかが今後の課題です。


文責) 「協う」 編集委員会