『協う』2003年6月号 書評2


おいしさ、 てんこ盛り
名和 洋人
京都大学大学院経済学研究科博士後期課程


『日本の味と世界の味』
小泉武夫著
岩波書店 2002年7月 900円+税

実によくできた書物である。 日本に古くからある素材、 加工品、 調味料、 酒類から、 50を超える食べ物や飲み物が選び出され、 その起源、 栄養や効能、 調理法や加工法、 さらにその美味さとすばらしさ、 がそれぞれ簡潔に解説されている。 著者の真に伝えたいところは、 前もって大胆に言ってしまえば、 おそらく日本の味であろう。 しかし、 本書には、 そのすばらしさをより一層読者に伝える仕掛けがある。 それは、 一つ一つの日本の食材に相対するかたちで世界の食材を並べ、 より多様な角度から両者を比べていることである。 田螺とエスカルゴ、 米酢とビネガー、 お好み焼きとピッツァパイ、 寒天とゼラチン、 といった具合である。
 日本の料理は、 かつて中国から幾らか影響をうけたものの大筋では世界から孤立して独自に発展してきた。 しかし、 本書を読み進めると、 海外の食べ物や料理法と驚くほど似たものが、 日本食のなかには数多くあることを学ぶ。 このような記述上の工夫は、 著者が農学者であり、 科学的学識の裏づけがあるがゆえにできることであろう。 これが、 日本の味と世界の味の共通項を浮き彫りにする場合に、 重要なエッセンスとして働き、 本書の骨格を作り出している。
 不思議なことに、 こうして両者の共通項が見えてくるにつれて、 同時にそれぞれの食材がそれぞれの地域風土に根ざし、 各地で今日まで愛されつづけているという事実が、 改めて本書から強烈に伝わってくる。 こうして一読すれば、 世界の味の魅力と幅広さを垣間見ながらも、 日本の味の奥深さを感じ、 日本という風土に生まれたことをひたすら感謝することになる。
 ところで、 本書は1985年の刊行であり、 今回取り上げている文庫は新編集版である。 かれこれ、 18年も前の本を取り上げて紹介することを不思議がられる向きも多かろう。 しかし、 私は逆に、 18年たってもいまだ輝きが失われていないことを強調したい。 長い歴史の中で育まれてきた日本の味そして世界の味にとって、 18年の歳月はさほどのことではない。 本物の味は、 そう簡単に変わるものではない。
本書は読む場所を選ぶ。 とてもではないが図書館で読める本ではない。 おいしい緑茶とお茶菓子でも傍らに置きつつ一読するのをお勧めしたい。 読むが早いか、 想像力が掻き立てられ、 すぐに何か美味いものを食したくなること請け合いだからである。