『協う』2003年6月号 人モノ地域

どこかで食べたと思ったら保育園だった
−食べ物のルーツを知り、 季節感をよろこぶ−

(たかつかさ保育園〈京都市北区〉)

 健康な暮らしを続けるためには、 健全な食生活が欠かせない。 保健師の友人は、 乳幼児検診時に保護者から聞くこどもたちの食生活の乱れが気になっていると言う。 幼い頃からの食習慣が、 長い人生を楽しく過ごすために大切なことは言うまでも無い。 保育の中で 「食べることの大切さ」 を身に付けることをどのように実践しているのか、 京都市のたかつかさ保育園を訪問した。


保育理念は 「子どもの権利条約」
 たかつかさ保育園は北区大将軍にある。 開設は1980年4月。 経営主体は社会福祉法人京都保育センター。 園長をはじめとする職員は43名。 鉄筋コンクリート2階建ての園舎が園庭の緑なす木々でおおわれている。 さくらんぼ、 びわ、 みかん、 あんず、 桑など実のなる木がたくさんあることで有名である (植物は100種もあるという)。 入所定員は120名だが入所児童は140〜150名 (待機児童が年度途中で入所するため)。 設立時の3つの要望 「長時間保育をゆったりと」 「障害児の受け入れ」 「赤ちゃんを産休明けから預かって欲しい」 を実現してきた。 生後8週から就学前までの児童を預かっている。 保育時間は朝7時15分から夜7時15分まで (夜6時以降は延長保育) となっている。 障害児保育も例年二桁の人数 (1割近く) が在籍しているそうである。 国連 「子どもの権利条約」 の理念を保育指針とし、 乳幼児の保育問題に先進的に取り組むことや就労する親の子育て支援と、 女性の権利の進展に努力することを保育理念に掲げている。
にぎやかにモリモリ、


  木のぬくもりにかこまれて
 園の昼食は11時半ごろから幼い順に始まる。 0・1歳児はそれぞれの部屋で食事をする。 2歳児は冬と蚊のたくさん出る真夏以外は縁側 (テラス) で、 肌寒いこの日も緑の園庭に向かうオープンレストラン!楽しくもりもり食べていた。 メニューは、 7分づきのごはんに手羽もとのから揚げ、 温野菜のサラダにスープ。 「こんなにたくさん」 と思うほど食べている。 3・4・5歳児は中庭に面したランチルームでクラス毎ににぎやかだ。 5歳児たちは配膳当番で三角巾、 エプロン姿が頼もしい。 どの子も親が手作りした名前入りのランチョンマットを敷いている。 お箸も上手に使え、 豆を自慢げにつまんで見せてくれた子もいた。 セラミック製の食器に白木のお箸が清潔な印象だ。 障害を持つ子も特製のスプーンで上手に食べていた。 キッチンは乳児用 (栄養士1人) と幼児用 (調理員3人・栄養士1人) があり、 毎日200食を作る。 幼児用はオープンで受け渡し用の台も低くお代わりもしやすいようになっている。 大家族の対面式ダイニングキッチンのような暖かい雰囲気だ。 最近では当たり前になってきたが、 ここが開園した当時は保育室の他にランチルームのある園はめずらしかったそうである。
 幼児の保育室では木製の大型遊具 (2階建ての家のイメージ) と、 これも木製のままごと用システムキッチンが目を引く。 食器も木で出来ているし、 鍋などの台所用品も小型の本物。 園のこだわりを感じる。 保育室の個人用ロッカーも特別注文の木製で、 名札代わりにそれぞれフェルト製の 「シンボルマーク」 がついている。 「シンボルマーク」 は入園時から卒園までずっと同じ物を使うので、 選ぶ時に迷う親と子もいるらしい。 準備する園の方も150種以上も違うものを準備して待っているなんて、 気合が入っている。 食事を終えたこども達と階段のホースで玉転がしをしてしばらく遊んだ後、 園長の藤井修さんと調理師の王野宮子さんからお話をうかがった。


誕生日は主人公になれる日
 給食スタッフは栄養士2人と調理師1人、 調理補助2人。 この5人で昼食とおやつ、 延長保育の補食も作っている。 こいのぼりオムライスなどの行事食も楽しそうで食べてみたい。 話題の 「お誕生日ゼリー」 は園庭の夏みかん、 いちご・ブラックベリー・キーウィなどを使ったもので、 3・4・5歳の誕生日を迎えた子だけがその日に食べることができる。 園長によれば、 誕生日はおおっぴらに主人公になれるし、 誰にも公平に訪れる大切な日、 だから十把一絡げの誕生会はしないそうだ。 昨年からはゼリーに加えて 「誕生日リクエストおやつ」 も始まった。 一人一人を大切にする姿勢が感じ取れる。
 給食の献立は和食中心で、 魚を多くしていて、 肉の2倍くらい支払い金額があるそうだ。 季節感・旬のものを大切にし、 うす味を心がけている。 もちろん安全にもこだわり、 添加物や着色料など不必要なものが使われていない食材をできるだけ選んで使っている。 地場のたけのこや園庭で栽培したエンドウ、 大根なども使う。 肉・魚・野菜・パンなどの仕入れは地元に配慮して町内の商店にしているという。 大豆アレルギーの子がいたことがきっかけになり、 油 (菜種1番絞り) と小麦粉 (国内産) は特別に取り寄せている。 アレルギーの子供だけに除去食を作るのでなく、 みんなで食べる方が少し高くはなるが楽ではないか。 どの子にもいいものを、 みんなで安全なものをと考えている。 卵を食べられない子には湯葉を使ったり、 豚肉がだめな子には取り除くというような一人一人にあわせる努力もしている。
 食文化の継承には保育士の食べさせる技術が必要になる。 魚の煮付けの時などは、 まず 「こんな骨が入っているよ」 と見せて注意を与え 「絶対あるから、 探してね」 と話す。 それでも骨が喉に刺さり耳鼻科に連れて行くこともある。 保育園ではじめて魚を見る子もいるらしい。 また、 しっかり食べさせるためには運動量の確保も欠かせない。 園庭での遊びだけでは足りないので、 散歩で1キロ2キロ歩くことでおなかがすく。 咀嚼力も低下していて繊維質の野菜が口に残って食べられないこともある。 最初食べられなかった野菜も月2回の献立の繰り返しの中で食べなれていく。 きらいだった野菜が自分で育てたり、 すじ取りなどの調理に参加することで好きになっていくこともある。 バラのジャム・味噌・梅干作り、 その梅干を使ってのおにぎり作りなど手間と暇のかかる体験もしている。 6年間の在籍の間にほぼ何でも食べられるようになると言う。
 各家庭でも努力しているが、 それでも肥満の問題があるという。 家族の生活時間や家庭環境でお菓子を食べ過ぎることがあるらしい。 親子関係の力学がゆがむと食べ物で処理するのが一番楽なのだそうだ。 満足感が得られやすいからだろうか。 親にはいろいろ言わないそうだが子育ての環境が変化し、 保育園と家庭とのバランスを取るのも大変だ。
現代の鎮守の森
 藤井さんの考える保育園は 「やわらかい」 環境だ。 日本の保育園は幼稚園や学校をモデルにし、 学校は軍隊をモデルにして合理性を追求した訓練しやすい構造になっている。 藤井さんは、 やわらかい素材の人間が来る所なのだから、 ほっとできる環境、 四季を体感できる農村的な環境を作りたいと思っている。 人間は植物との接点に心地よさを感じる。 小さくても自然をのぞく窓を開けておきたい。 寺や神社の鎮守の森が豊かな緑であっても、 落葉樹や食べられる実のなる木はなかなかない。 京都は温帯にあって植生が豊かだ。 その豊かさを実感することが京都で育つ値打ちになると考えている。 園での想い出が記憶の底に沈んでも、 何かの拍子に 「これ、 園で食べた」 と思い出すことがある。 匂いのある木をたくさん植えたのも全盲の子がいたからと言う。 五感を大切にと言うが実行するのは手間がかかる。 20年以上かかってそんな手間のかかる環境を作ってこられた。 農薬もまかないし剪定も控えていると言う。 「現代の鎮守の森」 として保育園を森で囲みたいという思いは実現しつつあるようだ。
 話は 「給食だより」 のメグミルクのことから酪農や農業、 流通の問題にまで及んだ。 日本の木工文化を守りたいとの思いと、 できるだけプラスチックの使用を減らしたいとセロハンテープの使用まで渋る姿勢も筋がとおっている。 世界的にも高い水準にある日本の保育を後退させないために、 国民的運動が必要と言う。 今後考えることとして、 一時保育、 病後時保育、 夜間保育などがある。 長時間労働の労働者が増えるという声もあるが、 誘発しているのではなく結果だと考えているそうだ。 様々な課題を実現するには関係する制度を良くしないといけないし、 保育水準を下げない運動もがんばると話された。 最後に園児達手作りの香り高い薔薇ジャムと、 園庭のさくらんぼを試食し、 かわいい子ども達のエネルギーも頂いて帰路についた。

文責) 岡本やすよ