『協う』2004年8月号 書評1

 

新たな労働組織とキャリア管理の方途を探る
清山 玲
茨城大学人文学部
助教授

『双書 ジェンダー分析1
女性労働とマネジメント』
木本喜美子著
勁草書房 2003年6月 3500円+税

 本書は、 女性比率が高く、 その活用も進んでいる大手小売業2社を事例に、 労働組織内におけるキャリア展開と男女労働者達の心理的な葛藤や受容を関連づけ、 職場におけるジェンダー関係を明らかにしようとした意欲作である。 これまで、 働く女性の心理的側面については、 職場に対する不平・不満や仕事のやりがい等が一般誌等でとりあげられることはあったが、 研究面では熊沢誠氏の独特な描写などはあるものの、 相対的に手薄であった。
 しかし、 今回、 木本氏は、 ■こうした働く女性の心理的側面にも着目し、 インタビュー調査から得られた生の声を織り込みながら、 労働組織内の位置・ポスト、 仕事の内容、 キャリアの形成・展開、 昇格のプロセス等から丁寧に組織内のジェンダー間職務分離を描写し、 ■女性の登用の進展とともに変化する男性の態度・言説から、 職場に於けるジェンダー関係の再生産あるいは変容過程を、 シャープに映し出してみせることに成功している。
 また、 女性店長の多くが採用してきたコミュニケーション重視の管理手法が、 これまでのトップダウン的なそれよりも成熟した管理手法であり、 効率性からも優れているという示唆に端的にみられるように、 ジェンダー公正と効率性の同時追求戦略も提示している。
 ところで、 木本氏は、 女性の出産・家事・育児役割が過度に重視されてきたとして、 これまでの女性労働研究や人事管理を批判し、 既婚者、 未婚者、 子の有無など多様な女性の存在から、 ジェンダー・ステレオタイプによる把握の克服を強調する。 しかし、 店長への昇格プロセス、 彼女たちの管理の方法、 心理的な描写に、 ほとんど家族生活が登場してこない点には、 違和感を感じる。 夜間や土日の勤務、 残業時間の長さ、 転勤等で有名な小売業界の女性達が、 あるいは人事管理部門が、 どのようにこの問題を克服してきたのか、 あるいは克服してこなかったかにもう少し目配りが必要ではないか。 現実の多様な女性達も、 はじめからそのライフスタイルを固定的にとらえて生きていることは少ないし、 又その生き方の選択肢も、 「子供の運動会に一度も」 行けず、 「家族を犠牲にして」 働き続けなければ昇進できないような職場実態により狭められていることも少なくないからである。
 最後になるが、 小売業界で働く多くの男女労働者達や就職前の女子学生達に、 本書が読まれることを期待したい。 労働組織内における自分の位置とそこで果たすべき職責、 上下関係に挟まれた職場での人間関係を距離をもって見ることができ、 そこでの身の処し方、 活路の見出し方、 労働組織の改善などに、 貴重な示唆が得られるであろう。