『協う』2005年6月号 特集

「平和・協同ジャーナリスト基金」 代表
岩垂弘さんにきく 「生協の平和活動」


 マスメディアの世界で、 「近頃、 平和問題に取り組む記者は肩身が狭い」 と聞いた。 そんな記者たちを励ましているのが、 「平和・協同ジャーナリスト基金」 代表の岩垂弘さん。 「もはや 『戦後』 ではなく 『戦前』 ではないか」 と危惧する声が高まる今、 生協組合員と地域の生協は、 平和についてどう考え、 どう行動しようとしているのか。 あるいは、 生協ならではの平和運動のあり方とは…。 当研究所が 「平和」 をテーマにおこなった、 組合員と生協へのアンケート調査をもとに、 岩垂さんに縦横に語っていただきました。
 聞き手は、 烏野・井上両編集委員。
■出席者
岩いわ垂だれ  弘 (ジャーナリスト、 「平和・協同ジャーナリスト基金」 代表運営委員)
烏う野の 純子 (当研究所 『協う』 編集委員、 ならコープ組合員理事)
井上 英之 (当研究所 『協う』 編集委員、 大阪音楽大学教授、 社会教育)
平和運動を追う
ジャーナリストを励ましたい
【岩垂】
 私は、 10年前まで37年間、 全国紙の記者として、 ずっと社会部に所属して平和や協同組合 (主に生協) を取材してきました。
 退職後、 「平和・協同ジャーナリスト基金」 という任意団体をつくり、 活動しています。 記者時代、 日本のマスメディアの平和への対応ぶりをみてきましたが、 年々、 アプローチが弱まっています。 マスメディアはもっと平和問題に積極的に取り組むべきだし、 そのためには平和問題に関心をもつ新聞記者やテレビマンをもっと増やさねば、 優れた作品を発表したジャーナリストを顕彰して大いに勇気づけたい、 そう考えて基金をつくったんです。
 昨年は、 高遠菜穂子さんのイラクでのボランティア活動に関する著作を第10回 「平和・協同ジャーナリスト基金」 の奨励賞に選定しました。
【烏野】
 私は、 ならコープの組合員理事ですが、 以前に平和活動を担当していました。 今年は戦後60年ですが、 奈良は空襲を直接受けなかったので、 あまり危機意識がありません。 被爆者への聞き取り調査を続けつつ、 戦争体験を若者に伝え、 平和や戦争について語り合う雰囲気づくりの一端を生協が担えたらと思っています。
【井上】
 私は大阪音楽大学に勤務しています。 専門は社会教育で、 地域の多様な活動をウオッチングしてきました。 岩垂さんは、 『生き残れるか、 生協』 (同時代社) の著者としても知られ、 また生協の平和活動を見つづけて、 ロバートオーエン協会の研究会でも、 生協の平和活動の総括的報告をされたときいており、 今日のお話を楽しみにしています。
戦争と平和の問題
――問題は日本という国の対応ぶり
【井上】
 イラクでは戦争の 「ビジネス化・民営化」 ということも知られるようになってきましたが、 戦争と平和の問題構造は、 まだみえにくいですね。 現状をどうみておられますか。
【岩垂】
 強い危機感をもっています。 「9.11」 以降、 世界は決定的に変わりました。 アメリカが唯一の大国として、 全世界を自分の支配下に置こうとする構図が明らかになり、 アメリカの政策に敵対したり批判的な国・勢力をつぶすというのが時流のようになっています。 まさにアメリカの一国行動主義こそが混乱と不安定をもたらしている、 これが私の見方です。
 問題は、 日本の対応ぶりです。 アメリカが自国の野望を世界に広げるためには、 同盟国が必要であり、 日本もアメリカのそうした路線に急速に組み入れられ、 アメリカの先兵・後方支援部隊のような役割を担わされつつある。 だから、 非常に危険です。
 日本がアジアで平和で安全に生きるには、 近隣諸国との友好は何より大切です。 それ以外に日本が生きる条件はない。 アメリカのアジア政策は中国や北朝鮮の封じ込めですから、 それに日本が乗っている限り、 中国や韓国や北朝鮮との友好促進と矛盾します。 アジアのなかで生きる日本が、 こんなに近隣諸国との対立を招いていいのだろうかと、 とても危険なものを感じますね。
【烏野】
 私たち中年世代は、 「ヨン様」 では盛り上がっても、 竹島 (韓国名:独島トクト) 問題になると口をつぐみ、 観光旅行には行っても、 教科書問題には入り込もうとしません。
【岩垂】
 戦後の多くの日本人は、 アジアではなく、 アメリカばかりみてきましたからね。 「アメリカと仲良くして、 アメリカの庇護のもとにいれば、 平和が保たれ、 日本の社会は安定して、 経済発展もできる」 と考えてきた。 事実そういう形でうまくやってきたけれど、 最近、 対中貿易額が対米貿易額を凌駕するなど、 経済構造も変化して、 日本経済の基盤がアジアにあることが明らかになってきました。 したがって、 いっそう近隣諸国との友好関係を強化せねば、 日本の経済構造自体が崩れてしまいかねないのに、 政治的にはますますアメリカの路線に従っているのですから、 矛盾は強まる一方ですね。
ナショナリズムの強まりと、
インターネット・メディア
【井上】
 はじめにお話された、 高遠菜穂子さんたちが、 イラクで武装勢力に拘束されたとき、 日本国内で起きたバッシングは凄まじいものでしたね。
【岩垂】
 ここ数年、 日本人がナショナリスティックな方向に傾斜しているのを非常に強く感じますね。 ナショナリズムは行き過ぎると排外主義的になり、 近隣諸国との摩擦を招きます。 中国・韓国・北朝鮮との関係でも、 とても感情的な反応を示すようになりました。
 これには経済的な背景もありますが、 やはりマスメディアの影響が非常に強いと思います。 新聞、 テレビ、 雑誌などがナショナリズムを強調するし、 イラク問題の発生を契機に、 北朝鮮の核、 拉致問題の報道を通じて、 日本人のナショナリズムを 「高揚」 させた面もあるでしょう。 竹島問題や東シナ海の石油採掘問題などに非常に感情的に対応する傾向が強まっていますが、 どういう態度が長期的に日本の利益と合致するかという冷静な感覚を持ち、 話し合いのなかで友好的に問題を処理する以外に、 紛争解決の道は出てきません。 もちろん相手国に非があれば、 それに対してきちんとものを言うことも大切ですが。
 その意味で、 過度のナショナリスティックな傾向は危険です。 たとえば最近、 君が代や日の丸について批判的な意見を言うと、 とたんに袋叩きにあい、 それが怖いから沈黙するという、 ものを言いにくい社会になっていないでしょうか。
【井上】
 とりわけナショナリズムと結びついた共同体主義の力も、 バッシングという形になっているような気がしますね。
【岩垂】
 それは日本だけではなく全世界的にいえる傾向ですが、 インターネットというメディアの発達もからんでいるでしょうね。 中国の反日デモもネットで広がったといわれているし、 日本でも高遠さんたちへのバッシングはネットで広がった。 インターネットの匿名性は恐ろしく、 自分を名乗らず、 言いたい放題で個人を攻撃します。 このようなメディアの変化も、 「もの言えば唇寒し」 という状況を生む原因のひとつだと思います。
いまや最大の
「組織された市民団体」 の生協
【井上】
 当研究所は今回、 生協における平和の取り組みについて、 いくつかの生協と組合員にアンケート調査を実施しました。
 組合員への個人アンケート調査は、 できるだけ広く声を聞くため、 店舗前で用紙を配ったり、 共同購入の配送車に乗り込んでお願いしたりしました。 寄せられた回答から、 生協の平和活動に関わったことがない人が4分の3、 そのうち生協の平和活動を知らなかった人が半数、 関心がない人も2割でした。 回答者の年齢層は10〜80代と多岐にわたり、 「日常は動けないけど、 しっかり考えている」 と回答してくれた10代の方もいて、 この幅広い人々が協同しているという多様性が生協の宝ものと思いますね。
 生協組織へのアンケートは、 19生協から回答がありました。 生協職員は、 人事異動もあるので、 平和活動に関わってまだ1ヶ月という担当者の方が二十年も前の設立総会の議案書を探して回答してくれた例もあります。 全体的には、 生協が市民に広がるなかでの活動のあり方を検討し模索している姿がうかがえました。
【烏野】
 生協からのアンケート回答をみて、 「生協としての平和活動は一つのピークを過ぎた」 という回答記述にみられる今日の状況を感じました。 日本生協連がもっとリーダー的役割を果たすことも必要ではないでしょうか。 単協の取り組みはそれなりにやっていても、 全体としてはまとまりに欠けていると思いますが…。
【岩垂】
 回答を寄せた生協は、 比較的よく平和活動に取り組んでいる生協が大半ですね。 大小合わせて約150もある地域生協の平均像が反映されていないので、 この回答だけで日本生協連加盟生協の動向を判断するのは問題があると思います。
 しかし、 生協は全体として、 とてもよくやっています。 いま、 日本の市民社会において 「組織された団体」 の実態はどうなっているかというと、 女性・青年・学生組織や労働組合などが崩壊または衰退状況にあり、 2,200万人の組合員を擁する生活協同組合は文字通り日本最大の市民団体です。 構成員が増えているのは生協だけと言っていい。 したがって平和運動でもいまや生協が主役の座の一つを占めている状況で、 70年代から今日に至るまで、 いくら評価してもし過ぎることがないほど、 生協は平和運動で大きな役割を果たしてきました。 それを知っているだけに、 最近はかつてのような積極的な取り組みが感じられないというのが私の率直な印象です。
 これまで毎年やってきた平和関係の行事を機械的に 「こなしている」 という感じのあるなかで、 従来の路線を引き継ぎながら、 さらに運動の量質ともに高揚させようとしているのが、 私の目から見ると、 いわて生協ではないかと思っています。 今年は、 原水協・原水禁・被団協などの団体とネットワークを組んで、 「原爆・戦争展」 をやるとか、 地域の親子が気軽に参加できる映画上映会を開くとか、 意識的に取り組んでいます。 また回答を寄せた他の生協でも、 意識的・継続的に生協らしい内容で取り組んでいて、 感銘を受けます。
 ただ、 全体的に新しいスタイルがみえていない気がするんですね。 署名、 平和行進、 募金活動、 コンサート、 映画会、 学習会、 戦争・被爆体験集の刊行が取り組まれているけれど、 意識的に従来のスタイルを変えようと、 試行錯誤しながら果敢に挑戦している姿は、 残念ながらあまり感じられない。 やはり、 世の中全体の平和運動が低調ななかで、 生協だけが活発でありうるわけもないのだろうと思いますが、 残念です。
一人ひとりの不安・危機感を
行動に結びつけるには…
【井上】
 個人アンケートの結果は、 どのようにごらんになりますか。
(以下、 個人アンケート回答からの一例)
〈世界の平和で関心の持ったことは?から〉
・イラクをはじめとした海外での戦争や紛争 (自衛隊の派兵含む)
・中国、 アジアの外交問題や日本国憲法 (9条)
 他、 特徴的には、 ローマ法王ヨハネパウロ2世が世界平和に尽力されていたこと…など
〈平和のためにできることは?から〉
・ユニセフ含む募金活動
・子どもたちやご近所の方と 「命の大切さ」 や 「平和や健康のこと」 と話し合う
・選挙での意思表示
【岩垂】
 とても興味深くみさせていただき、 大きな流れを読み取ることができました。 つまり、 このアンケートから、 いまの世界と日本の情勢を反映して、 生協組合員が平和の問題に危機感をもっていることを実感できたわけです。 一見、 そんなことを考えていないようにみえるけれど、 市民は日常生活を通して、 心のなかで平和の問題に対して不安を高めていることが読み取れました。 たとえば、 反日デモやイラク問題、 沖縄の基地問題、 憲法問題などに危機感を抱きつつありますね。
 しかし、 組合員は具体的な行動を起こしていません。 アンケートでも 「取り組みに参加したことがない」 という回答が7割ほどですね。 危機感があるにもかかわらず動かないのは、 なぜか。 生協による情報提供や場の提供が不足しているからではないでしょうか。 やる気がないわけではない。 「募金したい」 や 「学習会をやりたい」 「署名をやりたい」 と答える人が多いし、 やってみたいと思っている。 必要なのは、 危機感をくみとって、 「いっしょにやりましょう」 と、 きっかけを用意して呼びかけるような生協側の働きかけだと思います。
 それに、 生協組合員らしい提案をする人もいますね。 たとえば 「近所の人や家族や子どもたちと語り合いたい」 と具体的に述べている人が多い。 くらしをもとにした生協組合員らしい提案だと思います。
 従来の上から動員するという活動スタイルは、 もはや適切な運動形態でないし、 人も集まりません。 あくまでも個人の自主的・自発的意思にもとづいて運動に参加することが望ましいし、 生協の運動がこういう形の運動に転換したのは当然だと思います。
 しかし、 大衆的な運動において、 一人ひとりが自然発生的に動き出すことは、 ほとんどありえない。 意識的な働きかけがあって、 その情報を得た人びとが動き出す。 ある人なり団体なりが、 意図的に市民に働きかけ、 みんながそれに共感すれば、 行動が起きる。 働きかけもせずにただ個人の自由意思に任せるというのでは、 何の行動も起きない。 その意味で、 あえて私が苦言を呈しますと、 生協の中には 「組合員の自主性に任せる」 として、 生協としては何もしない、 というところもあるのではないでしょうか。 「組合員の自主性に任せる」 というのが、 言い訳に使われかねないとも思います。
リーダー層の切実感とこだわり
――生協の平和活動の歩みとその背景
【井上】
 なぜ、 生協はかつて全国的なイニシアチブを発揮しえたのでしょうか。
【岩垂】
 生協は、 70年代後半から平和運動の分野に参入して、 非常に大きな役割を果たしました。 生協は一般市民で構成される組織だから、 ある時代の世相・世論が一般市民である組合員に影響し、 組合員の間でも平和を希求する気持ちが強くなって、 平和運動で大きな役割を果たしえたのです。 特に運動の統一に貢献した点は大きな業績です。
 また同時に、 リーダーシップが圧倒的影響を与えました。 当時の日本生協連会長の中林貞男さんをはじめとしたリーダーたちは、 時代の思潮や世論の動向を巧みに生協運動と結びつけました。 すなわち、 当時の組合員の中心だった主婦たちの間に形成されつつあった平和への強い願いを察知し、 これを組織化しました。
 もちろん、 中林さんを支えた単協のリーダー層、 つまり地域生協を創立した人たちの存在も大きい。 60年安保闘争以後、 地域に散って、 地域生協の創設に関わった人たちは、 平和の問題に対して非常に鋭敏な感覚をもっていたのではないでしょうか (岩垂弘著 『「核」 に立ち向かった人々』 日本図書センター、 2005年4月、 参照)。
 その後の低迷の最大の原因は、 冷戦終結後、 世界戦争の危機感が去って、 平和への切実感が以前ほどではなくなったという世の中の変化でしょうし、 生協のリーダー層がすっかり交代してしまったことも大きいと思います。 いま生協のトップにいる人たちは、 戦争体験もないし、 戦争直後の日本の状況も体験的に知っているわけではない。 だから、 戦争と平和の問題に対して、 かつてのような切実感やこだわりがないのかもしれません。
 それに加えて、 90年代以降の生協の経営危機ですね。 生協そのものの存続が危ぶまれるということで、 経営構造改革に全精力を投入せねばという考え方が経営陣に浸透し、 それ以外のことに目を向ける余裕がないような気がします。
高校生のみずみずしい感覚をみていると…
【烏野】
 ところが、 最近、 大学生たちが平和の活動になかなか参加してくれません。 「頑張ってください」 と言ってくれるのですが、 なんだか他人事で、 「自分たちが戦争に行くなんて、 そんなことありえない」 という感じです。 次代の社会を支える人たちが、 社会状況を反映して、 平和に対する関心というか想像力があまりにも薄れているのではないかと思います。
【岩垂】
 戦後60年、 終戦直後に生まれた人ももう還暦ですから、 戦争体験の継承はかなり意識的に取り組まねば無理でしょうね。
 しかし、 長崎ではここ数年、 高校生が中心になって核兵器廃絶運動に取り組んでいます。 主体は被爆3世ですが、 被爆2世の先生が彼らを支えています。 大人は表に出ず、 高校生が自主的にやって成功しています。 高校生の手で、 世界平和と核兵器廃絶を訴える署名を集め、 高校生代表の平和大使がこれを国連に届ける、 という活動を続けています。 こうした高校生たちのみずみずしい感覚をみていると、 戦争体験の継承は、 それほど絶望的ではないという希望が湧いてきますよ。
【井上】
 私は、 専門の社会教育の関係で高校生に注目してきましたが、 広島の高校生が原爆瓦を発見し、 その燃焼実験をして、 自分たちが学んでいる科学を使って追体験をする、 という自分たちなりの関わり方をしたときに、 爆発的に高校生の視野が広がり、 情熱も生まれ、 国際的な行動にも発展しました。
 その後、 この活動は広島から埼玉に飛び火して、 それ以降、 高校生の取り組みが広がりましたが、 最も大事なのは、 「昔あった」 とか 「悲惨だった」 というだけではなく、 現代に生きる人間として、 自分たちが学んだことを活かして、 現実に自分が実感できたことと、 その結果、 どういう行動ができるかを模索したことだと思います。
平和運動の目的は、 世論を形成すること
【井上】
 いま、 「地域」 という言葉がさかんに語られ、 「地域で起こっている問題を、 世界や日本の動きとの関連で問い直そう」 という意見もあります。 生協は、 組合員のくらしを支える組織ですから、 生協ならではの取り組みを考えるときも、 一人ひとりのくらしから出発することが大事だと思うんです。 組合員にとっては、 先に平和があるのではなく、 くらしがあって、 家族がいて、 子どもがいて、 だから平和が必要…となるのですから。
【岩垂】
 実際、 今回のアンケートにも生協らしい運動の提案があるし、 実際に取り組んでいる生協もあります。 「小・中学生主体の春休み平和スタディツアー」 や 「親子の戦跡めぐり」 はまさに生協らしい活動です。 お母さんと子どもが参加できる活動、 それにエンターテイメント性も加味した運動。 これが大切ですね。 楽しくて勉強になる。 そんなやり方を考え出したいものです。
 運動の主体という点ではどうか。 かつては労働組合が平和運動の主体的な担い手でした。 今後もそうなってほしいと思うのですが、 まず期待できないでしょう。 これから新たな平和運動が形成されるとしたら、 生協や NPO など市民運動的なものが主体になるのではないでしょうか。
 イラク戦争では、 日本でも反戦デモが起きました。 しかし、 継続性がありませんでした。 個々人が一時的に集まって、 すぐに散ってしまった。 まるでアメーバのようなスタイルでした。 この形態の運動は、 とりとめがないけれども、 課題によっては人々を大きく結集できます。 しかし、 アメーバでは、 平和運動としての持続する力を保てません。
 平和運動の目的は、 デモや集会それ自体ではなく、 反戦平和の世論を形成し、 高めることです。 世論を平和的な方向に変えていくことが目的なのですから、 インターネットでいっとき結集するという形だけでは限界がある。 世論を変えるために、 やはりじわじわと継続した運動が必要です。 だとすれば、 何らかの継続した市民組織の存在が求められるのではないでしょうか。 生協や NPO はそうした継続的な運動が可能なはずです。
 しかも、 今後の運動の拠点は、 井上さんがおっしゃったように、 おそらく地域でしょう。 地域で運動を起こし、 継続させる。 でも時にはそれらが全国的規模で結集することが必要だと思うのです。 最近、 地域の平和運動は数えきれないほど多いけれど、 バラバラで孤立し、 相互の連帯がありません。 しかしある時、 日本中の多くの人たちが共通の課題で一点に集中すれば、 それがマスメディアに乗り、 世論化するのではないか。 地域での人びとの意識を少しずつ変えていくような地道な運動と、 志を一つにする人たちが全国的に結集する大デモンストレーションを組み合わせること、 それが求められていると思います。
「アンチ」 でも、 それに代わる提案が必要
【井上】
 最後に、 多くの市民・組合員への語り方について。 たとえば、 環境問題やごみ問題に関心がある人に、 「石油資源がイラク戦争の真の原因」 と話すと、 とても共感してもらえたという話がありますね。
【烏野】
 生協の組合員の場合、 やはり安全・安心な食べ物を求めるお母さんたちが多いので、 そこにどう呼びかけるかが大事だと思います。
【岩垂】
 いきなり核兵器や自衛隊の問題から入ると、 聞く側は問題の重さにたじろいでしまうので、 烏野さんがおっしゃったように、 もっと日常的な問題、 例えば食べ物、 地球環境、 子どもを取り巻く環境といった切り口から入ることが大事でしょうね。 そうした日常的な問題が平和の問題と密接につながっていることを、 わかりやすく説明してゆく努力が求められていると思います。
 それから、 これまでの日本の平和運動の弱点は、 加害責任の認識の薄さと、 基本的に 「アンチ」 で、 拒否はしても、 それに代わる提案が少ないことだったと思います。
 反日デモの最中にもかかわらず、 80人もの代議士が靖国神社の春の大祭に参拝しましたが、 あのとき、 なぜ平和団体は千鳥ヶ淵戦没者墓苑に行かなかったのでしょうか。 靖国神社に行く政治家を批判するなら、 自分たちは靖国神社の隣の千鳥ヶ淵戦没者墓苑へ行って、 無名戦没者に花を供える。 それが代議士たちの行動へのへのアンチテーゼになる。 私が言う 「提案」 とは、 例えばそういうことです。
【井上】
  「アンチ」 だけで終わらず、 それに代わるものを打ち出すことですね。 そのことが、 生協の組合員も含め、 若い世代の人たちが自分の実感で一歩踏み出す機会になるように思えます。 今回の 『協う』 では、 全国の生協の方々に君島論文の 「しない平和主義」 と 「する平和主義」 も学んでいただこうと載せています。 今日は貴重なご指摘をありがとうございました。
※今回の企画に際して、 19生協よりアンケート回答で、 貴重な報告や意見をいただきました。 『協う』 編集委員会より、 この場を借りて厚くお礼を申し上げます。