『協う』2005年4月号 書評1

若い世代へのアプローチを考える
井上 英之
大阪音楽大学教授


『〈コンパッション共感共苦〉は可能か?
−歴史認識と教科書問題を考える−』
『〈コンパッション〉は可能か?』
対話集会実行委員会編
(影書房、 2002年11月、 2200円+税)


 本書は二つの読み方ができる本である。 ひとつは、 副題からも予想されるとおり、 自虐史観批判として知られる 「新しい歴史教科書をつくる会」 の中学歴史・公民教科書採択に反対の声をあげるべく開催された第3回目の対話集会の記録としての読み方である。
 対話集会での新しい試みである群読 (ひびきよみ) 「コンパッション−他者の苦悩への想像力を育むために」 の全文、 6人の各分野からの基調発言との対話、 刊行に際して追加された 「9. 11以降」 についての6人のコメント、 340冊にも及ぶ 「〈コンパッション〉を育むブックガイド」 が、 その内容である。
 今日、 中国や韓国という近隣諸国からの批判が相次ぐなかで、 共通の歴史認識を形成する努力は当然追求されなければならないだろう。 それには、 フレデリック・ドルーシュが12ヶ国の歴史家に呼びかけて総合編集した 『ヨーロッパの歴史 欧州共通教科書』 (東京書籍) に学んで、 「特定の主義・思想や強者の利益などを一切排除した」 コモン・センスの形成が必要であり、 本書のように若い世代に共感をもって受けとめられ、 共通の現代認識をつくる障害物を取り除こうとする努力が求められているのである。
 しかしながら、 本書刊行の意義にかかわるもうひとつの読み方が重要であろう。 即ち、 対話集会の第1回 「日本で民主主義が死ぬ日− 『日の丸・君が代』 法制化を考える」、 第2回 「〈断続の世紀・証言の時代〉−〈戦争の記憶〉をめぐる対話集会」 とは異なる発想と視点をもって、 第3回では〈コンパッション〉が全面に掲げられた点であろう。 多文化主義と NGO の活動で知られるフランスのジャン= F ・フォルジュ 『21世紀の子どもたちに、 アウシュヴィッツをいかに教えるか?』 のキーワード〈コンパッション〉に学んで、 この書は若い世代が主体的・能動的に歴史的・課題的認識の形成をはかれるよう意識的に〈コンパッション〉を取りあげたのである。 これは、 対話集会のあり方を変えたばかりでなく、 こうした転換の仕方自体を社会的に吟味検討する素材として提供するための刊行なのであろう。
 もちろん内部批判が存在した。 しかしながら 「他者の苦悩への想像力」 を表現する日本語が見出せないこと、 残念ながら日本の現実には〈コンパッション〉の欠如があり、 それ故 「他者との和解・友好、 連帯、 平和を築けない」 という現実認識がある。 評者である私は 「貴重な挑戦的試みだが、 いまだ半ば」 との印象をもった。 是非、 共有して検討すべき本ともいえる。 なお、 共感共苦という訳語があてられているが、 評者は 「共感の想像力」 とすべきと考えていることをつけくわえておきたい。