『協う』2005年6月号 書評2

市場の継続としての戦争
熊崎 辰広
コープぎふ職員

『戦争請負企業』
P・W・シンガー著 山崎淳訳
(NHK出版、 2004年12月、 2500円+税)


 一読明解な書物である。 死体や死臭で充満する戦争の悲惨さは語られていないが、 殺戮と破壊を営利の手段とする戦争請負企業の存在を明らかにした歴史的あるいは政治経済学的視点からの本格的な現状分析の書である。 ちょうど本書を読んでいる時に、 イラクで日本人が拘束されたというニュースが報じられた。 その日本人斉藤昭彦さんの所属しているのがハートセキュリティというイギリスの 「警備保障会社」 を名乗る大手戦争請負会社の一つなのである。 しかも、 イラクではすでに2万人近くの民間の軍事要員 (米国以外の国の兵士の総数と同じ) がこのような戦争請負企業で働いているという。
 傭兵といえば、 古代のエジプトの記録や聖書に記述もあり、 また17世紀東インド会社の2万数千人の傭兵は主にドイツ、 日本人から編成されていたといわれるように、 歴史とともに古く日本も無関係でない。 組織としての戦争請負業の本格的発生は、 冷戦構造の崩壊により、 戦争の名目的大義すら失われたことと軌を一にする。 「ベルリンの壁が崩れると、 ほとんど一夜にして全国際世界の全秩序が崩壊した。 軍事業務の需要と供給のうえにもたらされたその結果が、 『安全保障の空白』 を生み出し、 民間市場 (あぶれた軍人や兵器等) がたちまちそこを埋めた」。
 冷戦の終結後、 各地で紛争が激増することになる。 西アフリカのシエラレオネ、 旧ユーゴスラビアでのクロアチア人とセルビア人の戦い、 そしてバルカン半島での紛争等、 それらすべての戦いに戦争請負企業が関わり、 しかもその紛争の帰趨の主導権を握っていたことが、 明らかにされる。 さらに、 9. 11 「テロ」 以後の国際社会では、 もはや戦争が国家による専業ではなくなり、 国家によるアウトソーシングのもとでテロリストと戦争企業の暗躍する市場形成時代となった。 イラクの事態はこれら企業による大蔵ざらい、 現代戦争のマネーゲーム化の象徴ともいえる。
 民営軍事請負業が異常な速さで発展している一方、 政府の対応は遅々としている。 個人傭兵を対象にした現行国際法では規制できず、 結果として軍事請負業とその社員には、 法的地位も不明確であり、 説明責任も最小限にとどまる。
 また、 戦争請負企業は、 前線部隊からの位置により、 およそ3つの部門により構成されるという。 すなわち、 「軍事役務提供企業」 「軍事コンサルタント企業」 「軍事支援企業」 である。 こう分類することで、 その組織、 活動、 影響などの変化を探ることができるという。 イラクにおいては、 日本の自衛隊はさしずめ軍事支援企業の役割であり、 現地で同じ役割の戦争請負企業と契約したほうがはるかに安くできるかもしれない。
 平和のために私たちにできること、 それはまず無知からの脱却であろう。 戦争請負企業を単純な道徳観でその存在を 「拒絶」 することでなく、 まずリアルな現実を知ること。 そのために、 本書は貴重な道標になるはずである。