『協う』2006年2月号 人モノ地域

過疎化がすすむ地域で、 住民が主体の地域づくり
                    
くらしと協同の研究所事務局 林 輝泰
                    
 2000年に3,200を越えていた市町村が、繰り返される合併で今春にはおよそ1,800に。この6年で4割以上も減ることになるという。その中で、県域を越えた地域づくりを支援する特定非営利活動法人(NPO)があると聞いた。このNPOは、「広島」と「島根」の県名をもじって“ひろしまね”と名づけられている。少子高齢化、人口減少、「社会的格差」の広がりが言われる中、超高齢化のすすむ中山間地域における地域づくりの実践にせまった。
限界集落がひろがる中国山地
 広島県の旧作さく木ぎ村、島根県の旧羽は須す美み村と旧頓とん原ばら町は、地域の過疎と高齢化が進んでいる地域である。ちなみに旧作木村では、1950年7,000人を数えた人口も、1960年代には半減。三み次よし市と合併した2004年には2,000人を割り、高齢化率も44%になっている。10年ほど前に開かれたの地域懇談会で「わしの葬式は誰が出してくれるのかも心配で、死のうにも死なれません」と語った古老のことばが現実のことになっている。都市では聞き慣れない「限界集落」(注:65歳以上の高齢者が集落人口の50%を越え、社会的共同生活の維持が困難な状況におかれている集落のこと)という言葉があてはまる地域である。旧作木村の集落数は86、そのうち10戸未満の集落が60%を超えたという。中には1戸2戸という「集落」も現れ、稲作用水路の補修や雪かきもままならないなど、日々の生活に関わる集落運営ができない状況になっているという。
 この地域で、「住んでいる人が幸せで充実した暮らしが実現できるような地域づくり、訪れる人が心をいやされ、住みたくなるような環境づくり」をその活動目的にしているのが、2004年に設立されたNPO法人“ひろしまね”だ。代表の安藤周治さんは、1982年に過疎地の若者が中心になって発足した「過疎を逆手にとる会」のメンバーの一人である。
地域づくりの支援活動
 05年度には、@「地域づくりリーダー養成講座」を開いて、リーダーにファシリテーターとして必要なスキルを習得してもらい、住民主体のまちづくりを支援する活動、A「パソコン実践講座」を開いて、地域活動や町内会活動などの日常活動に活用してもらう支援活動、B地域の再認識や流域全体への関心を高め、流域づくりに参画してもらう企画として「江ごうの川流域資源調査とマップづくり」などに取り組んだ。その他に「住環境・リサイクル講座」や「銀の道交流会&フィールドワーク」なども企画している。
 さらに、1年間取り組んだ成果は、まちづくりに関心のある人たちに呼びかけて「活動報告会」を開き住民や行政関係者と共有している。
住民主体へのこだわり
 驚いたことには、こうした活動がわずか18人の個人会員で進められているという。事務局長の小田博之さんのお話しからは、チャレンジ精神や自らが楽しむという遊びごころも感じられたが、“ひろしまね”の活動の源泉には、現実のくらしを直視した「危機感」とそれに立ち向かう「気概」が感じられた。
 “ひろしまね”の大きなこだわりは「住民主体」にある。NPO法人の役割は、地域住民が主体となるためのコーディネート役、つまり支援活動に徹していることである。活動のほとんどは、支援活動のキーワードである「人づくり」と「しくみづくり」の実践であった。
 たとえば、パソコン講座は、単に技術を身につけてもらうことだけではない。小田さんは「われわれのためにこそあるのが今のネット社会だ」と。「限界集落」をかかえる中山間地域でこそ、インターネットやGIS(地理情報システム)などの道具を活かした情報交換・共有が必要で、そのための入り口がパソコン講座であった。また、高速通信網が整備されていない集落においては、FAX通信で、地域情報を1日3回、高齢者世帯へ送付している事例もあるという。「これからの超高齢化時代のひとつの支援モデルにならないだろうか」と言うのは小田さんの言である。
 地域の困りごとやニーズを知り、その解決策を考えるアンケート活動(旧羽須美村)にも「住民主体」のこだわりがみられる。ややもすれば世帯主(ほとんどは男性)に偏りがちな回答者を一世帯で複数に求めたという。「おかあちゃんやこどもたちにもできるかぎり、同じフォーマットのアンケート用紙で回答してもらった」とのこと。それは、性差、年代を越えた話し合いにもつながるということであった。
 また、地域の困りごとを解決するには、従来の決まりごとを変えることも必要である。ときには「波かぜ」もたつことがあるが、小田さんの集落では住民の本音の話し合いと行動でそれを克服している。
 「住民主体」の地域づくりはIターン(注:都会で生まれ育った人が、農村へ移住すること)してくる人たち、いわゆる「よそ者」の力を活かすことにもつながっていくという。“ひろしまね”とネットワーク関係にある「島根県中山間地域研究センター」の若い職員からは、「Iターンしてくる人たちを『癒しの田舎暮らし』のレベルにとどめないで、その人たちの力を仕事起こしと経済的循環につなげる発想が大事だ」と聞かされた。“ひろしまね”のめざす「人と生なり業わいとくらしと環境の輪をつなぐ、まちづくり構想」ともみごとに通じていた。
 こうした中で行政の役割は何かということについて、小田さんは「地域(住民)がしたいこと、することに財政的援助をすることだ」と明言されている。
住民交流の拠点
 「縁側喫茶“南天”」(旧頓原町)は“ひろしまね”が支援し、2005年10月にオープンした。高齢者自身も何かができるはずだということで、地元の高齢者が集う場である。大半が70歳代の住民グループが自ら運営し、お茶やコーヒー、昼食を提供している。気軽に立ち寄ることができる「縁側」のあるお茶のみ民家だ。独居の高齢者は話し相手が少なく、食生活も乱れがちになることもある。そんな状況を何とか変えたいという思いを語っていただいたのが、代表の加瀬部末子さんである。「雪がなくなる春になれば、郷土料理教室や子育て中の若いおかあさんたちとの異世代交流なども企画し、住民交流の拠点をめざしている」と、夢はふくらむ。取材を終えて、現地を出るときに、学校帰りの小学生たちが加瀬部さんたちと「ただいま」「おかえり」と自然にあいさつを交わす光景に出合った。昨今の小学生に襲いかかる悲惨な事件を思いおこし、日頃のふれあいが何より大事だと感じた一瞬である。
協同組合への期待
 これまで中山間地域で協同の「要」とされてきた農協は、行政の合併以上に広域で合併されているところもある。年々、農業就業者が減るなかで、限界集落の中に農協の姿を見ることは、思っていた以上に難しいと感じた。だからこそ、こうした地域における農協店舗や生協共同購入の継続は、生活必需品の購入やコミュニティの拠点として、引き続き大きな意味を持っている。
 さらに、農協や生協など既存の協同組合には、地域の小さな協同を支援すること、都市と農村をつなぐ役割を強めることなどを期待したいと思う。大きな協同組合は、生活者・住民レベルでそのことを行える大きな可能性を内在しているはずだ。
雪ぶかいNPO事務所にて
縁側喫茶「南天」にて(真中が加瀬部さん)