『協う』2006年2月号 視角

「エンディングノート」と協同組合
上田 晶子

 2006年も早1か月余りが過ぎました。年始に手帳や家計簿、日記帳を新しくされた方もおられるでしょう。最近は手帳が「夢を叶える」手段として注目を集め、各界で活躍している人々の「手帳術」が紹介されることがあります。
 夢、といえば家計簿も自分自身や家族の生活設計に役立つものです。家計において、子どもの教育や住宅の取得については時期が読めますので、ある程度計画的にことを進めることができます。ところが老後、特に病や死については予想のつかないことばかりです。
 例えば、死期が近いときの治療方針は「臓器提供意思表示カード」、「尊厳死の宣言書」を書いておくことで意思表示ができます。しかし、同時に財産管理や死後事務に関する問題も、本人そして家族などケアの担い手にも降りかかってきます。がんの末期や植物状態で最期を迎えるとは限りません。特に高齢者の終末期は、認知症や脳血管障害になることもあり得ます。「最期まで自分らしく」生きるためには、事前にこれらの希望も書面にする必要があるでしょう。
 「エンディングノート」とは、いつ訪れるかわからない「死」に備え、自分自身の生い立ち、親戚や友人、後見人などの緊急連絡先、介護や医療、葬儀に対する希望、預貯金や保険の加入状況、家族や身近な人に対する思いなどを記しておくノートです。核家族化、少子化、晩婚・非婚化、離婚の増加など、近年の家族形態の変容に伴う介護や墓の継承問題、「自分らしい葬儀」の需要も背景にあり、1990年代中頃から高齢者を支える市民団体やNPO、葬祭関連業者やファイナンシャル・プランナーの手により続々と出版されています。編著者自身が「老い支度」講座とタイアップした「書き方セミナー」を行っているケースも少なくありません。また高齢者だけではなく、ライフプランニングの要素も加味することで、20〜40代の若年層にも利用できるように編集されたものもあります。近年「団塊の世代」の人々の老後に対する不安や価値観の多様化、学習意欲の高さも相まって、大型書店のなかにはコーナーができるなど、「静かなブーム」にもなっています。
 体裁はA5版、B5版やA4版のものから、絵本やアルバムのような装幀の大型本まで様々で、記入方法や、記入の際に参考になる資料として、介護や終末期医療、葬儀、相続に関する情報をまとめて分冊にしたり、必要に応じて著名人のエッセイや「コラム」を掲載するなど、書きやすさを工夫しています。また、幼少期や学生時代からの思い出を書く欄や、近・現代史の簡易年表を付けるなど、むしろ「自分史」に近いものもあります。また、葬儀の際に「遺影」として使用してもらいたい「写真」を貼る頁が設けられていることもあります。
 「エンディングノート」を記すことによって期待できる効果は、家族と生前から話し合い、準備をすることで、葬儀とその前後の死後事務で起こりがちな混乱が避けられることでしょう。個人的には書くことで気持ちを整理し、人生の棚卸しをしながら死を前向きに受け入れることができる、といったことが挙げられます。ただし、自筆証書遺言や公正証書遺言のように財産分割の際に法的な効力を持つものではありません。身近に置いて気軽に書けるのが利点ですが、記入と同時に家系図や名簿、財産目録などの個人情報も含まれてしまうため、時間の経過に伴う内容の更新方法や保管場所も課題となっています。秘匿したいが、家の中に適切な場所がない場合は、貸金庫で保管します。
 とはいえ「エンディングノート」は、これまでの人生で経験したことを記録して身近な人々に伝えることにより、最期まで思い残すことなく生涯を送るためのツールとして使えるのではないでしょうか。例えば「私が趣味で一生懸命集めたコレクションを、大切にしてくれる人に引き継ぎたいので、一覧表をつくる」、あるいは「私が突然倒れても『我が家の味』を守ってもらえるよう、レシピをまとめておく」という書き方があってもよいかもしれません。
 協同組合は、異なる事業や活動に携わる職員間で連携のうえ、組合員に資料や情報を提供したり、管理する役割を担えるでしょう。そして個人情報を大切にしながら、組合員各人が持つ願いを実行できるよう手助けをするサービスを行うことが可能であろうし、その資源を十分に有している組織であると考えます。
  
うえだ あきこ
 社団法人 農協共済総合研究所 研究員