HDヘリをつくろう

機種選定
 ローカル局が、新しくHDヘリを作ることを前提に考えてみよう。
 まずは機体の選定であるが、S76やAS365、AW139などの大型ヘリが使えるキー局は問題外として、中日本系の航空会社と契約しているならならEC−135、朝日航洋ならMD902あたりが普通だが、これが使えるのなら、すでに何機の飛んでいるので作りやすい。
 ユーロ高で、EC-135が高くなったのと、BELL430が製造中止になったのでBK-117C2を報道ヘリに使い始めた。
 私は、2001年に岐阜の工場でBK-117C2に乗ったことがある。当時はMD902との比較であったが、室内はBELL430クラスで、全体的にはMD902よりやや大きい程度、乗り心地も悪くない。ドクターヘリや防災ヘリにも多く使われているが、唯一の欠点は機体の振動である。
 少し小さいけれど、BELL429は興味がある。サイズ的にはBELL427よりやや大きいが、中型機と言えるかどうかは心配だが、是非検討してみたい。
 SD時代は活躍したAS-355であるが、ニュース専用に特化すれば使えないこともないが、駅伝中継も兼ねるということになれば400kgを越えるHD機材を持ちこたえれない。
 しかし、手軽にHDヘリということで、掟破りのAS-355で考えてみよう。機材重量が300kg程度で済むように割切りることが条件になる。
 ただ、AS-355は機体が古く、使える機体が減っているのが問題ではあるが、AS350B3は単発でもパワーはあるので可能かもしれない。

耐震カメラ
 耐震カメラはどうしても必要で、シネフレックスなら6,000万円、航空電子のLX-3なら5,000万円といわれてきたが、両者とも4,000万円台も夢では無くなってきた。
 もっと安くしたいのなら、SDのウェスカム750やACE-3000,ACE-430ならHDへの改修も出来るかもしれない。ただメーカーは中古の販売はしたがらないので、自前のものの改修が基本。
 カワサキのHDVを使った耐震システムは安くてよいのだが、レンズにエクステンダーが使えないので、報道ヘリには使えそうに無い。
 ウルトラメディアもHDがあるが、すでに他社の耐震カメラに慣れた人には使いにくいかもしれない。
 最近は、42倍レンズに2倍のエクステンダーが当たり前になってきたが、これだけの高倍率になると、エクステンダーを入れるとホバリング以外では使いづらい。
 カメラを何処に着けるかが問題になるが、AS-355では鼻の下部分だと機体の補強が高額になるので、素直に右側ドア後部につけるしかないだろう。
 内部カメラはCCDブロックが外れるものなら何でも良いが、イケガミ、ソニー以外にNECの蓄積タイプのHD版の使えそうだ。
 ところで最近は、報道機以外にも耐震カメラが付いている。自衛隊、海上保安庁、防災、消防、県警、国土交通省など。たがこれらは、実際にはHDカメラで撮影したとしても、最終的にはアナログのVHSやDVDにコピーされることが少なくない。
 しかも、映像伝送する際は、14GHzあたりの周波数を使うことが多く伝送距離も長くない。
 放送局でさえも、ヘリでの映像伝送は条件が制約されることが多く、熟練者は少ないのだが、まず予算ありきで作る官公庁ヘリの場合は、装備はしっかりしていても充分運用できないこともあるらしい。
 ちなみに、あの山田洋行は、10年くらい前からカナダの軍事用ヘリ用耐震カメラの代理店をしていたが、最近この分野から手を引いたそうだ。

ADS
機体の外側で大きき目立つのは、耐震カメラとマイクロの送信アンテナのADS(自動指向装置)である。
 SDSを大きく分けると、分離固定方式か、可動一体方式に分かれる。初期のものはジャイロ駆動だったが、最近はGPSを使うか、両方を使うものがほとんどで、受信基地の位置データを入れると自動でその方向を向くと同時に、GPS方式の場合は、自分の位置データも送信する。
 分離固定方式の場合の最大のメリットは、駐機状態で動作確認が出来ることである。ヘリの鼻の部分とお尻の部分の前後装備するのが一般的だが、Bell430やC76などのようにスタビラーザーなどの補助翼を持っている機体の場合は左右に装着する。
 欠点は、前後の切り替え時に寸断が出ることで、アナログの場合は問題なかったが、デジタルになると映像がフリーズするため、この対策も必要になり費用がかさむ。
 通常は丸い形状をしていて、中に20cm程度のパラボラアンテナが入っているが、電磁ホーンを入れて経費を下げる場合もある。
 可動一体方式の場合は、電磁ホーンをレドームの包んで、棒状の先につけ機体から吊り下げる。機体の影響を受けない場所に吊り下げるので、駐機状態では横を向いていたり、機体の腹にくっついているので、そのままでの可動点検はできないが、送信アンテナが1個しかないので、費用が安くなる。
 手動や電動で上下に動くタイプと、90度下の縦や横の可倒式がある。かつては横方向に360度回る2次元方式だったが、高度にあわせて縦方向にも動くのが常識になってきた。
 東京計器とIKEGAMI製がある。
 分離方式なら6,000万円以上になるので、迷わず3,000万円以下の可倒式にする。

マイクロとPA 
 デジタルマイクロはアナログと違って、問題が多い。
 その一つが、消費電流である。アナログの場合は12Vで3−5A程度であったものがデジタルになると15A程度も流れるので、通常はAC100Vでの運用が普通となっている。このため機体の28VからACに変換するインバータが必要になる。
 アナログの場合は出力5Wで普通だったが、デジタルの場合はモードによって異なり電波法上許される出力は相当下がる。
 このため、PA(増幅アンプ)が必要になるが、その位置もアンテナに出来るだけ近い部分に装備しなくてはいけない。分離方式のADSでは、S76の補助翼下に装備したり、一体型の場合はアンテナ上部につけたりしている。
 また送信モード変更のため送信部と制御部の両方を搭載しなくてはならず、重量増加の一因にもなっている。
 安く上げるためには、PAを装備しないで、出来るだけアンテナに近いところの送信部を置くことを考える必要もある。
 HDマイクロは1台のみで、CまたはDバンドだけにすれば安上がりで1,000万円程度か?

ICS
 機内の重要部品でもあり、システム全体の系統を統括するのがICSである。
 プロスパー電子、コスミックエンジリアリング・エビン事業部、池上通信機などが作っている。
 安く上げるために、映像系は機内カメラ、マイクロ受信機などはやめ、耐震カメラとVTRの切り替え程度に留める。音声は、機内コミュニケーション等もあるので、パイロット、コ・パイ、VE、カメラマンの切り替えだけはできるようにしておこう。
 HD化で一番面倒なのは、地デジ受信機の遅延による音声の遅れである。イリジウム電話やVHFでの送り返しを行う方法もあるが、経費がかさんだり山間部では使えないなどの問題もある。タムラのエコーキャンセラーを使う方法もあるが、AC駆動だったり調整が面倒だったりする。
 一番簡単なのは、しゃべるときにはPGMに切り替える方法である。報道用では生での掛け合いはほとんどなく、呼びかけ後に喋るのが通常なので、これで充分である。この方法はSNGでのネットニュース中継などで−1がもらいにくい時に有効である。
 収録VTRをP2にすれば、可動部分がないので、振動には有利である。一方テープならばEEアウトを利用すれば、映像切り替えも不要になる場合もある。機能を制限すれば、1,000万円程度で制作することも可能かもしれない。

改修
 一番不確定なのが、機体の改修費用である。
 改修工事は、中日本航空の名古屋の工場か、朝日航洋の川越工場でやるのが一般的ある。
 整備工場を持たない航空会社と契約している場合は、どちらかに工事を依頼するので割高になる。
 機体を改修する場合は、まず装備品のデータをすべて揃え、それぞれに安全性を証明するデータをつけなくてはいけない。このデータを作るのが整備工場の主な仕事であり、書類作成の人件費がほとんどである。
 機体外側に装備品をつける場合が、一番高くなる。某系列のbell430がADSを落下させて以降、CAB(航空局)の検査が厳しくなった。落下しないこと、飛行の邪魔にならない事が主になる。
 室内の装備品は、固定するものは全て検査の対象となる。飛行のたびに手で持ち込むものは、原則検査の必要はない。
 突起物が無いこと、火災を起こさないこと、脱出時の妨げにならない事などが主な対象になる。
 耐空検査は毎年あるので、その度に装備品を下ろす必要があるため着脱容易に設計することが大事。
 めったに使わないものは、通常は取り降ろしておいても問題ないので、搭載する可能性のあるものはすべて、装備品に含めておく。後で装備しようとすると、20万円の部品1個でも改修費が400万円なんていうことにもなる。
 機体に穴を1個開けるのに、100万円以上というのが業界の常識である。
 過去に装備したり、他社で装備したものでデータがあれば費用が安くなることはある。しかし、ICSなどは単品制作になることが多く、費用がかさむ原因となる。
 可能なかぎり既製品でがまんするか、系列などで同じものを数台作るかすれば安くなる。
 努力すれば、契約会社での改修であれば4,000万円前後で済むかもしれない。機材重量は300kg、ほしいものを満載すれば総額1億5,000万円くらいは必要だが、欲を出すとどんどん高くなるので割切る事が大事。

bell429 BELL429の場合
 BELL429で、HDヘリを作ることを考えてみよう。実際に日本ではあまり飛んでないヘリで、EC-135やMD902と価格があまり変らないがBELL427よりはパワーがある。
 目標重量は350kg以下でas355を想定した装備に、受信アンテナと機内カメラを追加する程度で我慢する。受信アンテナは無指向の円偏波の電磁ホーンとし、もちろんマイクロ受信機は必要。機内カメラはソニーかパナの小型カメラにする。
 この機体は、室内がフルフラットのウォークスルーになっているので、マイクロ機本体を送信アンテナにもっとも近い最後部部分に設置できる。
Bell429の座席は8席で、後席が2座席のEC-135に比べ3席で、真ん中の3席を外して機材が載せられる。ICS制作のポイントは、出来るだけコネクタやコードを使わず、ICS内部に機材を集中されることです。
 中継車のようにラックを立てて、そこに各機材をはめ込むという方式では、それぞれに電源や入出力コードが必要になり、それだけで数10kgということになりかねません。 
 それでも機内機材としては、ICS・耐震カメラのコントロール・ADS制御部・デジタルマイクロ本体と制御部・連絡無線本体・VTRは別々になりますので、U/C・D/Cモニター類・HDV・V/A・インカムなどは1体収容したいものです。

HDヘリを飛ばす

NHKは1986年2月、全日本空輸・中日本航空・東邦航空が出資したオールニッポンヘリコプター(ANH)を、NHKの取材用ヘリコプターを運航する会社として設立しました。
 現在は、NHK取材機はすべてANH所有機で、その運行は、直接ANHが行うもののほか、中日本航空、東邦航空に委託している機もあります。
 すべての機をANHにすることで、EC135、AS365、AW139のヘリの仕様を共通にすることができで、改修費用を安くするとともに、耐空検査時の代替機も同じ仕様で用意できます。今は、すべて耐震カメラ付HDヘリとなっています。
 これに対して民放は、系列での共同運航という思想がないままにスタートし、各社の事情でバラバラに契約し、機体の改修も独自の仕様になっています。
 NHKは東京にヘリデスクがいて、全国の運行を管理しているようですが、民放の場合は各社の映像担当デスクが運行管理しています。映像デスクが居なくて、報道デスクが兼務しているローカル局などの場合は、ヘリヘの充分なパックアップ体制が取れていない場合もあるようです。
 ヘリが飛んでいる場合は連絡無線を常時受信し、可能な限り映像を受信し、ヘリの現在位置を確認できるようにしておかなければなりません。
 他県に応援に行く場合でも、相手局への電話連絡などのコミュニケーションを欠かせません。
 ヘリを飛ばすのは運行会社ですが、そのサポートとして、現場の状況、天候の急変、締め切り時間の変更など、たとえヘリ側で「飛べる」と判断しても、本社側で「帰れ」と指示が出せる体制をとっておかなくていけません。

へりに乗っているカメラマンが、安全運行に協力できることは何があるか。
 的確な指示を行うことが第一であるが、何よりも地上での打ち合わせが一番大事である。
 HDヘリでは、パイロットとカメラマンの間は機材に覆われアイコンタクトが出来なくなる機が多い。
 飛び上がってしまうと、騒音や振動でカメラマンの思考能力は極端に下がる。まして気流が悪くて酔ってしまうと、撮影するだけで精一杯になる。
 目的地付近に到着し撮影ポイントを探す場合、地上からは見なれた風景であっても、上空からは意外にわかりに事もある。
 ヘリが飛行中、一番危ないのは視界が不良になる時。報道ヘリは通常はVFRという有視界飛行で飛ぶ。IFR(計器飛行)飛ぶためには、100kg程度の装備とIFRのライセンスを持ったパイロットが必要で、大型ヘリを運行できるキー局ぐらいしか飛ばせない。
 雪・雨・霧で前方が遮られ場合に、ヘリの姿勢が制御できなくて墜落するか、電線や山にぶつかって墜落するケースが多い。
 引き返せば良いのだが、後方に雪などが回り込んでしまうと、引き返すことも難しくなる。
 そうならないよう悪天候時には、カメラマンは耐震カメラを後部に向けて確認する弟3の目とならなければならない。
 複数機が同一空間を飛ぶ場合、前方と左右はパイロットやコ・パイが確認しているが、下方や後方は見えないことが多く、この部分をカメラマンが警戒する必要がある。
 慣れたカメラマンなら航空無線で、他社ヘリのコールサインを聞いて、何処の取材機が来ているかを確認することもできる。
 取材よりも安全運行が第一である。
 このほか、天気が良くても低空でのホバリングは危険を伴う場合が多い。
ヘリはメインローターから下方に風を押し付けて浮力を得ている。前方に飛行している場合はこの下方への風は常に後方に流れているが、ホバリングに入ると、下方への風が地表から跳ね返って戻ってきて下方への気流と相殺され浮力が小さくなり、墜落する危険が大きくなる。
 ビル屋上にヘリで荷物降ろす作業などは危険が一杯であり、墜落シーンがニュースな流れるのは、この作業中であることが多い。
 しかし、ホバリングはヘリの最大の特徴なので使わない手は無いが、出来るだけ高度をとっているほうがより安全ではある。

百日紅に戻る