報道現場から見た商品開発への提言

1.成功と失敗

成功例:ソニーがBVWー200を作る前、全国の放送局の現場を回って「使いやすいカメラ」の意見を聞いて回り、出来たのがこのカメラである。 これ以前はBVP−50(カメラ)とBVV−5(VTR)とのドッカブルであったから、これを一体化するにあたって迷いがあっので、全国調査したのでしょう。 この甲斐あって、ENGの業界スタンダードになったのだから、努力はむくわれた。

失敗例1:同じソニーのSXのディスク内臓VTR。従来、編集機はラックの電源で一斉にON・OFFするのが通例で、これを普及させたのが、ソニーでもある。しかし、SXのハードディスクはコンセントから切ってしまうと、もちろん壊れる。現場を全く知らず、研究室のなかで商品を開発するどうなるか、の典型であった。

失敗例2:なんの問題のなかったキャノン15倍ズームレンズを、ズームのオートとマニュアルの切り替えを廃し、オートのままで、 いつでもマニュアルでズームできるようにしたら、オートズームを使う習慣のない報道現場から総スカン。結局、元に戻す羽目になった。 どうやらキー局の技術屋の意見を鵜呑みして作ったらしい。

失敗例3:某オーディオメーカーの有名な3chのミキサー。当初は好評で、よく売れたが、いつのまにか色々機能が増え使いにくくなってしまった。 しかし、反省して、またシンプルなものの販売を始めたのは、拍手。

2.報道現場とは

技術的な事は全く分からない、と思ったほうがよい。コンポーネントとコンポジットも、PALもNTSCも、 1080iも720Pもゲンロックもペデスタルも分からないカメラマンがほとんどである。従って、放送機器メーカーの営業マンは、 技術局出身の「技術屋」に売込みに行き、新製品の仕様を延々説明するが、現場のカメラマンには嫌われる、と言うことになりかねない。 そこで権威をつけるため「キー局の誰々さんの意見を聞いて開発しました。」ということになるが、これが大間違い。

3.キー局とローカル局の違い

キー局の取材体制:NHKを除いて、報道カメラマンは、TBSビジョンなど派遣社員が多く、同じ会社のカメラマン助手とクルーを組み、 記者、デレクター、レポーターらとワゴン車で現場に行くことが多く、あらゆる状況にそなえる為に機材も多くなる事が多い。

ローカル局:社員カメラマン、派遣カメラマンの両方存在するが、カメラ専門の勉強をしたわけでなく、入社して初めてカメラマンを経験する場合が多く、 ほとんど素人。カメラ助手もアルバイト学生が多く、ガンマイクの使い方なども理解できていないことが多い。取材時間も比較的短い。

4.開発の照準をどこにあわせるか

キー局でもなくローカルでもない基幹局、準キー局からローカルA程度が、中間的な体制をとっている。これらの局の報道技術担当者のうち、 いわゆる「技術屋」と「報道カメラマンあがり」双方の意見を聞くのがベストとおもうのだけれど。もう一つの方法は、キー局の意見取り入れた、 ハイスペックなものと、ローカル重視のロースペックのもの両方つくる。

5.報道現場に物を売るには

例えば、報道編集室に波形モニター、ベクスルスコープの両方を装備している他局を、私は知らない。仮にあっても報道の編集者は使いを知らない。 にもかかわらず、一番安いスペックのモデルでも調整用のつまみが沢山ついている。できればすべてなくしてほしい。2大メーカーは時折、 技術者向けに昼間に講習会を開いてくれるのは有り難いが、この頃、報道現場は忙しく、また興味もないため誰も聞きに行かない。 できれば夜に初心者向けの講習会を開いて頂けるといいのだが。すべての報道編集室に測定器が入るとその数は膨大になると思うのでけれど。

多くの報道部長は技術的な話をされても「知らない」とは言えず、判断もできない。したがって過去の実績だけで判断しようとすると、 往々にして大メーカーの言いなりになってしまい後悔することになることもある。素人にもわかる説明のできる営業が必要。

大手放送機器の商品デザイン担当者と話をする機会があったが、彼らは現場での使い方など全く知らない。また、別のメーカーで、 カメラは新開発のバッテリーを使用する事にしたのに、他の部署で開発したモニターTVは、相変わらず従来のバッテリーを使うままになっていた、 などチグハグな事もあった。もっと現場を知って欲しい。

とかく現場のカメラマンは保守的で、スイッチの位置やファインダーの見え方などにこだわる。池上製カメラを使っている某基幹局に松下のカメラを持っていくと、 松下の評判が悪い。松下のカメラ開発担当者も交え、池上と松下のカメラを並べて映像を比較してみたが、違いは認められなかったし、 ソニーと池上両方とも使っている局では不満はでない。ソニーをつかっていた某キー局に、松下のカメラを持っていくと、ファインダーの見え方に不満がでる。 松下のファインダーは池上とOEMであるが、池上とソニー両方使っている局では、むしろ池上製のほうが評判がいい。理屈だけでは片付かない慣れの問題である。 ENGカメラの供給をほとんどしていない某社の高感度カメラの使い勝手は、かなり悪い。カメラマイクの取り付けが、MKH415しかできなくなっていたり、 インカムのオン・オフが、VTRのスタートボタンと兼用になっているなど、報道カメラマンの常識を、全く無視して作られている。 今や報道カメラマンと製作技術カメラマンの壁は、ほとんどないに等しいのに。

我が社は、報道でもマイクロ送信機を扱い、無線従事者も大勢います。これまで、報道に一度も顔を見せなかったT社も、 やっとビデオサーバーの売り込みに来るようになりました。また、技術局はよくくるH社も、報道にはあまり顔をださない。H社の製品は、15年前のシンクロスコープが1台埃をかぶっているだけです。

6、今後の報道機材

デジタル時代を迎え、今後はHDビデオサーバーが報道に導入されますが、その時はTVマスターほか、送出サブ、ラジオ、インターネット、ライブラリー、 社内LANなど多くのセクションにまたがり調整が必要となります。今までのVTRを売るような訳にはいきません。ネットワークが大切ですが、 その中心は報道です。そこをどう押さえるかがカギになってきます。

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